中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学受験】入試問題研究 2025鷗友学園1回 社会

今回は、私の大好きな、鷗友学園 2025 社会 の問題をとりあげます。

1・2回を合わせて取り上げようと思いましたが、なかなか充実した記述問題でしたので、今回は1回だけを取り上げます。

私が大好きな理由は、毎年良質な思考力問題を出題してくれるからです。

もちろん学校もとても良い学校だと思います。

前菜・・・軽い記述

問4 下線部(c)について。菊を電照栽培する利点について、電照栽培のしくみと、
菊の開花の性質に触れて説明しなさい。

最初に出てきた記述は、定番の記述問題でした。渥美半島の電照菊についての説明です。下線部(C)は、「菊の電照栽培」です。

 

社会科というよりは理科の要素が強いですが、もちろん社会科で教えている内容です。

解答はこうなります。

菊は日照時間が短くなると開花する性質があるため、夜間に照明をあてて開花時期を調整することで年間を通して出荷できる。 

これは私の解答ではなく、学校が公表しているオフィシャルの解答例です。

 

この学校の素晴らしい点として、こうしてきちんと問題と模範解答、さらに配点を公表している点があげられます。

この学校を志望する受験生にとって、何よりありがたい情報です。

さらに、平均点等も詳細に公表しています。

・社会最高点:92点

・社会最低点:14点

・合格平均点:68.8点

・受験平均点:62.5点

・標準偏差:11.1

社会についてこれらの値が公表されています。ここまで公表してくれると、過去問演習をする際に非常に役立ちます。

それにしても、社会最低点の14点っていったい・・・・。

算数にいたっては0点が最低点です。

4科目の最低点は89点となっていました。

どういう受験生がなぜ受験したのかさっぱりわかりません。

まったく解けない問題を前にして数時間過ごしたであろう受験生が哀れです。

www.ohyu.jp

実は、受験生にとって最も知りたい情報=入試問題・模範解答・平均点等をきちんと開示している学校は少数派なのです。

たとえ問題を公開していても、模範解答を出していない学校も多いですね。自分の学校の作る模範解答を公表したくない理由でもあるのでしょうか。

 

前菜その2・・・調査研究

静岡県三島市について生徒が調べた、というスタイルの問題です。地図の比較による地域の変遷など考えたあとに、この問題です。

(2)かもめさんが三島市について調べたところ、近年、東京都心で働きながら三島市に住む人が増えていることがわかりました。
東京都心で働きながら三島市に住む人が増えてきた理由を、【資料4】から読み取ったことを2つ挙げた上で述べなさい。
【資料4】三島市・立川市・横浜市磯子区から東京駅までの所要時間と住宅地の土地の価格

この問題も難しい記述ではありません。

資料を見るまでもなく、手頃な価格で住宅が入手できて、しかも東京までもそんなに遠くない三島氏が東京のベッドタウン化しているのだな、とわかります。

学校の模範解答はこうなっていました。

東京駅までの所要時間が変わらないにもかかわらず土地の価格が安いことがわかる。よって、通勤時間が変わらず、面積が広い家に住むことが可能だから。

そんなに高度な記述力は要求していないことは、模範解答例からもわかりますね。

これでいいのです。

もっとも、個人的には、2文以上になる解答の場合、体言止めで「・・・から。」とまとめるのはあまり好きではありません。また、主語が抜けているのも気になります。

「資料より、三島市は、東京駅までの所要時間が立川市や横浜市から変わらないにもかかわらず、土地の価格が安いことがわかる。そのため、通勤時間が変わらず、面積が広い家に住むことが可能なことが理由だと考えられる。」

字数さえ許容するなら、これくらいきちんとした解答が私は好きです。

 

主菜その1・・・攻めた記述

さあ、次の記述あたりから、いよいよ鷗友学園の本領発揮です。

実はこの学校の社会科記述は、意外に攻めているのです。

まずはご覧ください。

日本最大の古墳は、明治時代に宮内 庁 によって「仁徳陵古墳」と名付けられました。それ以来、宮内庁が立ち入りを禁止し、管理 してきました。しかし、世界遺産に登録するにあたって、考古学者が地名をとって「大山(大仙)古墳」と呼ぶことを主張し、呼び方を変えた教科書もあります。

考古学者が古墳の呼び方を変えることを主張した理由と、ふさわしい呼び方を決めるために、考古学者が宮内庁に要望したいことは何かを考えて答えなさい。
(注)仁徳陵とは、仁徳天皇の墓という意味。

これがなぜ「攻めている」問題なのか、説明します。

もしかして、みなさんが小学生のときに学んだときには、「世界最大の古墳は仁徳天皇陵だ」と習ったかもしれません。

しかし、いつのまにか「大仙古墳」「大山古墳」という名称に改められました。少なくとも歴史教科書ではそうなったのです。

しかしやっかいなことに、世界遺産に登録する際に、「仁徳天皇陵古墳」という呼称が復活させられてしまったのです。

 

少し整理してみます。

◆調査されていない

 そもそもこの古墳は学術的な調査がされていません。そうですね、宮内庁によって「宮内庁治定陵墓」、つまり天皇の祖先の墓として管理されているからです。

しかし宮内庁による治定は、記紀の記述や平安時代の『延喜式』の記述に基づいていて、正確性がかなり怪しいのです。

◆仁徳天皇は実在したのか?

 これも厄介な点です。初期の天皇の実在性については、諸説あり、しかも思想・政治的な立場から自説を主張する人も多く、混乱しているからです。

ざっと見ても、これくらいの意見が錯綜しています。

①初代・・・神武天皇以降全て実在した

 戦前の教育がこれですね。さすがにもうこの説は無いだろう、と思いますが、未だに強硬に主張する方が大勢います。

たしか、最初の16代までの天皇の平均年齢は100歳を超えたはずです。中には150歳を超える長命の天皇もいました。これを全て真実として受け入れる柔軟な思考が必要な説ですね。

②第10代崇神天皇以降は実在した

③第15代応神天皇以降は実在した

ところで入試頻出の、「ワカタケル大王」=「倭王武」=雄略天皇は第21代です。

④第26代継体天皇以降は実在した

 

仁徳天皇は第16代です。

ちなみに仁徳天皇は、古事記によれば83歳、日本書紀によれば143歳の長寿です。

 

◆古墳名は地名に依拠するルール

 被葬者が確定できない以上、古墳を「〇〇天皇陵」と呼ぶことは、学問的に問題です。

そこで、陵墓についても、他の古墳と同じように、地名・地元の昔からの呼称に基づいて呼ぶことになりました。

仁徳天皇陵については、堺区大仙町にありますので「大仙古墳」となります。古文書にもこの名称が多くみられます。ただし、大阪府が、一部の古文書にある「大山古墳」という呼称を使ったため、両方の呼び名が流布してしまいました。

 

◆世界遺産登録

 2010年に「百舌鳥・古市古墳群‐古代日本の墳墓群」が世界遺産に登録されたのですが、そこでは「仁徳天皇陵古墳」として登録されてしまったのです。

いったいどういう力がそこに働いたのかはわかりません。

どうしても「仁徳天皇陵」にしたいのでしょうか。

それなら、きちんと学術調査をして、「仁徳天皇の墓で間違いない」という証拠を示せばよいのに、と思います。

そもそも個人の先祖の墓が「世界遺産」になるのはどうなんだろう? もし世界遺産とするなら、それは日本だけでなく、世界全体の「遺産」なのですから、調査・公開の対象とすべきではないのかな?

 

学校の模範解答はこうでした。

呼び方を変えることを主張した理由は、仁徳天皇の墓という証拠がないから。
考古学者が要望したいことは、誰の墓かをはっきりさせるために発掘調査をすること。 

まずまず無難な答です。それはそうですね。

 

古墳については、この記事もぜひお読みください。

peter-lws.net

 

グラニテ・・・主菜の間のシャーベット

平清盛が貴族たちの反発を抑えるために、天皇の力を利用して就いた高い役職と、強大な権力を手に入れたやり方をそれぞれ答えなさい。

まさにちょっとした口直しレベルの軽い記述です。

もちろん解答も定番です。

太政大臣という高い位についた。娘を天皇の后として、生まれた皇子を天皇
にして、強大な権力を手に入れた。 

もっとよく出題されるのは、藤原氏が天皇の外戚となって権力を掌握したことについての記述ですね。しかし、平清盛についても藤原氏にやり方に習ったという文脈で生徒達は学習しています。

 

主菜その2・・・日韓関係

(佐渡金山の世界遺産登録について)

韓国政府は当初、登録に反対し、世界遺産として登録するためには、佐渡島と韓国との過去の関わりについて展示を行うべきだと主張しました。韓国政府は2015年の長崎市の炭鉱・端島(軍艦島)の世界遺産登録の際にも、同じ主張をしていました。
韓国政府が主張した展示の内容がどのようなものか、以下の〔条件〕に従って説
明しなさい。
〔条件1〕当時の日本との関係について触れること。
〔条件2〕1940年から1945年の日本の状況に触れること

単純に、「世界遺産登録おめでとう!」というわけにはいかないのですね。

そういえば、過去にもどこかの学校で、原爆ドームの登録に中国・アメリカが反対した理由を書かせる記述がありました。

 戦争の長期化で労働力不足になっていた日本が、植民地であった朝鮮から、労働者を佐渡島へ強制連行していたことがわかる内容。 

いわば日本の発展の犠牲者となった、朝鮮から日本へ強制連行された労働者について、知っていることが求められています。

この他、徴用工問題や従軍慰安婦についても、理解していることが大事だと思います。

従軍慰安婦について小学生に説明するのは実は難しいのですが、難しいからといって避けて通ってはいけない問題だと思うのです。

 

主菜その3・・・民主主義を守る姿勢

日本国憲法第21条では、表現の自由が保障されています。
『第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。』
表現の自由は、国民が政治を決める民主主義にとって不可欠な国民の権利です。
特に「集会、結社の自由」は、選挙と違う方法で政治に影 響 を与えます。
憲法が保障する「集会、結社の自由」が民主主義にとって重要なのはなぜか、集会または結社の具体例を1つ挙げながら、説明しなさい。

とても大切な問題ですね。

民主主義を守るためには、何が重要なのか、何が必要なのか。

世の独裁政権が、どうして「政治集会」を嫌うのか、天安門事件を例にあげるまでもなく、世界中でよく見る話です。

・集会の具体例としてデモ活動が挙げられる。これが重要なのは、国民が直接、政治的主張を伝える手段であるから。
・結社の具体例として政党の結成が挙げられる。これが重要なのは、国民の意見を集約して伝える手段であるため。 など

もちろん模範解答例は、ごくオーソドックスなものでした。

 

デザート・・・もうお腹一杯

デザートといえど、なかなか豪華です。最後に鷗友らしい記述が出ています。

2024年のオリンピック・パラリンピック競技大会は、その運営方法が注目されました。
これまでの大会では、大規模な会場を新設したり、豪華なスタジアムが設営されたり、広い地域で行われたりすることが一般的でした。それに対して、今回のオリンピックでは、例えば、会場の95%をこれまでにある施設利用で対応したり、大会後に地域で利用できる施設として再利用することを決めました。そのために、オリンピック専用の新しい大規模な施設を建設することをやめました。
今回のオリンピックで、大規模な施設を建設することをやめたのはなぜでしょうか。2015年に国際連合で採択された取り決めの名前とその内容に触れながら、説明しなさい。

オリンピックについては、様々な批判が最近噴出していますね。

コロナ禍の開催となった東京オリンピックについても、実に多くの批判が集中しました。

神宮の樹木を伐採してまで建設した新国立競技場も、建設費用が約1569億円で、 年間維持費も約24億円から27億円ともいわれています。

2024のパリオリンピックでは、既存施設の使用が徹底されたことと対照的ですね。

取り決めの名前はパリ協定である。この協定は、気温の上昇を低く抑えることを目標としている。大規模な施設の建設をやめたのは、コンクリートなどの材料を大量につくり、それらを運ぶことで温室効果ガスが発生するから。

解答はきわめて平易です。パリ協定はさすがに知っているはずです。

やはり2文以上の記述で、体言止めの「・・・から」を使われると、どうにも気持ちが悪い。「・・・・パリ協定である。・・・・目標としている。・・・・発生するから。

→「・・・・発生するからである。」「・・・発生することが理由である。

とするだけでいいのに。

 

 

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