今回の記事は、遊びです。
「もし中高一貫校を作るとしたら?」
現実ではありえないこの設定を考えてみよう、というわけです。
やるからには「成功」させたいですよね。
ミッション:「人気校を作れ!」
今回のミッションは、人気校を作ることです。
人気校=生徒が集まる=儲かる
ということです。
この際、「教育理念」とか「子どもの未来」とかそういう理想論は無視します。
とにかく生徒が集まる「人気校」を作ることをミッションとします。
※私はサービス業の塾屋にすぎませんが、それでも、教育についての「理想」を持っています。今回は、そんな私の青臭い理想論は封印しての「遊び」です。
人気校=市場のニーズをとらえる
行列のできるラーメン屋と同じことです。
店主のこだわりやラーメンにかける思いなどどうでもいいのです。
ただし、そうした「こだわり」や「店主の思い」を、演出の材料として使うのは良いですね。そういうものが好きな客も多いですから。
私など、並ばずに手早くお腹が満たされることを優先するのでチェーン店のラーメン屋ばかりですが、今は手作り麺と出汁にこだわる塩ラーメンが人気だと聞きました。
さて、人気校を作るということは、現時点で市場が求めていること、今後の市場が求めるであろうニーズをとらえるということですね。
(1)グローバル
もうすでにだいぶ手垢がついたワードですが、これを求める層は相変わらず多いです。
しかし、ここで求められているのは、「真のグローバル」ではなく、「グローバル風」であることに注意が必要です。
◆わが子には英語を使いこなせるようになってほしい
おそらく、親が英語を使いこなせていないのです。あるいは、英語を身に着けるのに苦労したのです。だからこそ、わが子にはそうした苦労をさせたくないのですね。
ただし、ここで親が求めている英語力は、難しい専門書を原文で読みこなす能力ではないことに注意が必要です。英会話が堪能であるレベルが期待されているのです。
◆将来、海外で活躍できるようになると嬉しい
これはどこまで本気かは注意が必要です。海外大学進学まで求めているのかどうか。そのまま日本に戻らずにアメリカで就職し現地の方と結婚して定住することまでを求めているのかどうか。おそらくニーズはそこにはありません。
(2)理系教育
どうやら時代は「理系」なのだそうです。文系不人気だそうです。相変わらず医学部も人気です。ただし、「本気の医学部」層と、「なんとなくの医学部」層に分かれます。学校のコース名に「医学部進学コース」などとうたわれているからといって、集まるのは「本気の医学部」層ばかりというわけでもありません。
(3)面倒見が良い
学校に全てまかせたいのです。わが子を、手取り足取り、大学合格まで導いてほしいのです。
(4)親へのケア
親も学校からケアしてもらいたい、そういうニーズは大きいですね。親が学校へ行く機会も多く、学校も生徒の様子を逐一親に報告してくれる、そうした学校に安心感を抱くのです。
(5)設備・環境
古臭い建物や教室は嫌なのです。陽光の降り注ぐカフェテリアやライブラリー、明るい教室、ソファーが置かれたエントランス、こうした環境が好まれます。
(6)ICT
パソコンを活用した授業、プログラミング、リモート授業、とにかく最先端の機器を活用してくれるのが嬉しいのですね。
(7)若い先生
年配のベテラン教師よりも、若手の教師のほうが人気です。最先端の教育技術を身に着けている気がするからです。
(8)大学実績
もちろん大学に進学できなければ困ります。東大は素敵ですが、それ以外にも「海外大学」の実績も魅力です。
(9)かわいい(かっこいい)制服
古臭いセーラー服は不人気です。詰襟などもってのほか。ジャケット・パンツ・スカートなど、複数の中から自由に組み合わせて着用できる制服が人気です。
(10)留学制度
オーストラリア・ニュージーランド・カナダ等の人気エリアの留学制度は欲しいですね。しかし、1年間もの「ガチ」な留学は求めていません。1~2週間程度の「留学風旅行」でいいのです。
(11)共学
どうも男子校・女子校よりも共学校のほうが流行のようですね。なんだか「新しい」匂いがするからです。たしかに「伝統校」は別学ばかりですので。
(12)校内予備校
これは人気です。夏期講習を学校でやってくれるのです。
設定
だいたい市場のニーズが整理できたところで、いよいよ新規校の設定に移ります。
実はここで少し迷います。
◆現時点のニーズをとらえるか
◆将来のニーズをとらえるか
この2つで迷いますね。現時点のニーズをとらえるのは簡単なのですが、将来のニーズをどう予測するのかが難しいのです。例えば今後はこうなるのでしょうか?
◆原点回帰
オーソドックスな教育に回帰するかもしれません。1周回るというやつです。結局のところ、教育は人と人の関係で成立するものですから、昔ながらのやり方が実は一番優れているのかもしれません。
◆日本脱出
もう日本に未来はない。そう言われ続けています。たしかに、日本経済や政治の現状を見ると、将来の子どもたちが日本だけにとどまることはマイナスなのかもしれません。この場合、「イマージョンプログラム」になるのでしょう。もう日本語による教育を捨てるのです。
◆専門教育
大学の理系人気は、産業界からの要望によるものです。即戦力が求められているのです。その波が、高校→中学→小学校まで浸食をはじめています。
それならいっそのこと、教養を高める教育を捨てて、将来に役立つ技量だけを教育するのはどうでしょうか。
◆英才教育
日本の教育の問題点は、「平準化」にあるといわれています。根本的な能力の差を認めないので、上が伸びない。そこで、「吹きこぼれ」といわれるような子を徹底的に伸ばす教育のニーズがあると思います。中学受験はある程度そのフィルターの役割を果たしているのですが、まだまだ甘いですから。もっと先鋭化してもよいでしょう。
私の頭脳レベルではこれくらいしか思いつきません。
やはりここは「すでに見えているニーズ」を追うことにします。
どんな学校になった?
わが校は、急変する国際情勢や国内情勢の中、自ら考え、素早く行動できるグローバル人材を育成することを目標に掲げます。
Think deeply and act quickly
深く考え、素早く行動する
これがわが校の理想とする生徒像です。
まずこんなところでいかがでしょうか。
あとは、ネームバリューの高い土地に作りたいですね。白金・三田・芝・青山・赤坂・麻布・松濤・番町、こうした地名が理想です。土地取得がものすごく大変そうです。
施設としては、理科実験室の充実は欠かせません。物理・生物・化学、それぞれに分かれた専用の講義室・実験室を作りましょう。この際、美術室や音楽室や家庭科室は最小限でかまいません。
意外と求められていないのが、「広いグラウンド」です。それは郊外に別途グラウンドを所有するか、借りるかすれば十分です。それより、天候を気にせず使える体育館や室内プールのほうが重要です。
カフェテリアは大事です。ここは目立つポイントですから。とくに弁当の必要が無いのはポイント高しですね。
ライブラリーは、対外的な印象を良くします。いかにもアカデミックな匂いを演出できますから。洋書など揃えると好印象です。
また、自習室は大事です。日曜でも夏休みでも365日、遅い時間まで毎日使える自習室、これは評価されます。ついでに既卒生でも利用できるようにしてあげましょう。
ホール・講堂は、学校説明会で最初にお客様をお迎えするところですので、立派にしたいですね。ただし、昨今はどの学校でもそうとう立派な講堂を持っていますので、これだけでは差別化できません。しかも利用頻度が低い施設です。私が過去に訪問した学校で記憶に残るのは、舞台背後がガラス張りで、外庭の樹木がガラス越しに見える作りの講堂や、天井がドーム形式で、柔らかな光に満たされる多目的講堂兼体育館といったものでした。
さて教育内容については、以下をポイントとしましょう。
◆英語・・・TOEFL iBTの100以上をめざしましょう。TOEFL iBTのスコアが80あれば、アメリカのほとんどの大学に出願が可能です。100あればほぼ全ての大学に出願が可能なレベルです。ちなみにハーバードは104が必要です。
ただし、まだまだ「英検信者」は多いです。英検1級取得を謳うのも良いと思います。
多読も人気ですね。実際に効果がありますので。図書室に多読用の本を揃えることは大切です。
英語については、帰国生もいることを考えると、いっそのこと学年の境目を取り払って、英語のスコアで細かいクラス分けをするのもよいかもしれません。
CEFR (Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment:外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠)が良いと思います。A1・A2・B1・B2・C1・C2の6段階ですね。これをさらに学校独自の指標でそれぞれ細かくわけるとよいでしょう。
◆理系教育・・・医学部を目指すコースと、理系全般をめざすコースは必須です。文系の「教養」教科は不人気です。大学とコラボして、本来なら大学で実践するような「実験・研究」など取り入れると良いと思います。しかしこれもあくまでも本格的な実験や研究が求められているわけではありませんので、「研究風」で十分です。最先端の実験器具を白衣を着て扱うだけでよいのです。
その中から、「国際〇〇オリンピック」を目指せる子たちが出てきたらしめたものですね。
◆生成AI・・・今はこれがトレンドでしょう。自在に生成AIを使いこなせることを目指します。プログラミングはさすがに古いですから。
◆リテラシー・・・なんとなく大事そうに思えるワードですね。たしかに大切です。
◆帰国生・・・「即戦力」として重要です。積極的に海外に営業部隊を派遣しましょう。ただし、どの学校も同じことをやっていますので、選んでもらうための仕掛けも大切です。まずは校地の隅に、中高生用の学生寮を作れれば人気を集めると思います。また、帰国生クラスからは、「日本式教育」の匂いを消すのも大事ですね。彼らの個性を重んじ、能力を伸ばしてあげることを強調します。
◆普通の私立は、高2で高3までのカリキュラムが終了します。あとは1年かけて大学受験の準備をするのですね。ここも、もう少し前倒しにできる教科は、高1までに、大学受験に必要なカリキュラムをだいたい消化すると良いと思います。中高一貫校生対象の塾のスピードを見習いましょう。
◆塾不要・・・保護者は、私立中高に通わせながら、他の塾になど本当は通わせたくはないのです。お金も時間もかかりますから。それではなぜ鉄とかSEGとかに通わせるのか? それは「不安」だからです。皆が通うからです。通わないと「東大等難関大」に合格できないと思いこまされているからです。
こればかりは、いくら学校が「うちの学校は塾不要です!」と強調したところで、中学受験で長年沁みついた「塾依存」からは抜けられません。
それなら、いっそのことそうした塾の教師をヘッドハンティングして、学校内に「塾」を作ってしまえば良いと思います。学校の定期試験対策をしてくれる「塾」と、東大を目指すための「塾」、さらに医学部を目指すための「塾」こんなあたりでしょうか。
なんだか「誤魔化し」のような気がしなくもないですが、世間がそれを求めているのなら、それを提供してあげましょう。
これは「有料」にするほうが良いと思います。もちろん格安で。そうした「塾」を必要としない層もいますので、必要とする人達は「課金」することで満足感を得られるのです。
さて、遊びはこれで終わりです。
はたしてこんな学校が「人気校」になれるのかどうかはわかりません。
そんなに簡単・安直に「人気校」ができるのなら苦労はありませんので。私の浅知恵など知れたものですから。
しかしながら、私の「浅知恵」で思いついたような学校がすでにたくさんあるように思えるのは気のせいでしょうか?