中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学入試】社会科の出題ミス、センスの無さが問題

先日、とある都内女子校の入試問題を見ていて、つまらぬミスを見つけてしまいました。

「つまらぬ」ミスです。ほんのささいなミスです。しかし、生徒にとっては大問題です。

地理の問題

 

地理に関する生徒の会話スタイルの問題でした。こうしたスタイルはよく見かけますね。

さて、そこからこういう問題が出されていたのです。

群馬県と栃木県の説明として誤った内容を含むものはどれですか。下から1つ選んで、記号で答えなさい。
(ア)群馬県の西部にある嬬恋村では、昼夜の寒暖差を利用したキャベツ栽培が主に夏から秋にかけておこなわれます。県全体のキャベツの生産量は、愛知県に次いで全国第2位をほこっています。
(イ)群馬県では「上毛かるた」の1つに「雷と空風 義理人情」とよまれているように、日本海側から越後山脈をこえてくる乾いた強い風が冬に吹きおろします。
(ウ)栃木県では、都道府県名を由来とする名前のイチゴのブランド化に成功し、その他にも様々な品種が栽培されるようになっています。県全体のイチゴの生産量は、福岡県をおさえて全国第1位をほこっています。
(エ)栃木県の北部は鳥海火山帯に属し、活火山もあります。火山の地下のマグマだまりを熱源とする温泉地もあり、草津温泉や鬼怒川温泉などが有名です。

実際の問題では、栃木県と群馬県は地図の説明から考えさせるようになっていましたが、「関東地方の内陸にあり東西に隣り合っていて形も大きさも似ている」というヒントがありましたので、さすがにわからない受験生はいないでしょう。

 

さて、みなさんは解けましたか?

まず、(ア)から検討しましょう。

〇群馬県の西部にある嬬恋村・・・これは正しいですね。すぐにわかるでしょう。

△昼夜の寒暖差を利用したキャベツ栽培・・・これはわかったかな? 生徒たちは、嬬恋村の高冷地栽培についてはよく知っています。夏でも涼しい気候を利用して高原野菜を作っているということを何度も習っていますね。ただ、昼夜の寒暖差を利用しているかどうかまで知っている受験生は少ないと思われます。実は、夜の低気温を耐えるため、キャベツは糖分を貯めこむのですね。それで甘くおいしいキャベツが育つのです。そこまで知っていたかな? ということで、多くの受験生は、この部分は△印、つまり現在の自分の知識では正しいのか誤っているのか判断できない、と考えます。

〇△おもに夏から秋にかけて行われます・・・夏はいいのです。秋がひっかかるポイントですね。嬬恋村のキャベツは6月下旬から10月にかけて出荷されます。とくに7月~10月は、東京卸売り市場のキャベツのうちおよそ7割を占めるほどなのです。したがって、まったく問題がないのですが、生徒としては「秋」にひっかかったかもしれません。

△愛知県に次いで全国2位・・・さあ、これは正しいでしょうか? たぶん2位で合ってる?

2024 愛知県:17.1%   群馬県:21.0%   

2023 愛知県:18.45%  群馬県:19.55%

2022 愛知県:17.98%  群馬県:19.66%

2021 愛知県:18.27%  群馬県:17.92%

なるほど。ここ3年続けて群馬県は1位だから、これは×でいいですね。

でもちょっと待ってください。愛知と群馬って、大きな差は無いですよね。実は、愛知・群馬がキャベツ生産でダントツに多いのは事実ですが、その差は大きくはなく、年度によって1位・2位がよく入れ替わるのです。通常、地理のデータを出題するときには、大きな差が無い順位を出題することはありません。それはあまりにも「意地悪」ですし、意味がないからです。最近の傾向としては、群馬と愛知の出荷時期の差から、その理由を答えさせる出題が主流です。東京中央卸売市場のグラフが良く使われています。

したがって、この問題で、「群馬は1位で、2位じゃないもんね!」ということを問うのはあまりに細か過ぎますね。こういうのが出題の「センス」なのです。

 

(イ)はどうでしょう。

?「上毛かるた」・・・みなさんは「上毛かるた」はご存じですか? 1947年に作られ、群馬県民なら皆知っているそうです。この「上毛かるた」、過去にいくつかの中学でネタとして使われていました。ただし、そう多くは出題されていません。

「ゆ・・・ゆかりは深し貫前神社」

「お・・・太田金山子育呑龍」

「ぬ・・・沼田城下の塩原太助」

こんな札があるのですが、群馬県民でない私にはさっぱりわかりません。はっきりいって、地域ローカルなものを、さも常識のように扱うのもまた、センスが無いと言わざるを得ませんね。群馬県の学校ではないのですから。

文句はともかく、空っ風については常識ですので、これは問題なさそうです。

 

(ウ)「都道府県名を由来とするイチゴ」、これはどう考えても「とちおとめ」ですね。

さて、イチゴの生産が福岡県をおさえて第1位なのかどうか。

これについては、福岡のおよそ10%に対して、栃木は15%ほどであり、もう50年以上トップですので、問題ありません。

 

(エ)はどうでしょうか?

「鳥海火山帯」・・・おお!久々にこの単語を見ました。もう20年以上入試問題では見かけたことがありません。

実は、昔は「千島・那須・鳥海・富士・乗鞍・大山(白山)・霧島」の7つに火山帯を分類していたのですが、学術的に意味がないとされ、今では全く使われなくなりました。東日本火山帯・西日本火山帯の2つに分けるようになったのです。プレートテクトニクスの研究が進んだ成果ですね。もう教科書にも載せられていないはずです。私も生徒に20年以上、全く教えていません。

つまり受験生にとっては「鳥海火山帯? それって何?」状態だったはず。この先生の社会科の知識は20年以上アップデートされてないのかな?

 

「草津温泉や鬼怒川温泉などが有名」・・・ご存じのように、草津温泉は群馬県、鬼怒川温泉は栃木県です。まあ温泉の所在地が社会科的に重要かどうかは少々疑問ですが、鬼怒川温泉に修学旅行で行った子もいるのかな? また、草津温泉は有名ですからね。これくらいは知っているでしょう。生徒にも、「東海道と中山道の分岐点の草津の宿は琵琶湖のほとりだ。群馬県の草津温泉とは関係ないぞ」なんて教えたものです。したがって、栃木県の説明に草津温泉が入っているのは誤りとわかります。

 

あれ? そうすると、(ア)と(エ)の2つが正解?

 

ここでうろたえた受験生は、もう一度(ア)から(エ)の選択肢を丁寧に確認するはずです。だんだん自信が揺らいできました。もしかして草津温泉って栃木県だったっけ? それとも、イチゴの一位って福岡県? 

こうしてあやふやな思いで選択肢を一つ選びますが、その心の動揺は、後の問題を解くときにも「自信の無さ」として悪影響を及ぼすのです。

 

さて、学校側が出した模範解答を見て見ましょう。

(ア)または(エ)

おい!

さらっと正解を2つ出すな!

 

どう考えても、これは出題ミスですね。

私が憶測するに、こんなことだったのでは?

社会の先生が、3年以上前の古い統計資料集の記憶で、「キャベツは群馬は2位だよね」と問題を作ったのでしょう。

ところが、入試の採点をしていると、(ア)を選ぶ生徒が多い! 

あれ? あわてて確認すると、なんと群馬県が最近は1位ではないか!

急いで模範解答を訂正し、採点をやり直した。

電子採点を使っていれば、誤答が1つに偏っていると、出題ミスの可能性ありということでアラートが出ますので。

 

あくまでも憶測です。

学校側が公表した模範解答の作成タイミングまでわかりませんから。試験実施前に気が付いた可能性ももちろんあります。

しかし、試験実施前に気づいたのなら、当然「訂正」が入るはずですね。普通なら、「選択肢の(ア)は削除」と訂正が入ります。試験の際に「訂正」が入っていたかどうかまでは確認できませんでした。

それとも、問題は印刷済だし、試験の際に「訂正」は格好悪いから、模範解答を調整すればOKだね! などと安直に考えたとか?

 

もちろん、(ア)を選んでも(エ)を選んでも〇になったのだから問題はない、という考えもあるでしょう。

しかし、何人もの受験生が、この問題で立ち止まったことは間違いないと思います。

その数秒、数分が入試では重要な意味を持つことは言うまでもありません。

 

さらに、気になる点もありました。

 

鈴木さん:・・・私の祖父母は2つ並んだ半島の一方にある庁所在地に住んでいるのだけれど、東京では見ない「克灰袋」というゴミ袋が使われていたよ。
佐藤さん:偶然だね。私の祖父母の家も2つ並んだ半島の近くにあるよ。私の祖父母の家の方ではホタテの貝殻が大量に廃棄されて問題だったみたいだけれど、今は肥料などへのリサイクルが進んでいるらしいよ。

 

この会話の部分は出題と無関係です。

それならなぜ、「克灰袋」なんていう受験生にとって未知の語句を出したのでしょう?

「克灰袋」とは聞きなれない言葉ですが、桜島噴火の火山灰を集めて捨てるための袋だそうです。垂水市は「降灰袋」、霧島市は「集灰袋」という名称だとか。

さらに、鹿児島市も以前は「降灰袋」と言う名称だったのに、25年ちょっと前から、「克灰袋」という名称に変わったそうです。火山灰を克服しようという思いが込められているのですね。

これ、どうして出題しなかったかなあ。

「克灰袋」に下線を引いて、この袋の用途を説明させる問題、出さなかったのはあまりにもったいない。

さらに、ホタテのリサイクルについて。これもなぜ出題しなかったのだろう?

土壌改良材や、チョークなどにリサイクルをすすめているのです。

「次の中からホタテの貝殻をリサイクルしている例を全て選びなさい」なんて問題、すぐに作れますよね。

 

こういうところに、出題者の「センス」が現れるのだと思います。

この学校は良い学校だと思いますが、少なくともこの問題を作成した社会科の先生の作問センスは高くはない、そう断言できます。

 

出題ミスは許されない

 

 細かいことをあげつらってしまいました。

私は、入試問題は「絶対」であることが大前提だと思っているのです。だって、受験生たちは、自分の人生を賭けて入試に挑んでいるのですから。

大げさではありません。どの中学に合格できるのか、どの中学に進学するのか、これは後の人生にとって大きなターニングポイントです。少なくとも受験生たちは皆そう考えて入試に臨んでいます。

わずか1点の差で明暗が分かれる残酷な試練です。その入試問題に出題ミスなどあってはならないのです。

 

中学校の先生方にお願いしたい。もっと真剣に入試問題を作ってください。

 

※最後に

 一つだけ言わせていただくと、こうして入試問題と模範解答を公開している学校の姿勢は高く評価されます。大半の学校が問題を公開していないのです。「著作権」問題があることはわかります。しかし、公開している学校は、きちんと著作権をクリアしているのですから、できないはずはないですね。

これは学校の姿勢を表しているのだと私は考えています。入試問題には、その学校がどんな生徒を求めているのかが反映します。それを受験生に公開しない理由が私にはよくわからないのです。

「うちの学校を受験する生徒は過去問などやる必要はない」ということなのか?

「うちの学校を受験するなら、『声の教育社』に金を払って入試問題を購入しなさい」ということ?

さらに、一部の学校では、入試問題だけ公開して、模範解答は公開しません。

これはさらに意味がわかりません。まさか解答に自信が無いわけでもあるまいに。

 

中学入学前後の注意をまとめた本を出しました。ぜひお読みください。