読解力は大事です。
読解力が無いと、国語の問題ばかりか、理科の問題も社会の問題も解けません。
中高生になっても、大人になっても読解力は大切です。
でも、「読解力」っていったい何なのでしょうか?
今回はそんな素朴な疑問について考えてみたいと思います。
文科省によると
まずは教育行政の頂点に君臨?する文部科学省の見解から見てみましょう。
このブログでも何度か言及しましたが、みなさんは「PISA」という調査をご存じでしょうか。
38の先進国が加盟する、OECD(国際協力機構)が定期的に15歳を対象に実施している調査が、PISA(Programme for International Student Assessment)という調査なのです。
この調査では、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの三分野について、3年ごとに本調査が実施されています。ちなみに次回は今年実施予定です。
さて、文科省によると、PISAにおける読解力の定義はこのようになっています。
自らの目標を達成し,自らの知識と可能性を発達させ,効果的に社会に参加するために,書かれたテキストを理解し,利用し,熟考する能力。
義務教育修了段階にある生徒が,文章のような「連続型テキスト」及び図表のような「非連続型テキスト」を幅広く読み,これらを広く学校内外の様々な状況に関連付けて,組み立て,展開し,意味を理解することをどの程度行えるかをみる。
さらにこのようにも書かれています。
調査で測定した読解のプロセス……情報の取り出し,解釈,熟考・評価
情報の取り出し…テキストに書かれている情報を正確に取り出すこと。
解釈…書かれた情報がどのような意味を持つかを理解したり,推論したりすること。
熟考・評価…テキストに書かれていることを知識や考え方,経験と結び付けること。
う~む、わかりやすいようなわかりにくいような。
「読解力は読む力でしょ」
そう言いたくもなりますね。
「読んで理解する力だよね」
まあこれはほぼ正解です。
「読解力」については、いろいろな立場の人・組織が様々な定義を展開していますが、私なりに整理すると、以下の3つの力だろうと認識しています。
(1)情報を取り出す力
(2)情報を解釈する力
(3)情報を活用する力
読解力を構成する3つの力
(1)情報を取り出す力
ちょっと意地悪な例を出してみます。
従四位下左近衛少将兼越中守細川忠利は、寛永十八年辛巳の春、よそよりは早く咲く領地肥後国の花を見すてて、五十四万石の大名の晴れ晴れしい行列に前後を囲ませ、南より北へ歩みを運ぶ春とともに、江戸を志して参勤の途に上ろうとしているうち、はからず病にかかって、典医の方剤も功を奏せず、日に増し重くなるばかりなので、江戸へは出発日延べの飛脚が立つ。徳川将軍は名君の誉れの高い三代目の家光で、島原一揆のとき賊将天草四郎時貞を討ち取って大功を立てた忠利の身の上を気づかい、三月二十日には松平伊豆守、阿部豊後守、阿部対馬守の連名の沙汰書を作らせ、針医以策というものを、京都から下向させる。続いて二十二日には同じく執政三人の署名した沙汰書を持たせて、曽我又左衛門という侍を上使につかわす。大名に対する将軍家の取扱いとしては、鄭重をきわめたものであった。島原征伐がこの年から三年前寛永十五年の春平定してからのち、江戸の邸に添地を賜わったり、鷹狩の鶴を下されたり、ふだん慇懃を尽くしていた将軍家のことであるから、このたびの大病を聞いて、先例の許す限りの慰問をさせたのも尤もである。
意地悪な例と言ったのは、森鴎外の文章は、いわゆる「文語体」だからです。
実は鴎外は漢詩の名人でもありました。
こんな漢詩も書いています。
「待春」
南廂偶坐惱沈吟
目送凍禽鳴出林
唯喜簾前風稍暖
待花心是待春心
鴎外は、英語・ドイツ語・フランス語・オランダ語を操ったそうです。今でいう「国際人」のはしりのような人物です。それ故に、と私は思っているのですが、かつての日本人の基礎教養であった漢文にもこだわったのではないでしょうか。
さて、阿部一族の文章ですが、すぐに情報を的確に取り出せたでしょうか。
難読漢字は、「鄭重」「慇懃」「尤も」くらいでしょう。
また、漢字は読めるはずなのに、すっと読めないものもあったと思います。
じゅ よんいのげ さこんえのしょうしょう けん えっちゅうのかみ ほそかわただとし
読めないと情報が抽出できません。
さらに、単語の意味を知らないと「読めた」ことにはならないのです。
例えば「沙汰書」はわかりますか?
「御沙汰書」といえば天皇の命令の法令を意味しますので、「沙汰書」は、幕府の正式な命令書ということでしょう。
(2)情報を解釈する力
なんとか読む=情報を抽出することができました。
次に必要になるのは、「いったいどういう意味なのか?」「何を言わんとしているのか?」といった、情報を解釈する力になります。
ここには、数名の人物が出てきます。
◆細川忠利・・・肥後国54万石の大名
◆徳川家光・・・三代将軍、名君
◆以策・・・針医
◆曽我又左衛門・・・侍、上使(幕府から大名に上意下達のために派遣する使者)
まず54万石の細川ですが、江戸時代の石高ランキングではかなりの上位です。
有名な加賀前田の100万石をトップとし、2位は薩摩の島津が73万石、3 位は仙台の伊達で63万石、4位は尾張の徳川で62万石、5位は紀州の徳川で56万石と続きます。そして6位が熊本の細川です。単純計算で、大名の石高の平均は10万石を切るくらいですので、まさに大大名です。
島原一揆(島原天草一揆)については説明不要ですね。1637年のこの一揆は、幕府を震撼させました。私は一揆軍が立てこもった原城跡に行ったことがありますが、戦でももっとも過酷といわれる兵糧攻めが行われた現場ですからね。何ともいえない気持ちになったことを覚えています。
松平以下3名の執政は知らないかもしれません。松平伊豆守といえば、代々老中職を務める家柄です。島原天草一揆当時は、家光の懐刀であり、「知恵伊豆」と称された松平信綱です。
こうしたある程度の知識があってこそ、この文章の意味がつかめるのです。
(3)情報を活用する力
さて、この力については、例として出した「阿部一族」では説明しづらいところです。
何せ物語文ですので、そこから得た情報を解釈するところまでは重要ですが、それをどう活用するかというと、活用のしようがないようにも思えます。
◆物語から何等かの教養を得る
◆物語から、何等かの感銘を受ける
◆物語から、何らかの人間理解を得る。
こういったあたりでしょうか。
もちろん入試問題で出てくる場合は、活用力=問題を解く力に他なりません。
私が今まで指導してきた生徒で「読解力がない」という生徒の大半は、(2)の部分、つまり情報を解釈する力が足りませんでした。
とにかく「常識」も「教養」も無いのです。
したがって、単語や文章を、意味のあるまとまりとしてとらえることができないのですね。
ここが課題です。
情報を取り出す力についてはこちらの記事をお読みください。