
最初にお断りしておきます。
私は読書感想文が大嫌いです。
実は、生徒からよく泣きつかれるのですね。
「どの本を読めばよいのかわからない」
「何を書けばよいのかわからない」
「どう書けばよいのかわからない」
その都度、丁寧に指導してきました。
しかし、よく考えてみたら、私自身、子どものころから読書感想文が大嫌いだったのです。
読書は大好きでした。小中高生時代は、同年代の誰よりも大量に読書していた自負があります。でも、読書感想文は大嫌いでした。
だって、「感想」はパーソナルな思いですよね。同じ本を読んだところで、抱く感想はバラバラです。そして、その感想は言語化する必要が無いものだと思うのです。
それを無理やり言語化して「読書感想文」に定型化させられることによって、なんだか大切な読書体験が冒涜されるような気がしませんか?
しかも、学習指導要領のどこにも「読書感想文を書かせる」ことは一言も書かれていないのです。
しかし、相変わらず、学校からは夏休みの課題として「読書感想文」を書くことが求められます。
そこで、硬直化した学校の指導に反旗を翻すため、ではなく、とりあえずやっつけ仕事で読書感想文を1本つくることだけを目標としたいと思います。
「読書感想文」の教育効果を信じて真面目に取り組みたいかたはこの後は読まないでください。
生成AIは使わない
やっつけ仕事で読書感想文を、と思うとき、誰もが真っ先に考えるのが、「ChatGPTに頼もう!」だと思います。
技術の進歩は目を瞠るほどです。もう実用に耐えうるレベルです。
しかし、今回は使うのをやめましょう。
◆大人風の文章になり過ぎる
◆学校の先生に見抜かれると最悪
◆教育上好ましくない
いくら「やっつけ読書感想文」だとしても、せめて自分の手で書く努力くらいはしましょう。それが学校の先生に対する最低限の礼儀?だと思うのです。
しかも、そもそも教育上「?」マークがつく方法で書こうとしています。これ以上子どもに楽をさせるのは避けたいですね。
究極の4段階
読書感想文には様々なノウハウ・セオリーがありますが、今回はそれをことごとく無視します。とにかく1本書かなくてはならないのです。そんな切羽詰まった状態でも3時間で何とかなる、究極の方法を伝授します。
【第1段階】あらすじを読む
そうです、「あらすじ」です。
本を最初から最後まできちんと読む努力すら放棄するのです。
何度もいいますが、私は「読書好き」です。
子どもたちにも、1冊でも多くの本を読んでほしいと願っています。読書体験こそが、豊かな教養と心を育む唯一の方法であると信じています。
その大切な読書体験に、「感想文」という雑音が混じるのが嫌なのです。
したがって、今回は「読書しない」感想文を書いてもらうつもりです。
もし「あらすじ」を知ってその本を読みたくなれば、感想文のことなど一切考えずに、楽しく読めばよいのです。
「あらすじ」については、ネットで書評のたぐいを検索してもよいですし、何なら大人が変わりに斜め読みして、簡単にあらすじを教えてあげてもよいでしょう。
【第2段階】 脇役に注目する
そうです。主役ではなく脇役です。
おそらく感想文を書く生徒の全員が、「主人公」に感情移入するスタイルで読み、主人公の心情の変化に注目して感想文を書くと思います。
それではおもしろくありません。
天邪鬼な私としては、主人公の周りにいる脇役に注目したいと思うのです。
そもそも奇手の感想文です。
どうせなら、注目すべき人物も奇手でいきましょう。
そうすることで、「へえ、こんな脇役に注目したのか」と先生に思わせることができます。そのことで、全体をきちんと読んでいないでやっつけ仕事で書いたことから目を逸らさせる効果もあるのです。
自分で書いていても思います。呆れるほど姑息ですね。
【第3段階】場面を抜き出す
脇役が絡む場面ならどこでもかまいません。どこかの場面を抜きだして引用しましょう。
これは、「あなたが気になった場面、注目した文章はどこですか?」という問いに答えるつもりです。
これは、読書感想文の定番のアプローチなのです。学校の先生によっては、最初からそのように指示する人もいると思います。
「夏休み中に1冊本を読み、その感想文を原稿用紙2枚以上3枚以内で書きなさい。
その際には、気になった場面や文章に注目し、どうしてそこが気になったのかについて書くようにしなさい。」
この指示を出す理由は簡単です。
多くの生徒が書く内容がひどすぎるからなのです。
まず本の内容を要約します。それで文字数の8割が費やされます。そのうえで、本全体の内容に対する「ぼんやりとした」感想が書かれているだけ。
「自分を犠牲にしてまで他人を救った主人公は偉いと思いました。僕もそうした人間になりたいと思います」
「主人公は、最初はまわりの人たちと打ち解けずにいたけれど、最後は心を開いて自分のやりたいことを見つけることができました。私もそれを見習って自分のやりたいことを見つけられるようになりたいです。」
こんなものばかり読まされる学校の先生に同情します。
そこで、文章中の一場面に注目し、それを抜き出し、それに対する感想を書くことにしましょう。
【第4段階】自分の身に置き換える
「もし自分がこの脇役の立場だったら」
こう考えて書くのです。
「私は〇〇だと思いました」といった単純(&幼稚)な感想よりも、少しだけ深く考察したように見えます。
しかも取り上げているのが脇役ですから。
「この子の着眼点は面白いな」
「なかなか深いことを考えようとしたんだな」
こう思ってもらうことが「狙い」です。
相変わらず姑息ですいません。
実践例
では、ここで具体例をあげてみます。
とりあげるのは、そうですね、誰もがよく知っている「走れメロス」にでもしましょうか。この本は、青空文庫でも読めて好都合です。
それにしても「青空文庫」は最高です。これを企画運営している方々には尊敬の念しか抱けません。
【第1段階】あらすじを読む
「走れメロス」のあらすじを知らない人はいませんね。
【第2段階】脇役に注目
物語の主要登場人物は、メロス、セリヌンティウス、ディオニス王の3人ですね。メロスの親友がセリヌンティウス、悪役がディオニス王です。
普通はメロスに注目して書くでしょう。ちょっとひねったつもりで、セリヌンティウスをとりあげる子もいると思います。ディオニス王に注目する子も少数ですがいそうですね。
他には出てこなかったでしょうか?
ああ、メロスの妹と妹の婚約者というのがいました。今回は、この二人に注目してみましょう。
天邪鬼すぎますね。
二人の登場シーンはわずかです。物語の前半、1万文字の物語の3000字あたりに登場しています。3合目といったところですね。
メロスの十六の妹も、きょうは兄の代りに羊群の番をしていた。よろめいて歩いて来る兄の、疲労困憊の姿を見つけて驚いた。そうして、うるさく兄に質問を浴びせた。
「なんでも無い。」メロスは無理に笑おうと努めた。「市に用事を残して来た。またすぐ市に行かなければならぬ。あす、おまえの結婚式を挙げる。早いほうがよかろう。」
妹は頬をあからめた。
「うれしいか。綺麗な衣裳も買って来た。さあ、これから行って、村の人たちに知らせて来い。結婚式は、あすだと。」
ここが妹の初登場シーンです。
冷静に考えてみると、無茶ぶりもいいところですね。
出かけてきた兄が帰ってきたかと思うと、「明日結婚しろ」
あり得ないです。
この場面だけでも、兄の自分勝手で独善的な性格が浮き彫りになっています。
そしてそれに従ってしまう妹のだらしなさも。
「走れメロス」の主題はもちろんそこではありません。物語の大半はメロスの独白で構成され、メロスの気の迷いが描かれています。しかしその背景に注目すると、「妹がもうすこししっかりしていれば、そもそもこんな事件は起きなかったのでは?」と思わざるをえませんね。
妹の結婚相手もどうかと思います。
眼が覚めたのは夜だった。メロスは起きてすぐ、花婿の家を訪れた。そうして、少し事情があるから、結婚式を明日にしてくれ、と頼んだ。婿の牧人は驚き、それはいけない、こちらには未だ何の仕度も出来ていない、葡萄の季節まで待ってくれ、と答えた。メロスは、待つことは出来ぬ、どうか明日にしてくれ給え、と更に押してたのんだ。婿の牧人も頑強であった。なかなか承諾してくれない。夜明けまで議論をつづけて、やっと、どうにか婿をなだめ、すかして、説き伏せた。
ここでどんな議論が交わされたのかはわかりません。
メロスが理由を言ったとは思えません。もし理由を言ったのなら、メロスをそのまま王都に行かせたはずはないからです。理由をいわなければ議論は成り立ちません。それとも「明日結婚しろ」「いや困る」の押し問答を一晩中やったのでしょうか。
【第3段階】場面を抜き出す。
なにせ妹と婚約者の登場場面はわずかですからね。取り上げるとしたらここしかないでしょう。
「おめでとう。私は疲れてしまったから、ちょっとご免こうむって眠りたい。眼が覚めたら、すぐに市に出かける。大切な用事があるのだ。私がいなくても、もうおまえには優しい亭主があるのだから、決して寂しい事は無い。おまえの兄の、一ばんきらいなものは、人を疑う事と、それから、嘘をつく事だ。おまえも、それは、知っているね。亭主との間に、どんな秘密でも作ってはならぬ。おまえに言いたいのは、それだけだ。おまえの兄は、たぶん偉い男なのだから、おまえもその誇りを持っていろ。」
これは残酷です。
このままいけば、兄は市に処刑されに行くのです。
兄の処刑のニュースを、たぶん次の日あたりに、人伝手に聞くことになるのです。
妹がどれだけ後悔の念に苛まれることか。
「あの時私が兄を止めてさえいれば:
「兄の事情をきちんと聞かずに自分の幸せに有頂天になっていたなんて」
「そもそも私の結婚衣装など買いに行かせなければ」
それに、「嘘をつくこと」が一番きらいなはずのメロスが、妹たちに最大の嘘をついていたのですから。
【第4段階】自分の身におきかえる
妹に置き換えてみましょう。
兄の処刑を食い止めることができたのは自分だけです。その事実の重みを一生背負っていかねばならないのです。
おそらく最初のうちは、ひたすら悔いることしかできないでしょう。
やがて、自分にそんな重荷を負わせた兄を恨む気持ちが芽生えてきます。
メロスはそんな重荷を妹たちに押し付けていったのです。
しかし、幸いにしてメロスは無事でした。
そのニュースを聞いたとき、妹たちは何を考えるでしょうか。
「ああ、そんな重大なことになっていたなんてちっとも知らなかったわ。でも兄が無事でよかったわね」
となるのかな?
それとも、「そんな大切なことを唯一の身内の自分にまで隠していたなんて。もし処刑されていたら私がどんな思いをしたと思うの!」となるでしょうか。
どう考えても後者でしょうね。
「走れメロス」
あまりにも有名な作品です。一般には、メロスの信念の強さと弱さ、親友の気持ち、そして改心した王、そういう話だとなっています。
しかし、作者はあの「太宰治」です。
20代前半で書かれた実質的な処女作のタイトルが「晩年」、自伝的小説「人間失格」には「恥の多い生涯を送ってきました」とありますね。
そんな太宰治が、単純な走れメロスを書くとはとても思えません。
私には、「単純さの罪」が描かれているように思えるのです。
読書感想文例
ちょっと書いてみましょうか。
タイトル:「メロス事件は必然だったのか?」
「走れメロスは、メロスとセリヌンティウスの篤い信頼関係、そしてその心情に打たれ改心したディオニス王の物語だ。だが、私はその背後にいた、メロスの妹とその婚約者の存在が気になってしかたがなかった。
メロスがシラクスの市に妹の結婚衣装を買いにでかけたことが事件の発端となった。そもそもそんな買い物に行かなければ、あるいはせめて妹も同行していたのなら事件は起きるはずもなかった。そして、メロスは家で兄の帰りを待つ妹のことなど忘れて王の排除を決意する。自分がそのような行動をとれば周囲にどのような迷惑がかかるのかは一切考えていなかったのだ。
親友を人質に差し出し急いで家に戻ったメロスは、妹と婚約者に翌日の結婚を迫った。どう考えても不自然極まりない兄の横暴な要求を、妹は受け入れてしまう。
『「市に用事を残して来た。またすぐ市に行かなければならぬ。あす、おまえの結婚式を挙げる。早いほうがよかろう。」
妹は頬をあからめた。』
少しでも兄のことを思いやる気持ちがあれば、兄の様子の不自然さ、そして結婚を急がねばならない理由が気にならないはずはない。しかし、妹の反応はこれだった。
妹の婚約者も、一晩かけてメロスに説得され、結局は暢気に結婚式をあげることになった。私は思うのだ。もし妹か婚約者のどちらかが、少しでもメロスの行動に疑惑を抱き、メロスの置かれた状況に思いをはせることができていたのなら、と。
結婚式を少しでも早く切り上げていさえすれば、メロスは必死に走る必要はなかった。あるいは、結婚式など省略し、メロスとともに皆でシラクスの市に出向いてもよかったかもしれない。兄に他意などなかったこと、兄の親友を思う気持ちが本物であることを誠意をつくして王に訴えることもできたのかもしれない。
『おまえの兄の、一ばんきらいなものは、人を疑う事と、それから、嘘をつく事だ。おまえも、それは、知っているね。亭主との間に、どんな秘密でも作ってはならぬ。おまえに言いたいのは、それだけだ。おまえの兄は、たぶん偉い男なのだから、おまえもその誇りを持っていろ。』
これが兄の遺言だった。この言葉が、妹たちにどのような重荷を背負わせることになるのかに気づかなかったメロスと、これを最後の言葉とも気づかなかった妹。
この物語は、メロスの単純さ、それゆえの信念の強さが主題だが、それ以上に、単純さのもたらす罪の大きさを私には感じさせた。」
これで1000字、原稿用紙2枚半です。
「やっつけ」で書いたものですので、たいした感想文にはなっていません。視点も文章も青臭いですね。
でも、目的は果たせます。
読書感想文、こんなのでいいと思います。
もうすこしきちんとした読書感想文を書きたい方は、ぜひ以下の記事をお読みください。