中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【ロジカルライティング】心のバリアフリーとノーマライゼーション

例によって登場人物は麻布志望の3人組、タロウ・ワタル・ゲンタ(仮名)です。実際の生徒・授業ではなく、過去の授業を再構成したものです。

課題提出

私:みんな、前回の課題は書いてきたかな?

タロウ:課題って何だっけ?

私:「ノーマライゼーションを実現するためにやらなければならないことを具体的に書くこと」だ!

タロウ:うそうそ。ちゃんと書いてきたよ。「僕の小学校には特別学級というクラスがあります。授業が理解できなかったり心が不安定な子たちだけの特別クラスです。そうした特別学級の生徒たちと僕たちは一緒に遊ぶこともないし、話をすることもありません。それではノーマライゼーションとは言えないと思います。だから、特別学級を無くして、皆同じクラスで学べるようにするべきだと思います。」

ゲンタ:え~! そんなの無理だよ!

タロウ:どうして?

ゲンタ:だって、授業を最後まで座って聞いていられない子もいるじゃないか。それに、そういう子に先生がつきっきりになると、僕たちの授業が進まなくなるし。

ワタル:それにさ、その子たちだって特別学級のほうが過ごしやすいんじゃないかな。みんな同じクラスにって、口で言うのは簡単だけど、ほら、何っていったっけ、机の上がどうとかっていうの。

ゲンタ:机上の空論

ワタル:そうそう、それ。

ゲンタ:先生、僕の答案だめかな?

私:とてもいいと思うぞ。文章は作文みたいになっているから減点だが、内容は素晴らしい。そもそもノーマライゼーションという考え方は、デンマークの知的障害者の福祉を担当する役人だった、バンク=ミケルセンという人が1950年頃に提唱したんだ。知的障害の子どもたちが、施設で非人間的な扱いを受けていることを何とかしようと考えたんだね。

ワタル:環境とか人権とかの話って、北欧が進んでるのはなんでだろう?

私:それもおもしろいテーマだね。いつかとりあげてみよう。

ゲンタ:それでどうなったの?

私:活動の結果、法律ができたんだ。知的障害を持つ者も、一個の人格として皆と同じ権利を持っている。だから教育の機会も同じであるべきだということになったんだね。

ワタル:でもさ。実際には難しいと思うんだけど。

私:それは、社会がまだ正常な状態、つまりノーマルではないということなんだ。だからこそノーマライゼーションが必要なんだな。

ゲンタ:僕の答案はどうかな。「駅で切符を買って電車に乗って移動するという当たり前のことが難しい人たちがいる。お年寄りや外国人や子どもたちだ。だから、AIを搭載した券売機を普及させて、国籍や年齢層を瞬時に見分けて券売機のほから字を大きくしたり英語で話しかけたりするようにすれば、皆が移動の自由を得られるはずだ。」

タロウ:前回、先生が同じこと言ってたじゃないか。

ゲンタ:だって。タッチパネル式って僕たちは使い慣れているけれど、よく考えてみたら、大して使いやすくなってないなって気が付いたんだ。もうこれだけAIが発達してるんだから、機械のほうからもっと親切に僕たちに話しかけてくれればいいじゃないか。

ワタル:それじゃあ、お年寄りが前に立つと、「おじいちゃん。どこまで行きたいのですか?」とか言うの?

ゲンタ:そう! そういうかんじ。

私:自分の経験に基づいて書いたんだね。なかなか良いと思うぞ。単に切符の券売機のことを書いているだけなのに、移動の自由に結びつけたところが素晴らしい。海外で地下鉄や列車に乗るときに先生も痛感するな。現地の人は当たり前のように便利に利用しているが、海外からの観光客はそれが難しい。日本とはシステムがまるで違うからね。ああいうのも、世界共通にできないものかと思うよ。それではワタル。

ワタル:「ノーマライゼーションの実現にとって一番のバリアとなっているのは、一人一人の心の問題だ。お年寄りや障害者などを見かけたときに、面倒くさいと思ってしまったり、邪魔だと思う私たちの心の動きが問題なのだ。だから、制度を整えたりAIを活用したりするより、最初に取り組むべきなのは、教育を通じて心のバリアを取り除くことだと思う。」

タロウ:制度を変えるのが先だよ!

ゲンタ:AIを使うほうが手っ取り早いよ! あれ、先生? どうしたの?

私:今先生は感動しているんだ。よくここまで書けるようになった。やっぱり先生の教え方が良かったからなんだな、うん。

ゲンタ:何勝手に感動したり納得したりしてるのさ。これ、そんなに良い解答なの?

私:ああ。素晴らしい。問題の本質に触れているからな。

 

心のバリアフリー

タロウ:でもさ、お年寄りや障害者を見かけて、面倒くさいとか邪魔だとか思ってはいけないんじゃないの?

私:本来はな。でも、実際にはそう感じる人がたくさんいるんだよ。例えば、去年先生は足を怪我してね。

ゲンタ:ああ。松葉づえ使ってたよね。

私:スキーで無謀な上級コースにチャレンジしてね。派手に転んでひざを痛めてしまったんだ。

ゲンタ:そうだったんだ。かっこ悪!

タロウ:ほら、そうやってけが人のことを悪く言うのがそもそもダメじゃないか。

私:まあかっこう悪かったのは事実だからな。それでひと月くらい松葉づえを使っていたんだが、電車に乗っても席を譲ってくれない人がとても多いのに驚いた。譲ってくれないばかりか、優先席の方に行けばいいのに、って顔をされたよ。それで優先席の前に立ったんだが、どう見ても健康そうな若い女性が座っていたんだ。スマホを見ながらね。それで私の松葉づえに気が付いた。足音から私の顔までを見上げて、またスマホにもどったよ。

ワタル:それは酷いね。

私:そこが優先席であるということも気にならず、席を譲るという発想がそもそも無いんだろうね。もしかして外見からはわからない障害を抱えていたのかもしれないけれど、自分の降りる駅についたら、元気よく走って降りていったからなあ。

タロウ:そもそも優先席って必要なの? どの席だって、目の前にお年寄りや足の不自由そうな人とか、あと妊婦さんとかが来たら譲ればいいだけじゃないか。

私:実は、優先席が最初に導入されたときに、それは議論になったんだよ。優先席をつくることがそもそも特別扱いしていることになるってね。それで、横浜市営地下鉄では最初から優先席を作らなかった。全席が優先席だと言ったんだ。

タロウ:それそれ。それでいいんだよ。

私:でも、やがて優先席を設けることになった。

タロウ:どうして?

私:それは、誰も席を譲ってくれなかったからだ。

タロウ:ひどいね。

ワタル:みんなそこまでジコチュウなんだ。

私:みんなはちゃんと譲るよな?

一同:うっ・・・・。

私:手助けが必要な人に、ごく自然に手を差し伸べる。それが出来れば、ノーマライゼーションは実現できると思うぞ。

ゲンタ:心のバリアフリーが大事なんだね。