
今さらながらの話題ですが、公立高校の併願解禁が進みそうです。今回は、それが中学受験にどう影響するのか、そちら側の視点から考えてみます。
そもそも
ご両親とも私立中高一貫校出身で、お子さんも中学受験を前提としている場合、公立高校受験事情には詳しくないかもしれません。
公立高校は、1校しか出願できないのです。
このことが、以下のような「弊害」を生み出していました。
◆生徒が安全志向になる
一部地域(東京・大阪)を除き、私立高校の授業料は高額です。やっと国も動きだしていますが、まだまだ支援策は不十分です。そもそも所得制限をなくした学費補助政策には、「金持ちは放っておけ」といったやっかみからくる批判も大きいのです。
家庭の経済状態により、最初から公立高校の進学一択である生徒も大勢います。こうした生徒は、公立高校入試で不合格になるわけにはいきませんので、安全志向になることは容易に想像できますね。チャレンジ校は言うに及ばず、本来の学力の実力適正校をも回避して、「落ちるはずのない」レベルの公立高校を受験する、そうした傾向があります。
また、学校の指導も、安全志向に走り勝ちです。
◆内申が重視される
1校しか受験できないのであれば、当日の受験の失敗をカバーできるように、内申点を上げておく必要があります。ご存じのように、内申点は定期試験の成績だけでは決まらない「曖昧」で「主観的」な評価です。そのため、内申点を上げることは生徒の学校生活にある種のプレッシャーを与えることになるのです。
政府の方針転換
まずは、4/25の阿部文部科学大臣の記者会見の発表を見てみましょう。
記者)
公立高校のデジタル併願制について伺います。現在、多くの都道府県の公立高受験で採用されている単願制を見直し、デジタル併願制の導入を検討するよう石破首相から指示があったかと思いますが、文部科学省の大臣としてはどうするのか、スケジュールも含め、今後の対応と実施にあたっての課題について教えてください。
大臣)
22日に開催されました「デジタル行財政改革会議」では、公立高校入試におきまして一人の生徒が一つの公立高校に出願をするいわゆる「単願制」、この課題とこの解消策の提案を踏まえまして石破総理より、平デジタル担当大臣とともに「生徒の希望する進学につながることのメリット、また現場の課題を丁寧に考慮し、希望する自治体での事例の創出の具体化を図」るよう御指示がございました。公立高校の入学者選抜の実施方法等は、実施者であるところの各都道府県教育委員会等が決定するものでございますが、デジタル技術を活用した併願制につきましてもメリットが考えられる一方で、生徒の多様な個性と能力が十分に評価されるか、また学校の特色・魅力が損なわれないか、地域人材を育成する専門高校に影響がないかなどの課題も想定されるところでございます。文部科学省としては、メリットや課題について整理をしつつ、高校教育の質向上につながりますよう、自治体・高校関係者の意見もよくお伺いして、また関係省庁とも十分に連携の上、丁寧に検討してまいります。以上でございます。
いつも思うことですが、頭の良いはずの政治家の方や官僚の方って、どうしてこんなにもわかりづらい言語を駆使するのでしょうか。私の頭では、何がいいたいのかよくわかりません。デジタル併願性について検討する、ということでいいのでしょうか?
さらに会見は続きます。
記者)
冒頭でもデジタル併願制の話が出ていましたけれども、大臣御自身はデジタル併願制についてどのようにお考えか、お聞かせください。
大臣)
先ほども申し上げましたように、公立高校の入学者選抜のデジタル化と単願制の二つの観点が私はあるというふうに考えておりまして、個人的な見解でございますが、デジタル化につきましては入学志願者の利便性の向上、また実施者、教職員の負担軽減に資する観点から、入学者選抜の出願方法等のデジタル化を積極的に進めていくことが必要というふうに考えています。その上で、いわゆる単願制につきましてもこれまでも受験の機会の複数化、選抜方法の多様化の配慮を各教育委員会に求めてきたところでございますが、地域の実情等に応じて様々なメリットや課題があるというふうに考えているところでございます。このため、今回の総理からの御指示も受けまして希望する自治体での事例創出に向けまして、デジタル庁と連携しながら各自治体、また高校関係者の方々とも意思疎通を図っていきたいというふうに考えているところでございます。
とりあえず、併願に向けて動きだした、ということでいいですよね?
もし実現すると、受験生には多大なメリットがあると思います。
それは、選択の幅が広がる、これですね。
そもそも1校しか出願できないほうがおかしかったのです。やっとそこが是正される、これは朗報だと思います。
しかし、信じられないことに、批判の声もあるのですね。
「格差が拡大する」、ということだそうです。
今までは、学力相応かそれ以下の都立高校を志願していた生徒が、より高いレベルの高校も受験するようになる。そのため、高校間格差が拡大する、そうした論調でした。
意味がわかりません。前提が間違っています。
格差は否定すべきものだ、という前提です。
そもそも入学試験という制度が、生徒間の学力差を前提としています。したがって、高校によって学力格差が生じるのは必然です。
校風の異なる日比谷と西を併願する生徒が出てくる、という批判も見かけました。
それのどこが問題なのか、これも理解できません。
西の自由な校風が好きな生徒は日比谷を志願してはいけない、ということなのでしょうか?
受験に関する事務作業が膨大になるという指摘もあります。だからデジタル化とワンセットで論議されているようですね。 共通テストを実施し、その得点に応じて生徒の志望順位にしたがって学校を割り振る、そうしたシステムを考えているようです。
極めて合理的ですが、問題があります。偏差値30以下の生徒と60以上の生徒の学力を公平に測定できるテストが困難だという問題です。現状の都立高校の入試問題は、中堅・下位層を対象としたものになっています。だからこそ、トップ校は自校作成問題を組み合わせているのですね。
もし本気で改革するのなら、内申点を廃止し、テスト問題の見直しが必要でしょう。そこまでの改革は意図していないと思います。
中学入試のさっぱりとした一発勝負の世界に住んでいると、どうも公立高校の入試は謎が多すぎます。
私見ですが、ますます高校受験回避→中学受験へ流れる生徒が増えるような気がしますね。
考えてみれば、都立高校の入試はここ60年程度で大きく変更されてきました。
1950年代 学区合同選抜制
1960年代から80年代 学校群制度
1980年代 グループ総合選抜
1990年代 単願制
私に言わせると、ここに都立高校(公立高校)の問題点が顕在化しています。
これらの改革は、生徒の側に立っていないのです。全て「上から」の発想ですね。
こんなものに振り回される受験生がかわいそうでなりません。
じつは、都立日比谷高校について調べていて、気づいたことがあるのです。
もともと都立高校のHPが魅力的でないことは承知しています。どの学校も決まったテンプレートにそって作られているため、学校の個性や魅力が伝わってこない作りなのですね。私学のHPを見慣れた目からすると驚きです。
今回、日比谷高校の募集要項や試験概要を確認しようとしたのですが、その項目を1・2回クリックしただけで、「東京都教育委員会」のページに飛ばされ、必要な情報は得られませんでした。私が知りたいのは「日比谷高校」の情報であって、都立高校の一覧情報ではないのです。
このあたりに、本質的な問題が潜んでいると思います。
それぞれの学校が「〇〇高校」ならではの理念に基づく教育を競い合っているのではなく、東京都に在住の公立中学校の生徒を、まんべんなく各都立高校に収容することを目的としているのでしょう。
ここが根本的に改善しない限り、問題は解決しないと思います。
今回の「改革」が、はたしてどうなるのか。学校群制度の悪夢の再現とならないとよいのですが。