今回は変則入試の話題です。
ある学校の募集要項を取り上げます。
※この学校を持ち上げる意図も貶める意図もありません。変則入試を象徴するような入試なので、例として取り上げただけです。
入試回数
この学校は入試回数がとても多い特徴があります。
一般的に、変則入試実施校は、積極的に午後入試を実施する学校も多く、また入試回数も増える傾向にあります。
◆世界入試
・北米
・シンガポール
・世界オンライン
◆日本入試
・国語・算数
・英語・算数
・グローバル
◆2月1日午前
・2科目
・4科目
・公立一貫型
◆2月1日午後
・新4科特別総合
・リベラルアーツ
・AAA
・グローバル
・理数インター
・読書プレゼン
・オピニオン
◆2月2日午前
・公立一貫型
・国際生
◆2月2日午後
・2科目
・4科目
・英語AL
・国際生
・理数インター
◆2月4日午前
・公立一貫型
◆2月4日午後
・リベラルアーツ
・AAA
・グローバル
・読書プレゼン
帰国生入試も含めると、全28回の入試があることになります。
それぞれの入試内容を見てみましょう。
帰国生入試
◆世界現地:北米
◆世界現地:シンガポール
◆世界オンライン
これだけ見ると、北米とシンガポールについては、現地まで試験官が来てくれての直接入試、それに加えてのオンライン入試と思いますよね。
しかし、実際には全てオンライン入試でした。
成績書類、自己PR、英文エッセイ、こうした書類を提出した上で、オンライン面接で合否が決まります。
なぜ北米とシンガポールだけ「タイトル」を付けて別建てとしたのかは不明です。
北米とシンガポールから特に生徒を集めたいという意図なのかな?
◆日本入試:選択2科型
◆日本入試:グローバル型
いくら募集要項をみても、この両者の違いがもう一つ不明でした。
調査書(国内生)/成績を証明する書類 (海外現地校生)/英語エッセイ(GL)
この3つの提出書類は共通していて、さらにグローバル型のみ学習歴報告書/自己PR書類が必要となっています。
試験科目は、選択2科型というのは、英語・算数または国語・算数を選択するということですね。ただし、グローバルコース希望者は、「英語・算数」を選択しなくてはならず、試験終了後、英語面接を実施とありました。
また、グローバル型の場合には、日本語リスニング/日本語・英語面接が実施されます。
ああ、これは「グローバルコース」という、英語を重視したコースがあって、そこへの入学資格を問うということなのでしょう、たぶんですが。
一般入試
◆グローバル入試
これについては、HPにはこうなっています。
プレゼン型(グローバル入試)
グローバル入試は英語が得意な生徒対象の入試方法です。
英語でプレゼンテーションに挑戦してみたい人なら大歓迎です。
英語プレゼンテーションでグローバルコースのレベルに達していると、グローバルコースに入ることができます。
入試方法はリベラルアーツ入試に準じます。試験日:2月1日(土) 午後
試験科目:日本語リスニング 45分
英語プレゼンテーション (5分程度+質疑応答15分程度)
なるほど。日本語リスニングで日本語能力を測り、さらに英語のプレゼンで英語力を測る、そういうことのようです。
◆入試「理数インター」
学校独自の設定科目、教科『理数インター』を試験科目とし、コラボレーション(協働学習)・プレゼンテーション(表現力)・ラーニング(学び方)の視点で試験をするとありました。
この「理数インター」という授業が今一つ明確ではないのですが、いわゆるアクティブラーニング系の授業のようですね。
この入試では、日本語リスニング45分に、理数インター授業を90分実施するそうです。
授業でどうやって受験生の能力を測るのか、そこが疑問でしたが、2025年の受験者数は16名でしたので、この人数なら十分に「行動観察?」が可能でしょう。
また、「日本語リスニング」というのは、学校によるとこうなっています。
まとまった内容の話を聴き、話の主旨を正しく理解できたか、また自分の理解したことを課題解決に用いる、応用力をみるテストです。
試験時間は45分で大問が2つ。4~7分程度の音声を聞き問題用紙にメモをします。音声終了後、問題用紙をめくり問題に取り組みます。
大問1の音声終了後から、概ね7分程度でで大問2の音声が流れます。大問2が終了した後は、大問1・大問2どちらの解答をしても大丈夫です。
要するに、授業を聞いて理解できる能力を測定すると思われます。
◆リベラルアーツ入試
事前に提出する、調査書(学習歴)に基づくプレゼンテーション試験です。
自分が小学校時代に熱心に取り組んだ活動を紹介し、自己PRをしてもらい、将来への可能性をみる入試です。
入室後、PCの設定や掲示物を準備してから試験開始です。
概ね5分間のプレゼンテーションをしてもらいます。
プレゼンテーションが終了したら、質疑応答が15分程度行われます。
試験官は2~3名です。※学習歴とは、受験生の皆さんが12年間に取り組んできたあらゆる活動です。
例)各種コンテストや検定試験(分野不問)で結果を出した。
課外活動でリーダーシップを発揮した。探究している研究テーマがある。等々
こういう入試は、一般に小学生は苦手でしょうね。
とくに受験勉強をしている小学生は、課外活動に割く時間がありませんので。
逆にいうと、4科目の準備をしてこなかった生徒が対象なのだろうと思われます。
◆AAA(世界標準)入試
ひとつのAはAthlete、もうひとつのAはArtists、もうひとつのAはAcademic。
各分野で全国レベルの実績を持っていて、世界に飛び出そうという受験生対象の入試です。
試験内容はリベラルアーツ入試と同様ですが、実績を証明する書類が必要となります。
どうやらこの入試は、何らかのタイトルホルダーを獲る目的と考えてよいでしょう。
コンクールの優勝者などでしょう。しかもAthlete、Artists とありますので、絵や音楽コンクールもOKでしょうし、運動系もOKのようです。
◆読書プレゼン入試
これはおもしろいですね。
読書プレゼンテーション (5分程度+質疑応答15分程度)で、『読書が大好き!自分の好きな本をみんなに知ってもらいたい!そんな受験生対象の入試です。』だそうです。
事前に提出をしていただく、調査書(学習歴)に基づくプレゼンテーション試験です。
自分の好きな本について、試験官の先生にプレゼンテーションしてください。
試験官の先生に是非読みたいと思わせるプレゼンテーションを考えてください。
入室後、PCの設定や掲示物を準備してから試験開始です。
概ね5分間のプレゼンテーションをしてもらいます。
プレゼンテーションが終了したら、質疑応答が15分程度行われます。
試験官は2~3名です。
これは緊張しそうですね。
日本語リスニングも実施されます。
受験生がどんな本をプレゼンするのかには非常に興味があります。
まさか、ハリーポッターレベルの幼稚な本をプレゼンする受験生はいないでしょうから、やはり古典的名著でしょうか。
島崎藤村や川端康成、芥川龍之介なんてプレゼンする生徒がいたら素敵ですが、さすがに小学生には無理ですか。それじゃあせめて「あん」「僕はイエローでホワイトでちょっとブルー」などをプレゼンしてほしい。これくらいの問題提起を含む本、少し背伸びしてぜひ読んでほしいのです。
もし教え子がこの入試にチャレンジするのなら、私が張り切ってしまいそうです。
◆オピニオン入試
本校から事前に出されるテーマを5分間でプレゼンテーションをする入試です。
試験当日にテーマにあわせた資料を配布します。自分で準備してきた内容と当日配布した資料を合わせて15分程度で発表内容を作成します。
15分で発表内容を作成する際は、パソコンやスマートフォン・タブレットを使用して調べても大丈夫です。当日の追加条件発表・プレゼンテーションの再構築(15分)
資料に基づくプレゼンテーション (5分+質疑応答15分)
これにも日本語リスニングが不随します。
それにしても、これだけの高度な入試内容なのに、日本語リスニングを課す必要ってあるのでしょうか? そこが不思議です。
事前に出される「オピニオンの課題テーマ」が気になりますね。
調べたら、こうでした。
「未来のスマートハウスでの1日を想像しよう!」
未来のスマートハウスに住んでいると想像して、そこでの1日を朝から夜まで説明してください。
スマートハウスにはどんな技術が使われているか、AIや自動化、エネルギー管理などを調べ、具体的に考えましょう。
朝起きてから寝るまでの1日のスケジュールを通して、どの場面でどんなテクノロジーが使われているかを書いてください。
最後に、その技術がどう生活を便利にし、楽しくしているか、自分の言葉で説明しましょう。
ごめんなさい。
期待が大きかっただけに、がっかりです。
過去の年度のテーマはこうでした。
『誰もが住みやすく・誰もが活躍できる』2070年の新たな都市を提案し、5分間でプレゼンテーションして下さい。
『あなたは空飛ぶクルマを開発したとします。それはどのような外観と機能を持っていて、どのような問題を解決するでしょうか。プレゼンテーションして下さい。』
『なんでもエーアイアイ」*は藤子・F・不二雄さんの漫画『ドラえもん』に登場する秘密道具です。この道具がどのような社会問題を解決してくれるかを説明して下さい。
反面、どのような問題を引き起こし得るかも説明して下さい。』
なるほど。
高度な「オピニオン」は求められていませんでした。
「日本語リスニング」が課される理由も少しわかった気がします。
入試結果
学校公表データによると、全ての入試の受験者数は1153名で、合格者は773名となっていました。進学者については、一部しか公表されていないので判断ができません。
在籍数を見ると順調に推移しているようですね。
「日本一入試が多様な中学校を目指す」というのが校長先生の言葉にありました。
一般的な「入学試験」の枠組みを壊そうとしているのかもしれません。
しかし、こうした意欲的な取り組みは、えてして学力低下を招く危険性があります。
学力低下は大学入試結果に直結します。
そう思って大学実績を見ると、「3年連続東大現役合格!」の文字が目に飛び込んできました。1名合格したそうです。また、早慶上理、GMARCH等にも合格をきちんと出しているようです。
そのことは良いことなのですが、ひねくれた塾屋としては一つ気になることがありました。
この大学実績紹介ページが、ほとんど「〇〇中学△名合格!」という塾のチラシそのものなのですね。
理想の教育を追求している学校なのかと思いきや、結局そういうことか、と感じてしまいました。
プレゼン型の入試、いろんな学校で実施されていますが、本当に入試として成立しているのかが疑問です。
そもそも、小学生にまともなプレゼンはできません。アウトプットするためには、インプットが欠かせないからです。小学生の学習はまだまだインプット段階ですので、無理にアウトプットさせてみたところで、「場慣れした子」「生意気な子」「おもしろい子」が目立つだけの話です。
私は、こうした「変則入試」は好きではありません。
小学生のきちんとした学びの延長線上にないからです。
この学校を第一志望としている生徒にとっては、どのように努力すればよいのかさっぱりわかりません。
もしかしてそうした地道な努力を評価しないのかな?
もちろん普通の4科目入試もありますので、それを受験すればいいだけですが、そうして憧れの学校に進学してみると、テニスの大会成績だけで合格した生徒や、プレゼンのうまさで合格した生徒と机を並べることになるのですよね。
個人的には嫌だなあ。
もちろん、中学入試が、4科目のペーパーテストでなければならない理由はありません。しかし、現状、最善の入試制度だと私は思います。
おそらく、試験というものの理想を追求していくと、最終的には「口頭試問」になるのかなという気はします。しかしそのためには、受験生・試験官、双方に高度な学術レベルがあることが前提です。
「ルソーのエミールについて君の考えを述べよ」
たしかこれはドイツの大学入試の口頭試問でした。
当然受験生は、ジャン・ジャック・ルソーの「エミール、または教育について」を読んでいることが前提です。
何が聞かれるかわからないこうした「口頭試問」のために、数百冊の本を必死に読み込んでいく、そうした努力が受験生に求められる入試は確かに理想です。
実は、大学入試でも問題になっていますね。
「推薦」合格の生徒の基礎学力の低さについて。
こうした変則入試の実施校については、長い目で今後を見ていく必要がありそうです。