
生徒の記述指導をしていると、必ずいるのです。
答案用紙を前にして、一文字も書きだせない子が。
書かなければ1点ももらえません。
今回は、この問題についてあれこれ書いてみましょう。
なぜ書き出せない?
(1)恥ずかしい
これが一番多い理由だと思います。
書いた答案を、人に(つまり私に)見られるのが恥ずかしいのですね。
「何だこの解答は!」
「何を頓珍漢なことを書いている?」
こんな風に言われるとでも恐れているのでしょうか。
私は決してこんな言い方はしないのですが。
ちなみに、「頓珍漢」、久々に使った単語です。漢字ではこう書くのですね。漢字にすると、実に奇妙な単語です。これは、昔鍛冶屋が鋼を打つ際、親方と弟子が交互にふるう槌の音がリズミカルにそろわず、「トン、チン、カン」とずれて聞こえたことから、「辻褄が合わない」、「間抜けな言動」「ちぐはぐで的外れな言動や人」という使われ方になったのですね。漢字は音に当て字をしただけで意味はありませんが、絶妙な当て字です。
ところで、「辻褄が合う」は、着物の用語からきています。「辻」は十字路という意味ですが、着物の縫い目が十字に交差する部分をさします。「褄」は、「褄を取る」という語句を知っていればわかりやすいのですが、着物の裾の左右の両端のことです。これらがずれていると見苦しいのですね。「物事の筋道や道理」を意味する表現になりました。
日本語のおもしろいところは、こうして普通に使っている語句にも、様々な由来が潜んでいるところですね。生徒に語りだすと止まりません。だから私の講義は寄り道が多いのです。反省しなくては。
閑話休題、本題に戻りましょう。
あ、その前に。「閑話休題」もよく使いますが、これは明代の小説「水滸伝」の一節、「しばらく閑話をとして休題し、ただし正話をいわんや」が由来だそうです。閑話=無駄話、それを終えて本題に入ろう、という意味ですね。しまった、またしても寄り道してしまった。
(2)間違えたくない
これは(1)と重なりますが、子どもというのは間違えることが嫌いなのです。そんなもの、子どもに限らず誰だってそうです。しかし、我々大人は、人生で無数の「間違い」をしでかしています。少なくとも私はそうです。そうした豊富な「間違い」体験から、「間違い方のコツ」というか、リカバリーの仕方をいろいろ身に着けているのですね。言ってしまえば、間違えることに対する感性が摩耗しただけなのですが。
しかし、子どもたちは違います。まだまだ「間違える」経験、そこからリカバリーする体験が不足しいてるのです。
「そんなことはない、うちの子は間違えの達人だ!」と言いたくなる気持ちもわかりますが、まだまだ「間違え」ビギナーです。今彼らは、「間違え」体験を蓄積中なのです。
いずれにしても、「間違える」ことが嫌いな子どもにとって、記述問題は鬼門です。「正解がわからない」問題は、何をどう書いてもめったに〇がつきません。
だから、「書き出す」ことができずに、答案用紙を見つめてうなっているのです。
(3)何を聞かれているのかがわからない
問題の趣旨がわからない生徒もたくさんいます。それでも図々しい子は、頓珍漢な答を平気で書けるのですが、真面目な生徒ほど、そこで固まっています。知識データベースが薄いことと、読解力が低いことが原因です。
(4)どう書いていいのかがわからない
いちおう問題の趣旨は把握しました。何を書けばよいのかも何となくわかっています。しかし、そこから「文章」に落としこむことができないのです。
これは、あきらかにトレーニング不足が原因です。小学校でも「作文」はたくさん書かされてきているはずなのですが、「作文」と「記述」は全く異なります。
頭の中でぐるぐるしている知識の断片を、どうつなぎ合わせてどう解答用紙に落とし込めばよいのかがわからず、ぐるぐるしています。
こうした生徒の特長は、しばらく答案用紙を見つめていた後、数文字書き出しては消し、また数文字書いては消し、を繰り返すことにあります。結局最後は白紙を前にうなっていることになるのです。
対処法
「書きだすことができない」生徒への対処法はいくつかあります。
私はそれらを組み合わせて指導しています。
(1)パターンを覚えさせる
まず、私の大嫌いな対処法からお教えしましょう。
社会科の記述問題は、その大半が「記述にみせかけた知識問題」です。
Q:豊臣秀吉が刀狩を行った目的は?
A:「農民から武器を取り上げることで一揆を防止するため」
Q:八幡製鉄所を北九州に作った理由は?
A:中国からの鉄鉱石の輸入に便利であり、筑豊炭田の石炭が利用できたから。
こういう問題ですね。定番の記述問題というものがあり、「こう問われたらこう書く」と決まっているのです。
ただし、これは「知識の暗記」の延長線上であって、「記述力」ではありません。また、思い込みで間違えるというリスクをはらみます。
問:2015年に正式に世界文化遺産になった「明治日本の産業革命遺産」の登録地を含む県は8県にわたっており、23遺産が含まれている。
その8県の多くが九州地方に集中している理由を、以下の語句ならびに国(日本以外)や資源の名称を必ず含めて簡単に説明しなさい。
使用語句:八幡製鉄所
模範解答:八幡製鉄所で使用する石炭や鉄鉱石を中国から輸入していたため。
これは、2年ほど前のとある学校の入試問題です。模範解答も学校作成のものです。
3つもミスがある、最悪の出題ミスです。
おそらく出題した社会科の先生の頭の中には、「八幡製鉄所が北九州につくられたのは、石炭や鉄鉱石を中国から輸入していたからだ」という誤った知識がこびりついていたのでしょうね。この当時石炭は日本の主要な輸出品の一つです。輸入する必要はありません。
そこを修正したとしても、この解答は、「北九州に八幡製鉄所がつくられた理由」に対応した解答であって、「明治日本の産業革命遺産」が九州に多い理由にはなっていません。その理由は全く異なるのです。
詳細については以前書いたこの記事をぜひお読みください。
学校の先生ですら間違えてしまう。記述のパターン暗記がいかに危ういか、という証拠です。
実は、多くの塾の「記述対策」は、このパターン暗記を基本としているのです。私は、本質的な記述指導をできるレベルの教師が不足していることが原因だと見抜いていますが、もしかすると、パターン暗記でも入試は突破できると合理性を追求しているだけなのかもしれません。
ただし、そのやり方では麻布・武蔵・海城・鴎友には通用しません。その他の記述問題を出す学校の多くでも苦戦します。かりにパターン記述法で合格できたとして、その後に壁にぶつかります。
とある難関私立中学校の先生が生徒にこう言いました。「あなたたちが塾で習ってきた記述の書き方は全て忘れなさい!」
おそらく同じパターンの記述答案ばかり見せられてウンザリしたのでしょうね。
(2)インプットを増やす
みなさんよく勘違いしているのですが、記述という「アウトプット」に必要なのは、「アウトプットの練習」ではなく、「インプット」を増やすことにあるのです。
(3)書き始めるハードルを下げる
とにかく何か書いてもらわないことには、何も指導はできません。
「書くことのハードルを下げる」ことが大切なのです。
今回の記事では、この「書けない子を書けるようにする」方法について書く予定でしたが、だいぶ長くなったので、別記事にします。
実は、何度もこんな指摘をされているのです。
「お前の記事は長い! 誰がお前の文章をそんなに読みたいと思っている?」
表現はもっと柔らかかったですが、趣旨はこうでした。
私も自覚はしているのです。常に5000文字以上、多いときには8000字を超えることもザラな私の記事、たしかに読むのは嫌になりそうです。とくにスマホで読んでいるとウンザリするでしょう。
今後は2000文字以内を目指そうと思います。これを2026年の抱負としましょう。
(そう言いながら、すでに3000文字を超えてしまいました)