中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【ロジカルライティング】8月8日について考える

例によって登場人物は麻布志望の3人組、タロウ・ワタル・ゲンタ(仮名)です。実際の生徒・授業ではなく、過去の授業を再構成したものです。

8月8日

私:今日は何の日か知ってるか?

タロウ:8月8日だよ

ワタル:わかった。末広がりの日だ!

ゲンタ:末広がりって?

私:そんな言葉よく知ってたな。

ワタル:だって8を横に書くと∞だろ? つまり無限だから縁起がいいんだよ。

私:本来は、八は下に向かって広がるから、縁起がいい末広がりと考えたんだ。

タロウ:なるほど。つまり今日はとっても縁起がいい日なんだね。

私:まあ間違ってはいない。縁起がいいということで、入籍する日に選ばれることがあるそうだ。

タロウ:他にもあるの?

私:笑いの日

タロウ:まさかと思うけど、「ハッハッ」つまり「88」?

私:パパの日

ゲンタ:まさかと思うけど「パパ」つまり「88」?

私:ビスコの日

ワタル:ビスコって、あのグリコのビスコ? 何で?

私:先生もわからないよ。誰かに聞いたことがある。

タロウ:それより、先生はそんなことが言いたかったんじゃないよね。

私:そうだ。先生が言いたかったのは、今から80年前の8月8日のことなんだ。

タロウ:2025年の80年前というと、1945年だね。

ワタル:ええと、広島原爆が8月6日で、長崎原爆が8月9日だろ。その間の8日に何かあったっけ?

ゲンタ:思い出した! ソ連の対日参戦だ!

 

日ソ中立条約

タロウ:ちょうどよかった。前から謎だったんだよ。8月6日・8日・9日って、すごく近いよね。何かそこに意味があるのかな?

ゲンタ:そうそう。それに、ソ連と日本って日ソ中立条約を結んでたはずだよね。

私:そのあたりを今日は詳しく考えてみようか。日ソ中立条約は何年だったかな?

ワタル:1941年!

私:その通りだ。内容はわかるかな?

ワタル:ええっと。日本とソ連が中立だっていう内容。

タロウ:そのまんまじゃないか!

私:まあそれくらしか習っていないないよな。たいして長い条約ではないんだ。

第一条 両締約国ハ両国間ニ平和及友好ノ関係ヲ維持シ且相互ニ他方締約国ノ領土ノ保全及不可侵ヲ尊重スベキコトヲ約ス

第二条 締約国ノ一方ガ一又ハ二以上ノ第三国ヨリノ軍事行動ノ対象ト為ル場合ニハ他方締約国ハ該紛争ノ全期間中中立ヲ守ルベシ

第三条 本条約ハ両締約国ニ於テ其ノ批准ヲ了シタル日ヨリ実施セラルベク且五年ノ期間効力ヲ有スベシ両締約国ノ何レノ一方モ右期間満了ノ一年前ニ本条約ノ廃棄ヲ通告セザルトキハ本条約ハ次ノ五年間自働的ニ延長セラレタルモノト認メラルベシ

第四条 本条約ハ成ルベク速ニ批准セラルベシ批准書ノ交換ハ東京ニ於テ成ルベク速ニ行ハルベシ

ゲンタ:ねえ先生。どうしてこういう条約とか法律とかって、漢字とカタカナで、しかも読みづらく書くの?

私:これは、中国の文、いわゆる漢文の影響だね。江戸時代までの日本では、教養=漢文を読むことだったから、まだその影響が残っているんだよ。

ゲンタ:先生、わかりやすく解説して。

私:こんなかんじかな。

(1)日ソ両国の友好

(2)相互の中立

(3)条約の効力は5年間

(4)速やかな批准

これだけだ。

ゲンタ:なんだ、単純。つまり仲良くしましょう、どっちかが他国と戦争しても関わらないよ、5年間はね、っていうことだね。

私:そうだ。この条約は1941年の4月13日に結んだ。そこから5年間ということは、1946年の4月13日が期限だね。でも、その1年前までに日本かソ連のどちらかが「廃棄通告」しない場合は、5年間自動延長することになっていた。

ワタル:あれ? それじゃあ日程が合わないよね。だって1945年の8月8日にソ連が日本を攻撃してきたときって、まだこの条約の期間内じゃないの?

私:そこが一番の問題なんだ。ソ連の外務大臣が日本の駐ソ大使に「条約は破棄する」と通告したのは1945年の4月5日なんだ。その時大使はソ連の外務大臣にたいして条約の期限を再確認したんだね。そうしたら、「条約の期限切れとなる1946年(昭和21年)4月25日までは有効」との返答をもらっている。

タロウ:それじゃあ、まだ日ソ中立条約の有効期限中なのに、ソ連がそれを無視して日本を攻撃したってこと?

私:そうだ。そういうことになるね。

タロウ:そんなのって許されるの?

私:もちろん許されない。だが問題は、それが許されないとして、誰に訴えればいいのかっていうことなんだ。

ゲンタ:やっぱり国連しかないよね。このころだから国際連盟だね。

タロウ:でもさ、日本は離脱しちゃったじゃないか、とっくに。

ワタル:ソ連は?

私:1939年に除名された。

ゲンタ:それじゃあ、条約違反を何とかしてソ連を罰する人はいないの?

私:いない。

タロウ:だったら、条約なんか結んでも無駄じゃないか。破っても怒られない約束なんて意味わかんないよ。

私:そんなことはない。条約は国同士がする正式な約束だからな。両国は遵守する義務があるんだ。

ゲンタ:もし破ったらどうなるの?

私:まず、国際的な信用を失う。そういう国とは今後まともに付き合うことはできなくなるからな。それから、世界各国から非難される。場合によっては経済制裁があるかもしれない。

タロウ:今の国際連合には、国際司法裁判所もあるしね。

私:まあ、国際司法裁判所は争っている両国が賛成しないと裁判にならないという問題があるけどね。

ワタル:なんだかなあ。何か納得しないよね。約束破ったほうがのさばるっていうか。

私:そこが国際関係の難しいところなんだ。世界中の国が従う共通のルールなどと言うものはない。いちおう各国の主権を尊重すること、お互いの争いは戦争手段に訴えないこと、といった原則はある。また、各国は国民の人権を尊重することも暗黙のルールだね。

ゲンタ:でも、守らない国っていっぱいあるよね。例えば北朝鮮とか。国民の人権がきちんと守られてるとは思えないよ。

タロウ:ロシアがいきなりウクライナを攻撃したのだって、ダメだよね。

私:日本だって、女性や子どもの権利が十分に守られていないと世界からはみなされてるんだ。夫婦別姓問題についても、国連の女性差別撤廃委員会から何度も怒られてるんだよ。

ワタル:他人事じゃないってことだね。

ゲンタ:ねえ、どうしたらいいんだろう。

私:今日の課題はそれだ。これからの国際社会はどうあるべきか、国同士の約束はどう守らせるべきか、それを書いてみてくれ。

一同:うわ、難問!