武蔵(武蔵高等学校中学校)と言う学校は、何ともおもしろい学校です。
昨今の「金太郎飴」のような学校とは一線を画す個性を放っています。もし私が人生をリプレイできるのなら、この学校で学びたい、そう思わせる学校の一つです。
今回は、そんな武蔵の紹介をしながら2025年の国語の入試問題を眺めてみることにしましょう。
学校について
まず校訓から。「三理想」というらしいですね。
1.東西文化融合のわが民族理想を遂行し得べき人物
2.世界に雄飛するにたえる人物
3.自ら調べ自ら考える力ある人物
いいですねえ。私はこうした「理想」をかかげる学校が大好きです。
そういえば、渋谷教育学園幕張&渋谷も、「自調自考」を教育目標として掲げていますが、もちろん武蔵の方が先です。1922年創立の武蔵の初代校長(一説には原案は教頭)が掲げました。まあ、どちらが先に掲げたのかなどどうでもいいですね。良い考えは普遍的な考えですから。
1と2については、西洋文化に傾倒している世相に対して、東洋文化を重視して世界に広げるという意のようです。また3は文字通りですが、暗記中心の学習を批判的に捉えているようですね。
こうした「理想」は、掲げるのは容易いですが、実践をするのは困難です。ましてそれを100年以上も継続し続けるのはさらに難しい。武蔵という学校の価値はそこにあるのではないか、というのが私の考えです。
巷では、武蔵の大学実績の低下が取りざたされています。
「もう御三家の資格はない」と言われているようですが、そもそも「御三家」などといいう勝手なくくりで学校を評価するのもどうかと思います。
東大と京大の実数および東大の5年平均をグラフ化しました。
京大の合格者数が1987年・88年に突出して多いのは、この2年だけ、東大と京大の併願・W合格が可能だったからです。
たしかに一時の勢いはありませんね。しかし現在は「低め安定期」とでもいうべき状況かもしれません。「低め」と失礼な言い方をしましたが、この学校は「何が何でも東大一直線」という生徒が選ぶ学校ではないと思います。それでもコンスタントに25名前後の合格者が出続けています。
京大の合格者数では、開成に遜色ない数字となっていますが、開成の卒業生数400名にたいして武蔵は160名程度の卒業生数ですから、やはり凄い学校には違いありません。
男子がいるご家庭は、ぜひ一度足を運ぶことをお薦めします。
武蔵大学と共有する校地は広大で、緑が多いのが特徴です。一応大学と中高は小川を挟んで区分けされてはいますが。
そもそも校内に小川が流れている学校なんて、私もここしか知りません。こうした環境で6年間過ごせるのは実に羨ましい限りです。
2025 国語 入試問題
さて今年の問題を見て見ましょう。
問題の文章は1つ、それに漢字という実にシンプルな構成です。
漢字は難しくはありません。この8問です。
・破竹の勢い
・出船の汽笛を聞く
・陰であれこれと画策する
・毒性の強い劇薬
・現場の裁量で判断する
・暖冬で雪が少ない
・新陳代謝を促す
・目を肥やす
さすがに受験生でこの漢字を間違える生徒は皆無でしょう。
さて長文は、エッセイからの出題です。
動物園のゴリラが登場しましたので、「また山極壽一?」と一瞬思いましたが、幸田文の文章でした。
幸田文は、娘の青木玉、孫の青木奈緒とともに、中学入試の常連の作家です。それにしても、幸田露伴-幸田文ー青木玉ー青木奈緒と4代にもわたって文筆家とはすごい一族ですね。文芸の才能って遺伝するのでしょうか?
幸田文については、「流れる」「おとうと」くらいは読んでおきたいですね。
ただし、「受験を目的とした読書」はお薦めできません。入試が終わったら読む本リストにぜひ入れておいてください。
文章は、エッセイですから、まとまりがありませんが、動物園のゴリラ・チンパンジーの飼育係=「ゴリチン係」と、彼らから聞いたエピソード、そして筆者が案内された動物園の様子などが書かれています。
幸田文の文章らしく、平易でわかりやすく、流れるように先へ先へと連なる文体です。
記号選択は計4問でした。
「たしなめられる」「もんどりうつ」「はにかみ」の意味を選ぶものがありましたが、これはさすがに間違える生徒はいないはず。
もう1問は、食事後に「ゴリチン係」と遊びたがり、係に取りすがって放すまいとするゴリラの「その真っ黒な長い手はかなしい」と筆者が感じる理由として不適当なものを選ぶものでした。選択肢を見た瞬間に正解がわかるレベルです。
さて、残りの問題としては、6問の記述が出されています。字数指定などありません。解答用紙の何となくの余白に書きこむスタイルです。このスタイルも珍しいですね。普通は別紙の解答用紙に「升目/四角い枠」が引かれているものですが。
あらゆる「枠組み」を嫌うということなのかな?
問題はこちら↑の公式HPで公開されていますので、ぜひご覧ください。
◆飼育係が、「と思う」「らしい」という言い方をすること、「である」と「と思う」の使い分けについて考察し、「飼育係の「と思う」は学問する人の態度をもって語られている」について説明する。
◆ゴリラが飼育係の指先を食いちぎった事件について、「攻撃というより防御だと思う」について説明する。
◆一頭のゴリラが、檻を抜け出し、客の間を途方に暮れてさまよってしまった。それを手を繋いで連れ戻した飼育係について、「そのゆえに、ビル(ゴリラ)の寂しさはずばりとわかってもらえたのである」について説明する。
一部を紹介すると、こんな問題です。
どれも文中にヒントが盛りだくさんなので、記述することは難しくありません。
武蔵の要求しているのは、きちんとした読解力ときちんとした記述力であることをうかがわせる問題でした。