中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学受験】一強塾でなければだめなのだろうか

世の中には、「一強」とよべるものがありますね。

そこを選んでおけば安心ということです。例えば、自動車についても、本田もマツダも日産も、良いメーカーはたくさんありますよね。でもトヨタを選んでおけば安心といったかんじかな?

中学受験ではSAPIX

 中学受験、それも最難関校を目指すなら、サピックスが最強なのは誰しもが認めるところでしょう。教材や授業体系が難関校に向いており、そこに優秀な生徒が集まります。また、優秀な生徒を教えている教師も指導力が上がります。好循環が続いているのでしょう。

 それでは、他の塾ではダメなのか?

 もちろんそんなことはありません。小規模塾から大規模塾まで、集団指導塾から個別指導塾まで、各塾は工夫をこらして「優秀な生徒」の獲得に力を入れていますね。

 しかし、この力の入れる方向性が問題なのです。

 生徒獲得に注力するということは、あきらかに力を入れる方向が間違っています。集まった生徒を育てることに全力をあげるべきです。

・無料講座

・無料テスト

・特待生制度

こうしたものを「充実」させているようでは、当面SAPIXの優位性は覆らないと思います。サピックスにはこうした「無料」のものはありませんので。

 ただし、一部小規模塾には可能性を感じます。生徒と教師の距離が近いことには大きなメリットがあるからです。 それこそ、生徒のご家庭の状況まで把握して指導するような塾はいいですね。 コロナ以降消えた風習ですが、かつて中学入学試験会場で入試当日の早朝激励が慣例化していたころ、試験を受けにくる生徒一人一人の名前を呼んで激励している先生も見かけました。下げている鞄のロゴデザインや胸につけたバッジで自塾の生徒かどうかを判別している塾とは違いますね。

 

もっとも首都圏では無敵のサピックスといえども、関西では事情が異なります。浜学園が一強塾ですね。1992年に浜学園から希学園が分裂したころには希学園にも勢いを感じましたが、首都圏に進出したあたりから失速したような印象があります。

 

高校受験は早稲田アカデミー?

 実は高校受験の世界は一強と呼べるような塾はありません。

筑駒・開成高校の合格者数だけを見るのなら、早稲田アカデミーがダントツです。かつてはサピックス中学部と早稲田アカデミーが熾烈なデッドヒートを演じていたのですが、いつのまにやら完全に勝敗がつきました。

ところで、中学受験のサピックス小学部と高校受験のサピックス中学部は、もともとは別法人、人材交流もない、まったく別の塾と考えたほうがよい塾でした。TAPから分裂したときにそうしたようですね。しかし代ゼミの傘下になる際に、同一法人別ブランドとなったようです。

 小学部の躍進と中学部の衰退をみるにつけ、中学受験と高校受験は方法論が異なるのだなと考えさせられますね。

 

 さて、高校受験は需要に大きな差があるのです。

(1)開成高校・筑駒高校を目指す層

(2)早慶附属をめざす層

(3)GMARCH附属をめざす層

(4)最難関都立高校(県立高校)を目指す層

(5)都立・県立高校のどこかに入りたい層

 

(1)は特殊です。 この層と日比谷高校を目指す(4)の一部の層は重なります。

(2)と(3)は重なります。なんとしても大学受験を回避したい層ですね。

そして(4)の一部と(5)がいちばんのマジョリティでしょう。

この層は、中学校の内申を上げることがとても重要です。「区立〇〇中学校期末テスト対策」といった地元密着型の塾が活躍します。

 中学生は帰宅時間も遅くなりますし、ご近所塾が一番選ばれると思うのです。

どんなに評判の良い塾であったとしても、自宅最寄り駅に教室がなければ選ばれません。もしかしてサピックスが早稲田アカデミーに負けたのはそれが原因かもしれません。

高校受験塾は、いわばモザイク模様のような様相を呈しています。したがってどこかの塾が一強ということはないと思います。

 

大学受験は鉄緑会

かつては大学受験といえば、予備校の独壇場でした。とくに東京では駿台が強かったですね。早慶大合格レベルの学力では、駿台の入校試験に合格できないとまでいわれていたほどです。代ゼミは私大文系のイメージでした。河合塾は駿台の後追いのイメージだったと思います。

しかし、時代は完全に変わりました。

予備校スタイルの大規模教室指導は廃れました。

今は、大手予備校は配信系の教室にシフトしています。

そのかわり、鉄緑会やSEGといった中高一貫校生専門塾が台頭しました。

こと東大については、鉄緑会が一強であることは間違いありません。

鉄緑会のトップの地位は盤石のようにも思えるのですが、その地位が低下するとしたら、以下のような流れでしょうか。

◆大学入試の多様化・・・すでに私大の入試は多様化しています。東大入試にもその流れを感じます。AO入試・推薦入試が拡大すればするほど、鉄緑会のような塾の必要性が薄れると思います。ただし、AO入試・推薦入試では入学してくる学生の学力が担保されないという問題がありますね。このあたりが解消すると、状況は大きく変わるような気がします。

◆新興校の勃興・・・学校が生徒の大学受験指導に力を入れてきています。いわゆる「予備校化」というやつですね。すでに日々の補習授業や夏休みの特別講習などを実施している学校もあります。せっかく苦労して入学し、高い授業料を払っているのです。誰だって、そのうえさらに遠くの塾にまでわざわざ通いたくはありません。塾に行かなくてすめばそれに越したことはないに決まっています。