私は、普段はなるべく「中学受験の世界」を書いた本は読まないことにしています。
せっかくの「読書」が仕事と直結してしまいますので。
それでもいくつか読んだ本の中から、興味深かった本を紹介します。
辛酸なめ子の著書
この方は、漫画家&コラムニスト、というくくりでいいのでしょうか。
インパクトのあり過ぎるペンネームです。この方の漫画は見たことがないのですが、著書は何冊か読みました。
実は、この人は「女子学院」出身です。そこから美大に進んだという経歴の持ち主です。
いかにも「女子学院」らしいですね。JGといえば、多才な分野の卒業生がいることでも知られています。
現総理夫人もそうですし、政治・経済・学術分野にもたくさんいますが、芸術分野にも秀でた人がたくさんいます。
私が最近気に入っている「羊文学」のリードボーカル&ギターの方もJG出身です。おもしろいサウンドだけど、メジャーにはなれないだろうなあ、と思ったのは数年前ですが、今や武道館ですから。
デビューアルバムの写真、見る人が見ればJGの制服とわかります。
話を本に戻します。
この方も、女子校関連の著作が多いのですが、1冊ということなら、こちらをお薦めします。
女子学院以外にも、東京女学館・雙葉・東洋英和・普連土・桜蔭など多数の女子校が登場するので、いわば女子校総覧のような趣のエッセイです。
最近、女子校→共学化する学校も増えていますが、女子校には女子校ならではの魅力があると思います。選択の自由が増えることは歓迎ですが、減るのは嫌ですね。
女子校の魅力を語るなら、出身者でないとダメでしょう。
この方の視点は、なにか「ちょうどいい」のです。
自虐的でもあり、女子校に対する愛もあり、それでいて面白いエピソードをつなぐ筆力もあり。私は好きですね。
おおたとしまさの著書
この方は、教育ジャーナリストですね。中学受験を中心に、実に多くの著書があります。もしかしてみなさんも1冊くらいは読んでいるかもしれません。
この方は、麻布中高出身です。したがって、伝統男子校に好意的なトーンの記述が多い印象があります。しかし、やはり出身者でなければわからない魅力をきちんと伝えてくれていると思います。また、相当取材をしている様子がうかがえますので、書いてある内容は読みやすくためになるのでは?
最近メディアに取り上げられることが多いのは、新興校ばかりです。広報戦略に長けていることも大きいでしょうし、何より新しい施設、新しい教育が魅力的だからです。
何となく、伝統校・名門校という語句には、古臭いイメージが付きまとうのかもしれません。この本は、改めて名門校の魅力を再認識させてくれるでしょう。
お子さんがもし伝統校を考えているなら、この本はお薦めです。前へ進む自信を与えてくれるかもしれません。
こちらは、受験生向きというよりは、むしろ私のような職業向きかもしれません。もっとも書かれてある内容は、私にとっては「常識」の範囲に属する話ですので、むしろ受験生保護者向きなのかな?
たしかに、サピックス→難関私立(国立)中高&鉄緑会→東大、このルートがいわば「エリート」の王道になりつつありますから。
しかし、この方は「いい所」を突いてきますね。受験生の保護者が何となく気になるところを記事・本にしています。そうした嗅覚に優れた方だと思います。
中学受験をテーマとした小説
何冊か紹介しますが、あくまでもフィクションですから、肩ひじ張らずに気軽に読みましょう。こうした小説の常として、描かれる内容はパターン化します。
・がんばっている子ども
・教育熱心(過ぎる)な親
・強烈な塾
だいたいがこの3点セットですね。そしてラストは、プチハッピーエンドといったところでしょうか。
もしかして、描かれている親子と自分たちを比べて、自分たち親子がいかに「普通」か安心するかもしれません。そういう目的でもよいと思います。
◆「翼の翼」 朝比奈あすか
この方は、ご自身も子どもの中学受験を経験しているようですね。
「君たちは今が世界」は、開成や海城で出題されていました。
「翼の翼」は、もう思いっきり中学受験がテーマです。正直、読んでいてしんどいですね。ただ、保護者のみなさんは共感するかもしれません。
主人公の「翼」の、小2からの受験生活が描かれています。この子の両親の言動が、私には今一つ納得できませんでしたが、皆さんはどう思われるかな?
◆「君の鐘が鳴る」尾崎 英子
この本は、生徒に教えてもらいました。小学5・6年生の塾生活の様子が子ども目線で書かれています。どうやら、思い切り感情移入して読んだようですね。
しかし、残念ながら、私は共感できませんでした。何というのでしょうか、「少年ジャンプ」的な世界観? 展開が「お約束」すぎて。これは私がひねくれた大人だからでしょう。
軽く読み流す分には面白かったですが。
この方も、お子さんの中学受験経験者です。
どうやら、子どもの中学受験を経験すると、本を書きたくなるようです。
◆「受験精が来た!」真田涼
正直言って、これをここで紹介するかどうかは相当迷いました。
なぜなら、あまりに「くだらなすぎる」からです。ストーリーも文章も。
これも生徒に教えてもらいました。
「こんな本を読んでいる暇があったら勉強しろ!」と怒られたのが哀れです。生徒から取り上げて30分で読み終わりました。(ちゃんと返しましたよ)
私はこのライトノベル特有の、漫画をそのまま文字化したような文体がどうも苦手です。読めば読むほど頭が悪くなるような気がするのです。ですから、生徒にはライトノベルは禁止しています。
「麻田クーン、好き好きぃ♡」
「うるさい、ちび!」
「! 背のことを言うんじゃねえ! ブス!」
「このーーっ!」
颯太を追いかけて走ろうとした、そのとき。
「ヒマ人はいいわねぇー。」
げ。向こうにいるのは、天敵の桜麗華。
はい、こんな文章が延々続くのです。
ただし、ストーリーに混ぜ込む形で受験の基本的なテクニックが紹介されているので無駄にはならないかもしれないのですが。
この本は、小学校低学年が、中学受験や塾通いに対する抵抗感を減らすのには役立つと思います。軽く読み流す本ですね。5年生以上で読んではいけません。
◆「素直な戦士たち」城山三郎
最期は口直し?に、古典的名著を一冊紹介します。1978年の出版です。
塾の老舗「四谷大塚(進学教室)」がスタートしたのが1954年だそうです。今小学生の子をもつ親のそのまた親の世代だと、もしかしてこの塾にお世話になった方も多いかもしれません。
もうこのころから、「受験戦争」という言葉は使われていたのです。
類型化された強烈な「教育ママ」が登場します。もはやコミカルです。しかし、筆力のある作家が描くため、思ったよりも嫌な読後感はありません。
こぼれそうなほど大きな目。目だけが勝手に語りかけてくるようで、その一方では思いつめたような光を秘めた目である。秋雄を見ながらも、さらにずっと先のことまで見通していそうな目であった。その右目の下から唇にかけて、いくつか、ごまを散らしたようなそばかすがある。涙の黒いあとにも似ている。
痩せて小柄。顔も小さく、口元からあごにかけてもさびしい。それだけに、よけい、大きな目の中にひきこまれそうであった。
ふう。ほっとしますね。
やはり読書はこうでなくては。
このシーンは、お見合いの女性に初めてあったシーンです。
この女性が、結婚相手を探す段階から、子どもの将来の高学歴(東大)を目指して、夫のチョイス・妊娠時期・胎教、そこから邁進する物語なのですね。
さすがにそこまでは、と笑いとばせない怖さもあります。
学歴偏重の世相に対する警句とも受け止められる小説ですが、現状もそんなに変わっていない気がしますね。
中学受験が扱われている本は好きではないといいながら、私もそれなりに読んでいました。
やはり、小学生にとってはあまりに過酷な試練であり、またそれを支える親にも負荷がかかるため、小説の素材になりやすいのかもしれません。
小説を読んで疑似体験をするもよし、エッセイを読んで肩の力を抜くのもよし、そんな読書ですね。