何かの歌の歌詞に、「自分のオールを(他人に)まかせるな!」といったものがありました。特に好きな歌というわけでもないのですが、そのフレーズだけ印象に残っています。自分の行くべき方向は自分で決めるという意味ですね。
中学受験についても、同じことが言えるような気がします。
今回はそうした話題です。
事前準備編
まず、どうして中学受験をするのか、そのことを家族で徹底的に話し合いましたか?
中学受験には、多大な努力、いろいろなものを犠牲にする覚悟が必要なことは間違いありません。
しかし、得られるものも大きなものであることは間違いありません。
子どもの教育をコスパ・タイパで語ることは愚かなことですが、どこまでその「犠牲」を払うつもりなのか、考える必要があるのです。
(1)夫婦で相談
まずは子ども抜きでの徹底的な話し合いが必要です。
①本当に受験するのか?
②なぜ受験する必要があるのか?
③どの学校を志望するのか?
④どの学校までを志望するのか?
⑤いつから始めるのか?
⑥塾はどうするのか?
当たり前すぎるほど当たり前ですが、このあたりを徹底的に煮詰めておく必要があるのです。
①・②については、きちんと考えずに「何となく」塾に通わせる御家庭が多いような気がします。中学受験率が高いエリアだと、それ以外の選択肢が浮かばない、という場合もあるでしょう。しかし、公立中学から高校受験を経て高校に進学することにもメリットがないわけではありません。一度、いや何度でも夫婦で話し合うべきでしょう。
そして大切なのは、④なのです。③については、憧れの志望校を考えるだけですから、実は簡単です。しかし、④については十分に考えないまま受験勉強に突入する方が実に多いのです。
お子さんが今後どのような成績に到達するのか、しないのかはわかりません。中学受験をする以上、「この学校以下に下げるつもりなない=公立中学進学」なのか、「何がなんでも公立中学進学回避」なのか、そこははっきりさせておくべきでしょう。
私が志望校について保護者と面談する際に、必ず冒頭に聞くのはそこなのです。
「この学校に合格できなければ公立中学に進学する、そう考える学校のレベルはありますか?」
この問いに即答できる方はほとんどいませんでした。
(2)夫婦で(子ども抜きで)学校訪問
子どもを連れて行く前に、夫婦でいくつもの学校を回りましょう。直接足を運ばなければ何もわかりませんので。
(3)子どもを交えて徹底的に話合う
当事者は子ども本人です。その子どもが学校選びに参加しないのはあり得ません。両親が「この学校なら!」と決めた学校について、お子さんとしっかり話し合ってください。お子さんを学校に連れていくのは、その後です。
※将来(大学進学とその後)について悩むのはまだ早い
芸術系に進むのなら別ですが、そうでないのなら、「この中学に進学すれば、将来医学部に行きやすい」「この中高は理系に強い」「この学校なら将来海外大学に進学できるかも」といった、大学進学以後の将来と、中学の学校選びを無理やりリンクさせないほうがよいでしょう。10年後にお子さんがどう変化するのかなんてわかりませんので。
子どもの生活時間の見直し
一番ポイントになるのは、習い事についてです。
最近の子どもたちは実に多くの習い事をしていますね。
◆運動系・・・サッカー・野球・バレエ・水泳・新体操・ダンス等
◆芸術系・・・ピアノ・ヴァイオリン・絵画・書道等
◆学習系・・・そろばん・公文・英会話等
週7日の全てが習い事で埋められている子も珍しくはありません。
どれも幼少期から続けることに価値があるものばかりですし、一旦始めた習い事は途中で辞めにくいという状況もあるでしょう。
しかし、中学受験に踏み込むためには、時間を作らなくてはなりません。
どの習い事をいつまでに辞めるべきなのか、それもお子さんと話しあう必要があります。
経験上、だいたいのお子さんは習い事を辞めることを嫌がります。それはそうでしょう、勉強よりも楽しいですから。
だからこそ、何が子どもにとって大切なのか、じっくりと話しあう必要があるのです。
※個人的には、6年生になるまでにはすべての習い事を辞めるべきだと思っています。ただし、英語については、受験科目にある場合もあるのでその限りではありません。また、芸術系については、一旦辞めても、自宅で練習することは可能ですので、習いに行くことだけ中止すればよいでしょう。
Aさんのケース
Aさんは、一人息子の受験を当初は考えていませんでした。子どもが生まれるタイミングで越してきた地域は、新旧の住民が混ざり合う活気のある住宅地で、暮らしやすく地元の雰囲気も悪くはなかったからです。朝夕の通学時間に見かける地元の公立中学校の生徒達も、なかなか純朴そうで、好感がもてるものでした。
Aさん夫婦は、二人ともピアノを趣味としていたので、自宅にはもちろんピアノが置かれ、4歳から息子にもピアノを習わせています。スポーツ系の習い事も検討しましたが、どこも「体育会系」の匂いが好きになれず、通わせることは止めました。また、英語については、近所に良い先生が見つからなかったこともあり、母親が教えることにしたのです。母親は海外留学経験があり、仕事も外資系で英語を使う仕事を継続していましたので、ある程度までは十分指導が可能だと判断しました。
中学受験をするつもりはなかったものの、勉強の大切さは理解していましたので、息子には毎日自宅で一定の学習をする習慣をつけさせてはいたのです。少し気弱ではあるものの素直な性格の息子でしたので、公立中学に進学しても、問題なく内申もとってくれると思っていました。
しかし、小学校で知り合った保護者達から、地元の公立中学校についての噂を聞くようになると、次第に親の考えが変わってきたのです。
別に荒れていたり不良が多い中学校ではないようでしたが、その中学からは、日比谷や西といった最難関都立高校には全くといっていいほど進学者がいなかったのです。
親の欲目としては、息子の出来は悪くはなく、上の目標を与えれば努力できるタイプだと判断していました。しかしどうやら、中学校の雰囲気はぬるま湯のようで、学校の進路指導も徹底的に安全志向に舵を切ったもののようだったのです。
たしかに通う公立小学校を見ても、中学受験組とそれ以外では明らかに学習態度が異なり、非受験組の子どもたちは、全体的にのんびりしているというか、家できちんと勉強している子は多くはない印象がありました。
このままではいけない!
危機感を覚えたAさん夫婦は、急遽中学受験をすることに舵を切ったのです。
小学4年生の夏前のタイミングでした。
いくつかの塾を回ったものの、どこもセールストークが鼻につき、まかせたい所が見つかりません。
今すぐに入れるか、夏期講習から入れるか、9月に入れるか。
Aさん夫婦は三番目、つまり9月から塾に通わせることにしました。選んだのは大手集団指導塾の一つです。
カリキュラムや教材体系等、大手ならではの安心感を選ぶことにしました。
夏の間は、その塾の今までのカリキュラムを見て、子どもに足りない部分を家でケアすることに費やすことにしたのです。
そのかいあって、9月に入塾したときには、上のほうのクラスでスタートを切ることができました。
Aさんの戦略のうち、見習うべき点は3つあります。
◆無条件で中学受験を考えてはいなかった点
◆受験を予定しなかったのに勉強はきちんとやらせていた点
◆あせって入塾せずに夏休みをじっくりと使った点
Aさんの後悔としては、公立中学進学に見切りをつけるタイミングがもう少し早くてもよかった、というものでした。ただし、学校の生の情報を集めるのはなかなか難しいものです。私立中高なら、説明会やイベントなどがたくさん用意されていますが、公立中学では機会が限られているのです。子どもが小学生の中学年くらいになると、兄弟を通わせている親からの情報がやっと入ってきます。
それでも、高校の進学状況などは調べることができたはずなので、まずはそこをきちんと調べるべきだった、というのがAさんの反省でした。
地元の公立中学進学か、中学受験しての私立進学かを迷う場合、まずは地元の公立中学のようすをきちんとリサーチすることから始めるのは大切です。