中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学受験】受験勉強はつらかった

大学生になった教え子に会ったときに聞いてみました。

「中学受験の勉強、つらかった?」

すると見事に答が別れたのです。

「凄い楽しかったっす!」

「つらかった・・・・・」

いったいこの違いはどこから?

今回はそこを考えてみましょう。

 

学力と志望校のミスマッチ

 

学力・志望校

ものすごく単純ですが、このように整理してみます。

志望校レベルは合格偏差値です。ただし、記述・思考力問題を多く出す学校は単純に偏差値では測れませんが。例えば麻布は開成より偏差値で8くらい下ですが、だからといって開成に受かる子が麻布を受けても受かるとは限りませんから。

やっかいなのが縦軸の能力・学力の測り方です。単純に考えれば、模試の偏差値をあてはめればよいのですが、それだけともいえないのです。

・集中力

・注意力

・思考力

・持続力

・頭の回転速度

・教養

数回の模試では測ることのできない、でも確実にそこにあると思われる「能力」もありますので。

今回はそんなに厳密な話ではありませんので、単純な「頭の良さ」程度に考えることにします。

 

(1)志望校も学力も高いグループ・・・A

 上の図のAに相当する子たちは、受験勉強を楽しんでいた子が多かったようですね。

一般には相当な努力を必要とし、それでもなお合格することが困難な学校なのに、楽々、とまではいいませんが、受験勉強中も何かの余裕が感じられた子たちです。

塾で学ぶような高度な内容が大好きで、問題を競い合って解くようなタイプです。

男子最難関校から日本最難関大学へ進学した子と話をしていたらこんなかんじでしたね。

「先生、今年の開成の算数のあの問題、おもしろかったですね」

「何で知ってるの?」

「ちょっと暇つぶしに電車の中で解いてみたから」

「暇つぶしって。大学入試直前だったじゃないか!」

「まあ息抜きというか」

大学入試期間にもかかわらず、息抜きが中学入試問題を解くことだとは。

この子曰く、人生で一番勉強して一番充実してたのは、中学受験勉強をしていた頃だったのだそうです。いやいや、君の進学した学校もハイレベルな勉強をしていただろうし、まして大学受験では全国から集まるライバルを蹴散らす勉強をしていただろうに。

「良い思い出」になっているのですね。

どうしてそんなに楽しかったのか聞いてみました。

「やっぱり、知らないことを教わることとか、解けなかった問題が解けるようになることとか、そういうのが楽しかったなあ」

 

実は、最難関とされる学校に進学する生徒には、一定数こうした生徒が存在します。

例えば合格最低偏差値が60の学校だったとして、合格者全員が60台前半の学力というわけではないのですね。偏差値でいえば70超え、あるいはもう数値化できないような能力を秘めた生徒が多数いるのです。

こうした「青天井」に優秀な子にとっては、中学受験勉強もまた楽しい思い出なのでしょう。

 

(2)学力以上の学校を志望するケース・・・B

実は、中学受験をする子たちで最も多いのがこのケースです。

そして、塾教師としては、最も応援したくなり、力を入れて指導する子たちです。

・高い目標に向かって努力する

・努力によって夢をかなえる

素晴らしいではありませんか。

たとえ第一志望に手が届かなかったとしても、その努力は必ずプラスの影響をもたらしてくれます。

しかし、「中学受験勉強はただただつらかった」とこぼしていたのもこの子たちでした。

最難関女子校から、二番手国立大学(二番手といっても、東大ではないというだけで、世間一般的には超一流難関国立大学です)に進学した子との会話です。

「やっと大学生になったんだね。ところで、中学受験勉強って楽しかった?」

「楽しいわけないよ。先生、何言ってるの?」

「でも、〇〇中学に進学できたんだから、凄いじゃないか」

「それは、あれだけ勉強しまくったからね。1年365日、朝から晩まで机に向かってたんだから」

「それじゃあ楽しくなかったんだ」

「うん!」(物凄い強い返事でした)

「そうか・・・。でも、中高は楽しかっただろ?」

「どうだろう? 楽しくなかったわけじゃないけど。でも、学校の帰りには塾にほぼ毎日行ってたし。中学受験勉強をしてた頃とあんまり変わらなかったよ」

「塾はどこ行ってたの?」

「〇〇会で英語と数学、あと〇〇〇で英語の多読もやってた」

「それは大変だったね」

「まわりの子もそんなかんじだったから。私なんかたぶんビリのほうの成績で合格したと思うから。だから勉強しないと置いていかれるし」

 

中高生は勉強すべし!という考えの私ですが、さすがに「これでいいのだろうか?」と思わされてしまいましたね。

 

(3)学力以下の学校を志望するケース・・・C

 いわゆる「安全志向」というやつですね。

最近多くなりました。

価値観が多様化した、といえば聞こえはいいですが、親も子も「冒険」「チャレンジ」を避けているだけのような気がします。

 

ある男子生徒の話です。

最難関私立を第一志望としていました。

学力・能力的にも十分届く、いや合格が見込めるレベルの生徒でしたね。

そして第二志望は国立です。

親の希望は国立進学、本人の希望は最難関私立進学でした。

両方合格して迷う、そうした生徒になれるところだったのです。

しかし、6年の夏頃、1日の志望校を下げます。理由はたった一つ、怖くなったからです。

最難関私立の合格発表は3日です。そのまま3日の国立受験が怖くなったのですね。それなら1日の志望校を下げて、合格を2日に確認してから3日の国立を受けたほうがいい、そう考えました。

 

経験から言うと、こういうことを考えた子は、国立に受かりません。

この子も、下げて受験した私立には合格しましたが国立には不合格でした。

進学した私立も良い学校です。レベルも高い学校です。

この生徒も充実した中高生活を送りました。学校でも最上位の成績をキープしていたそうです(本人談)。

大学入試では、最難関国立大は受からず、私大に進学しました。惜しい点数だったそうです(本人談)。

「惜しかったみたいだね。浪人して国立目指してもよかったんじゃないか?」

「いや、先生。浪人はかっこ悪いから。それにあの国立大ばっかりが良い大学ってわけじゃないし」

「それはそうだね。君が進学した私大も凄いからな」

「俺、1年か2年したら、この大学中退して、海外大学目指すから」

「へえ? どうして?」

「ま、日本の大学に通っても、これからは通用しないっすよ」

「そうか。まあ頑張れ」

 

結局この子は、大学時代に短期留学をちょっと経験しただけで、そのまま私大を卒業し日本の企業に就職しました。

別に悪いルートではありません。むしろ、世間的には羨ましがられると思います。

しかし、この子の学力・能力からみて、ほんとうにこれで良かったのか、疑問が残ります。

中学受験のときからすでに、「逃げ」の姿勢が身についてしまったとしか思えませんでした。

「ところで、中学受験勉強って楽しかった?」

「そうっすね。まあまあ楽しかったかな」

「まあまあ、か」

「そんなに必死になって勉強した記憶もないし。けっこう遊んだし。あ、俺、小6の夏期講習休んだんですけど」

「そうだったのか?」

「実は家族でアメリカに旅行に行ったんすよ」

「海外旅行! よくもまあそんな余裕があったもんだな」

「志望校下げたから大丈夫かなって。先生に言うと怒られるから黙ってたんすけど」

「・・・・・」

 

(4)学力も志望校も低いケース・・・D

 学力が低いと勉強は大変です。志望校選びも難航します。

しかし、それだからこそ、子どもにあった学校を必死に探す方が多いのです。

東大合格者数を競うような学校は最初から目標となりません。

むしろ、丁寧な指導、面倒見の良さ、学校の雰囲気、生徒の様子、そうしたものを重視して、学校を選ぶようになるのです。

もちろんそうした学校は人気もありますし、合格するのは大変です。

そのための勉強を一所懸命やるのは当然です。

基本を充実させながら応用を少し、そんな学習スタイルですね。

 

その生徒は、中堅(or下位)の偏差値レベルの学校に進学しました。

本人の第一志望校です。

「久しぶりだね。学校はどうだった?」

「もう、すごい楽しかった!」

「そうか、それは良かった。変なこと聞くけど、もし自分の娘がいたら、同じ学校に通わせたい?」

「もちろん!」

この質問はよくする質問です。通った本人が、自分の子どもを通わせたくなる。間違いなくその生徒にとっては「良い学校」だったと確認できます。

「ところで、中学受験の勉強はつらかった?」

「そうだなあ。もしかして人生で一番勉強した時期かもしれないけど、でもつらいってかんじではなかったかな」

「でもテストで点がとれなくて苦しんだだろ?」

「それはそうだけど。でも、最初から満点なんか目標にしてなかったから。最初のうちは、半分とれるようにしよう、それが目標だったし。そしてその次は、6割目指そうって。そういってくれたの、先生じゃない」

「そうだったかな」

「そうだよ。君は偏差値や順位を見るな、って言ってくれたよ。ま、あたしの成績じゃ、見るだけ無駄だったけどね。だから毎回、自分で解ける問題だけ解こうって思ってた。それで、少しずつ解ける問題を増やしていけばいいってさ」

「それじゃあ、楽しかったのかな」

「う~ん。そのころはそうは思わなかったけど。やっぱり勉強ばかりしてたから。でも今振り返ると、悪くなかった気がする。うん、楽しかったんだよ、きっと」

この生徒は、早慶の次のレベルの私大に進学しました。最初から無謀な高みを目指さず、自分にできることを少しずつ増やしていった結果です。それらの私大の附属中には合格など遠く及ばなかったレベルの生徒でしたから、充実した中高生活だったようでうれしかったですね。

 

結局のところ、能力以上(以下)の学校を目指すのがいけないような気がします。

それが、中学受験時代を振り返ったときの感想の違いになるのでしょう。

 

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