
今日は、終戦について考察します。
例によって登場人物は麻布志望の3人組、タロウ・ワタル・ゲンタ(仮名)です。実際の生徒・授業ではなく、過去の授業を再構成したものです。
問題提起
私:今日は何の日だ?
タロウ:パナマ運河開通の日!
ワタル:パナマ運河?
私:確かにな。1914年の8月15日に開通して、世界の海運は大きく前進した。
ゲンタ:刺身の日!
ワタル:刺身?
ゲンタ:今朝新聞に載ってたんだ。室町時代の誰かの日記に、「鯛なら鯛と分かるように、その魚のひれを刺しておくので刺身」と書いてあったんだって。だから今日は刺身の日だよ。
ワタル:ええと、ええと、何かなかったかな。あ、そうだ、インドの独立記念日!
私:確かにインドの独立は1947年のこの日だった。よく知ってたな。
一同:そうか。いろいろなことがあった日なんだね。
私:わかってて、みんなで一斉にボケようとするのはやめなさい。今日は光復節だ。
タロウ:光復節? 先生までボケなくても。
私:別にボケてはいない。光復節は、韓国の記念日だ。
タロウ:あ、もしかして? 戦争が終わって日本が負けたから光が復活したとか?
私:その通りだ。
ゲンタ:それはそうだよね。確かに光が復活した思いだったんだね。それなら、日本だって、戦争が終わって明るい未来が開けたんだから、未来記念日とかいう名前にしてもいいんじゃないか?
ワタル:それでは、戦争に対する反省の気持ちがどこかに消えた気がするよ。お父さんが心配してたんだ。なんだか最近戦争の記憶が薄れてきて、日本はよくない方向に向いているんじゃないかって。
タロウ:先生の好きな言葉、何だっけ、過去に盲目だとかなんとかいうやつ。
私:「過去に目を閉ざす者は、現在にも盲目となる」旧西ドイツ大統領だったワイツゼッカーの言葉だ。
タロウ:それそれ!
私:今日は、私達にとって重要な過去、80年前の8月15日について皆で考えてみよう。
ポツダム宣言
タロウ:終戦って、この日にポツダム宣言を受け入れたって日だよね。
私:正確にいうと、8月14日に受け入れを連合国に通達し、15日に公表したんだ。
タロウ:玉音放送だね。
ゲンタ:ポツダム宣言って、結局何が書いてあったの?
私:ちょっと長いが、せっかくの機会だから紹介しよう。
1.アメリカ、中華民国、イギリス三国は、日本に対し、この戦争を終結する機会を与えることで意見が一致した。
2.三国の巨大な陸・海・空軍は、数倍の増強をして日本国に対し最後的打撃を加える体制を整えた。日本が抵抗を終止するまですべての連合国の決意に支持されている。
3.ドイツの無益な抵抗の結果は日本国国民にとっての明白な先例である。現在日本に加えられようとしている力は、ドイツに加えられた力より強大であり、その軍事力の使用は日本軍の完全な壊滅と、必然的な日本国土の完全な破壊を意味している。
4.無分別な打算で日本を滅亡の淵に陥れた我儘な軍国主義に引き続き国を任せるのか、それとも理性の道を進むのか決断すべき時期だ。
5.我等の条件は以下の通りである。これらの条件から離脱はできず、これに替わる条件は存在しない。遅延も認められない。
6.無責任な軍国主義を世界から駆逐しない限り平和・安全・正義は生まれない。日本国民を欺瞞し成果征服の挙に出るという過誤を犯した者は永久に除去する。
7.新秩序が建設され、日本国の戦争遂行能力が破砕された確証のあるまで占領する。
8.カイロ宣言の条項は履行されるべきであり、日本国の主権は本州、北海道、九州及び四国並びに我等が決定する諸小島に局限される。
9.日本国軍隊は完全に武装を解除された後、各自の家庭に復帰し、平和的かつ生産的な生活を営む機会が与えられる。
10.我等は日本人を奴隷化したり、滅亡させる意図はないが、我等の捕虜を虐待した者を含む一切の戦争犯罪人に対しては厳重な処罰を加える。日本国政府は民主主義的傾向の復活強化に対する一切の障害を除去し、言論、宗教及び思想の自由、基本的人権の尊重は確立されなければならない。
11.日本はその経済・産業を維持することを許される。ただし、再軍備につながる産業はこの限ではない。経済維持のための原料の入手は許可される。日本国は将来、世界貿易への参加を許される。
12.これらの目的が達成され、日本国国民の自由な意思により、平和的で責任ある政府が樹立されれば、連合国の占領軍は直ちに撤収する。
13.我等は、日本国政府が直ちに全ての日本国軍隊の無条件降伏を宣言し、その行動における誠意を適当かつ充分に保障することを要求する。これら以外の日本国の選択は迅速かつ完全な壊滅があるだけである。
ゲンタ:うわあ。初めて知ったけど、何ていうか徹底してるね。
タロウ:情け容赦ないかんじ。無条件降伏しなければ徹底的に殺すぞ! 破戒するぞ! って脅しているんだ。
ワタル:アメリカやイギリスは、勝つ気満々だったんだね。
ゲンタ:10章とか、まるで日本人を皆殺しにしたり奴隷にしたりするつもりがあるみたいにしか聞こえないんだけど。その後に基本的人権とか言われてもなあ、って思うよ。
私:まあ裏の意図まではわからないが、徹底していることは確かだね。
ワタル:このカイロ宣言って何?
私:ああ、カイロ宣言は、1943年の11月に、アメリカ大統領フランクリン=ローズヴェルト、イギリス首相チャーチル、中国主席蔣介石がエジプトのカイロで話し合ったんだ。日本が支配している、満州・台湾・太平洋の島々・朝鮮を手放せ、というような内容だった。
タロウ:これって、本当に日本が受け入れると思ってこの宣言を出したのかな?
日本の分裂
私:実は、そのころ日本政府内部でも、戦争継続が不可能だと考える人たちがいたんだね。
タロウ:そんな人がいたんだ。
私:前首相の近衛文麿は、真珠湾攻撃当日に、すでに戦争が負けることを予測し、その準備をすすめるよう配下の政治家に指令している。そもそも真珠湾攻撃を指揮した山本五十六海軍大将も、真珠湾攻撃前に、1年ももたないこの戦争は、多少有利なうちに和平を結ぶべきだと周囲に語っていたんだ。
ワタル:それなら最初からやらなければよかったのに。
私:戦争をしたい勢力、継続した勢力がいたからね。
ゲンタ:誰?
私:まず東条英機がいる。「この調子ならオーストラリアまで手にはいる。和平などもってのほかだ」と言っていた。
ゲンタ:馬鹿なの?
私:ううむ、コメントしづらいな。吉田茂や近衛文麿たちが和平工作を水面下ですすめようとしたんだが、東条英機やその仲間たちにつぶされてしまった。 やがて戦局が悪化し、多くの政治家が反東条で活動したが、なかなかうまくいかなかったんだな。東条英機は、あくまでも精神論で勝てると主張し続けた。
ワタル:ポツダム宣言はどうなったの?
私:それなんだが、鈴木貫太郎首相が、「黙殺する」と発表してしまたんだ。これは明確な「ポツダム宣言拒絶」と受け止められてしまた。日本が拒絶した以上、連合国は日本に対して徹底的な攻撃を加えてもよいことになってしまう。例えば原爆もね。
タロウ:ええっ! それじゃあその段階でポツダム宣言を受け入れていれば、広島も長崎も無事だったの?
私:実はそれはわからない。あくまでも可能性の話だ。暴走する東条英機たち戦争推進派、そしてそれを抑えられなかった政府や天皇、そうした図式だった。
なぜ戦争になる?
ワタル:ねえ先生。基本的な疑問なんだけどさ。どうして戦争になるの?
タロウ:それは東条英機みたいに、戦争がやりたい人間がいるからさ。
ワタル:でもさ、戦争って人殺しでしょ? 東条英機って人はよくわからないけれど、別に殺人鬼ってわけじゃないよね。それなのに、周囲が止めるのも聞かずに戦争にのめりこんでいって全滅するなんて、普通じゃないよ。それにそういう人は一人だけじゃなかったんだよね。「戦争やるぞ!」「絶対勝つぞ!」と考える人たちが大勢いたからこそ、東条英機も力を持てたんだよね。
私:そこに気が付いてしまったか。実に難しい問題なんだが、ちょっと例をあげてみようか。今みんなは無人島に漂流しているんだ。
ゲンタ:また? こんどは何人?
私:そうだな。30人くらいにしておくか。それで、島ではいつのまにか3つのグループができてしまった。ゲンタとワタルとタロウをそれぞれリーダーとするグループだ。
ゲンタ:先生は?
私:先生は一人で山で暮らすことにするよ。ゲンタたちは湧き水の出る泉を支配している。ワタルたちは海辺を支配して魚を独占している。タロウたちは森の果物を独占しているんだ。それで最初のうちは仲良く協力していたんだが、やがてワタルとタロウたちの喧嘩がはじまった。もっと果物をよこせとか、魚を安くしろとか、そういった争いだね。
タロウ:そんなの話し合えばいいだけじゃないか。
私:もし話合っても解決しなかったら? 相手が話し合いに応じなかったら?
タロウ:先生、助けてよ。
私:私がいれば、タロウとワタルの喧嘩を仲裁してあげられる。でも私がいなかったら?
タロウ:ゲンタ、助けて。
ゲンタ:ええ、俺、いやだよ。どっちとも喧嘩したくないから、二人で勝手にやっててくれる?
私:太古の昔から、人間は自分たちの食べ物=命を守るために、戦い続けてきた。戦いが最も単純で効果的な解決手段だったからだ。ただ、戦いは結局のところ無益だ。喧嘩に明け暮れている間魚を獲りにいくのがおろそかになれば飢えてしまう。それがわかっていても、相手を屈服させようとしてしまうんだな。
ワタル:どうすればいいの?
私:前回それを皆に考えてもらったじゃないか。
タロウ:ああ。相手のことを理解することだったね。
ゲンタ:戦争をする相手の国にも、自分とおなじような人間、家族がいることを考えるんだったよね。
ワタル:相手のことを尊重するということって、結局は自分たちのことも尊重してほしいってことだよね。お互いがそう考えればいいんだ。
私:理想論だけどね。でも、今日くらいは理想を語りたいじゃないか。
一同:今日の記述は?
私:今日はやめておこう。
ポツダム宣言についてきちんと知りたい場合は、この本をお薦めします。
