中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【国語力向上】ロジカルライティング入門編 短文作成講座その1

今回から新シリーズ?をスタートします。

名付けて「ロジカルライティング入門編 短文作成講座」です。

※登場するのは、難関女子校を目指す、国語が苦手な6年生女子3人組、アヤネ・ミユキ・カホ(仮名)です。

ミユキ:先生、この前の模試で、あたし国語の偏差値が30だったんだよ。

私:それはひどいね。

カホ:あ、あたしも。まったくできなかった。アヤネは?

アヤネ:そんなでもなかったけど。40くらい。

カホ:凄いじゃない!

私:偏差値40は凄くないから。

ミユキ:ねえ、どうやったら国語が得意になるかな? お母さんは本を読めっていうんだけど。

私:今から本を読んでも間に合わないだろうな。

カホ:これじゃあどこも受からないよ。

私:よし。それじゃあ今日から、国語の得点力向上スペシャル講座を始めるとするか。名付けて、「短文作成特訓」だ。

一同:よろしくお願いします。

 

一念発起

私:みんなは「一念発起」という熟語は知ってるかな?

ミユキ:先生、私たちのこと馬鹿にしてない? いくらなんでも知ってるよ。

私:どういう意味だ?

ミユキ:なんか、今からがんばるぞってかんじ。

カホ:思い切ってはじめようかなという意味じゃないかな。

私:だいたいわかってはいるようだな。それじゃあ、「一念発起」を使った短文を作成しくれ。長さは長くても短くてもいいけれど、必ず1文で書くんだぞ。

ミユキ:あたし作文苦手なんだよね。

私:文句を言わない!

アヤネ:できました。「私は一念発起して国語の勉強を始めた。」

ミユキ:さすがアヤネ!

私:うん。〇だな。

ミユキ:「私はタロウ君に告白するのに一念発起した。」

私:う~ん。△。

ミユキ:どうして?

私:「一念発起」は、「一念発起して〇〇した。」という使い方をしてほしいんだ。そういう文に直してごらん。

ミユキ:「私は一念発起してタロウ君に告白した。」

私:そうだ、それなら〇だな。あるいは、「私は、太郎君に告白するために一念発起して彼の家に行った。」でもいいね。

カホ:「私は一念発起してバレンタインのチョコレートを手作りした。」

私:〇だ。ちょっと聞くけど、カホはお菓子作りは得意なのかな?

カホ:うん、けっこう得意かも。

ミユキ:結構なんてレベルじゃないよ。カホがつくるお菓子、もうお店で売れるレベルだから。

私:そうか。そうすると、さっきの文は、△になるな。

カホ:え~! なんで?

私:一念発起という言葉には、強い決心の意味が込められているからだよ。自分が苦手だったことに思い切ってチャレンジするとか、新しいことを始めようとするとか、そういう時に使う熟語なんだね。

カホ:それじゃあこう変えたらどうかな?「私は一念発起してワタル君に渡すバレンタインのチョコレートを手作りした。」

私:ちょっと聞くが、ワタル君と君はどういう関係なんだ?

カホ:関係っていうか、まだ無関係。でもこれから関係したいって思ってる。

私:それなら〇! もしカホとワタル君が幼馴染で仲良しだったら、「一念発起」の使い方としては間違ったことになる。でも、思い切って彼に告白しよう! という決意があるのなら、まさに「一念発起」は適切な使い方だね。

一念発起の意味

ミユキ:実は今だから白状するけど、この前のテストで、私「一念発起」を「一年発起」って書いて✘になった。

私:ああ、よくそこは間違えるんだよね。

ミユキ:もともとどういう意味なの?

私:もともとこの言葉は仏教の言葉なんだ。「華厳経」という仏典に、「一念発起菩提心ぼだいしん(ぼだいしん)」と書かれている。意味は、仏に身も心も捧げ絶対的に従うという決意をして、悟りに向かう心を起こす、ということなんだ。だから、そうとうに強い決意を込めた表現なんだね。

アヤネ:先生、華厳の滝って、華厳経と関係があるんですか?

私:そうだね。滝を発見したお坊さんが、華厳経から名付けたとも、近くにあった華厳寺の名をとったともいわれているよ。

アヤネ:英語でも同じ意味の言葉ってあるの?

私:もちろんあるよ。「make up my mind」という表現が一番近いかな。

アヤネ:make upってお化粧するって意味だと思ってた。

私:化粧っていう意味の単語は「makeup」だから、「化粧する」だったら、「put on make up」とかになるんじゃないかな。まあmake upは、作りあげる、作り話をする、ごまかすなんて意味だと思っておけばいいよ。

カホ:まさに化粧でごまかすんだね。

私:例文をあげてみようか。「I made up my mind to start dieting so I could wear a swimsuit in the summer.」意味はなんとなくわかるかな?

アヤネ:swimsuit って何?

私:水着。dietingはダイエット。

アヤネ:そうすると、私は一年発起してダイエットをスタートした、夏に水着を着たいから、で合ってる?

私:いいね! アヤネは英語ができるんだね。

アヤネ:学校で少しはやってるし。あと去年までは英会話も少しやってたから。

カホ:日本語で一念発起っていうと仏教が関係してて、英語だと化粧の親戚の表現だなんておもしろいね。

私:ところで気になってたんだが、ミユキが告白する相手のタロウ君と、カホがチョコレートを渡す相手のワタル君って、もしかしてうちの教室に来てる彼らのことか?

ミユキ:そうだよ。

カホ:うん。

アヤネ:青春だね!

 

短文作成の効果

 短文作成の練習は、国語力向上に実に効果的なのです。

例にあげた「make up my mind」という表現について、「決心する」という意味だと覚えていても、それだけでは使い物になりません。この表現を使った短文作成ができるようになれば、もう表現を使いこなせるようになったといえるでしょう。

日本語も同様です。なまじっか「普段使っている日本語」なだけに、何となく意味がわかればそれだけで満足というかスルーしがちなのですね。でもその語彙を用いた短文がすぐに作れるようでなければ、語彙をマスターしたとはいえません。

 国語が苦手な生徒の多くは、「何となく文章の意味はわかってるんだけど、どう書いたらよいのかわからない」状態で止まっています。短文作成の量を積み重ねることで、語彙力の向上ばかりか、文章作成能力の向上も見込めます。

お薦めというより、王道の国語学習法なのです。