中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

神奈川のマンモス校:桐蔭学園の軌跡と未来

今回は、神奈川の共学校、桐蔭学園を取り上げたいと思います。

この学校は、途中で何度も変革を繰り返していて少々わかりづらいので、そのあたりも整理したいと思います。

※この学校を持ち上げる意図も貶める意図もありません。なるべくフラットな視点を心がけていますが、どうしても私の主観が混ざることはご容赦ください。

 

教育理念

HPからそのまま引用します。

建学の精神
1.社会連帯を基調とした、義務を実行する自由人たれ。
2.学問に徹し、求学の精神の持ち主たれ。
3.道義の精神を高揚し、誇り高き人格者たれ。
4.国を愛し、民族を愛する国民たれ。
5.自然を愛し、平和を愛する国際人たれ。

校訓
1.すべてのことに「まこと」をつくそう。
2.最後までやり抜く「強い意志」を養おう。

 

 

まあ普通といえば普通、地に足のついた理念です。建学の精神の4番が、1960年代創立の学校としては珍しいとは思います。

 

中等教育学校の玉田校長先生のご挨拶から抜粋します。

「・・・目に見える知識や技能に加えて、考える力・判断する力・表現する力、さらにその基礎となる学びに向かう人間性までを含めて総合的に伸ばすのが、アクティブラーニング型授業、探究、キャリア教育という本校の教育の3本柱です。」

 

最近、アクティブラーニングは大流行ですね。

私学の大半が、100年も前から実践していると思います。それだけ普遍性のあるやり方なのだと思います。ただし、これを実践するためには、生徒の学力が一定水準以上であることが必須です。

沿革

1964    学校法人桐蔭学園設立   高等学校1期生入学

1965    桐蔭学園工業高等専門学校開設
1966    中学校第1期生入学(2021閉校)
1967   小学部第1期生入学
1969    幼稚部第1期生入園
1981    女子部(中・高)第1期生入学
1988    桐蔭学園横浜大学開設(工学部)
1991    桐蔭学園工業高等専門学校廃止
1992    ドイツ桐蔭学園開設(2012閉校)
1993    桐蔭学園横浜大学法学部開設
1997    桐蔭横浜大学に改称
2001    中等教育学校第1期生入学
2004    大学院法務研究科(法科大学院)開設

2018 高校・理数科→プログレスコース

   高校・普通科→アドバンスコース/スタンダードコースに改編

   男女別学・併学→男女共学

2019 中学校募集停止

創立したのは、三菱化成の社長でもあった柴田 周吉氏です。

まず高校から作り、そののち中学校・小学校と作ったのですね。

わかりにくいのは女子部の存在です。高2までは男女別学だったのです。

桐蔭中高はマンモス校として知られていましたが、2001年にそこから組織を分離する方向で、男子のみの桐蔭中等教育学校を設立しました。ただ、当初は高3では、桐蔭高校および女子部との合同授業だったそうです。2019年に中等教育学校が共学化したため、合同授業はなくなったそうですが、設備は共有しています。

 

中学からの募集は、中等教育学校になり、高校からの募集の桐蔭高校とは別であるというのが現在の設えです。

ちなみに、高校のコース別編成は、プログレスコースが難関国立・医学部対応、アドバンスコースが国公立・早慶等対応、スタンダードコースはその他の大学対応となっています。

 最近、このようにあからさまに成績別コース編成をとる学校が増えていますね。

「医進コース」「東大コース」などよくみかけます。

意図はわかりますが、私はあまり好きではありません。生徒自身はどう思っているのでしょう?

 

「A君は桐蔭出身だったね」

「ええ、桐蔭プログレスコースです」

プログレス? 桐蔭じゃないの?)

「B君は?」

「僕も桐蔭出身です」

「ああ、それじゃあ同じプログレスコース?」

「いえ。ぼくは普通の桐蔭です」

「Cさんも桐蔭だったよね?」

「私は桐蔭じゃありません。桐蔭中等教育です!」

「??」

 

あくまでも想像ですが、こんかんじだとしたら気の毒です。

まあ大学受験まで後がない高校ならわかりますが、中高一貫校の中学入学段階からのコース分けはどうなんだろう?

 

大学実績

国立実績

早慶実績

大学実績推移を、5年移動平均でグラフ化しました。

推移を見るために、中等教育学校と高校の合算データです。

1990年代をピークにずいぶん減りました。1992年には東大に114名も合格していたのです。

ただし、この学校は超がつくほどのマンモス校です。以前は1学年の人数が1600名ほどでした。他の学校の5倍くらいです。したがって、この合格実績も学年人数を考えて見なくてはなりません。

 

校地・施設は共用していますが、桐蔭高校と桐蔭中等教育は相互の生徒の入れ替えもありませんし、別の学校と考えるべきですね。

なにせ桐蔭高校は、1学年の人数が900名を大きく超えるというマンモス高校ですので。

桐蔭中等教育は、現中1人数が307名、中2が335名、中3が278名ですので、普通の規模の学校です。 

その中等教育の大学実績はこうなっています。

中等教育 国立実績

中等教育 早慶実績

5年移動平均でグラフ化しました。

マンモス化しすぎた桐蔭中学・高校から、完全6年一貫教育の共学校として切り分けた中等教育学校ですが、大学実績を見る限り、順調に成果を上げているとはなかなか言い難いですね。

 

環境

 

この学校を語るためには、環境に注目しなくてはなりません。

なにせ、校地面積全体が34万㎢を大きく超え、東京ドーム8個分もの広さを誇っています。都内の学校なら2万㎢くらいですので、桁違いですね。この広大な敷地の中に、小学校・中等教育学校・高校・大学などが点在しています。その敷地を活かして、あらゆる施設が整っています。

ぜひ一度足を運ばれることをお薦めします。驚愕されると思います。

ただし、立地は遠いですね。

住所こそ横浜市青葉区ですが、都市ではありません。里山の中といったほうがいいですね。青葉台駅市が尾駅柿生駅からバスでのアクセスとなります。

スクールバスはありません。一般の路線バスの利用となります。

 

私見

かつて私は、桐蔭は「マンモス校」であるところに価値があると思っていました。少人数で面倒見の良さを売りにする学校ばかりではなく、こうした大規模な学校を好む層もいたからです。

しかし私の目には「迷走」と映るほどに学校のシステムや入試制度を変え、逆に人気がなくなったような印象がありました。

やっと中等教育学校として新たなスタートを切ったのですが、まだまだ世間の目は「あの桐蔭」という目で見ているような気がします。「あの桐蔭」というのは、マンモス校・遠い・スポーツ校、といったイメージですね。

しかし、大学実績こそ振るわないものの、あの環境は唯一無二です。そこを評価するかどうかが、この学校に対する評価なのだと思っています。