塾選びのときにこれを気にする人がいますね。
「学生アルバイト講師ではダメなんでしょ?」
「やっぱりちゃんとした社員のプロ講師に教わりたい」
気持ちはわかりますが、果たしてどうなんでしょうか。
今回はこれを記事にします。
社員講師VSアルバイト講師
某集団指導塾のHPにはこうありました。
「授業担当者」は、1教科専任の「わかりやすさのプロ」です。
授業で子どもたちの知的な好奇心にどれだけ刺激を与えられるか――これは「プロ」でなければ対応できないと〇〇塾は考えます。だから、〇〇塾の「授業担当者」には、大学生のアルバイト講師は一人もいません。
なるほど。実にもっともな意見ですね。
「わかりやすさのプロ」
いいですねえ。たしかに学生は「アマチュア」ですから。
そういわれると、学生アルバイト講師は「ダメ」だとしか思えませんが、本当にそうなのでしょうか?
ここで、社員講師とアルバイト講師を比較してみましょう。
(1)学力
何といっても、指導に最重要なのは講師の学力です。これが低いとどうしようもありません。
ここでいう「学力」とは、中学入試問題がきちんと解けるのか? ということに特化します。
社員講師=学生アルバイト講師
これは、イコールということではなく、人による、という意味です。
個人的には、社員講師≦学生アルバイト講師 とすら思っています。
中学受験をして開成/桜蔭に入り、現役で東大に合格したばかりの大学1年生と、そうですね、大学を卒業して10年たつ社員講師と、入試問題で競争したら、はたして必ず社員講師が高得点を取るとは思えません。スピードで負けそうな気がします。
やはり、現在進行形で勉強に時間を費やす現役学生と、勉強に費やす時間がとれない社会人講師では、学力に差が付きそうな気がするのです。
塾の講師というものは、意外に授業以外の仕事が多いのです。毎日授業を5時間担当したとして、その他にこんな仕事をしています。
・保護者面談
・保護者への電話かけ
・生徒の答案採点
・教材作成・テスト作成
・営業電話
なかには、教室の清掃まで教師に負担させる塾もあります。
そのうえ自分の勉強に割く時間など就業中はありません。となると自宅で過ごすプライベートな時間にどれだけ勉強をするか、ということになります。
そうした社員講師などほとんどいないでしょう。
(2)入試問題についての知識
社員講師>学生アルバイト講師
さすがにこれはそうでしょう。
毎年の入試問題の研究は、プロである以上、当然やらねばならないことですので。
「これは入試に出るから」
というのは簡単です。入試問題を開いたらそこに出題されている、ということですので、誰でも言えることです。
「これは入試には出ないから」
これを言うのは大変です。
・過去に出たことがあるが今後は出ないであろう
・過去に出たことがなく、今後も出ないだろう
ということを断言しなくてはならないのです。これには覚悟も必要です。
もし自分が「出ない」と言ったものが入試に出てしまい、そのことで生徒が不合格になったらどうするのか、そこまで考えて発言する「覚悟」です。
これを言えるようになるためには、そうですね、例えば毎年100校分の入試問題を20年以上解き続ける、それくらいの研究は必要だと思っています。
もっとも、社員講師の中にも、そこまで入試問題の研究に費やしている人は多くはないかもしれません。これも就業時間中には時間がとれないため、プライベートな時間に研究するしかないからです。
それをしない、そんな「プロ」なら、学生と大差ありません。
(3)学校についての知識
社員講師>学生アルバイト講師
これもさすがに社員講師のほうが豊富なはずです。
プロ講師が学校についての情報を得る手段はこのようなものです。
・学校が実施する説明会
・卒業生からの情報
この2つは、社員でなければ無いでしょう。
もっとも、学生でも自分の出身校については外部の社員などよりはるかに詳しいですね。
(4)教える技術
社員講師≧学生アルバイト講師
これも人によりますね。
社員といえども必ずしも教え方が上手とは限らないものです。
むしろ生徒と年齢が近い学生のほうが、生徒が「わかりやすい」説明ができるかもしれません。
まあ一般的には、経験に比例します。
(5)生徒との距離
社員講師<<学生アルバイト講師
あたりまえですが、年齢が違います。
生徒が話しやすい・相談しやすい、というのも大切な要素です。
これは学生の圧勝でしょう。
(6)保護者対応
社員講師>>学生アルバイト講師
ほとんどの塾では、学生アルバイト講師に保護者対応をさせません。
やはり経験の差、そして年齢の問題もあります。
(7)熱意
私はこれを全く重要とは思っていません。
指導に熱意などという「曖昧」で「精神的」な要素は不要です。
それでもあえてそれを比較するのなら、
社員講師<学生アルバイト講師
でしょうね。
私が知っている学生アルバイト講師はみな真面目で熱心でしたね。
時として空回りしがちですが、そうした「熱意」は好ましいものです。
(8)進路指導
社員講師>>学生アルバイト講師
進路指導を学生にさせる塾は無いでしょう。
こればかりは学生には無理です。
結論
このように見てくると、必ずしも全てにおいて社員講師のほうが学生アルバイト講師よりも優れているとばかりは言えないことがわかると思います。
要するに、何を重視するのか、そこなのだと思います。
社員講師のほうが、生活がかかっているだけに、プロとしての仕事をするはずです。
そのはずなのですが、そうとはいえない自称「プロ」講師を私は多数見てきました。
個人的には、適当な「誤魔化し授業」をする自称プロ講師よりも、「真面目な授業」をする優秀な大学生講師を私は高く評価します。
決められた内容を、きちんと過不足なく「正しく」指導してくれればそれでよいと思うからです。
学生アルバイトの時給の話
ちょっとここで視点を変えて、アルバイトの時給を見てみましょう。
◆明光義塾(個別)・・・1コマ【授業90分+入替時間10分=100分】:1,940円〜
100分1940円だとすると、60分単価は1164円です。東京都の最低賃金は1163円と規定されていますから、まさにぎりぎりの最低時給ですね。
◆グノリンク(個別)・・・時給1350円~
◆グノーブル(集団)・・・時給3200円~
◆トライ(個別)・・・・時給1400円~
◆TOMAS(個別)・・・時給1600円~
◆SAPIX(集団)・・・時給3000円~
◆PRIVATE(個別)・・・時給1950円~
◆栄光ゼミナール(集団)・・・・時給1600円~
◆臨海セミナー(集団)・・・時給2000円~
◆早稲田アカデミー(集団)・・・時給2350円
◆早稲田アカデミー(個別)・・・90分2085円(時給換算1390円)
◆ena(集団)・・・時給2600円
ところで参考までにマックの時給はこうです。
◆マクドナルド(東京)・・・時給1163円~
規定最低賃金ですね。スタバもコンビニも同レベルの時給です。
居酒屋のような業態だと、1300円くらいもらえるところもありますね。
こうしてみてくると、やはり塾は時給が高い、ということは言えると思います。
もっとも、私はネットのバイト募集から情報を集めましたので、実態は不明です。
塾によっては、授業給は2000円だったが、授業前後の雑用に多くの時間をとられてもそこは無給のため、結局拘束時間で換算すると最低賃金レベルだった、などというところもあるからです。
とくに大学生の場合、授業の予習・準備に時間をとられても、そこは給与にならない「やりがい搾取」も常態化していると聞きます。
本来は、もちろん違法です。
このように見てみると、塾によって、また集団・個別の違いによってアルバイトの時給はずいぶんと開きがあることがわかります。
つまり、塾によっては、マックやコンビニよりも少し良い程度の時給で学生アルバイト講師を雇っていますし、倍以上の金額を支払っている塾もあります。
時給が講師の質に直結すると仮定すると、学生アルバイト講師もまた玉石混交であることは間違いありません。
ところで、社員講師といえども、そう高い時給にはなっていません。
日能研の募集広告を見ると、大卒初任給が225000円、賞与が5か月とありました。
そのとおりなら、年収は3825000円となります。
仮に月の労働時間が160時間とすると、時給換算で1992円です。
授業時間だけにフォーカスすると、学生アルバイト講師より多くもらっているわけでもありません。
時給が講師の質に直結すると仮定すると、社員講師だからといってアルバイト講師よりも優れた授業をするかどうかはわからないことになります。
なんだか、書いていて可哀そうになってきました。
大手塾に所属して働いている知人の講師たちは、皆生徒のことを真剣に考えて仕事をしている人ばかりです。
休日の過ごし方は、図書館や書店で入試のネタになりそうな本を探すことに費やす国語の教師や、家族旅行の行き先は授業に直結した場所ばかりである社会科教師などを知っています。
「やりがい搾取」によって成り立っている世界なのですね。
こちらにも少々が過激な内容を書いています。