中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学受験】中受からみた小学校受験

以前にこんな記事を書きました。

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この記事を読んだ方から、こんな相談を受けたのです。

「結局のところ、小学校受験はすべきなのでしょうか?」

この質問への答を私は持ち合わせていません。ご家庭の方針であるとしか言えないからです。

それでも、中学受験の立場からは言えることもあるかと思い直し、この記事を書くことにしたのです。

※完全に私個人の私見にすぎません。「小学校受験はそんな世界じゃない!」というお叱りはご容赦を。私は中学受験の専門家にすぎませんので、小学校受験についてはあまり詳しくはないのです。あくまでも、中学受験に有利か不利か、その観点からの意見です。

小学校受験の経験は中学受験には役に立たない

 

人生にとって、学校の受験の機会は4回ありますね。

◆小学校受験

◆中学校受験

◆高校受験

◆大学受験

このうち、中受・高受・大受の3回は、教科のペーパーテストです。したがってそこを目指した勉強は、将来に必ず役立ちます。合格するためだけではなく、勉強そのものに価値があるのです。

しかし、小学校受験は異色です。異色すぎます。

そのための努力は、中学受験には一つも役に立ちません。

たしかに、小学1・2年生のうちは、小学校受験を経験した子は目立ちます。きちんと座って教師の話を聞くことができる子も多く、活発に手を上げて発言出来る子もいます。一言でいえば、「利発そうな」子が多い印象です。しかし、それも学年が上がるにつれて薄れていきます。高学年にもなると、どの子が小学校受験経験者で、どの子が未経験者なのかは全くわからなくなりますね。つまりその程度のアドバンテージなのだろうと思います。

「中学受験のための勉強は、中学生になってからも役立つ基礎学力です。たとえ中学受験をしなくとも勉強する価値があるのです」

これは私の信念です。しかし、残念ながら「小学校受験のための勉強は、小学生になってから中学受験のための基礎学力として役に立つ」とは言えないのですね。

 

もしかして、小学校受験のための努力は、その後の人間の幅を広げるのに役立つのかもしれません。家族で美術館に行ったりクラシックを聴きにいったり。

私は、アテネのアクロポリス博物館で、そんな日本人の親子連れを見かけたことがあります。幼稚園くらいの男の子と母親の二人連れでした。母親は、博物館に展示されている遺物一つ一つについて、ガイドブックを見ながら、熱心に子どもに説明している姿が印象的でしたね。確証はありませんが、小学校受験のための準備とみて間違いないでしょう。私がそう判断した理由は、母親自身が展示物に興味が無いことが明白だったからです。「遺跡に興味があり、その感動と興奮をわが子にも伝えて共有したい」のではなく、ガイドブックに書いてあることを読み上げているだけ、何とか子どもに覚えさせようと躍起な姿は異質でした。

あるいは、わが子をどうしても考古学者にしたかったのかな?

 

中学校の選択肢を狭める

 

生徒の志望校をうかがうとすぐにわかります。

2/1 慶應普通部(筆記・体育実技・面接)

2/2 慶應湘南藤沢(筆記)

2/3 慶應中等部(筆記)

2/4 慶應湘南藤沢(体育実技・面接)

2/5 慶應中等部(体育実技・面接)

このようになっているからです。

こうした受験パターンの場合、例外なく、慶應幼稚舎or慶應横浜初等部の小学校受験失敗組でした。

中学校から慶應へのリベンジ合格を目指すのですね。

別に悪いことでもなんでもありません。目標を持って努力することは素晴らしいことです。

しかし、問題点が一つあるのです。

5日間を慶應一色に塗りつぶされてしまうと、それ以外の学校の受験がほぼできなくなるのです。いわゆる「押さえ」「安全校」と考える学校がほぼ受験できません。

しかも、慶應湘南藤沢と中等部は、1次の筆記試験合格者を、2次の体育実技・面接で半分にしぼります。

1次試験の合格で喜ばせておいて、半分の生徒が涙を呑む、そういう受験です。

また、成績を顧みずに受験する子が多いのも特徴です。

プロとしては、何とか現実的な受験校をご紹介するのですが、聞いていただけないことがほとんどですね。せいぜい午後入試を織り込むくらいしかできません。

 

全員がそうではないことは承知していますが、小学校受験のときにあまりにも親がのめり込み過ぎると、後に弊害が出てくるというのが私の意見です。

 

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私立小は中学受験に不利

 

小学生のほぼ全員がそのまま内部進学で中学校にあがるような小学校の場合はもちろんのこと、全員が中学受験をするような小学校でも、実は中学受験には不利なのです。

理由は以下の2点です。

◆学校行事が多い

◆通学時間が無駄

 

公立小学校でも学校行事はなかなか多く感じますが、どうやら私立小学校のほうがさかんなようですね。これは勉強には不利な要素です。

そして最大の問題点は通学時間です。

公立小学校なら、せいぜい徒歩10分程度ですが、私立小学校に通うためには電車の通学となる場合がほとんどでしょう。

その時間が無駄なのです。

いわゆる「受験小」とよばれる、全員が中学受験をするような小学校であっても、その中学校合格実績は「そこそこ」です。

※一部には、なかなかの実績を誇る私立小もあります。

たとえば南武線沿線のこの小学校。

公表されている2023年の合格実績はこんなものでした。

開成1名、麻布2名、駒東1名、慶應普通部2名、桜蔭6名、女子学院3名、雙葉1名

これは、2月1日に1回だけ入試を行っている学校だけをひろってみたものです。

豊島岡や渋谷渋谷等は、複数回入試を実施していますし、栄光や聖光は2日入試ですから、その小学校の実力が見えなくなりますので除外しました。

およそ80名の生徒のうち16名がこれらの学校に合格したとなると、かなりの実績ですね。

 

しかも、そうした小学校の生徒たちは、全員が塾に通っています。

 

今や、あらゆる駅前に塾が林立する時代です。

まして、小学生人口の多いエリアだと、複数の塾が競い合うように駅前に並んでいます。

地元の公立小なら、自宅ー小学校ー塾、この移動すべてが徒歩10分程度で済むのです。

徒歩10分以内に私立小学校がある、そうした場合を除いては、公立小のほうが中学受験には有利です。

 

小学生の電車通学について

これは、「逆方向」だけ許容だと思います。

みなさんも、通勤時間帯の混んだ電車内に、ランドセルを背負った小学生を見かけたことがあると思います。

はっきりいって、「可哀そう」です。

大人でも苦役なのですから。

しかも、周囲の大人たちから「邪魔だな!」という視線を浴びています。それほど、通勤ラッシュは大人達から「寛容」の心を奪う苦行なのです。

通学は、すべて車で送迎、これなら良いですね。

 

結論

 

もし、将来の中学受験に備えての私立小をお考えなら、はっきり言って意味はありません。

昔は、中学受験に反対する公立小学校の先生などというものがいましたが、今はいなくなりました。学年の半数以上が中学受験する公立小学校も多数ある時代ですので。

私立小学校の授業見学をしたこともあります。公立小学校とは比較にならないほど整然とした授業であることは確かですが、塾屋の目線からはさほど高度な授業でもありませんでした。

中学受験に力を入れている私立小学校の一部には、6年生の後半になると自習の時間をたくさん設けてくれると聞きました。その時間に生徒たちは塾の教材や入試問題を自習するそうです。羨ましい話ではありますが、それを「教育」とは呼びません。

 

しかし、私立小学校の教育内容そのものにほれ込んだのなら、話は別です。

そもそも中学受験に有利・不利とかいった次元の話ではなくなるからです。