中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

女子大多難の時代 武庫川女子大共学化

先日(2025.6.17)のニュースに驚いた方も多いでしょう。私もその一人です。

武庫川女子大が共学化するというニュースです。

今回は、そのことについて少し考察します。

武庫川女子大

首都圏から見ると、馴染みのない女子大かもしれません。場所は大阪と神戸の間、甲子園の隣駅のあたりで、大阪・神戸から30分程度で通学できる立地です。

 

2023年の女子大志願者数ランキングはこうなっています。

1 昭和女子大学

2 日本女子大学

3 武庫川女子大学

4 東京女子大学

5 同志社女子大学

6 共立女子大学

7 京都女子大学

8 椙山女学園大学

9 大妻女子大学

10 津田塾大学

11 東京家政大学

12 金城学院大学

13 実践女子大学

 

志願者ランキングは、当然募集定員によりますので、単純な比較は難しいのですが、こんな順位となっています。

東の女子大御三家(古い言い方ですね)といわれた、日本女子大・東京女子大・津田塾大学と比べると、武庫川女子の関西における人気のほどがうかがえると思います。

ついでに、他の主要校の順位も出しておきます。

 

19 跡見学園女子大学

20 お茶の水女子大学

21 学習院女子大学(2026学習院大と統合)

28 フェリス女学院大学

31 白百合女子大学

33 聖心女子大学

 

学校のイメージについては、主観的でもあり、その地域に住んでいないと全くわかりませんので、学校HPに紹介されていたアンケートをそのまま転載します。リクルートが実施した、「カレッジマネジメント」170号の「特集 高校生から見た大学イメージはどう変化したか」からの抜粋だそうです。

 

関西地区の高校3年生女子を対象にしたイメージ調査における武庫川女子大学の順位

  ※ パーセントは、当該イメージを抱いている女子高生の割合。4人に1人は『上品な』イメージを抱いていることになります。


『上品な』        24.6%  全国1位(前年度:16位)
『親しみやすい』      9.6%  全国4位(同65位)
『キャンパスがきれい』 18.4%  全国5位(同26位)
『おしゃれな』      19.3%  全国5位(同22位)
『明るい』        12.3%  全国6位(同14位)
『自由な』        11.4%  全国7位(同35位)
『入試方法が自分にあってる』  4.4%  全国7位(同22位)
『資格取得に有利』        12.3%  全国8位(同28位)
『校風や雰囲気が良い』     14.0%  全国12位(同16位)
『クラブ・サークル活動が盛ん』    7.0%  全国12位(同31位)
『交通の便が良い』           7.0%  全国12位(同12位)
『教育方針・カリキュラムが魅力的』 6.1%  全国13位(同32位)
『教養が身に付く』           11.4%  全国13位(同32位)
『周囲の人からの評判が良い』    14.0%  全国14位(同27位)

 

なるほど。学校のHPですので悪い評判を出すはずもありませんが、なかなかの好印象のようですね。

 

関西出身の知人に聞くと、「マンモス女子大」「良くも悪くもない印象」「中堅女子大」「入ると安心というイメージ」「お嬢様学校」「最近勢いを感じる女子大学」などなど、多様な答が返ってきました。これはある意味当然ですね。大学を簡単にレッテルで区分できるはずもありませんから。

 私個人の印象としては、8割が内部進学する武庫川女子大附属中高のイメージが影響している側面もあるのかなと思います。

 

いずれにしても「安泰」と思われていた武庫川女子大の共学化には驚愕しました。(すいません、言わずにはいられなくて)

 

実は、私はこの大学を訪問する機会があったのですが、まじめそうで明るい生徒達が多い好印象を持っていました。1930年代から40年代にかけて、イギリスの教育を範として、高校→中学→大学 の順で設立されました。

時代背景を考えれば、苦難のスタートであったことは容易に想像できます。生きていくのがやっと、いやそれもままならない時代に、未来を見据えた教育に力を注ぐ先人がいたことに敬服します。それが「伝統校」の強みだと思います。

立学の精神は、「平和的な国家及び社会の形成者として、高い知性と善美な情操と高雅な徳性とを兼ね 具えた有為な女性を育成する」とあります。

まさに、戦争の時代だったからこそ抱き得た理想だったのですね。

それが、まさかの共学化です。

2027年からの共学化を発表したのが、2025年6/17でした。

つまり、学校の理念に共感し、「武庫川女子大」に入学した生徒たちが、まだ在学中に共学化するという暴挙です。

共学化することを知らないで入学した生徒たちが卒業するまで待つのが最低限の常識だと思っていたのですが、別に法令違反ということではないそうです。

共学化反対署名が5万筆集まったと聞きました。今後訴訟の可能性も大いにありますね。

 

ここまで思い切った変革に踏み切ったということは、生徒募集や経営状況に問題があったのでしょうか?

調べてみても、現状は問題は無さそうです。しかし社会情勢の変化に鑑み、先手を打ったということなのでしょう。

 

これは、2023年に閉じた「恵泉女学園大学」とは状況が異なります。

恵泉の場合は、立地が悪く(多摩丘陵の奥、多摩センター駅からバス。周囲は里山が隣接)、学部も少なく(人文学部・人間社会学部の2つ)、入学者が減少し続けていた、という状況でした。実際に訪れてみると、自然豊かな環境で、好印象ではあったのですが、たまに訪れる分にはそれで良くても、毎日通学するのは大変だったのでしょう。

それにひきかえ、武庫川女子大は、12学部20学科で学生数1万人以上という規模でしたので。

 

女子大は時代遅れか?

 

私はそうは思いません。

女子大であるかないかによらず、時代遅れの大学はあると思いますが、それは女子大だからという属性で語るべきことではありません。

確固たる理念にもとづく魅力ある教育を実践し続けることが大切なのであって、それが女子大であるか共学であるかとは別次元の問題だと思います。

良い教育を追求し続ける女子大は存続してほしいと思いますし、きちんとした教育環境が無い大学は共学でも残る必要はないと思います。

また、大学は教育機関であると同時に研究機関の役割を担っています。その両軸をしっかりと回すのであれば、それは女子大かどうかということとは無関係でしょう。

そうしたことを前提として、選択肢の多様性はあったほうがよい、と思うのです。

 

「今時女子大は時代遅れ」「女子大の存在はジェンダーを増長する」

そのように、「女子大は〇〇だ」というくくりで論評する方のほうが、ジェンダーに囚われている、というのが私の意見です。

 

この考え方は、中高一貫校の共学・別学の論争にも共通すると思っています。

 

女子大学宣言

7月1日に、京都女子大はHPに「女子大学宣言」を公開しました。

www.kyoto-wu.ac.jp

京都女子大学は、創立以来の建学の精神に基づき、女子大学であり続けることをここに宣言します。
女子大学という環境だからこそ、性差にとらわれることなく、一人ひとりが対等な関係の中で学び合い、自立した"人"として成長することを可能にします。

・・・・・・

女子大学として社会の変革に挑戦する"人"を育成し続けることをここに宣言します。

学長名で発表されたこの宣言、どれだけ在校生や受験生に安心感を与えたことでしょう。

関西では4月にもノートルダム女子大が2026以降の学生募集を停止することを発表したばかりでしたから。

 

とかく世間の風潮としては、「変わること」「新しいこと」「変革すること」ばかりが求められもてはやされるように思います。

しかし、「変わらないこと」もまた、教育には重要ではないかと思っています。