中学受験のプロ peterの日記

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【ロジカルライティング入門編】自由作文の書き方

この記事は、ロジカルライティング講座の入門編の位置づけです。論理的思考力を養成するより前に、まずは最低限の国語力を身に着けることが目的です。

※登場するのは、難関女子校を目指す、国語が苦手な6年生女子3人組、アヤネ・ミユキ・カホ(仮名)です。

ミユキ:先生、助けて!

私:またか。今度は何だ?

ミユキ:学校で自由作文の課題が出たんだけど、何書けばいいのか教えて!

私:自由作文なんだから自由に書けばいいんだ。

ミユキ:それが、一応お題があって。「あなたが最近一番感動したこと」だって。

私:それじゃあ感動したことを自由に書けばいいよ。

ミユキ:それが困ってるんだよ。だって最近感動したことなんかないし。

カホ:先生、助けてあげなよ。

アヤネ:そうです。助けてあげてください。

私:もしかして三人とも同じ課題で困ってるんだろ!

一同:わかる?

自由作文とは

私:まず最初に、どうして学校の先生は君たちに作文の課題を出したのかわかるか?

ミユキ:私たちを苦しめるため。

カホ:絶対そうだよね!

私:そんなわけないだろ。そもそも学校の国語教育では、漢字や読解がメインになりがちで、なかなか文章を書く時間までとることが難しいという現状がある。だからこそ少しでも何か書いてもらおう、というのが作文だ。

アヤネ:それは、先生の親心みたいなものなんですね。

私:その通り。教える立場からすれば、作文の添削指導は無限に時間がかかるから大変なんだ。作文の課題を出してくれるなんて有難いと思いなさい。

ミユキ:へーい。でもどうして自由なの? 何かもっと書くことを決めてくれれば書きやすいのに。

私:そこにもう一つの教育効果を考えているんだ。テーマを自分で考えるということだね。ただ、全て自由にすると生徒が途方に暮れるだろうから、「最近感動したこと」っていうヒントを出してくれたんだよ。実に親切な先生じゃないか。

アヤネ:先生の御親切はじゅうぶんわかりましたけど、でも、何をどうやって書き出せばいいのかが難しいです。

 

好まれる書き方

私:本当はあんまり姑息なテクニックは教えたくないんだ。でもいくつかコツはあるから、それだけ教えてあげよう。

一同:お願いします!

私:やり方は2つに大別される。体験を捏造するか、実話に基づくのか。

アヤネ:捏造? 何か不穏な響きですね。

カホ:先生が言うとは思わなかったよ。捏造って、でっちあげってことでしょ?

私:せめて創作と言ってくれ。そもそも、君たちは最近感動したことってあるのか?

(一同首を横に振る)

私:そうだよな。学校と塾を往復しているだけでは、そうそう感動する出来事にも遭遇しないからな。そうした出来事が無いのなら、これはもう創作するしかないじゃないか。これが捏造作戦だ。

カホ:そんなことしてもいいの?

私:良くはない。だからお勧めしたくはない。だけど、受験勉強で忙しい君たちに「最近の感動体験」を書かせるほうが無茶なんだ。だから捏造も仕方がないだろう。

ミユキ:どうすればいいの?

私:例をいくつかあげてみるか。例えば、お母さんが赤ちゃんを産んだ。君たちの妹だ。新しい生命の誕生に立ち会う、これこそまさに感動体験だな。初めて手に抱いたとき、そのあまりの軽さにびっくりする。そしてこれから自分の妹が育って行くのだと思うと思わず涙がこぼれた。また、自分も生まれたときこんなに小さかったのかと思うと、今まで育ててくれたお母さんに感謝の気持ちが湧いてくるだろ?

ミユキ:それは感動ストーリーに間違いないけど。でもそもそも生まれてもいない赤ちゃんのこと作文に書いたらまずいんじゃないの?

カホ:そうだよ。「妹さんができたんですね」なんて先生に言われたら、ママびっくりしやうよ。やり過ぎだって。

私:それではこういうのはどうだ? 大好きだったタロウ君についに告白したんだ。そうしたらなんとOKだった。どうだ、感動するだろ? もう帰り路なんか、世界がバラ色に見えるぞ。

アヤネ:それは感動体験ですけれど。でも、学校の先生に怒られませんか? 恋愛はまだ早いって。

私:そういう先生もいるかもな。それじゃあこれはどうだろう。幼馴染のワタル君は、運動が苦手なのにリレーの選手になぜか選ばれてしまった。そこで、学校のみんなに馬鹿にされないために、ワタル君は特訓を始めたんだ。それに君も付き合うことにした。雨の日も雪の日も休まず猛特訓するワタルを応援し続けた。そしてついにリレーの当日。ワタル君は何と1位でゴールできたんだ。どうだ、感動体験だろ?

カホ:ほとんどマンガの世界だね。そんなことあり得ないから。

私:その通りだ。感動体験の捏造は実は難しい。感動を追い求めすると嘘くさくなるからな。匙加減が難しいんだね。

ミユキ:それじゃあ、もう一つの作戦は?

私:それは、ミニミニ大作戦だ。

カホ:変な名前。

私:昔見た映画のタイトルにあったんだ。面白い映画だった。

アヤネ:あ。もしかしてささやかなことを書くのですか?

私:お、鋭いな。その通り。そもそも大きな感動体験を書こうとするから壁にぶちあたってしまう。それに、感動も人それぞれだし、大きな感動も小さな感動もあるだろ? そこで、身近で小さな感動を書くことにする。

ミユキ:例を教えてよ。

私:例えば、街路樹の桜を見上げたら、冬になってすっかり葉を落としているとばかり思っていた桜の枝の先に、小さなつぼみをみつけた。よくみるとどの枝にもつぼみがついている。見落としてしまいそうなこんな小さなつぼみでも、やがて満開の桜になるんだな、春がこっそり近づいているんだな、と感動した。

アヤネ:とっても素敵。でも先生、今春じゃないですけど。

私:あくまでも例えだからな。あとは、夕飯が大好きなカレーだったとかはどうだ?

カホ:それくらいで感動しないよ。ちょっと嬉しいくらいで。

私:こう書くんだよ。塾の帰り路、すっかり夜遅い時間になってしまった。家にむかって急いで歩いていると、通りの家々からは楽しそうな子どもの声が聞こえてきたり、夕飯の匂いが漂ってきたりする。勉強で忙しい自分は、いつも夕飯は家族が食べ終わった後に一人で孤食だ。そうやって少し寂しい気持ちになって家に帰ると、大好きなカレーの匂いとともに、お父さんとお母さんが待っててくれた。一緒に食べようって。

カホ:あ、それなら感動する。

アヤネ:想像したら、なんだか涙がこぼれそうです。

ミユキ:たしかに、ほとんど毎日夕飯は孤食だからなあ。

私:結局のところ、感動なんて自分の気持ち次第なんだ。でもそれを作文の形で人に伝えようとすると工夫が必要だ。とくにささやかな感動体験を書くミニミニ大作戦では、どうしてそんなささやかな体験で自分が感動したのかをきちんと書かないとならないね。でも、そういう作文だったら、先生も読んでみたいなあ。

ミユキ:先生、ありがとう! 何だか書けそうな気がしてきたよ。

カホ:漢字テストで満点とれたことでもいいんだよね? 私満点狙って頑張ったから、結構嬉しかったんだ。

アヤネ:先生の授業ってわかりやすくて、私いつも感動してるんです。そのことを書いてもいいですか?

ミホ・ミユキ:やり過ぎ!

 

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◆お勧めの一冊

 作文について書いた本を紹介しようと思ったのですが、良いものが見つかりませんでした。もちろん昔から定番の名著もあれば、最近のわかりやすい本もあります。ただ、大別するとこんな種類なのです。

・著名な作家が文章術を披露

・指導者の立場からレクチャー

・幼稚なドリル系

どちらもしっくりきません。そこで、角度を変えてこんな本をお勧めすることにしました。

伝説のスピーチライターに弟子入りした女性の話です。言葉の持つ魔力が主軸になっています。これを読んだからといって文章力が向上するといったものではなく、面白い小説として一気読みすればよいと思います。そして言葉の大切さを少しでも知ってもらえれば。

原田マハ氏の作品は、中学入試国語の定番です。読みやすい文体が持ち味です。