
各中高の募集要項や偏差値をチェックしていて気が付きます。コース制をとる学校がいくつもあるのですね。増えてきたなあ、というのが率直な印象です。
コース制をとる理由や今後について考察します。
※特定の学校を持ち上げる意図も貶める意図もありません。あくまでも私個人の感想にすぎません。ただし、主観なだけに、私の志向が反映することはご容赦ください。
◆桐蔭学園高等学校
・プログレスコース:医学部を含む難関国公立大学への進学に対応するコース
・アドバンスコース:国公立大学・早慶等難関私立大学への進学に対応するコース
・スタンダードコース:国公立大学・私立大学への進学に対応するコース
◆栄東(中学校)
・東大クラス
・難関大クラス
◆栄東(高校)
・東医クラス
・αクラス
◆広尾学園
・医進・サイエンスコース:、国内外の医系・理系大学への進学を可能にする実力を身につけながら、医師、研究者として必要なマインドを育成
・本科コース:東大、京大、一橋大、東工大や国公立・私立大学の医学部を目指します
・インターナショナルコース・アドバンストグループ:主に帰国子女などのすでに英語力のある生徒のためのグループ
・インターナショナルコース・スタンダードグループ:これからの語学力を身につけて国際的な活躍をしたいと望む生徒のためのグループ
◆三田国際科学学園
・インターナショナルサイエンスクラス
・メディカルサイエンステクノロジークラス
・インターナショナルクラス
◆淑徳中学
・スーパー特進東大選抜
・スーパー特進
◆淑徳高校
・スーパー特進東大選抜:目標 / 東大・医学部など
・スーパー特進: 難関国立大学、早慶上理など
・特進選抜:目標 / 国立大学、早慶上理、MARCHなどの難関私立大学
・留学:目標 / 難関国立大学、早慶上理などの難関私立大学
ざっと目についた学校を並べてみました。
入学試験から別な場合が大半です。
成績次第で途中でのコース変更を認める場合も多いですね。
大まかな傾向としては、以下のようなものでしょうか。
〇国際・理系・医学部、この3つのミックス
時代のニーズをとらえていますね。国をあげて理系教育に力を入れています。
今教育の世界では、「STEM教育」が大流行りです。STEMとは、Science、Technology、Engineering、Mathematicsのことだそうです。これは、子どもたちの学びを真剣に考えているというよりは、産業界からの要請によるもの、少なくとも日本はそうなのだろうというのが私の意見です。これにArtを足したSTEAM教育という言葉も聞きますね。とってつけたようにArtを付け加えた印象しかありません。
そこには、Historyもなければ、LiteratureもPhilosophyもありません。
「過去に目を閉ざす者は、現在にも盲目となる」
ヴァイツゼッカーの言葉を思い出しますね。
私は別に、理系教育を否定するつもりもありません。そもそも理系・文系という区分もどうかと思っているだけです。どれも大切じゃないですか。
とくに教養を固めるべき中高生時代に、あまりに理系にシフトしすぎた教育には反対です。
相対的に文系教養の冬の時代ですね。文系学部で博士号をとると就職ができない、そんな話すら聞く時代です。日本の行く末が心配です。
どこかの学校が、STEM教育偏重へのアンチテーゼとして「HELP教育」でも打ち立ててくれないものかな?
「HELP教育」、今私が思いついた語句です。
History、Literature、Philosophy、これにEthics(倫理)を加えてみました。EthicsにするかEthosにするかは迷いますね。アリストテレスに敬意を表してEthos Logos PathosのEthosを採用したいところですが、日本語化が難しい概念ですので、ここはシンプルにEthicsにしておきましょう。
私の勝手な言葉遊びはどうでもよいとして、「国際」も大流行りです。ただし、その中身はといえば、単なる英語教育である場合がほとんどです。英語は確かに重要なツールです。必須です。中高時代にしっかり学ぶことは当然です。しかし、それを特別な「インターナショナルクラス」や「グローバルコース」でやるべきものなのかな? 他の一般クラスは置き去りですか?
帰国生を多く集め、特別クラスを設置し、そこに英語の達者な国内生も吸収する、そうした図式が見えてきます。おそらくは海外大学実績につなげる目的なのでしょう。
〇学内の差別化
差別化には2通りあります。入試時ですでに差別化することで、特別な「学内学校」をつくるイメージの場合。最初からエリートとして養成して東大・医学部の進学実績につなげようという意図でしょう。もう一つは、生徒間の競争を煽る目的。一般コースからも成績優秀者は特別コースへ編入でき、特別コースでも成績不振者は一般コースに落とされる、そうしたしつらえです。だいたいはこの2種類のミックスのようですね。
〇競争が大好き
〇中1の段階で将来の進路が決まっている
〇エリート意識に浸りたい
こうした生徒に向くと思います。
とくに、同じ学校なのに「特別コース」に在籍するというのは、優越感をくすぐりますね。それを目標に勉強を頑張るのもよいでしょう。
ただし、「ネーミング」に騙されてはいけませんね。
「東大クラス」をもつ栄東の東大実績は2025年は12名です。「スーパー特進東大選抜」コースがある淑徳の東大実績は2名(現役1名)です。
栄東のHPには「東京大学全員現役合格!」と赤字で大書されていますが、「東大コース」に在籍していた人数は3桁です。
淑徳のHPの大学進学実績のページは、「国公立大学 80名」となっていますが、東大の文字のフォントがとても大きく太字になっているため、まるで80名の大半が東大のようなミスリードを誘います。
どちらの学校のHPも、ほとんど塾・予備校の「合格者数躍進!」というものに酷似しています。塾屋の私にとっては馴染み深いものですが、「学校」がそれなのはどうかと思います。私はもっと学校には「奥ゆかしさ」があってもよいと思っていますので。
塾の世界でよくみかけるのは、このようなコース編成・ネーミングですね。
・男女御三家コース
・開成・筑駒特進コース
・早慶特訓クラス
・国立選抜クラス
こんなかんじのコース、多くの塾が設置していますが、それでいて実際には開成や筑駒に合格がほとんど出ていなかったりするのです。
塾の世界では、少しでも塾のレベルを高く見せるため、そして他塾の優秀層を引き抜くため、さらに生徒をその気にさせる目的でこのようなコース名をつくります。
筑駒への合格実績がほぼゼロの塾が、「筑駒判定模試」を実施したり「筑駒特訓講座」を開いたりする、厚顔無恥な世界です。
わかりました。私がこうした「コース編成」が嫌いなのは、私が塾屋だからなのですね。学校にはもっと高邁な教育の理想を追求してほしいという、幻想を抱いているからなのでしょう。
※こんな本を出版しました。
