
この記事は、ロジカルライティング講座の入門編の位置づけです。論理的思考力を養成するより前に、まずは最低限の国語力を身に着けることが目的です。
※登場するのは、難関女子校を目指す、国語が苦手な6年生女子3人組、アヤネ・ミユキ・カホ(仮名)です。
あくまで
私:みんなは「あくまで」という語句は知っているかな?
ミユキ:先生、私たちのことやっぱり馬鹿にしてるよね。もちろん知ってるにきまってるよ。
カホ:このやりとり、必要?
ミユキ:何か条件反射で。
私:それではさっそく短文作成だ。
ミユキ:「お母さんの作る料理は、あくまでおいしい」
私:ううむ。まあ合ってはいるんだが。
ミユキ:何かいけないの? お母さん、こういうととても喜んでくれるよ。
私:それはそうだろうけれど。「あくまで」はどういう意味で使ったんだ?
ミユキ:「あくまで」って、「とっても」と同じ意味でしょ?
私:決して間違っているわけではないんだけどな。
カホ:先生、あたしの文章はどうかな。「甘いお菓子ばかり食べているとあくまで太る。」
私:それはどういう意味で使った?
カホ:「あくまで」は、「必ず」って意味だよね。だから、必ず太るよって意味で使ったんだ。
私:それは違っているな。
カホ:そう? だって、ミユキの文章だって、「とっても」を「必ず」と置き換えても意味が通じるじゃない。
私:詳しく説明する前に、アヤネの文章を見てみよう。
アヤネ:「先生は、あくまで私たちの成績向上のことだけを考えて教えてくれる」
私:いい! すばらしい!
カホ:アヤネ、またいい子ぶりっこしてる。
アヤネ:わかる?
「あくまで」の使い方
私:「あくまで」は、「飽く」という言葉が語源なんだ。
カホ:ふうん。
アヤネ:「飽くことのない食欲」とか「飽くなき野望」といった表現で今でも使われていますね。
ミユキ:アヤネ、よく知ってるよね。あたしたちとは何か次元が違う。
私:漢字でわかるように、「飽く=飽きる」は、もう十分だとか、うんざりだとか、そういう意味になるね。そこから、「もう十分だと思えるまで」「とことん徹底的に」という意味に進化したんだ。だから、まず最初の意味としては、「徹底的にやり抜く」という意味で使うといいね。
ミユキ:「母はどんなに忙しくてもあくまで私のお弁当を作ってくれた。」これならどう?
私:正解! お母さんが作り続けてくれたイメージが伝わるね。
カホ:「私はあくまで中学受験に挑むつもりだ」
私:これもいい! ぜひそうしてくれ。
アヤネ:先生、「彼はあくまで私にやさしい」っていいますよね? これはどういう使い方なんですか?
私:いい質問だ。この「あくまで」の使い方は、「例外なくいつでもどんな場合でも」、という意味になるね。
アヤネ:それじゃあ、「彼はあくまで私を甘やかしてくれる」でもいいんですね。
カホ:アヤネ、その「彼」っていうのが気になるんだけど。まさか実話?
アヤネ:うん、そうだよ。あ、彼っていうのは私のパパのことね。
カホ:なるほど。アヤネのパパはアヤネに甘いんだね。ミユキのところは?
ミユキ:うちのパパはケチだよ。それにママに怒られてばかりだし。たまに猫なで声で私に話かけてくるのが嫌なんだ。
カホ:自分のパパのことそんなに悪くいっちゃだめだよ。
ミユキ:「私はあくまで自分に正直でいたい」
私:いいね! あ、内容じゃなくてあくまで例文としてね。
カホ:「あくまで例文として」の「あくまで」は、使い方が今までと違う気がする。
私:よく気が付いたね。この「あくまで」は、「限定する」「限られた状況で」といった意味で使うんだ。
カホ:「あくまでここだけの話だけど、タロウはアヤネのことが好きらしいよ」
私:そうだ、そういう使い方だ。
ミユキ:それ、ほんと?
カホ:もちろん違うよ。あくまで例文ってだけ。
アヤネ:「私たち三人は、あくまで仲の良い友人ということでいきましょう。」
ミユキ:何かその例文嫌だな。ま、あくまで私の意見だけど。
私:どうやら「あくまで」についてはほぼマスターできたようだね。
アヤネ:「あくまでも」って言いますよね? これも同じ意味ですか?
私:いいところに気が付いたね。実は全く同じ意味だ。だけど、微妙なニュアンスの違いというものはあるよ。「彼はあくまで私の味方だ」「彼はあくまでも私の味方だ」 この二つを比べるとどう感じる?
アヤネ:「彼はあくまでも私の味方だ」のほうが、彼が私の味方であるかんじが強いきがします。
私:その通り! まあそこまでこだわらなくても大丈夫だが、微妙な違いを使い分けられるようになると、国語の勉強は楽しくなってくるね。
カホ:あくまでも先生の意見だけどね。
「あくまで」「あくまでも」
別に難しい語句でもなく、普通につかわれている表現です。しかし、改めて意味や使い方を問われると、はっきりと定義するのが意外に難しいですね。
このように、見慣れた易しい表現ほど、正確に使うのが難しいものなのです。