
最近気になるニュースがありました。
「小学生の学力が低下している」
どういうことなのか、考察してみましょう。
経年変化分析調査
このニュースの元になったのは、文科省が実施して公表した「経年変化分析調査」のデータです。2024年に実施されたものです。
<経年変化分析調査>
全国的な学力の状況について、経年の変化を把握・分析し、今後の教育施策の検証・改善に役立てるため、以下の調査を実施
調査対象
層化集落抽出法によって選ばれた国・公・私立学校の小学校第6学年、中学校第3学年の児童生徒
小学校 PBT:600校(国語、算数 各300校)
CBT:600校(国語、算数 各300校)
中学校 PBT:750校(国語、数学、英語 各250校)
CBT:750校(国語、数学、英語 各250校)
調査実施時期
令和6年5月13日(月)~6月28日(金)の期間中、対象学校が実施可能な日時
調査内容
教科に関する調査:国語、算数・数学、英語 (中学校)
調査時間:小学校40分、中学校45分
対象学校は、いずれか1教科を実施
出題範囲は、原則、調査する学年の前学年までに含まれる指導事項
*調査問題等は非公開
要するに、小6と中3に一斉に同じテストを実施したのですね。
前回の実施が2021年でしたので、それと比較して「下がった!」と話題になったのです。
詳しい結果を知りたい方は、国立教育政策研究所のHPから見てください。リンクを貼っておきます。
https://www.nier.go.jp/24chousakekkahoukoku/kannren_chousa/keinen_hogosha_chousa.html
調査報告書の中で、各種報道機関に引用されたのは、スコアのグラフでした。
※そのままコピペして掲載するわけにはいかないので、私が作り直したグラフを添付します。
なるべく報告書と同じグラフに調整しました。


これを見ると、確かに! 下がっている!
この調査は、子どもへの学力調査と同時に、保護者へのアンケート調査も実施されています。
さて、学力低下は明らかだとして、文科省はその原因についてどのように分析しているのでしょうか?
残念ながら原因の分析はありません。
こうした公的機関の調査のご多分に洩れず、詳細な調査結果の統計的分析はあるのですが、我々が最も知りたい、「なぜ下がった?」に対する回答は無いのです。
ただし、同時に実施した保護者への調査と合わせて、こんな結論が書かれていました。
◆社会経済的背景(SES)が低い層の⽅がスコアの低下が⼤きい
SESというのは、所帯の収入・職業・学歴を示す数値だそうです。
◆学校外での勉強時間が長いとスコアが高い
◆テレビゲームの使用時間が長いとスコアが低い
◆スマホの使用時間が長いとスコアは低下
◆親と勉強の話をする子どもは勉強時間が長い
◆学校生活が楽しければ良い成績を獲ることにはこだわらない家庭の子どもは勉強時間が短い
◆ゲームの時間を限定している家庭の子どもの方がテレビゲームの時間が短い
◆授業がよくわかる子どものほうが勉強時間が長い
おお! さすが文科省、すばらしい分析結果! と思いますか?
巨額の予算を費やして、さすがにこの結論は無いなあ。あまりに当たり前すぎて力がぬけました。
もしかして、成績低下の原因は家庭にあり、そういうことが言いたいのかな?
私の読解力不足のせいなのでしょうけれど、報告書の隅から隅まで読んでみても、
◆学力が低下した
◆その原因は家庭にあり
ということしか読み取れませんでした。
本当に低下したのか?
さて、疑い深い私は、素直にデータを見ることができません。
まず、公表されたグラフを良く見てください。
折れ線グラフですが、縦軸の目盛りがゼロから書かれていないのですね。
これは、グラフを見やすくするための手法ですが、同時に結論を誤魔化すため・強調するためにも多用される手法です。
そこで、ゼロからはじまる普通のグラフに直してみましょう。

これは・・・・下がったのか?
このままではあまりに見づらくグラフ化した意味はありませんね。
そこで、変化を見やすくするために、あえて縦軸を460始まりとしたのでしょう。どうせなら480始まりとした方がもっと見やすいですね。

さて、この手法は、もちろん変化を見やすくするために行われたと思います。まさか、ミスリードを誘うためにわざとやったはずはないと思います。たぶん。
さらに、私が気になったのは「調査問題非公開」と言う部分です。
いったいどんなテストを実施したのか、問題がわからなければ、何の分析もできません。
一番肝心な部分を「非公開」にされてしまうと、この調査結果が役立たずとなってしまいます。
また、経年変化を見るとすると、同一問題を使わない限り、単純に比較はできませんね。しかし、同じ問題を使うと、結果の信頼性が揺らぎます。おそらく問題を公開しない理由も、対策を立てられたくないということなのでしょうけれど。
異なるテスト・異なる母集団でも結果を公正に分析する手法というものはあります。
「項目反応理論」というものですね。
その詳細は省きますが、例えばTOEIC等で使われている手法です。テストの各回の難易度によらず、公平なスコアが算出されるとされています。
この「経年変化分析調査」でも、項目反応理論による統計処理が行われています。報告書別冊として、112ページにもおよぶ統計処理の解説が出されています。調査結果の報告書が71ページですから、理論の解説にいかに力が入っているのかがわかりますね。
おそらくは、私のような素人が、「問題が違えば比較なんかできないよ」と筋違いの言いがかりをつけることを防ぐ理論武装なのでしょう。
いちおうこれでも私は塾業界の人間ですので、項目反応理論くらいは常識として知っています。けっこう昔からある理論なので、統計学を少しでもかじった方ならよくご存じでしょう。根気のない私は、この長い報告書を読む気はしませんでした。
こういう調査については、以下の点を考えることが重要です。
◆誰が実施したのか
◆何の目的で実施したのか
◆どういう結論に誘導したいのか
例えば、ある人が企業で新規プロジェクトを任されたとしましょう。
この人は、こう考えます。
「あまりに早く成功させると、せっかく得られた自分のポジションや権限が削られるし、予算も減らされてしまう。かといって、失敗すれば自分の責任となって、やはり権限を失ってしまう。そこで、うまくいっていないように見せかけると同時に、その原因を自分以外の何かに転嫁し、さらに予算と権限が必要だと言い続けよう」
実に姑息な話ですが、世の中なんてそういうものですね。
さて、教育に関しては、「学力が低下している」という警鐘を聞き過ぎました。
学校も、先生も、教育産業も、文科省も、そう言い続けています。
しかし、天邪鬼な私はこう思ってしまうのです。
本当に学力は低下しているのか?
学力が低下していると強調することで得をするのは誰なのか?
とりあえず受験産業、つまり塾屋は得をしますね。
今回の「学力低下」問題に関しては、多くの専門家が考察しています。
・学習指導要領が変わったから
・「主体的・対話的な学び」「探究的な学び」が犯人
・スマホが主犯
・日本の経済力低下が原因
・探求学習やグループワークが阻害要因
・GIGAスクール構想が原因
専門家のおっしゃることですから、間違ってはいないのかもしれません。
私の意見は違いますが。
小学校の教科学習内容は、小学校で学ばねば身につかないレベルではありません。家庭で、父親や母親が少しの時間を費やすだけで、簡単に子どもに教えられるレベルの内容です。
つまり、学力低下の原因は、家庭で勉強させる必要を感じない親が増えたことにあるのだと思います。
日ごろ接している中学受験生の勉強姿勢を知っている私としては、そう結論せざるを得ないのです。
勉強は小学校でのみ教わるもの、そういう誤解があるのでしょう。
なんだ、文科省の結論と同じでしたね。
文科省の人たちも大変ですね。お立場があるので、遠まわしにデータで攻めるしかなかったのでしょう。
「学力低下の原因は家庭にあり!」そんなことを言おうものなら火達磨確定ですから。