中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学入試】フライング問題の問題 渋谷渋谷理科

中学入試問題を見ていると、時々(頻繁に)「その問題出してはダメでしょ!」と思わされる問題を見かけます。

今回はそんな話題です。

中学入試問題のレベル

 

みなさん良くご存じのように、中学入試問題のレベルは小学生の学習範囲・内容ではありません。

本来なら、小学生が受験するわけですので、小学校の既習内容・範囲から出題すべきなのですね。

しかし、残念ながら、それでは簡単すぎて、入試問題の得点の「差別化」ができません。

そこで、各中学校は工夫を凝らすのです。

(1)小学校の学習範囲ではあるが、思考力・記述力系の問題とする

(2)小学校の学習範囲を超えて、中学校の学習範囲まで踏み込む

 

この2つしかありません。

さらのこの2つを組み合わせます。

(3)中学校の学習内容で、思考力・記述力系の問題とする

 

ほとんどの学校が(3)の出題となります。

つまり、中学入試の問題の範囲・内容は、中学生の学習範囲・内容となるのですね。

もちろん全てというわけではありません。

例えば、社会科では世界地理・世界史はほとんど出題されません。

国語では、漢字として出題されるのは小学生の範囲です。

算数では、いわゆる「数学」は出題しません。

もちろん英語も。ただし、最近平気で中学生レベルの英語を教科として出題する学校が出てきましたが、これについては今回は触れないことにします。

 

つまり、中学入試は中学校の学習内容が試験範囲である、こうまとめてもよいと思います。

しかし、小学生に中学生の内容を出題してよいはずがありません。

これについては、いつのまにかそうなった、としか言いようがないですね。

別にルールも申し合わせもあるのではありません。各中学校の暗黙の了解・なんとなくの不文律として、「中学校の内容までは出してもいいよね?」という感じになっている、そういうことなのです。

 

2025年渋谷渋谷 理科

 第三回の理科の問題を見て目が点になりました。

みなさんも一緒に驚いてください。

 

問 ビタミンB6,D3,E,K1のうち、水溶性のものはどれだと考えられますか。次の中から1つ選びなさい。

 

大学入試で化学を専攻した人ならわかりますね。

ちなみに、一般に有機化学は高校3年生くらい、さらにビタミンの構造のような栄養有機化学は大学1年のときに学ぶとされています。

一部の中高一貫進学校で、理科の先生がそちらの専門で高1くらいから教える場合もあるようです。

 

決して、小学生の範囲でもなければ中学生の範囲でもありません。

 

ところで、水溶性ビタミンは、ビタミンB1・B2・B3(ナイアシン)・B5(パントテン酸)・B6・B7(ビオチン)・B9(葉酸)・B12・ビタミンCの9種類で、脂溶性ビタミンは、ビタミンA・D・E・Kの4種類です。

 

もちろんそれらを知っていれば解けます。

小学生でも常識です・・・そんな訳ない!

 

いちおうこの問題には、水溶性ビタミン・脂溶性ビタミンについての説明もあるのです。

◆水は「極性物質」である。

◆極性物質とは、プラスやマイナスの電気のかたよりがある物質

◆無極性物質とは、電気のかたよりがない物質

◆水は図のように極性物質である

◆極性物質どうしは異なる物質であっても引き合い、混ざり合う

◆無極性物質は引き合ったり反発したりしない

◆酸素原子と水素原子の間では電気のかたよりがあるため、O-Hの部分がたくさんあればそれだけ極性が強くなる

◆例えば図のビタミンCは極性物質なので油のような無極性物質には解けず、水のような極性物質と溶け合う。この性質を水溶性という

◆ビタミンA1は極性がほとんどないため、極性物質の水とは溶けあわず、油のような無極性物質と溶け合う。この性質を脂溶性という。

ここまで丁寧に説明されています。

 

だから、水溶性ビタミンを選ぶ問題は、「O-HがたくさんあるビタミンB6が水溶性なんだな」とわかるので、解けるのです。

 

でも、ちょっと、待ってください。

この水溶性ビタミンを選ばせる問題だけのために、およそ見開き2ページもの説明が書かれているのって、どう思いますか?

これだけの解説を必要とする問題、これだけの解説が無ければ解けない問題、しかもたった記号1つ を選ばせる問題を出題する必要ってあるのでしょうか?

 

私は、中学入試問題は、小学生の努力の延長線上にあるべきだという信念を持っています。

この問題は、あきらかにその延長線上にありません。希代の悪問だと認定します。

まあ、私が認定したからどうだ、という話にすぎませんが。

 

いちおう、この次の問題で、無極性部分・・・疎水基・親油基、極性部分・・・親水基=疎油基、に関連して、界面活性剤の問題が出されています。界面活性剤については理科で普通に教えるそうですので、この問題だけなら解ける問題です。わざわざ亀の子図まで登場させる必然性はありませんでした。

 

フライング問題の悪影響

 

実は、中学入試には時折このような、知識レベルの飛躍が見られるのです。これを私は「フライング問題」と命名しました。

 

ずいぶん昔の話ですが、社会科の日本史問題で「傘連判状」の史料問題が出されたことがあります。江戸時代の百姓一揆の際、農民たちがまるで寄せ書きのように署名した連判状をつくるのですね。一揆のメンバーの平等性を示し、首謀者をわからなくする、そうした目的だとされています。

※もっとも、首謀者をわからなくする、というのは目的ではないともいわれています。上下の差なく、団結して事に当たることを示した、というのが真相なのではないかと思います。ただし、中学入試では、「一揆の首謀者をわからなくするため」を正解としている学校が大半なので、子どもたちにもそう指導するほかありません。

実はこの資料は、大学入試の定番ではあるのですが、高校入試でも出題されることはめったになかったと思います。まして中学入試では出たことがなかったのです。したがって授業でも教えていませんでした。

ところが、どこかの学校で(すいません、あまりに昔で出題校が思い出せません。中堅男子校だったような)出題したのです。

問題を見た瞬間、私は青ざめましたね。教えていないことが出題される、これは塾教師としては絶対に避けねばならないことだからです。

そして、次の年からいろいろな学校で出題されるようになり、今では定番の史料問題となっています。

 

このように、どこかの学校がフライング問題を出題すると、他の学校がまねして出題することがよくあるのですね。

 

この渋谷渋谷のフライング問題、他の学校がまねしないことを切に願います。

 

※追記

ここまで書いてきて、もう一つの可能性を思いつきました。

この渋谷渋谷の問題は、「長い科学的な説明文」を読む力を測りたかったのかもしれません。

仮にそうだとしても、私のジャッジは変わりませんが。

 

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