
今回は、祝日について考えてみましょう。
例によって登場人物は麻布志望の3人組、タロウ・ワタル・ゲンタ(仮名)です。実際の生徒・授業ではなく、過去の授業を再構成したものです。
問題提起
タロウ:先生、今日って何の日?
ゲンタ:赤ちゃんの日!
タロウ:なんで?
ゲンタ:赤ちゃんは十月十日で生まれるっていうから。
ワタル:目の愛護デー!
タロウ:なんで?
ワタル:10を横に倒すと眉と目になるから。
ゲンタ:トマトの日!
タロウ:それはわかりやすいな。
ワタル:お好み焼きの日!
タロウ:なんで? あ、もしかして ジュージュー焼くから?
私:みんなで一斉にぼけるのはやめなさい。10月10日はマグロの日だ。
一同:なんで?
私:奈良時代の歌人、山部赤人の歌にあるんだ。
タロウ:あ、百人一首の人だ!
ゲンタ:「田子の浦に うち出でてみれば 白妙の 富士のたかねに 雪は降りつつ」
私:よく知ってるな。山部の赤人のマグロの歌は、長歌といってちょっと長いんだ。
やすみしし 我が大君の 神(かむ)ながら
高知らせる 印南野(いなみの)の 邑美(おふみ)の
原の荒たへの 藤井の浦に鮪(しび)釣ると 海人舟騒き
塩焼くと 人ぞ多(さは)にある
浦を吉(よ)み うべも釣りはす 浜を吉み うべも塩焼く
あり通ひ 見(め)さくも著(しる)し 清き浜
ワタル:何の呪文?
タロウ:先生、僕たちに呪いをかけてる?
私:くだらないアニメの見すぎだな。これは、「天皇が治めている印南野の邑美の原の藤井浦には、マグロ漁船がたくさん行きかい、塩を作る人がたくさん浜にいる」といったほどの意味だ。この浜は、現在の兵庫県の明石だな。
ゲンタ:明石って、タコじゃないの?
私:よく知ってたな。明石のタコは身がぷりぷりしていて美味しいんだ。
タロウ:で、なんで10月10日なの?
私:この日にこの歌が詠まれたということで、日本かつお・まぐろ漁業協同組合というところが定めたのだね。
ゲンタ:ふうん、何か勉強になったようなならないような。
タロウ:思わず先生のペースに乗せられそうになったけど、僕が聞きたいのはそういうことじゃないんだ。僕のおじいちゃんがいおかしなことを言ってたんだよ。10月10日は体育の日だって。そんな祝日無いよね?
ワタル:スポーツの日って、昔は体育の日だって聞いたよ。
タロウ:それだって10月13日じゃないか。
私:なるほど。おもしろいことに気が付いたな。
祝日法
私:みんなは、「祝日法」って法律は知ってるか?
タロウ:聞いたことはないけど。でも、祝日について決めた法律だってことくらいはわかるよ。
私:日本の祝日については、この「祝日法」で決められているんだ。
ゲンタ:そんなのまでいちいち法律で決めるんだ。それじゃあ、やっぱり国会で、衆議院と参議院で審議するの?
私:そうだ。みんなは日本の国旗と国歌は知ってるよな?
タロウ:日の丸と君が代に決まってるよ。あ、もしかして?
私:そうだ。これも「国旗および国歌に関する法律」、通称国旗国歌法で決められているんだ。
第一条 国旗は、日章旗とする。
第二条 国歌は、君が代とする。
タロウ:うわあ。丁寧と言うか何というか。そんなことやってたら、法律の数って凄いことになりそう。いくつくらいあるの?
私:さっき確認したら2103個だった。毎年増えたり減ったりしているが、だいたい2000個くらいだ。
ワタル:国会も忙しそうだね。
私:すべての政治を法に基づいて行う、これを「法治主義」という。
一同:メモしておこう。
ワタル:先生って、雑談かと思うと大事なこと言うからなあ。
私:みんなは、1964年というと何があった年か覚えてるか?
ゲンタ:東海道新幹線開通!
ワタル:東京オリンピック!
私:そうだな。オリンピックに合わせて新幹線も作った。そのオリンピックの開会式の日が1964年の10月10日だったんだ。
タロウ:へえ。夏じゃなかったんだ。
私:オリンピックは、だいたいが夏に開催だが、9月や10月のときもあった。
ゲンタ:なんで10月10日にしたの?
私:この日の前後は秋晴れで晴天が多いからね。統計上晴れることが多いので、晴れの特異日とされる日だったようだ。本来なら15日のほうが晴れる日が多かったようだが、1964年の10月15日は木曜日だったから、それで土曜日の10月10日を選んだそうだ。
ワタル:へえ。やっぱり開会式は晴れていないとね。
私:それを記念して、1966年にこの日が「体育の日」という祝日になった。
タロウ:なるほど。おじいちゃんが言ってたのはそのことだったんだ。
私:それが祝日法の改正により、2000年に「体育の日」は10月の第二月曜日に変更されたんだ。
ゲンタ:なんで?
私:どうしてだと思う?
ワタル:月曜日にするといいことって何かある? 連休になるくらいじゃないか。
私:それだ! 月曜が祝日になると、土・日・月と三連休になるからな。
タロウ:それは嬉しいよね。そうだ、成人の日と海の日と、あと敬老の日もそうじゃなかったっけ?
私:これを「ハッピーマンデー」とよぶ。
タロウ:何かそのまんまってかんじ。でもさ、それなら全ての祝日を月曜にすればいいのに。
私:そうはいかない。祝日の日付には、それぞれ意味があってその日になっているからな。移動しても当たり障りのなさそうなところだけ月曜にしたんだね。
ワタル:それで、どうして体育の日からスポーツの日になったの?
私:「体育」っていうと、どうしても学校の授業を連想するだろ? それで、もっと幅広く国民が体を動かすのを楽しむイメージで、「スポーツ」に変更したんだね。2020年から「スポーツの日」になったんだ。ちょうどその年が東京オリンピックのはずだったから、わざわざその開会式の7/24日に1年限りで移動した。でもオリンピックが翌年に変更されたから、2年続けて7月に祝日を引っ越しさせて、その後10月の第二月曜に戻ったよ。
タロウ:なんだかいろんな都合で引っ越しさせられるスポーツの日が可哀そう。
ワタル:祝日って、いろんな大人の事情で決められるっていうのがわかったよ。
課題
私:それじゃあ、記述をやってもらうかな。
一同:ええっ!
私:そろそろ記述にも慣れてきただろ?
タロウ:慣れたからっていって、好きになったわけじゃないよ。
私:今日のは易しい記述だ。みんなに新しい祝日を作ってほしいんだ。
ゲンタ:やった! それなら簡単!
私:きちんと由来や、なぜその日を祝日としたいのかの理由も書くんだぞ。
タロウ:できたよ!「広島に世界で初めて原爆が投下され、たくさんの被害が出た8/6日を『平和の日』という祝日に提案します。これはお祝いではなくて、全世界に平和の大切さを訴える日なのです。」
私:すばらしい! そうだ、そういうのだ!
ゲンタ:僕もできた。「長崎に原爆が投下された日である8月9日を『平和の日』とするといいと考える。この日には、人類にとって2度目の原爆が投下された。このようなことが二度と起こってはならない、これで最後としなければならないという願いをこめて、この日を平和を考える日としたい。」
タロウ:それって、僕の答まねしたでしょ!
ゲンタ:真似したわけじゃないよ。タロウの記述が素晴らしかったからリスペクトして、僕なりにアレンジしてみたんだ。
タロウ:リスペクト? それならいいかな。
私:これも素晴らしいな。いずれにしても、8月6日と8月9日は、日本人だけではなく、世界中で平和について真剣に考える日にしたいよな。ところでワタルは?
ワタル:僕のはいいよ。
タロウ:そんなのダメだよ。ちゃんと見せなよ。
ワタル:だって。二人の答を聞いた後に披露なんてできないよ。
私:たとえどんな解答でも、隠さずに見せなさい。
ワタル:それじゃあ言うよ。「僕は2月1日を祝日にすべきだと思う。」
ゲンタ:なんとなく続きがわかっちゃった。
タロウ:しっ、続きを聞こうよ。
ワタル:「なぜなら、この日は中学受験の解禁日だからである。僕たち受験生にとっては、まさに人生を賭けた最大のチャレンジがこの日に行われる。受験に成功する者も、涙する者もいるだろう。しかし、この日が僕たちにとって大きな意味を持つ日なのは間違いない。そこで、2月1日を「未来の日」という祝日にするとよいと思う。」
タロウ:う~ん。気持ちはすごくわかるよ。
ゲンタ:理由の説明がちょっとかっこよかった。
私:そうだな。先生はこういうのもアリだと思うぞ。さすがに日本国民全体がかかわる祝日にはできないが、例えば首都圏の学校は休校にしてもいいかもしれないな。
私立中学進学前後のアドバイスをまとめた本を書きました。ぜひお読みください。
