今回とりあげるのは渋谷幕張中 社会です。この学校は1月と2月に2回入試を行っていますので、どちらの問題も見てみましょう。
詳細な分析というよりは、「雑感」レベルであることはご容赦ください。
1次試験
大問1 学校自慢
いきなり「学校自慢」と銘打ってしまいましたが、そう言いたくなるほど、文章は渋谷教育学園グループの自慢です。
これってどうなのかなあ?
以前、早稲田実業では、卒業生である小室哲哉氏の歌の歌詞を題材とした入試問題を出したことがあります。学校自慢の卒業生だったからです。その後氏が詐欺罪で有罪となったことは広く知られています。まさか学校もそうした未来までは予想できなかったことでしょう。そういえば氏が寄贈したホールは今でも「小室哲哉記念ホール」という名称です。例え有罪となろうと、ホールを寄贈してくれた功績は評価する、という学校の信念だとしたら立派です。そういえばこの学校には「王貞治記念グラウンド」もあります。
問題文では、幕張地区の賑わいや渋谷渋谷とそろってユネスコスクールに認定されていること、早稲田渋谷シンガポールの紹介、ブリティッシュ・スクール・イン東京について、さらに渋谷幼稚園・渋谷教育学園幼稚園・渋谷教育学園浦安こども園・阪本こども園・渋谷教育学園晴海西こども園・渋谷本町こども園についても紹介されています。
長くもない問題文に、詰め込めるだけ渋谷教育学園の紹介(&自慢)を盛り込んでいるのにはちょっと驚かされました。社会科の重要な視点である「客観性」が希薄だからです。
もっともそこから組み立てられた問はオーソドックスなものでした。
◆ネーミングライツのメリット
◆渋谷渋谷の校舎写真を見て、日照権についての記述
◆就学前の施設が異なること(幼稚園と保育園)が保護者の立場からどのような不便があるのか
といった記述問題と知識の記号選択問題が出されました。
もっとも、「認定こども園」に関する記述については、「だからわが学園ではこんなにたくさんのこども園を設立しているのです」という自慢と直結しているのが気にはなります。
大問2 歴史
ほとんどの出題が、記述を含めてオーソドックスです。
ただ1問だけ少々気になりました。
ペリー来航により開国した日本が結んだ日米修好通商条約について、「日本人と外国人が接触する場面が日常では起こりにくい内容」を認めさせたことについて、それは何を意味しているのか説明する問題です。
さて、生徒たちはこの条約についてはこのように理解しています。
◆関税自主権が日本にない
◆神奈川・長崎・新潟・兵庫の4港を新たに開き、下田は閉鎖した(函館は残す)
◆実際には兵庫ではなく神戸港、神奈川ではなく横浜港に変更された
◆神奈川は東海道の宿場であるため、日本人との接触を最小限にするために寒村にすぎなかった横浜を開いた
◆それぞれの港には、外国人居留地が築かれた
とくに入試では、神奈川ではなく横浜港を開いた理由を記述させる問題は定番です。地図を史料として出して考察させるスタイルもよく見られます。
したがって、この問題を見た瞬間、「あ、あれだ!」となるのです。
しかし問題があります。
「次の語句を必ず用いること」として、「出島」とあるのです。
出島は、日蘭修好通商条約(安政の五か国条約)の締結により消滅します。
つまり、「1641年に平戸から長崎の出島にオランダ商館が移されて以降、200年以上にわたって西欧との唯一の窓口として日本人と欧米人が接触することを制限する役割をはたしていた出島は、修好通商条約の締結によりその役目を終えた。それ以降は外国人居留地を通して限定的な交流が行われたが、居留地は閉鎖された地域ではなく、次第に日本に欧米の影響が及ぶこととなった」
とでも書くほかないのです。
しかし、字数制限はなんと1行です。
「出島ほどの効果は見込めなかったが、開港地を寒村にするなど日本人と外国人の接触を避ける工夫がなされた」
とでも書かせるのでしょうか? それとも
「出島のように、開港地を限定した」 とでも?
ところで条約には、『其居留場の周圍に門墻を設けす出入自在にすヘし』とあります。出島との類似性はありません。
また、各港から自由に出歩けるのは10里以内という定めもあったようですが、生麦事件を見てもわかるように、効果があったとは言い難いですね。
正直言って、私の能力では「出島」を解答に組み込むことができないのです。
学校が作った模範解答が見たいです。
少し面白いと思った記述は、ポーツマス条約に関し、「あなたがロシア外交代表としてロシア国民から説明を求められたらどのように説明するか」というものがありました。書く内容は決まっていますが、切り口が面白いですね。
2次試験
大問1 「自転車」
この文章は「普通」でほっとしました。
◆電動アシスト自転車を高齢者が支持する理由
膨らませれば面白い記述になるのですが、1行ですからね。たんに弱った体力を補うためとしか書けないのが残念です。
「日本の道は坂が多いため」というのも書かせたい視点ですが、その余裕あるかな?
そういえばオランダは歩道・車道の間に「自転車道」が整備されています。平地が多いオランダならではの自転車の普及ですが、日本の自転車の通行できる道路の貧弱さを考えるとうらやましい限りです。
◆自転車のマナーが悪いことに関連する記述です。
簡単な問題です。
ただ、私には理解できないところがあるのです。
問題文をそのまま引用します。
「・・・自転車利用者の交通ルール違反やマナーの悪さが指摘されています。・・・」
下線部について、自転車の利用にあたり、交通ルールの順守に加えマナーなどの知識だけでなく、児童や生徒自らが交通事故を未然に防ぐための予測力と行動力を身に着けることが求められています。このため小学校などで行われる交通安全教室では、危険を察知するためのポイントや、身を守るための具体的な方法も教えています。このように危険を察知する能力を高めなければならない理由について、事故につながりやすい他人の危険な行為を例として1つあげて解答用紙のわく内にそれぞれ1行で答えなさい。
解答欄は2行です。
気が付きましたか?
私には、どうしても「何と何がそれぞれ」なのかがわからないのです。
1つについてはわかります。
「・・・このように危険を察知する能力を高めなければならない理由について、事故につながりやすい他人の危険な行為を例として1つあげて説明しなさい。」
という問題だと思うのです。
例を1つあげて理由を説明する記述です。
では、「それぞれ」のもう一つはいったい何だ?
もしかして、「・・・このように危険を察知する能力を高めなければならない理由についてと、事故につながりやすい他人の危険な行為の例を、それぞれ答えなさい」なのか?
そうするとおかしな問題になりますが。
それとも、「・・・このように危険を察知する能力を高めなければならない理由と、身を守るための具体的な方法について、事故につながりやすい他人の危険な行為を例としてそれぞれ1つずつあげて、解答用紙のわく内にそれぞれ1行で答えなさい。」
でしょうか?
元の問題の文章をここまで改造しなくては成立しない問題?
そもそも、危険を察知する能力と、実を守るための具体的な方法は重なりますので、「それぞれ」という問題は不成立です。
あ、もしかして、2文で書かせたいのか? こんな指示のしかた、あり得ませんね。初めて見ました。
学校作成の模範解答が見たいです。
何だかこの後の分析をする気力がなくなってしまったのでここまでとします。
渋谷幕張中、おもしろい良問を出す学校として認識していたのですが。
去年の分析もぜひお読みください。