昨年、こんな記事を書きました。
今回は、さらに「学校案内」を活用した学校選びについて書いてみます。
学校選びの第一歩は「学校案内」から
建前を言えば、まずは学校を訪ねることが第一歩のはずなのです。中学校の学校説明会に出席すれば、入学案内ももらえますし、学校によっては実物入試問題も配ります。また、学校の見学をさせてくれるところも多いですね。
まさに「生」の情報であり、「直接」得られる第一次情報です。
ただし、これには大きな問題があることに気が付きました。
「魅せ方」が上手な学校に惹かれすぎるという問題点です。
◆カラフルな入学案内
◆きれいな校舎
◆充実した学校設備
◆弁舌が巧みな入試担当教師
◆パワポや動画の構成
もちろんどれもその学校を知るためには重要な要素なのですが、どうしても惑わされてしまいがちです。
ある学校の説明会はこのようなものでした。
大勢の先生方が校門から講堂まで丁寧に案内してくださいます。講堂はまるでコンサートホールのように広くて綺麗です。壇上では、生徒有志による弦楽四重奏の生演奏が行われています。とても上手で心が落ち着きます。演奏が終わると、檀上には司会の先生が登場しました。司会のプロかと思うほどお話が上手で、会場を上手に沸かせます。やがて登場した校長先生もお話が上手です。途中で生徒の様子を紹介する動画が流されます。海外留学の様子や体育祭・文化祭の様子、またクラブ活動の紹介や授業風景等。画面に映る生徒達はどの子も生き生きとした表情で、この学校に通うわが子の姿を想像して胸が高まります。
説明会の後は、希望者は学校の案内をしていただけます。広い音楽室、陽光のさしこむ美術室、ガラス張りのカフェテリア、豊富な蔵書と自習スペースを備えたライブラリー。理科室には最新の顕微鏡や3Dプリンターが並んでいます。
これは、やられますね。もう保護者のハートが鷲掴みにされてしまいます。
また、保護者が説明会を受けている間に、子どもが教室に案内されて、そこで先輩の中高生から学校の様子を聞かせてもらう、そんな説明会もありました。
ある学校では、平日の夜に実施される説明会では、「まい泉」のサンドイッチとお茶が配られたそうです。
もちろんこのように、学校の良さを少しでもわかってもらうための努力は必要ですし、こちらも助かります。
ただ、「客観的に判断」するのには、相当な「慣れ」が必要なのもの事実です。
そこで、今回は、「学校案内」を熟読するところから始める学校選びを紹介します。
買うべき「学校案内」はこれ
中学入試用の学校案内は複数の会社から出版されています。
◆四谷大塚
◆日能研
◆SAPIX
塾が出版しているものは、この3種です。その他に、出版社が編纂したものがいくつかあります。
◆声の教育社
◆晶文社学校案内編集部
◆東京学参 編集部
◆読売新聞社
◆朝日新聞社(アエラ)
その他に、聞いたこともない出版社のものもいくつかあります。
これらの中で、買ってもよい、買う価値のあるものは、四谷大塚・日能研・SAPIXのものだけです。
理由は、塾独自の情報を持っていて、それをきちんとまとめているからです。
その他の出版社のものは、いろいろな塾や学校からの情報を集めてまとめただけと思ってよいでしょう。あくまでも出版社ですから、社内に中学受験の専門家がいないからです。内容が薄く、わざわざ買う価値はありません。
また、要注意なのは、無名の出版社のものです。
中学校から「広告宣伝費」を集めることを目的としているからです。信頼性に欠けます。
日能研・四谷大塚・SAPIXのものでは、SAPIX版が頭一つ抜けて見やすく必要な情報が載せられています。
そこで、SAPIX版を選ぶことをお薦めします。他の塾・出版社のものをあえて選ぶ理由は無いと思います。
全ての学校が、このように見開きで紹介されています。
◆住所・略地図・学年生徒数
◆学校の理念等
◆教育内容・コマ数
◆クラブ活動
◆行事
◆修学旅行
◆授業料・納付金
◆進路
◆大学合格実績
◆入試結果・平均点
◆募集要項
◆公開行事・説明会日程
これらが見開きにまとめられていますので、ページをめくって学校同士を比較するのにとても見やすいと思うのです。
◆私立・東京・男子校
◆私立・東京・女子校
◆私立・東京・共学校
◆私立・神奈川・男子校
◆私立・神奈川・女子校
◆私立・神奈川・共学校
◆私立・千葉・茨城・女子校
◆私立・千葉・茨城・共学校
◆私立・埼玉・男子校
◆私立・埼玉・女子校
◆私立・埼玉・共学校
◆私立・関西・男子校
◆私立・関西・女子校
◆私立・関西・共学校
◆私立・その他の地域・男子校
◆私立・その他の地域・女子校
◆私立・その他の地域・共学校
◆国立・東京・男子校
◆国立・東京・共学校
◆国立・大阪・共学校
◆公立・東京・共学校
◆公立・神奈川・共学校
◆公立・千葉・共学校
◆公立・茨城・共学校
◆公立・埼玉・共学校
目次構成はこのようになっていて、それぞれがあいうえお順となっています。
まあ、後半のほうはほんの少ししか学校はありません。国立・東京・男子校に該当する学校は筑駒一校ですし、公立中高一貫校は見開きではなく1ページ紹介です。
これで全296校が載っています。
782ページ中、学校紹介パートは217ページからですので、目次を合わせて実質566ページとなります。
前半の218ページには、一部の注目校の特集と、入試分析や受験のための基礎情報、そして学校の広告で占められています。
広告ページを数えると、90ページでした。
また、「サピックスが注目する伸びゆく中高一貫校特集」というパートは、おそらくはタイアップ企画だと思われます。これが33ページです。
およそ16%ほどが、広告関係で占められていることになりますね。
はっきりいって216ページは「無駄」です。見る必要はありません。
この無駄な200ページ余をカットして、掲載校を増やし、必要な情報だけにしてくれれば、多少高くなってもそのほうが良いのになあ、というのが私の意見です。ここで唯一役立つのが、折り込まれている偏差値表です。これは使えます。
使い方
まずやるべきは、必要のない学校と必要な学校を区別することです。
ここで「必要のない学校」というのは、距離的に通学不可能な学校を意味します。
たとえば城南エリアにお住まいだとすると、東京・神奈川の学校以外は除外します。いくらすばらしい学校だとしても、1時間以上の通学時間は非現実的です。この場合、ドアtoドアで時間を調べてください。駅-駅で1時間だとしても、家から駅まで15分、駅から学校まで20分かかるのならあきらめるべきでしょう。
まあ100歩譲っても、1時間15分程度まででしょう。
次に、残った学校、つまり通学可能な学校を、最初から丁寧に案内を読みこんでください。ここで大切なのは、学校名や偏差値を無視することです。
偏差値が高い学校がお子さんにとって良い学校ということではありません。
最近よく名前を聞く学校が良い学校ということでもありません。
中身がお粗末なのに広告宣伝だけが巧みな学校だってあるのです。
まずは学校名も偏差値も無視して、丁寧に案内を読みましょう。
そこでとくに注目すべきなのは、以下の点です。
(1)大学実績
ここは誤魔化しがききません。どんな大学にどれくらい合格しているのか、その学校のレベルを知る目安として有効です。
私はいつも早慶の数字に注目します。せっかく中学受験をするのですから、大学受験のときに、早慶くらいは狙えるようになってほしいじゃないですか。
「早慶くらい」と失礼な書き方をしましたが、実は大学入試で早慶に合格するのはなかなか大変です。それでも、難関校から中堅校までを比較する際には有効な目安だと思います。
(2)生徒数と入試結果
1学年の人数が、学年が上がるにつれて、極端に少なくなっている/多くなっている、そのどちらかの場合は要注意です。
◆途中で退学する生徒が多い
◆最近生徒数が減っている
このどちらかを警戒したいからです。もちろん多少の変動は誤差の範囲です。
ある学校を見てみましょう。
中1 128名
中2 94名
中3 73名
これはまた極端に変化していますね。
さらに調べてみると、この学校は高校入試で50名~70名の入学者がいて、最近数年の卒業生数は120名前後であることがわかりました。
大学の実績は、早慶はゼロ、GMARCHにも1名いるかいないかといったレベルですので、大学進学実績を求める学校ではないことが見て取れます。
2024年の入試結果を見ると、実質倍率は1.1倍ですので、全入ではないものの、だいぶ門戸を開いた学校ですね。なぜ中1の人数が増えているのかまではわかりません。
まさか50名もの生徒が中3になる前に退学するとは考えられませんので、もしかして最近人気が出つつある学校なのかもしれません。
別の学校を見て見ます。
中1 59名
中2 82名
中3 77名
中2・3は3クラスですが、中1は2クラスに減っています。
入試結果を見て見ると、実質倍率は1.2倍程度ですが、合格者数が募集人員を下回っています。唯一午後入試の回だけが上回っていますね。
合格者が全員入学することはあり得ませんので、あきらかに「定員割れ」している学校です。
注意
◆最新年度のものを買う
これらの学校案内が書店に並ぶのは、6月くらいです。したがって、今書店に並んでいるものは1年古いものになります。
1年くらいでは学校の内容は大きく変わらない、と言いたいところですが、違います。
女子校から共学化したり、名称変更したり、大学の付属校化したり。めまぐるしく変化しています。
取り急ぎ、今書店で売られているものを買ったとしても、6月に「最新版」を入手してください。
◆古本はやめよう
どこの誰が使っていたのかわからぬ古本、私なら手を出しません。途中に書きこみなどあるとうんざりだからです。
◆サピックス版には載っていない学校もある
こればかりは仕方がないですね。サピックスという塾のターゲット層は上にシフトしていますので。そういうときは、「声の教育社」版を参照しましょう。
情報は薄いですが、353校分掲載されていますので。
さらに、偏差値表も、四谷大塚・サピックス・首都圏模試の3種類が附属していますので、首都圏模試を受けている生徒にはこちらのほうが使いやすいと思います。