今回は、前回書く予定で書けなかった内容について考えてみたいと思います。
例によって登場人物は麻布志望の3人組、タロウ・ワタル・ゲンタ(仮名)です。実際の生徒・授業ではなく、過去の授業を再構成したものです。
問題提起
タロウ:先生、教えてほしいんだけど。
私:なんだ?
タロウ:民主主義って何なの?
ゲンタ:そんなの簡単じゃないか。国民主権ってことだよね。
タロウ:それはわかってるんだけど、じゃあ国民主権って何?
ゲンタ:国民に主権があるってことだよ。
タロウ:それじゃあ主権って何?
ゲンタ:・・・主な・・・権利?
タロウ:ほら、よくわかんなくなってくるだろ?
ワタル:デモクラシーだよ。大正デモクラシーって習ったじゃないか。
タロウ:それじゃあデモクラシーって何?
ワタル:・・・民主主義・・・?
一同:うーむ・・・・・
私:実は民主主義って、考え出すとなかなか難しい話なんだよ。ちょうどいい、昨日憲法記念日だからその話をしようと思っていたけど、結局祝日の話題で終わってしまったからな。今日は民主主義と憲法について考えてみることにしよう。
日本国憲法
私:みんな憲法のプリントは持ってきたな。まずは前文を読んでみようか。大きな声を出してね。
日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、・・・自由のもたらす恵沢を確保し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。・・・
一同:ふう。
私:どうだ、意味はわかったか?
ワタル:何となくはわかるんだけど。
ゲンタ:うん。平和とか人権とかそういった内容なんだよね。
タロウ:主権が国民に存することを宣言しちゃってるよ。
ワタル:一番はじめに、選挙で選んだ代表者を通じて行動するってあるね。
ゲンタ:国の政治の権威は国民に由来するってある。
私:日本国憲法は、多くの国の憲法の中でも新しいほうだからね。国民主権についてもきちんとまとめられているね。
タロウ:それで、主権って結局何?
私:簡単なたとえ話でもしようか。
タロウ:でた! 先生のたとえ話!
主権と民主主義
私:みんなが無人島に漂流したとしよう。
ゲンタ:よく僕たち先生に漂流させられてるよね。今度はどこ?
私:どこでもいい。そうだな、3人じゃあ少し寂しいから、船に乗っていた100人くらいが遭難したことにする。
ワタル:先生も?
私:先生も一緒だ。さて、無人島で生きていくためには、まず何が必要かな?
タロウ:水!
ゲンタ:食料!
ワタル:家!
私:どれも大切だ。そらじゃあ各自頑張ってくれ。
タロウ:無理だよ!
ゲンタ:一人じゃできないよ。
ワタル:力を合わせなくちゃ
私:そうだな。でも100人が力を合わせるのって大変だぞ。みんながやりたいことだけをやっていたのでは、いつまでたっても島の生活は工場しないからな。水探しチームと食料確保チームと家づくりチームを作らなくてはならない。あとは島の探検チームも必要だろうし、その他にもいろんなチームを作る必要がある。それらを誰が決めるんだ?
タロウ:先生、決めてよ。
ゲンタ:そうだよ、先生が決めればいいじゃないか。
私:たしかにそれが一番うまくいきそうだ。よし、それじゃあ私がこの島の王になる。それでいいな!
ワタル:そこまで言われると少し不安だけど、でもいいよ。
私:この後は、島の王である先生が、100人に指示を出して仕事をやらせていくんだ。どうだ、これならうまくいきそうだろ?
ワタル:うまくいきそうだけど。でも何か嫌な予感がする。
タロウ:先生だからなあ。きっと自分は働かないで、僕たちだけ働かせるつもりだ。
私:よくわかったな。何せ私は王だからな。当然働かない。君たちが私の家来として頑張ってくれ。ああ、あの一番おいしいフルーツは私だけが食べるからな。あと、一番うまくできた家は私のものだ。
ゲンタ:ほら、やっぱり。もしかして先生、一番気に入った女の人を自分の奥さんにするつもりでしょ。
私:よくわかったな。だって王だからな。
タロウ:そもそもなんで先生が王なの? そもそもなんで偉いの?
私:実は、私は神に選ばれて王になったんだ。
ワタル:神! それじゃあしかたがないか。だって神様が一番偉いんだし。
私:これを「王権神授説」という。16~17世紀くらいのヨーロッパで、絶対王政を敷く国王の権力の説明として編み出された考え方だ。その頃王は絶対的な権力を握り、産業も農業も政治も軍隊も、あらゆるものを支配していた。
タロウ:僕はそんなの認めないぞ! こうなったら革命だ! 王を追放せよ!
ゲンタ:まるでフランス革命だね。
私:その通り。どう考えても、神から権力を授かったから偉い、などという考えはいつまでも通用するはずがないからな。
ワタル:あれ? もしかして、古事記や日本書紀に、天皇が神の子孫だって書かれているのって。
私:そういうことだ。神の権威を借りて天皇の権威を高めようとしたんだな。さて、タロウの革命が成功したとしよう。
タロウ:やったね!
私:それでタロウ、この後の政治はどうするんだ?
タロウ:放っておいたら?
ゲンタ:それじゃあ漂流したての頃の生活に逆戻りじゃないか。
タロウ:わかった。僕が王になればいいんだよ。
ワタル:それで独裁政治をするんでしょ、どうせ。よし、また革命だ!
私:こうして多くの血が流されていった。
ワタル:先生、止めてよ!
タロウ:どうすればいいの?
私:そもそもなんで王がいやなんだ?
タロウ:それは、僕たちにあれこれ命令するからだよ。
私:でもそうしないと島の生活がうまくいかなかったじゃないか。
タロウ:それはそうなんだけど。
ゲンタ;誰かが指示だしたり命令したりしないと島の暮らしは成り立たないし、でも命令されたくないし。難しいね。
私:それでは誰になら命令されても納得いくんだ?
ワタル:う~ん。偉い人?
タロウ:それじゃあ独裁政治になりそうだよ。
ゲンタ:わかった! とりあえず誰かをリーダーにして、それでそのリーダーが暴走したら、交代させればいいんだよ。
ワタル:それならうまくいきそうだね。島の生活もうまく行くし、独裁も防げるし。
私:なかなか良さそうだね。ところで、今島で一番偉いのは誰なんだ?
タロウ:リーダー?
ゲンタ:あっ、わかった! リーダーを選ぶのも辞めさせるのも僕たちなんだよね? つまり、島で一番偉いのは僕たちってことになるじゃないか。
タロウ:そうか! もしかしてそれが、主権が国民にあるってこと?
私:正解! 他人に指図されたり命令されたりするのって、誰でも嫌だろ? 自分のことは自分で決めたい。それが主権だ。その主権を持つ島の住民たちが、みんなでリーダーを選んで、そして自分たちが選んだリーダーだからその命令には従う。でも、その命令に納得できなかったら、またみんなで相談してリーダーを変えればいい。もちろん島で一番いい暮らしをするのはリーダーであってはいけない。多少の貧富の差は生まれるかもしれないが、それでも皆に主権があるのだから、その島の利益は皆に受け取る権利がある。これが国民主権、つまり民主主義ということだね。
タロウ:なるほどなあ。僕なんて、民主主義って選挙のことだと思ってたよ。
私:選挙は、リーダーを選ぶやり方の一つだからな。
ゲンタ:僕は多数決のことだと思ってた。
私:多数決も、意見をまとめるやり方の一つだからな。でも、選挙も多数決も、絶対に正しいやり方というわけではないんだ。よし、次回はそのあたりを考えてみようか。
そうだ、今日の課題を出すぞ。イギリスのチャーチル首相の名言にこんなのがある。
「民主主義は最悪の政治形態といわれてきた。他に試みられたあらゆる形態を除けば」
これがどういう意味なのか、自分の考えを書いてくること。
一同:え~!