
今回はロジカルライティングの番外編です。
卒業生の中学生ハナコが顔を出しました。
小説とは?
ハナコ:先生、久しぶり!
私:おお、久しぶりだな。今日はどうした?
ハナコ:実は先生に相談があってさ。ねえ、小説ってどうやって書けばいいの?
私:藪から棒だな。小説家でも目指すのか?
ハナコ:違うよ。夏休みの課題だったんだ。小説を1つ書きなさいって。それで生徒が書いた小説の中から優秀作品を何本か集めて冊子にして配るんだってさ。
私:ほう。それはおもしろそうだな。でも、私のところに来たということは、さては全く進んでないんだな?
ハナコ:正解! 私勘違いしてて。小説書くのは自由だとばっかり思ってたんだよ。書きたい人が書けばいいんだって。でも昨日課題のプリント見直したら、全員提出ってなってて。あと1週間しか無いんだよ。先生、助けて!
私:最近そのパターンばかりだな。いいんだよ、小説なんてなんでも。ハナコが書きたいものを書きたいように書けばいいんだよ。
ハナコ:だから。その書きたいものが無いんだって。そもそもあたし、本読むのだって好きじゃないし。
私:そうか。それは困ったな。
ハナコ:そもそも小説って何よ? もうそこからわからなくて。
私:阿刀田高という小説家が、「小説とは何か」について面白い文章を書いていたから、少し紹介しよう。「私が作家になった理由」という本に書かれていた内容だ。
◆おもしろい話を語るのが小説だ
◆小説はすべてミステリーだ
◆小さな説
◆革命に資するものを知らせること
ハナコ:面白い話とかミステリーっていうのはわかるけど、革命って何?
私:これは毛沢東のことばらしいからな。
ハナコ:あ、なるほど。それに小さな説って何? 馬鹿にされてる?
私:もともと「小説」と言う言葉は、novelという語句を坪内逍遥が「小説神髄」の中で「小説」と訳したのが始まりなんだ。中国語で「大説」というと国家・社会について語ることらしい。そんな大げさな話じゃないよ、という意味で小説と名付けたのじゃないかな。
ハナコ:そうか。それじゃあ、身近なことを書いてもいいってことなんだね。
私:その通り。
身近なこと
ハナコ:先生、身近なことを書いても小説にならない気がするんだけど。それってエッセイじゃないの?
私:その通りだな。一応、事実だけ書けばエッセイ、そこに創作を加えれば小説になる。
ハナコ:それじゃあ、先週は部活で毎日学校に行ってたんだけど、それをそのまま書けばエッセイ?
私:そうだ。そして、そこに架空の人物、例えば格好いい爽やか男子高校生と電車の中で出会ったことにでもすれば、それはフィクション、つまり小説だな。
ハナコ:爽やか男子高校生ねえ。たしかにフィクションだ。だって存在しないし。
私:書き方を工夫するだけでもいいんだ。「私は・・・・」ではなく、「ミドリは・・・」と言う風に、「ミドリ」という架空の人物を主人公にするんだな。それで、その「ミドリ」が、毎日電車に乗って学校に部活に行くことを書いてもいい。
ハナコ:それ、エッセイじゃないの?
私:これは「私小説」とよばれるジャンルで、立派な小説だな。ハナコは、太宰治くらいは読んだことあるだろう?
ハナコ:あるよ。走れメロスとか、あとは、人間失格を読んだ。
私:人間失格はどうだった?
ハナコ:主人公がクズ男だったよね。あんな男絶対嫌だよ。それなのになんで女性にもてるのかが不思議すぎる。
私:確かにな。あの主人公、大庭葉蔵のモデルは太宰治自身なんだ。
ハナコ:そういえば太宰治って心中したんだよね。なるほどね、あのクズ男が太宰治だったんだ。
私:もちろん小説だから全く同一というわけではないが、ほぼ太宰の姿が投影されていると思っていい。
ハナコ:そっか。自分の体験でも、主人公を変えて、あと設定とか少し変えるだけで、私小説っていう小説になるってこと?
私:その通り!
私小説のすすめ
ハナコ:それなら何とかなる気がしてきたよ。
私:実は、欧米では小説=ストーリーという感覚のようなんだ。だから日本の私小説は、「それは小説でなくてエッセイだ」と批判されることもあるようだね。でも、私小説だって立派な小説には違いない。何も波瀾万丈のストーリーが展開しなくてはならないなんてルールは無いからね。
ハナコ:でもなあ。この夏休みなんて、ほぼ毎日電車に乗って部活に行くのと、塾の夏期講習に行くのと、あとたまに友達とカラオケとかショッピングに行くくらいだったし。いくらなんでもそれじゃつまらな過ぎない?
私:確かにつまらないな。文章力があれば、そんなつまらない日常を描いただけでも、人を感動させたり温かい気持ちにさせたりする小説は書けるのだが。
ハナコ:私にそんな文章力があれば、こんなところにきて相談なんてしてないよ。
私:こんな所か。
ハナコ:ごめん! 悪気はなかったんだよ! ねえ、先生、それじゃあどうしたらいい?
コツと注意
私:コツを伝授する前に、注意を先にしておこう。注意その1は、ファンタジーを書くな、だ。
ハナコ:ファンタジーだめなの?
私:ダメだ。最近の中高生は、ゲームやアニメの影響を受けすぎているからな。おそらく、今回の学校の課題にも、異世界に転生する話や、剣と魔法が出てくる話が大量に提出されるはずだ。そして、学校の先生はこうしたジャンルが大嫌いなんだ。
ハナコ:何で? おもしろいよ。
私:設定が幼稚でくだらないからな。異世界ファンタジーを書くのなら、ナルニア国物語くらいのものを書かないとな。
ハナコ:あ、あれ、私も大好きだったよ。
私:作者のC・S・ルイスは神学者だった。まああんなものが書けるなら、ハナコは作家デビューだ。
ハナコ:無理だから。
私:注意その2は、タイムスリップものはやめておけ、だ。設定が安易すぎるし、もう書き古されたテーマだからな。しかも、プロの書いた小説でも、論理的に破綻しているものがあるくらい難しいテーマなんだ。
ハナコ:わかった、やめておく。
私:注意その3は、夢オチ宇宙人オチはご法度だ。何か不思議な人物が出てきて、この人はいったい? と読み進めていったら、最後に「実は宇宙人でした」というのは最低だな。読者を馬鹿にしている。あの三島由紀夫ですら、「美しい星」という宇宙人が出てくる小説で失敗している。それから、不思議なことが次々おこって、いったい? と思っていたら、「実は全部夢でした」というのも、読者の怒りを買う。
ハナコ:注意ばっかり。それじゃあどうしたらいいの?
私:ハナコの日常を題材にして、そこに1つだけ「フック」を入れる。
ハナコ:フック?
私:フックとは釣り針のことだな。小説におけるフックというのは、読者を釣り上げるための、まあ餌のようなものだ。
ハナコ:よくわかんないなあ。
私:例えば、ミドリが毎日電車に乗って部活に行こうとすると
ハナコ:ミドリ? ああ、さっきの子、私のことだね。
私:ミドリが電車の窓から見ているビルの一室の様子がなぜか気になるんだ。ちょうど駅につく直前、電車のスピードが遅くなったあたりで、ビルの3階の窓の中に・・・。
ハナコ:ねえ、何が見えたの!
私:ほら、釣れた。
ハナコ:あっ!
私:そうして気になったビルを、ある時思い切って途中下車して確かめに行く。
ハナコ:なんか物語が始まった気がするよ。
私:あるいは、ミドリを嫌う架空の先輩を創作してもいい。なぜか理不尽にミドリにばかりつらくあたるんだね。その理由が徐々に明らかになっていく。
ハナコ:創作なんかしなくても、実際にいるよ、そういう先輩。
私:それをそのまま書くといろいろまずそうだから、いっそ逆にしてみるのも手だな。なぜかミドリにだけ妙に優しい先輩がいるんだ。
ハナコ:わかってきた気がする。リアルな日常をそのまま書く中に、何か一つ、フックを入れるんだね。読者の興味を引くような。そうしてそれを主軸にしていけばいいんだ。
私:その通り! さあ、これでもう書けるだろ?
ハナコ:先生、ありがとう! それで、フックは何にしたらいい?
私:それくらい自分で考えなさい!
