「繰り上がり合格」というシステムがあります。
正規の合格発表の後、少しずつ繰り上がって合格者を出すのですね。
学校から電話がかかってくるのです。
しかし、この「繰り上がり合格」は絶対に当てにしてはいけないものなのです。
それなのに、毎年聞かれます。
「先生。〇〇中は今年は何人くらい繰り上がりそうですか? うちの子は繰り上がるでしょうか?」
「〇〇中の繰り上がり合格の連絡を祈る気持ちで待っているのです」
今回は、そうしたみなさんへの緊急メッセージです。
※厳しいお話になります。心が折れそうな方は読まないでください。
入学者数の読み
まず、なぜ「補欠繰り上がり合格」を実施するのか、その理由を書きます。
そうです、「入学者数の読み」が外れるからです。
例えば、250人定員の学校で、1000人が受験したとしましょう。ここで合格発表で250人しか出さないなどということはありえません。合格したけれど入学しない生徒というものが必ずいるからです。
おわかりのように、第一志望校にされる学校ほど「辞退率」は低くなり、それ以外の学校ほど高くなります。
あまり使いたくない語句なのですが、「歩留まり」ですね。
さて、ここで開成中の公表データを見てください。
あの開成中ですら、300人募集定員のところ、400人ほども合格を出すのです。100名は辞退されることをあらかじめ見込んでいるのです。
おそらく辞退者の大半は筑駒に進学するのでしょう。
ちなみに筑駒の募集定員は120名で、発表される合格者数は128~129名です。
さすがというべきか、ほとんど辞退されない自負があるのでしょう。実際その通りですが。
さて、開成の入試結果をグラフにしてみました。
2025年だけは、まだ入学者がわからないので赤色のままです。
このグラフだけでは、「なるほどなあ」としか思えないでしょうから、重要なところを拡大して見やすくしてみます。
青が入学者数、赤が入学辞退者数、合計は合格者数となっています。
気が付きませんか?
合格者数は年度によってずいぶん異なるのに、入学者数が一定なのです。
これはすごいことです。
入学者数の「歩留まり」を完全に読み切って合格者数を決めているのでしょうか。
もちろんそんなことは不可能です。
いったい今年は何人が辞退するのか、そんな数字を完璧に予測することなどできません。
もうおわかりですね。
2月3日に合格発表をした後、実はこのデータに表われている以上の人数が「辞退」して抜けているのです。その抜けた穴を少しずつ「繰り上がり合格者」で埋めているのですね。
だからこんなに正確に300名の募集定員通りの入学者が確保できているのです。
開成中のHPの入試Q&Aコーナーにこう書かれています。
Q:繰り上げ合格は何人程度ですか?
A:辞退者が出て欠員が生じたときには繰り上げ合格があります。人数は年度によって異なります。
その人数が知りたい!
そう思いますよね。そこで塾に問い合わせることになります。そうすると、こんな答えが返ってきました。
「ああ、開成中は毎年40名くらいは繰り上がっていますね。今年もそれくらいだと思いますよ」
何の根拠もない数字です。
開成に大量合格させている塾といえば、SAPIXですね。SAPIXの合格実績発表を丁寧に追っていると、SAPIXの塾生の繰り上がり人数だけはわかります。しかし他塾を合わせた数値まではわかりませんし、二つの塾に合格者がカウントされていればさらに不正確です。
中学校としては、定員が埋まらないことも恐怖ですが、それ以上に怖いのは定員をはみ出ることなのです。
そこで、歩留まりを少な目に見積もって合格発表を行い、その後で補欠繰り上げ者で入学者数を調整しよう、という発想になるのですね。
補欠繰り上げのパターン
補欠繰り上げには以下の3パターンがあります。
(1)合格発表は合格者のみ掲示し、不合格者のところに後日電話がある
これが一番多いパターンです。開成もこのパターンですね。
このやり方の問題点は、自分が補欠繰り上げの可能性があるのかどうかがさっぱりわからないことです。
「もしかしてうちの子にも電話がかかってくるのでは」
不合格者全員がそう期待してしまいますよね。
罪作りなやり方です。
(2)あらかじめ補欠合格候補者を正規合格者と同時に公表する
例えば慶應普通部では、ウエブと掲示板で、2/2の19時~20時の間に1時間だけ発表されます。さらに、この1時間の間に手続き書類を受け取らないと、「辞退」とみなされます。
ここまで時間にシビアな学校を私は他に知りません。歩いて行ける人以外は、19時には学校近くで待機していないとまずいですね。
したがって、ウエブで発表を見るとしても、必ず学校近くにいますので、合格していたらすぐに学校に駆け付け、おそらくは掲示板も確認することになるのでしょう。
この学校の倍率は3倍弱ですので、400名近くの「不合格者」をも学校近くで待機させるということなのでしょうか。あまりにも残酷すぎます。
さて、その掲示ですが、190名程度の合格者に並んで、「繰り上げ候補者受験番号」の70名程度が貼り出されています。受験番号順です。
もしこの「繰り上げ候補者」になっていると、やはりはらはらしながら電話を待つことになるのです。
学芸大附属世田谷中もこのスタイルです。男女合わせて80名の正規合格者の横に、「補欠合格候補者」の番号が20名分発表されています。
ここにも番号が無ければ不合格確定ですからむしろあきらめもつくのですが、万が一補欠合格候補者に番号が載ると、期待が膨らんでしまいます。もちろん全員繰り上がりません。
これも罪作りなやり方です。
(3)あらかじめ補欠番号も公表される
学習院女子がこのスタイルです。
2月1日のA入試では108名合格で補欠はありませんでしたが、2月3日のB入試では、40名の合格者と45名の補欠者が合わせて公表されました。
「2025年2月20日までに入学辞退者がでたとき補欠順位の上位者から繰り上げ合格になります。同順位の方は、同時繰り上げとなります。この場合電話連絡いたします。」
となっていました。
たとえ補欠番号が最後の45番目だったとしても、受験生親子としては万が一の期待が捨てられませんよね。まして補欠順位が一桁だったとすると、期待が膨らみます。
しかしこれも確固たるデータはありません。すべては辞退状況と学校の判断次第ですので、何ともいえないのです。
以前とある学校の受験者で、私の教えていた生徒がたまたま2名補欠になりました。この学校は補欠順位を公表する学校で、生徒たちの補欠順位8番と12番です。この学校は例年10名前後繰り上がることが多かったのですが、5名の年もあれば15名の年もあるということで、二人とも繰り上がっても、あるいは二人とも繰り上がらなくても不思議はなかったのです。
結果、8番の子のところには電話がかかってきたものの、12番の子のところには電話はありませんでした。
「うちの子はずっと電話機の前で待っているんです」と聞いたときに、私も思わず涙が出そうになったのを今でも覚えています。
発表方法
すっかりWEB発表になりましたね。
掲示板も併用するところはありますが、徐々にWEB発表のみに移行しつつあります。
また、WEBの公表方法も、普通に誰もが見られるようにHPにPDFファイルをアップする学校もあれば、受験生本人だけが、受験番号とパスワードを入力して合格確認ができるところも多いです。
補欠の発表の仕方も、掲示板スタイルで公表するところもあれば、受験サイトで受験番号を入力することではじめて自分が補欠かどうかわかる、というスタイルも見られます。
気をつけねばならないのは、受験した学校がどのスタイルかに注意し、補欠の確認もしっかり行うことです。
感想
私は補欠合格の制度が嫌いです。
今まで何人もの生徒の涙を見てきました。
期待させるだけさせておいて、その後放り出すようなやり方が、教師としてどうしても許せないのです。
このやり方は、あくまでも学校都合に他なりません。
ある生徒のことを思い出します。
第一志望校には合格できず、他の学校に進学を決めたのですね。制服採寸も終わり、学用品も揃え、親子とも新たな学校生活に向けて気持ちを完全に切り替えました。
そこに、第一志望だった学校から補欠繰り上がりの電話がかかってきたのです。
ずいぶん遅い時期の電話でした。
「ふざけるな!」
父親が怒り、断ったそうです。気持ちはわかります。いくら中学校にだって、子どもの気持ちを弄ぶ権利は無いと思います。
昨今、複数回入試が当たり前となり、午後入試もすっかり定着してしまいました。
そのため、学校としても「歩留まり」が全く読めないというのが本音でしょう。
だから、後からの補欠繰り上げで入学者数を調整する学校ばかりとなったのですね。
中には、合格発表数を絞り、発表当日の夕方から補欠繰り上げの電話をかけ始める学校まであるのです。意味がわかりません。
合格発表数を絞ることに何か理由があるのでしょうか。
定員をはるかに超える合格者を出す=入学辞退者が多い=人気のない学校
そうみられることを避けるため、などといった理由でないと信じたいのですが。
補欠繰り上げ合格に期待することは、何の益も生みません。
不合格は不合格、まずはそう冷静に受け止め、気持ちを切り替えて合格できた学校への進学に向かってください。
そのうえでもし電話がかかってきたら驚いて家族会議、それくらいがよいのです。