最近(最近でもないですが)、STEM教育、STEAM教育というワードが、中高の説明会にうかがうと聞かれるようになりました。
今回はSTEM教育、STEM教育についての話題です。
STEM教育の歴史
STEM教育
S 科学(Science)
T 技術(Technology)
E 工学(Engineering)
M 数学(Mathematics)
1990年代のアメリカから生まれた言葉です。
2009年に、オバマ大統領が米国科学アカデミーの演説でSTEM教育の重要性を演説したことから広く知られるようになりました。
2012年のOECDによるPISA(学習到達度調査)で、アメリカの数学・科学リテラシーの低さが問題となり、STEM教育の必要性に注目が集まります。
2013年、「STEM教育5カ年計画」が策定され、2020年までに初等・中等教育のSTEM分野の教師を10万人養成 STEM分野の大学卒業生を100万人増加させるという目標が立てられました。年間30億ドルの予算を使うというものでした。
また、STEM教育は、移民政策にも影響します。早い話、移民であってもSTEMの教育を履修したものにはビザを発給する、とそういうことですね。
また、2006年にアメリカの教育者により、「STEAM教育」が提唱されました。
STEM教育にArts(リベラル・アーツ)の要素を加えたのです。
Artsは、リベラルアーツ以外にもArtの概念を含むということのようです。
最近では、好んで「STEAM教育」を使う傾向があるようですね。
さて、文部科学省も、このアメリカからやってきた「教育の新潮流?」に乗っかります。2021年の中央教育審議会の答申にはこうあるのです。
○ 教育再⽣実⾏会議第11次提⾔において,幅広い分野で新しい価値を提供できる⼈材を養成することができるよう,新学習指導要領において充実されたプログラミングやデータサイエンスに関する教育,統計教育に加え,STEAM教育の推進が提⾔された。⾼等学校改⾰を取り上げた本提⾔において,STEAM教育は「各教科での学習を実社会での問題発⾒・解決にいかしていくための教科横断的な教育」とされている。
○ STEAM教育については,国際的に⾒ても,各国で定義が様々であり,STEM(Science, Technology, Engineering,Mathematics)に加わったAの範囲をデザインや感性などと狭く捉えるものや,芸術,⽂化,⽣活,経済,法律,政治,倫理等を含めた広い範囲で定義するものもある。
STEAM教育の⽬的には,⼈材育成の側⾯と,STEAMを構成する各分野が複雑に関係する現代社会に⽣きる市⺠の育成の側⾯がある。各教科等の知識・技能等を活⽤することを通じた問題解決を⾏うものであることから,課題の選択や進め⽅によっては⽣徒の強⼒な学ぶ動機付けにもなる。⼀⽅で,STEAM教育を推進する上では,多様な⽣徒の実態を踏まえる必要がある。科学技術分野に特化した⼈材育成の側⾯のみに着⽬してSTEAM教育を推進すると,例えば,学習に困難を抱える⽣徒が在籍する学校においては実施することが難しい場合も考えられ,学校間の格差を拡⼤する可能性が懸念される。教科等横断的な学習を充実することは学習意欲に課題のある⽣徒たちにこそ⾮常に重要であり,⽣徒の能⼒や関⼼に応じたSTEAM教育を推進する必要がある。
このためSTEAMの各分野が複雑に関係する現代社会に⽣きる市⺠として必要となる資質・能⼒の育成を志向するSTEAM教育の側⾯に着⽬し,STEAMのAの範囲を芸術,⽂化のみならず,⽣活,経済,法律,政治,倫理等を含めた広い範囲(Liberal Arts) で定義し,推進する・・・・・・その実現のためにはカリキュラム・マネジメントを充実する必要がある。・・・・・・⾼等学校における教科等横断的な学習の中で重点的に取り組むべきものであるが,その⼟台として,幼児期からのものづくり体験や科学的な体験の充実,⼩学校,中学校での各教科等や総合的な学習の時間における教科等横断的な学習や探究的な学習,プログラミング教育などの充実に努めることも重要である。さらに,⼩学校,中学校においても,児童⽣徒の学習の状況によっては教科等横断的な学習の中でSTEAM教育に取り組むことも考えられる。その際,発達の段階に応じて,児童⽣徒の興味・関⼼等を⽣かし,教師が⼀⼈⼀⼈に応じた学習活動を課すことで,児童⽣徒⾃⾝が主体的に学習テーマや探究⽅法等を設定することが重要である。
これでも抜粋です。まだまだ延々と続きます。
どうしたらこんなに「わかりづらくて」「読む気が起きない」文章が書けるのか、感心してしまいます。
要するに、「欧米で流行っている『STEM教育』『STEM教育』とやらを推進しないと日本は遅れちゃうよ!」
「社会で即戦力として使える理系人材を、小中高から育ててね!」
ということが言いたいのでしょう。
STEM・STEAM教育を標榜する私立中高の例
ここで、私立中高の例をとりあげてみましょう。
◆武南中学校
埼玉の蕨に13年ほど前に開校した中学です。中2でアジア、高1でアメリカに研修旅行があるそうです。
この中学は、埼玉大学STEM教育研究センターとの協同により、プログラミング授業や、教科横断型の授業が行われているとあります。
プログラミング授業はどのようなものかというと、段ボールで作った車にプログラムを組んだ機械を載せた自動走行する車を作成したそうです。
この「車を組み立て、プログラミングで動かす」というのは、「プログラミング教育」の定番中の定番ですね。多くの「学校教育用キット」が販売されています。
学校のHPからプログラミング授業の写真を見ると、やはりこうしたキットを使っているようでした。
この学校の中一生徒数を確認すると、2013年に57名からスタートしたもののその後減り続け、2018年には7名と落ち込みました。その後また増加に転じ、2023年には56名となっています。募集定員は80名ですので、定員割れが続いています。
◆芝浦工業大学附属中学校
まあ、学校名を見てもわかる通り、別に今さら「STEAM」の名乗りを上げる必要はない学校ですね。
芝浦工業大学の特別授業が中1から行われます。
中学1年生:工学わくわく講座
中学2年生:ロボット講座
中学3年生:ものづくり体験講座
大学生のサポートをうけながらの講座です。楽しそうですね。高校になると、大学教授の指導により、ロボットやエンジン等についても学べるとありました。
◆工学院大学附属中学
ここも、校名が表している通りの学校です。
3Dプリンターや3Dスキャナーが完備しています。プログラミングやゲーム制作など多彩な講座があるようです。
◆聖徳学園中学
教科の枠にとらわれないSTEAM教育を実践しているとあります。
・コンビニ経営シミュレーション
・クレイアニメーション制作
クレイ(粘土)アニメーションでは、粘土で造形する美術の力と物理の知識、シナリオライティングの国語力が横断的に学べるのだそうです。
ちなみにこの学校では、「プログラミング入試」という入試もあります。「マインクラフト」を使って、指定されたお題、例えば「「指定されたWorldで打ち上げ花火ショーをデザインしなさい」という指示をマインクラフトで実現するというものが出題されました。
実は私は、小学生のプログラミング教育に意義は無いという立場です。
そのことについては以下の記事に書きました。
その他にもSTEM教育を標榜する学校は多数ありますが、だいたい3種類に分類できるような気がします。
①工業系・理系大学附属
STEAM教育などという語句が輸入されるより以前から、大学と連携した理系教育・工学教育を実践していた。
②理系教育に力を入れる学校
最近の「理系人気」を受け、理系の大学実績を上げたいと考えている。そのために「理系教育」に力を入れている。
③生徒募集に積極的な学校
少子化の中、生徒募集に苦戦している。流行りの「STEAM教育」を前に出すことで、少しでも生徒を集めたいと思っている。
それにしても、いい加減、「アメリカの教育はこんなに進んでいるのに、日本は遅れている」「〇〇教育を実践しないと世界では時代遅れになる」という欧米礼賛型短絡思考から脱するべきだと思います。明治の「お雇い外国人」を異常な高給で招聘した時代と何も変わらないではないですか。
教育内容に定評があり、確固たる教育理念がある学校ほど、こうした「流行り物」には飛びつかないものです。
「看板」に惑わされない学校選びが重要だと思います。