今回は厳しめの記事となります。
「定員割れ」している学校について考察しました。
※特定の学校を貶す意図はありません。また持ち上げる意図もありません。あくまでも私個人の感想レベルの記事となります。
入試問題の出題ミス
とある私立中学の国語の入試問題で、ことわざの意味を選ぶ記号問題がありました。
基本的で平易なことわざが並んでいます。
その中に、こうしたことわざが書かれていたのです。
「対岸の岸」
私は寡聞にしてこのことわざを知りませんでした。
調べてみても、何も出てきません。
そもそも「対岸」が向こう岸という意味ですから、あきらかに重言(二重表現)です。
学校が出している模範解答を見てみます。
「自分には害がなく、何の苦痛も感じないこと。」を選ぶのが正解でした。
つまりこれは「対岸の火事」の誤りなのですね。
言わせてください。
いい加減にしてください!
人間のすることなんだから、ミスは仕方がないよ。
そんなことを言って容赦する気はありません。
受験生は真剣勝負をしているのです。
文字通り「人生を掛けた」勝負です。
いやいや、大げさな。別にどんな中高に行こうと、その後の運命は変わらないから。
それは後から振り返った場合の大人の正論です。
受験生にとっては、そういうことではないのです。憧れの〇〇中高の生徒になるために、必死で努力しているのです。
入試問題を作る先生方も、真剣に作成していただきたい。
※この問題は、学校の公式HPに公開されていたものです。もし訂正があればそれも載せられているはずですが、ありませんでした。もちろん当日に試験会場で訂正された可能性はあります。
さて、この問題を出した学校について少し調べてみました。
この学校の中学生の生徒数の最近十数年の推移です。
すこしグラフの乱れが見られるので、私が探したデータは正確ではない可能性があります。中2が23名になった年は信憑性が低そうです。もし正しいとしたら、中3になるときに10名退学していることになりますので。それでも、生徒数が低迷していることは見てとれます。
1学年の人数が、一桁の年がけっこうありますね。
一桁! 完全に定員割れしています。
なぜこの学校がここまで生徒数が低迷しているのかはわかりません。それを、入試問題のミスと結びつけてしまうのは酷かもしれません。
酷かもしれませんが。
生徒数の低迷と先生のレベルとは無関係とはどうしても思えないのです。
ただし、中1が増えています。生徒募集の成果が上がっているということかもしれません。
定員割れしている学校の特徴
(1)高校からの募集が多い
中高の生徒数割合が1:2~1:6くらいの学校が多いですね。
あきらかに高校のほうが「人気」です。
これには理由があります。中学受験と異なり、高校受験は失敗したら「中卒」となってしまいます。世の中には、公立中学校でまじめに勉強に取り組んでおらず、内申がとれずに公立高校への進学ができない生徒が一定数いるのです。また、低い学力でも推薦がとれる公立高校は、いわゆる「底辺校」「教育困難校」とよばれる学校なので回避したい、そういう需要もあります。
(2)常勤教師が少ない
ある中学校の教員数を調べてみました。
常勤・・・・ 4人
非常勤・・・2人
授業のみを考えれば、非常勤の教員でも問題はありません。どんな学校でも非常勤教員はいます。文科省のデータによると、公立小中学校の非常勤教員の割合は16%だそうです。私立中に関しては、データが探しきれませんでしたが、およそ4割という数字もみかけました。
ちなみに、この学校の教員以外の職員数は2名です。
まるで小さな町塾レベルの規模です。
教師6名では、明らかに足りません。
もっとも、高校ではかなりの人数を抱えていますので、中高合わせれば何も問題はないのでしょう。
(3)入試回数が多い
ある中学校の入試回数は10回以上となっていました。連日のように午前・午後入試をしています。 受験機会を増やす事は生徒増の基本戦略ですが、なりふり構わず生徒を集めようとする姿勢はかえってマイナス評価のような気がします。少なくともその学校を第一志望として入ってくる生徒は少なくなりますし、そのことが学校全体の雰囲気に悪影響を及ぼすことは容易に想像できます。
このように入試回数を増やす学校には2パターンあります。
A:優秀な生徒を集める
いわゆる「落穂拾い」ですね。自分の学校よりもレベルの高い学校を受験した優秀な生徒が、一人でも多く入ってくれることを期待するのです。午後入試は完全にそれが目的と考えてよいでしょう。
もちろん目的は、大学合格実績の上積みです。
しかしそうした優秀層に選んでもらうには、教育内容の充実が欠かせません。大学進学を支援する制度が整っていて初めて効果を発揮する作戦です。
B:入学者数を増やす
入学者を増やすためにはなりふり構っていられないのです。何度でも、毎日のように午前・午後に入試を実施します。しかし回数を増やせば入学者が増えるわけではありません。他の学校を第一志望とした生徒ばかりが受験に来ることになります。しかも、そうした生徒が第一志望とした他の学校もまた同じような状況にある場合がほとんどです。したがって合格してそちらの学校に進学されてしまうことが予想されます。
(4)変則入試を実施
◆1科目入試
◆英語のみ入試
◆プレゼン入試
◆適性検査型入試
◆一芸入試
他にもさまざまな入試がありますね。レゴブロックで何か組み立てる入試や、脱出ゲーム型入試、なかには、ダンスを踊るだけで合格できる学校まであります。
このようにして、とにかく「入学試験」のハードルを下げるのでしょう。
しかし、入学試験が生徒を選抜する、つまり合格・不合格を分ける物である以上、ハードルを下げることにも限界があります。
しかも、面接のみ、ダンスのみで入ってきた生徒がはたしてその中学校で「学ぶ」力があるかどうかは微妙です。
つまり、こうして変則入試に力を入れれば入れるほど、学校全体の学力レベルが低下し、さらに「選ばれない」学校になっていくことが十分に予想できます。
もちろん例外もあります。
4科目のペーパーテストでは測れない、「潜在的学力」のようなものを見出す可能性です。中学受験塾などに通わず、普通に小学校生活を送っていただけの子にも、中高で学力を伸ばせる逸材が潜んでいるかもしれません。
しかし、そうした「逸材」を見出すのにもまた教師の能力が必要ですし、そうした生徒を伸ばすのにも高い能力が要求されます。そもそもそれだけの実力のある教師が揃っているのなら、定員割れはしていないでしょう。
(5)広告・広報に力を入れる
どの学校でも広報活動には力を入れる時代です。
しかし行き過ぎた広報活動はどうなんでしょう。
学校法人の「事業報告書」を見ていると、「知名度」を上げることが最重要とありました。
・塾訪問の強化
・Youtube・LINE・twitter(X)・Facebookの活用
・駅構内の広告掲示
・雑誌広告の強化
このような活動をしているそうです。
私の考える「学校の知名度」とはかなりずれていますが、まあこの程度はどの学校でもやっていますからね。
さらに生徒募集の到達目標がかかげられていました。募集定員の1/4程度の人数を、「到達目標」として、それを数名上回ったので「達成率110%以上」だそうです。
これを見て、ビジネスの世界に身を置く方なら、「ああ。」となるでしょう。目標達成率とは、業績を良くみせるために使われる手法ですね。最初から低めの目標を立てればいくらでも操作可能な数値ですので。
私立中高の多様性の必要
私の知人にも、子どもの不登校で悩んでいる方が複数います。小学校にもなかなか通えていない。このまま公立中学に進学しても、おそらくさらに通うことが難しくなるだろう。内申の低評価は確実である。しかし勉強もきちんとできていない。
定員割れでも何でも構わないから、うちの子を温かく迎えてくれる学校はないものだろうか。そう相談されました。
また、小学校で執拗なイジメを受けている子もいます。加害者たちと同じ地元の公立中学校だけは絶対回避したい。そのために少人数で先生の目が行き届いている学校を探しています。
子ども本人にやりたいことがある。だから勉強をする気はなく、基礎学力も不足している。本人は公立中学にとりあえず進学し、その後は通信制高校を選ぼうとしているが、自分の子の性格からすれば、通信制高校できちんと学んで高卒資格が取れるとはとても思えない。せめて高卒の学歴は最低限与えたいと思い、自分の子でも進学できそうな中高を探している。
そうした相談を受けると、「入り易い中学」「定員割れしている中学」から、教育内容が信頼できる学校を何とかさがして紹介します。しかしこれがなかなか難しい。せっかく評価していた学校でも、生徒減が続くと、共学化したり、中学の募集を打ち切ったり、どこかの学校法人に買われたり、そういうこともありますね。
多くの私立中高一貫校が、大学受験予備校化する中で、多様な生徒の思いに応える様々な学校があるべきだ、というのが私の考えです。
こうした「定員割れ」の学校の中から、お子さんを預けるに値する「良い学校」を探すには、積極的に足を運ぶしかありません。
そうした学校ほど「学校に興味を持ってくれた受験生候補者」を蔑ろにしませんので、先生方も丁寧に対応してくださるはずです。