現在6年生の皆さん向けの記事です。
そろそろ塾では、受験学年の面談を実施している時期だと思います。
そこで今回は、この時期の志望校の選び方について考えてみることにしましょう。
この時期の面談の意味
生徒の保護者から面談をお願いされることはよくあります。
巷の「塾選び」のアドバイス記事・本では、「定期的に面談・学習相談をしてくれる塾が良い塾」という情報も見かけますね。
ただし、塾屋側からすると、それはほぼ不可能なのです。
1クラス20名の集団指導塾を考えてみましょう。
1日3コマで授業を実施すると、一人の教師が1日に教える生徒数は60名です。週5日授業に入ると、300名の生徒を1週間に教えることになりますね。
毎日面談を一人ずつしたとして、300日かかることになります。4教科の教師で分担したとしても、4か月は必要でしょう。
このペースでいったとしても、1年に3回面談できれば上出来、という計算になります。
しかし、塾の教師は、授業だけをしているわけではありません。
授業の予習にも、まともな教師なら毎日数時間かけているでしょうし、テストやテキストやプリントなどを作成する場合もあります。各中学校の説明会にも足を運ぶ必要がありますし、入試問題を解く時間も必須です。
正直にいって、面談に割ける時間はほぼありません。
塾の教師の勤務時間は、塾によって多少の違いはあるものの、おおむね14時~22時といったところでしょう。
授業が17時からスタートするとしても、それまでに3時間の余裕しかありません。ここに面談が入ると、授業準備に支障がでます。また、授業後の面談は実質上不可能です。夜中になりますので。
愚痴めいて聞こえるかもしれませんが、これが現実です。
「良い指導」を実践しようとすればするほど、授業準備・教材準備・問題研究・学校研究に多くの時間が必要となるのですね。
「頻繁な面談」を売りにしている塾は、このいずれかをおろそかにしていると考えてよいでしょう。
それでも受験学年だけは、志望校に関する面談が必須です。
年に2回~3回程度実施するのが限界だと思います。
一般には、夏あたりから志望校向けの特訓講座や過去問演習が本格化します。その前に、志望校の「仮決め」をする必要があるのですね。そのための面談がこの時期になるのです。
志望校の考え方
志望校(受験校)については、一般に3段階に分けて考えます。
(1)本命
ここに合格出来たら天にも昇る心地になる、そういう学校です。ただし、4年生までならそれでよかったのでしょうが、6年生のこの時期になると、現実も見なくてはなりません。
(2)実力適正校
ここに進学すると、おそらく学年の真ん中の集団になるであろう学校です。ただし受験の世界では、「合格してもおかしくはないが、不合格でもおかしくない」学校という意味にもなりますので要注意です。
(3)安全校
いわゆる「押さえ」の学校です。よほどのことがない限り、まず合格するであろう学校です。実は、受験校選びで一番難しいのがこの学校なのです。誰でもわが子には「夢」を抱きます。わが子の実力を過大評価します。だって親ですから。しかも、このグループの学校は、正直にいって「なんだかなあ」と思える学校名が並びます。
「小学校1年生から塾に通ってこんなに勉強してきたのに、この学校とは・・・・」と思ってしまうかもしれません。
しかし、これらの学校の中から、「この学校はいい!」「ここならわが子を伸ばしてくれそう!」と思える学校を見つけられるかどうか、ここが学校選びの分岐点になるのです。
偏差値・合格可能性の考え方
模試で出てくる「〇〇中学合格可能性〇〇%」という数字、とても気になりますね。
ただ、この数字は塾で恣意的に操作していますので、実はあまり参考になりません。
難関校の合格実績というのは塾にとっての最重要課題です。
しかし、受験してくれないことには実績は出ないのです。
そこで、難関校の受験をあきらめない生徒を多く確保するのが大事になってきます。
もし難関校の合格可能性を厳しめに出したらどうなると思いますか?
そうですね。そういうことです。
だからこそ、この数字の信憑性は低いのです。
ここでは、偏差値を参考にしたほうが良い所以です。
直近の模試3回の偏差値を平均してみましょう。それを、お子さんの「現在の成績」とみなします。ここで大事なのは、「試験範囲のないテスト=模試」の成績を見ることです。そうでないと実力がダイレクトに反映しませんので。
また、私情をはさまずに計算してください。「前回のテストはたまたま算数が失敗しただけだから。本当はもっと上の成績のはず」といった事情は斟酌しないでください。ただただシンプルに、4科目の総合偏差値を平均するだけです。これを現在の「持ち偏差値」とします。
持ち偏差値プラスマイナス2,これが「実力適正校」ラインです。
例えば、日能研の偏差値表を見て見ましょう。A君の「持ち偏差値」が50だったとします。
2月1日校で偏差値48~52のラインを見ると、このような学校名が並んでいます。
安田先進・山手学院・鎌倉学園・関東学院・国学院久我山・青陵・帝京大・桐蔭・森村・淑徳・日本大学・かえつ・成蹊・東洋大京北・独協・桐光学園・ドルトン・日大藤沢
これらの学校が、A君にとっての「実力適正校」と考えましょう。
Q:53のところに、気に入っている「成城学園」がありました。偏差値の数字1くらいは誤差の範囲と考えてこれも実力適正校に加えていいでしょうか?
A:かまいません。たしかに誤差の範囲です。
Q:55のところに、気に入っている高輪があります。53がOKなら、55だってOKですよね?
A:やめてください。きりがありません。
このような偏差値主体の学校選びにつきまとう問題ですね。
どうしても人間心理として、上のほうを見たがるものです。しかし、一旦冷酷に数字で分けないことには、この先の議論が進みません。
本命校については、持ち偏差値プラス7までと考えましょう。
それだって盛り過ぎなくらいです。
経験上、プラス5でも合格は難しいものです。
A君の場合なら、57に等々力特選・桐朋・三田国際があります。56なら芝浦工大附属・明大八王子です。55のところに、開智日本橋・攻玉社・城北・巣鴨・世田谷学園・高輪・都市大付属となっていますね。
安全校については、マイナス5かそれ以下で考えましょう。
45に芝国際があります。44には桜美林・東京電機大、43に穎明館・湘南学園・創価・横浜創英、そして42が日大第二となっています。
このあたりが安全校として検討していきたい学校です。
注意
午後入試は要注意です。
募集人員が少なすぎて、まともな偏差値計算ができないからです。また、学校によっては、意図的かどうかまではわかりませんが、午後入試の募集人員および合格者数を絞ることで偏差値の吊り上げをはかっている可能性が指摘されています。
こうした学校を受ける場合には、定員・合格者数まで把握しておいたほうがよいでしょう。優秀な子がたまたま10名受けにきただけではじかれる危険性があることは覚悟が必要です。
今後、偏差値は上がりません。偏差値=相対評価ですから、母集団全体が受験に向けて全力疾走を始める中で、さらに上に行くことは困難なのです。
「今までは真剣に勉強してこなかったけれど、これくらいの偏差値だった。これから本腰を入れればきっと伸びるはず」は通用しません。
なぜなら、他の生徒も同じ状況で同じことを考えているからです。
面談のコツ
◆事前に聞きたいことを伝えておきましょう。塾の教師だって、全ての受験校や教科について完璧に把握しているわけではありません。例えば、20年以上千葉の教室に勤務していたが、今年から神奈川の教室に移動になった、そうした「ベテラン」の先生もいるわけです。事前に情報を集めたり準備する時間を与えてあげるのが、限られた面談時間を有効に活用するコツです。
◆相談内容は具体的にしてください。「〇〇中学はうちの子の性格に合いますか?」と聞かれても答えようがありませんので。正直に言います。一人一人の生徒の性格など知りません。我々が知っているのは「得点力」だけです。
「〇〇中学の国語の問題は、うちの子の得点力に合っていますか?」これならお答えできます。
◆学校の「ブランド」意識を捨てましょう。私も、面談である学校をすすめたところ、「あんな学校、名前さえ書ければ受かる学校じゃないですか!」とお父様が怒ってしまったことがあります。お父様が小中学生の頃はたしかにそういう学校でしたが、今はまったく違うのです。プロとして勧めているわけですので、妙な「学校ブランド先入観」は面談の邪魔にしかなりません。
◆事前に家庭の意思統一をしておきましょう。1日の第一志望校のところに、開成・麻布・慶應普通部と書かれてしまうと、こちらもアドバイスのしようがありませんので。聞いてみると、開成(父希望)、麻布(本人希望)、慶應普通部(母希望)ということでした。
◆塾側からの、「あれをやっておいてください」は話半分に聞きましょう。本当の指導は、引き算だと私は思っています。やらねばならない課題は無限にあるのです。それを生徒の実情を見ながら、どこまで「引き算」してあげるのか、それをするのがプロの仕事です。しかし、この「引き算」はある意味怖いのです。責任が伴いますので。そこで、多くの塾・教師は、ひたすら「足し算」をしていくのです。
「〇〇中学を受けるなら、あの問題集とこのプリントを全部やってください。それからうちの特訓講座も受けてください。これが算数の課題です。国語の教師からは、この教材を夏休み中に3回繰り返すように指示が出ています。あとは理科では・・・・・・」
こんな調子で、4科目の課題が積み重なっていくのです。
「うちの子は、毎日〇時間しか時間が使えません。そこでやるべき最低限の学習の優先順位を教えてください」
これが正解です。
冒頭に、この時期に志望校を「仮決め」するといいましたが、この「仮決め」は「最終決定」の一歩手前の段階を意味します。
まず、本命の第一志望校は確定しましょう。ここが揺れていると、夏がもったいないことになりますので。
もしかして「不本意」な話を聞かされるかもしれませんが、そこは冷静に受け止めるべきです。
実力適性校が第二志望と考えてください。
実際に進学する可能性が最も高い学校となります。進学を前提とした学校選びが重要です。
安全校については、「安全」を考えてください。前述したように、このレベルの学校の中から、魅力的な学校を選ぶことがとても大切なのです。そこが決まると、その他の学校選びに余裕が生まれますので。