今までタイトルに「分析」と偉そうに掲げていましたが、どうみても雑感レベルの駄文を書き散らかしているだけなので、正直になることにしました
今回は早稲田実業の国語の入試問題を見てみます。
「透明なルール」佐藤いつ子
佐藤いつ子氏の作品は、中学入試問題で多く使われています。
『キャプテンマークと銭湯と』
サッカークラブチームに所属する中2の主人公が、他所の強豪チームから移ってきた少年にキャプテンの座を奪われる。挫折とイライラを周囲にぶつけ、さらに状況を悪化させるが、古ぼけた時代遅れの銭湯に出会うことで、徐々に自分を見つめ直していく。
『ソノリティ はじまりのうた』
これは、青春群像物語です。主人公は中1女子。引っ込み思案なのに、吹奏楽部というだけけの理由で合唱コンクールの指揮者を任されます。その周囲に、天才ピアニストとか、練習をさぼってばかりいるバスケ部のエースとか、個性的なメンバーが集まり、悩みながら自分を見出していく、そんなストーリーです。
そこに、5人の恋愛模様もからみます。
『駅伝ランナー』
陸上選手だった父親の影響で走り始めた小6男子が主人公。わざわざ強豪校に進学し、挫折しそうになりながらも走り続ける。
いやあ、「青春児童文学ど真ん中」の小説ばかりです。
それが中学入試に多用される理由なのでしょう。
『透明なルール』
中学生女子が主人公です。彼女たちは、同調圧力という「透明なルール」に縛られています。出題部分は、主人公が出会ったギフテッドの転校生が、自分がもといた学校で受けた仕打ちについて語る場面です。彼女たちは、透明なルールは、実は自分で作りだし自分で自分を縛っていたのではないかということに気づき始めます。
私はどうも苦手なジャンルの小説ですね。
「大人が考える思春期の悩み」が、本当に思春期の少年・少女たちのリアルなのかは不明です。
・中1で初めてお昼にお弁当を食べるグループが大事
・他のグループの観察が重要
・協調性の無いことが問題
・教師が、一人の生徒の入学試験の点数を公言する
・他の生徒の前で、数学教師が一人の生徒の優秀さをさらけ出す
この辺りが物語を支える主要な展開なのですが、みなさんはどう思われますか?
とくにこの生徒が進学したのは、優秀な児童ばかりが集まる女子校です。桜蔭かJGレベルの学校のようですね。実は、このレベルの生徒たちになると、他人を揶揄したり嫉妬したり仲間外れにしたりするようなことが多くはないのです。もちろんゼロではないでしょうが。ここに出てくる子は、自分が数学がギフテッドレベルであることを必死に押し隠そうとするのですが、おそらく桜蔭にでも行けばそうした子など何人もいるはずですし。そもそもクラスメイトの前で入試の得点をばらす教師などあり得ません。
作者のプロフィールは知りませんが、うがった見方をさせていただくと、本当に優秀な女子校の実態をよくご存じではないのでしょう。
設問は記号選択で、平易でした。
「ひとりになること 花をおくるよ」 植木一子・滝口悠生
二人の作家の往復書簡です。
植木氏は1984年生まれの写真家・エッセイストです。滝口氏は1982年生まれ、8年ほど前に芥川賞を受賞しています。
この書簡集は、自費出版だったそうですね。中学校の国語の先生って、そんなところまでアンテナを張っているのか、と驚きましたが、2年前に、朝日新聞の「折々のことば」で紹介されていたと知り、納得しました。
榎本氏から滝口氏にあてた書簡では、中学生の子がレベルの低い高校へ行きたいと言い出したらどうするか、このことについての考えが書かれています。そして、滝口氏から榎本氏に対しては、自らの幼少期の経験を踏まえ、幼い娘が大人になるまでに、家・学校・東京・日本といったところが世界だけではないと教えたいと書かれています。
若干回りくどい文章(とくに滝口氏)ですが、平易な内容です。そして、15字~30字程度の記述だけでした。
ただし解きにくさを感じたのは出題型式です。
(20字以内)を奪ってしまうこと
(20字以内)から抜けだせなくなることに「疲れ」を感じている。
(15字以内)するのではなく、(15字以内)と、どちらの筆者も考えている。
といったように、出題者の作った模範解答の穴埋め問題となっているのです。
この形式は、大きなヒントがありますので解きやすくなる一方、変な縛りが生じるので答えにくくもなるのです。
採点許容も狭まります。その代わり、採点は楽になりますね。
「自分の作った模範解答以外は評価しない」という出題者の姿勢が感じられて、あまり私の好きな出題型式ではありません。
★このたび、Amazonよりkindle本を出版しました。
当ブログに掲載していた記事をまとめ、大幅に加筆修正したものです。
ぜひお読みください。