算数・国語と書きましたから、社会科についても書かなくてはならないでしょうね。
社会を教える困難さ
「先生、俺、こんど社会科のアルバイト講師に応募しようと思って」
「君が? また大胆だな。ダイヤモンドヘッドが噴火しなければいいが」
「ひどいなあ。ところでダイヤモンドヘッドって火山なの?」
「最後に噴火したのは30万年前だけどな。行くとわかるが、典型的なクレーターだぞ」
「そうなんだ。ハワイって行ったことないからさ」
「旅行は行かないのか?」
「だって、小学生のときは中学受験で忙しかったし、中高生のときは部活と塾で忙しかったから。修学旅行で日光と広島と京都と奈良には行ったけど。あ、あとは沖縄にも行った。父親が沖縄大好きだったから、3回は行ったね。それくらいかな」
「そうか。最近の学生は忙しいからな」
「先生はいろんなところに行ってるよね。授業でよく話してくれたじゃない。ドイツで山盛りソーセージが出てきてびっくりした話とか、ロンドンでフィッシュアンドチップスばかり食べてた話とか、パリでラーメンを食べた話とか、あとシンガポールチキンライスの話とか」
「食べ物の話ばかりだな。それにしてもよく覚えてたな」
「だって、おもしろかったから。それで、どうせ塾の先生のバイトするなら、国語か社会にしようと思ったんだけど、どうも国語は自信がないから、社会科にしたんだ」
「それはいいが、社会科は大変だぞ」
「どうして?」
「君は、大学入試は何を選択した?」
「世界史と日本史」
「そうか。地理はどうだ?」
「全くやってない。あ、政経と倫理もね」
「ううむ。中学入試の社会は、それ全部が範囲だからな」
「知ってる。よくやったよね、俺たち」
「他人事みたいに言うな。今度は君がそれを全部教えなくてはならないんだからな」
「うわあ。よく考えたら、無理かも」
「無理ではないが、大変だな。まあ予習をがんばるしかないだろう」
「どうすればいいの?」
「とにかく、あらゆることを調べまくる。それだけだ」
「調べるって何を?」
「何もかもだ。たとえば沖縄について授業することになったとしよう。君は行ったことがあるから、いろいろ話すネタはあるはずだな?」
「まあ、沖縄そばの味くらいは話せるよ」
「ヤギ汁は食べたかな?」
「食べてないよ。何か不穏な響きの料理だね」
「ヤギ汁は癖があるからな。でも新鮮なヤギ肉の刺身は美味い」
「ほら、そういうところだよ。先生、いろんなところに行っていろんな物食べてるじゃないか。だから授業がおもしろかったんだよ」
「実際に足を運ぶのが一番なんだけど、そうもいかないからな。それに歴史だったら、実際に行くのは不可能じゃないか。タイムマシンを使わない限り。だから、社会科の授業をよくするコツは、とにかく調べるしかない。」
「それだけでいいの?」
「そうだ。地理の授業なら、その土地に行ったことがある気がしてくるほど調べるんだ。歴史の授業なら、その時代の人になった気がするまで調べるんだ。」
「それならおもしろそうだね」
「合格!」
「なにが?」
「君は社会科の先生になっていい」
「やった! でもなんで?」
「今君は、調べることがおもしろそうだって言っただろ? それこそが、社会科の先生に一番必要な資質なんだ。好奇心ってやつだな。それがあれば、それこそ近所のスーパーで買い物しているだけでも、授業のネタがいくらでも見つかるぞ」
「少し自信がわいてきたよ」
「がんばりなさい」
社会科は大人が一番教えやすい教科
社会科は、文字通り「社会とのかかわり」を学ぶ教科です。今わたしたちがどんな社会に暮らしているのか、どうやってここまで来たのか、そして社会の仕組みはどうなっているのか。地理・歴史・公民を学ぶのはそういうことなのです。
だから、実際に社会で活躍している大人にとって、もっとも教えやすい教科といえます。
しかし、「どうも社会は教える自信がない」と言う方も多いですね。その理由を聞くと、「知識が無いから」とみな答えます。
それはそうでしょう。辛亥革命を知らなくても仕事はできますし、荒神谷遺跡がどんな遺跡かなんて、生きていくうえでは役にたちません。中学受験で網羅されているような知識は、普通の大人は知らなくて当然です。
でも、しょせん知識は知識にすぎません。
その日学ぶ項目を、その場で教材を見ながら説明することなど簡単です。
世間の大半の塾で社会科が軽視されているのは、それが理由です。
基本的な知識を覚えさせるだけなら、誰にでも教えることはできると思います。
しかし、それだけではつまらない。
しかも、それだけでは通用しない学校も多数あります。
我々プロは、どんなつまらない内容でも、生徒の好奇心をかきたてるような授業をすることができますが、家庭では難しいでしょう。
そこでお薦めなのが、「親子で一緒に調べながら学ぶ」スタイルです。
例えば、「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼,造船,石炭産業」という世界遺産がありますね。各地に点在した遺産を総合して登録したのですが、九州に多く集まっています。なぜ九州に多いのか? この疑問を親子で解消してみるのです。
「やっぱり八幡製鉄所があるからじゃないかな?」
「ちょっと待って。今調べてみたら、八幡製鉄所よりも古いものばかりだよ」
「なんで九州なんだろう? 田舎なのに」
「でも、江戸時代には、長崎から西洋文化が入ってきたのだから、新しい技術文明も長崎から入ってきたのかもしれないよ」
「ああ、グラバー邸も遺産に入っているな。ちょっと調べてみようか」
こんな学習、楽しくないわけがありませんね。
※実はこの問題、過去に中学入試で出題されました。
問:2015年に正式に世界文化遺産になった「明治日本の産業革命遺産」の登録地を含む県は8県にわたっており、23遺産が含まれている。
その8県の多くが九州地方に集中している理由を、以下の語句ならびに国(日本以外)や資源の名称を必ず含めて簡単に説明しなさい。
使用語句:八幡製鉄所
模範解答:八幡製鉄所で使用する石炭や鉄鉱石を中国から輸入していたため。
見た瞬間にわかりますが、完璧に間違っている問題と解答です。しかも、これは出題した学校の先生が作った模範解答です。
武士の情けとして学校名は出しませんが、ひどすぎますね。それについては以下の記事に詳しく書きました。