中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学受験】入試問題の模範解答の間違い

入試問題を見ていると、出題ミスを見つけることがあります。

問題のミス、解答のミスなどテスト作成に携わったことのある教師なら、誰もがやらかした経験があるでしょう。しかし、入試問題にそれは許されません。

今回紹介するのは、とある女子校の社会科のミスになります。

 

問題の紹介

 なかなか工夫された問題だと思います。二人の女子生徒が、学校のクラスで行う「お楽しみ会」について会話しているというスタイルで、民主主義・選挙等について基本知識を問う問題でした。

A子:うちのクラスも多数決でドッジボールになったんだけど、それでよかったのかな。

B子:なんでだめなの? 一番多かったんだから、それがみんなの意見でしょ。

A子:うちのクラス、ドッジボールと映画鑑賞とビンゴ大会の3つの案が出たの。たしかにドッジボールが一番人気だったけど、ドッジボールをしたくないっていう子も多かったんだよね。

・・・・・・・・

B子:・・・国や人によって意見の重みにさがあるのはどうなんだろう。安保理で大切なことが決められないって問題にもなってるし。だからやっぱり単純な多数決がみんな納得できるからいいんだよ。意見が違う人もいるとは思うけど、そこは我慢してもらわないと。

A子:でも、うちのクラスの花子、足を怪我してドッジボールができないんだよね。前回のお楽しみ会の時も体調が悪くて参加できなかったんだけど、今回も「我慢してね」でいいのかなあ。

B子:・・・・クラスに運動が好きな子が多いと、多数決だといつもドッジボールになっちゃうのか。

A子:うん。だからいつでも多数決がいいわけではないと思うんだ。

B子:確かに。じゃあ、どういう決め方がいいんだろう

 一部省略しましたが、このような会話文です。省略した部分には、国会の議決や憲法改正の発議、国連の安保理の拒否権について書かれています。

 

なかなか難しいテーマを扱いましたね。

一般に、民主主義=多数決と誤解されるほど、多数決による決定方法が多くつかわれています。それはこの文章のようにクラスのお楽しみ会の内容を決めたり、学級委員を決めたり、あるいは企業の株主総会もそうですし、あらゆる場面で多数決が行われているのです。

 

多数決の問題

 

しかし、この多数決による決定方法には致命的な欠陥が3つあるのです。

 

まず1つ目の欠陥は、反対意見・少数意見は圧殺されるという問題です。

 

そこには、「多数意見に従え!」という「正義」があるため、少数意見は従わざるを得ないという圧力があるのですね。

 

しかし、唯々諾々と従える人ばかりではないでしょう。

 

下手をすれば、半数近くの「不満分子」が誕生します。

 

また、「数が正義」、つまり過半数の人間を味方につけさえすれば多数決で勝てますので、いわゆる多数派工作が横行します。「多数決で勝つ」ことのみを目的にしがちなのです。「小異を捨て大同につく」ことが普通になっていきます。

 

ここまでくると、「あ、それはもしかして日本のムラ社会のことかな?」と気が付く人も多いと思います。「忖度」し「空気を読み」、ムラ社会全体の決定に異議を唱えないことで、「安定」した社会を維持していく、そういう社会と、この多数決は相性がよいのかもしれません。

 

2つ目の欠陥は、偽情報が横行することです。

 

多数決の正義は「数を集める」ことにありますので、そのためには手段を選ばずにひたすら「味方」を増やすことが行われます。

たとえばそこに金品が介入すれば、「わいろ」「選挙違反」につながりますね。しかし選挙のたびにそうした事件をおこす政治家がいるということは、一番手っ取り早い「集票」手段だということなのでしょう。

そうした犯罪性が明らかな集票よりももっと悪質なのが「フェイクニュース」の横行です。例えば、イギリスのEU離脱の際には、離脱派が意図的に偽情報を流しました。

「英国がEUに費やしている1週間につき£3.5億ものおカネはEUではなく、国民保険サービスのために使うべきだ」というスローガンが繰り返し発信されたのです。

しかし、これは偽情報でした。イギリスがEUに拠出していた金額のうちのかなりの部分がイギリスに還流されている事実を意図的に無視して目立つ数字だけをアピールし続けたのですね。国民投票のときのアンケート調査によると、約半数の人がこの偽情報を信じていたそうです。

アメリカの大統領選挙のときの「俺の選挙は盗まれた」という根拠の無い主張も、それを信じる人があんなに大勢いることに驚きました。

 

実は日本でも、こうした偽情報が横行しています。

例えばこんなものです。

「選挙の投票用紙に鉛筆で記入すると書き換えられる」

証拠とされる偽動画まであるとか。その動画は、たんに開票作業を映したものだそうですが、偽情報ってこうやって作られるのです。

さすがにこんな馬鹿々々しい偽情報を信じる人は皆無だろうと思うのですが、そうでもないようなので驚きです。

「だから私はボールペンを持参しています」という書き込みがされたブログがいくつも見つかりました。ブログですからこれも「嘘」である可能性はありますが。

 

問題文にあった「お楽しみ会」について、例えば「何年か前のお楽しみ会では、ドッジボールで怪我人がたくさん出た」「右手を怪我して入試に失敗する子もいた」などといった偽情報を意図的に流すこともできるわけです。

そんな学校、いやですね。

 

多数決の3つめの欠陥とは、社会の分断を招くということです。

 

例えば、民主主義の先進国と思われていたアメリカの大統領選はどうでしょう。

もともと民主党VS共和党の対立軸で政治はすすんでいたのですが、それでも「自由」「民主主義」という理念は共通していました。それが、一人の人物の登場によって、激しい対立構図が持ち込まれ、社会の分断を招いていることはご存じの通りです。

 

あるいは、イギリスのEU離脱問題はどうだったでしょうか。

離脱派VS残留派の争いは、結局離脱派の勝利に終わりました。そのことが、イギリス社会に安定と繁栄をもたらしたかといえば、真逆の結果になったこともご存じの通りです。

 

沖縄県石垣島の自衛隊基地建設問題では、推進派と反対派が対立し、島の住民の分断を招きました。結局、反対派住民が求めた住民投票は行われず、これによって分断が阻止できたという意見もありますが、住民の4割が求めた住民投票が実施されなかった不満もまた残ったのです。

 

入試問題

 

下線部に関して、A子さんのクラスでは、お楽しみ会の3つの案について順位をつけて投票してみました。クラスの人数は40人で、以下はその結果です。

(希望順位と人数)

第一:ドッジボール、第二:ビンゴ大会、第三:映画鑑賞・・・・19人

第一:映画鑑賞、第二:ビンゴ大会、第三:ドッジボール・・・13人

第一:ビンゴ大会、第二:映画鑑賞、第三:ドッジボール・・・8人

 

(1)最も多くの人が第一希望に選んだものにするのであれば( ドッジボール )になる。第一希望に選んだ人が多かった2つの案に絞って再び投票をするのならば、( 映画鑑賞 )になる可能性が高い。第一希望に3点、第二希望に2点、第三希望に1点を配点するならば、もっとも得点が高くなるのは( ビンゴ大会 )である。

 

 

まずは、投票結果をどのように利用して決定するかについて3つのアイデアを出し、それぞれ答えさせる問題でした。

 

これはおもしろいですね。

投票結果をどう判断するかによって、全く結果が変わるのですから。

 

実はこれは、そもそも投票のやり方が間違っていました。投票結果をどう利用するのかを決めないまま、第三希望まで書かせたことが失敗です。これでは公正な判定ができないからです。

もしこのスタイルをとるのなら、最初から投票結果をどう利用して決定するのかをあらかじめ公表してから投票してもらうべきでした。

後から判断するのでは、恣意的に結果を調整できてしまいますので。

もしかして、そうした「怖さ」まで考えさせたかった?

さすがにそこまで「深い」出題ではないでしょう。

 

(2)問:お楽しみ会で何をするかについて、公正・公平という観点からあなたはどのような決め方が良いと考えますか。理由とともに説明しなさい。

 

これが最後の記述問題です。

問題文章をもう一度確認すると、

B子:・・・・クラスに運動が好きな子が多いと、多数決だといつもドッジボールになっちゃうのか。

A子:うん。だからいつでも多数決がいいわけではないと思うんだ。

B子:確かに。じゃあ、どういう決め方がいいんだろう

 

つまり、多数決で決めるといつもドッジボールになってしまうので、多数決がいいわけではない。それではどういう決め方がいいのか?

これを考えるのです。

考え方は2つあります。

 

1.多数決以外の決め方を考える

2.多数決の弱点を補う決め方を考える

 

さて、多数決以外の決め方と言われても、なかなか思いつきませんね。

究極の決め方としては、「全会一致」があります。これなら少数意見も反対意見も無いので理想的です。しかし現実的ではありません。

「あみだくじ」もいいかもしれません。何せ室町時代から行われていた方法ですから。しかもその結果に異をとなえにくいという利点もあります。

ただ、この問題で「あみだくじ」を記述していったい何点もらえるかは微妙です。

先生に決めてもらうという考えもあります。自分たちで決める権利を放棄して、誰か「権威者」に決めてもらって従うという考えです。楽ですが「民主主義」ではありません。これもおそらく得点できないでしょう。

 

あるいはいっそのこと、3つの全てをやってしまうといのはどうでしょう。

お楽しみ会が仮に100分だったとして、50分・30分・20分の時間枠のどれにするのかを話し合い、投票で決めるのです。ずるいやり方ですが、これがもっとも不満が小さいでしょう。

 

多数決の弱点を補う方法はいくつか存在します。

たとえば有名なところでは、「スコアリングルール」「ボルダルール」と呼ばれるものがあります。問題(1)で紹介されていた、順位に得点を付けるやり方ですね。

このやり方の利点は数学的に証明できるようですが、それは省きます。とりあえずこのルールでは、「広く支持を集めるもの」が選ばれるという傾向があるのです。 多数決の弱点を解消するやり方として知られているのですが、実際にこのスタイルを選挙に取り入れている国は、スロベニアの下院議員の一部、ナウルやキリバスなど非常に限られています。

順位をつけて投票させた以上、ボルダルールを使うしかありません。ということは、「ビンゴ大会」を選ぶことになるのですね。

また、その派生形として、一人持ち点を6点ずつ与え、好きに分配させるというやり方もあります。最低得点を0点にするのか、あるいは少なくとも1点を与えるのか、そのあたりも決めておかねばなりません。このやり方をすると、広く支持を集めつつ、強力なファンが多いものが選ばれることになりそうです。

 

さらに、多数決を行うためには前提が必要なのはわかるでしょうか。

それは、徹底的な議論です。

議論なき多数決は、ただの数の暴力にすぎません。

まずは徹底的に議論をすべきなのです。その議論の過程を通じて、合意が形成されていくのです。

例えば、最初は「ドッジボール以外ありえない!」と考えていた生徒も、他の意見を聞くうちに、「ビンゴ大会でもいいかな?」と考えるようになるかもしれません。そのうえで、結局自分が推すドッジボールではなくビンゴ大会に決定したとしても、不満はだいぶ減ります。

 

割れた意見の1つを選ぶ以上、どんなやり方をしたところで「不満」は残ります。それを最小にする努力こそが求められるのですね。

 

この問題では、一つの難しい条件が入っていました。「公正」「公平」という観点から考えなくてはならないのです。

「公平」「公正」は単純なようでいて難しい概念ですね。

これについては別の記事で詳しく考えたいと思います。

 

模範解答

 

さて、そろそろ解答作成に入りましょう。

公平・公正の観点からは、一人一人の票の重みを同じにし、事前に決め方を決め、結果にみなが従う必要があります。

〇徹底的に議論する

〇そのうえで、投票方式を合意する

〇投票結果に従う

この3ポイントを入れましょう。

問題文では、「多数決以外のやり方」を書かせようという意図がうかがえますね。しかし、残念ながら、現状では多数決以外のやり方を提案するのは困難です。まさか太占というわけにはいきませんから。

すると、多数決でいくとして、せめてボルダルールについて書くか、あるいは多数決の問題点を解消する努力をするか、そうした方向性になるでしょう。

 

「徹底的に議論を尽くし、それでも全員一致とならない場合には、投票方式を合意したうえで多数決を実施しその結果に従う」

まあこんな答えでしょうか。

 

さて、ここで学校作成の模範解答を見てみます。

 

「1人1票という公平な条件なので、多数決の結果にしたがって決定するのがよい。」

 

これを見てどう思われますか?

私は力が抜けました。

いったい今まで思考してきたのは何だったのか。

 

これでは、「多数決は公平なんだから、考える必要などない!」と、ほとんど思考停止です。

 

せっかく、「多数決がいつでもいいわけではない。ではどうしたら・・・・?」となかなか深いところに設問を設定しながら、これが答ですか?

 

作問者には悪いですが、この答えは「誤答」です。問題と解答が対応していません。明らかに減点される記述です。

 

もっとも採点基準には、

・公平・公正の点から理由が書かれている

・決め方が書かれている

となっています。

 

この採点基準で、いったいどれくらいの受験生が減点されたのかはわかりません。いくら記述答案の極意が、「出題者の想定した模範解答に近づける」ことだとはいえ、明らかな誤答に近づける作業は不毛です。