今回は、巣鴨学園(中高)を取り上げてみます。
※この学校を持ち上げる意図も貶める意図もありません。フラットな視点で情報を紹介するつもりですが、私個人の主観が混ざることはご容赦ください。
歴史・理念
まず公式HPを見て気づくことがあります。
トップページは
〇中学入試・高校入試
〇巣鴨の今
〇国際教育
〇クラブ活動
〇巣鴨学園について
・学校行事
・カリキュラム
・進学実績
・学校長挨拶
の順で構成されています。
細かいようですが、HPの作りというのは、学校が見せたい順・アピールしたい順となっていると考えてよいでしょう。
この時期ですので、中学入試・高校入試が最初に出てくるのはうなずけますが、「沿革」「歴史」についてのページが無いことは驚きました。(パンフレットには少しある)
教育理念についてのページもありません。もしかして「国際教育」が理念なのでしょうか?
・今時、理念や歴史を重視する受験生はいない
・国際教育を全面に出したい
そうしたことなのかもしれません。
校長挨拶を引用します。
巣鴨学園は、1910年(明治43年)に文学博士遠藤隆吉先生が創立した私塾「巣園学舎」をはじまりとし、硬教育(努力主義)による男子英才教育を実践して今日に至っています。
創立以来100年を越え、次代を担う少年達にはこれまでにもまして、広い視野や語学力、物事のあるべき姿を見すえた問題発見解決能力、明確な立脚点を持った表現力などが求められます。
しかし、時代がどう変わろうと、少年が持つべき基本姿勢、すなわち自らの可能性を信じ努力し続けること、は変わりません。 少年は可能性の塊です。努力することで自らの可能性を花開かせるのです。
巣鴨学園で、勉強はもちろんのこと、様々な行事やクラブ活動などの経験を通して、自ら努力し続ける姿勢を養ってください。そして自らの可能性を、夢に、目標につなげていきましょう。夢は見るだけではなく、叶えるものなのです。
巣鴨学園はすべての生徒が大空へ力強く羽ばたいていくことを願っています。
なかなか「硬派」なメッセージですね。私は嫌いではありません。
使われている横文字は「クラブ」だけです。昨今、意味が曖昧な英単語をちりばめたメッセージが幅を利かせる中、わかりやすくて良いですね。
ただし、入学案内パンフレットは、横文字の羅列です。「硬」の匂いが見事に消されていました。
現在の堀内校長は5代目です。歴代の校長はこうなっています。125年の歴史を誇る学校なのですが、校長が5人というのは少ないですね。例えば、神奈川の浅野は、巣鴨より10年後の1920年創立ですが、現校長が10代目です。
初代:遠藤隆吉
2代:遠藤健吉 遠藤隆吉の長男
3代:清水虎雄
4代:堀内政三 遠藤隆吉の娘婿 元海軍軍人
5代:堀内 不二夫 堀内政三の次男 現校長
遠藤隆吉と言う人物は、私財をなげうって私塾「巣園学舎」を創立したとあります。
氏は、生徒に文武の鍛錬のような困難を強いることが、知識を得て人格陶冶のためには必要だという教育観を、「硬教育」と名付けました。
これが学園の理念ですね。
ところで、3代校長の清水虎雄氏については調べてみてもよくわかりませんでした。1955年から10か月しか在任期間がありません。
遠藤一族から始まり、娘婿だった堀内一族につないだ、というかんじですね。
とくに第4代の堀内政三氏は50年以上にわたって校長職にありました。創立者の思いを現在につないだ人物といってもよさそうです。
ところで、巣鴨に限らず、学校法人は同族経営が非常に多いのです。
同族経営だから良い・悪いということはありませんが、不思議です。
大学実績
まずは、近年の東大・一橋・東工大および早慶の推移を見てみましょう。
単年度で数字をグラフ化すると目まぐるしく変化して見づらいので、いつものように5年移動平均でグラフ化してあります。
過去5年のデータは学校HPの数字ですが、それ以前は孫引きデータなので確度は低いです。ただそう間違っていないとは思います。
東大については、1992年の78名をピークに減少しています。
ところで、1992年と2024年の東大合格者数高校別ランキングを紹介します。
1992年には勢いがあったのですね。残念ながら2024年の巣鴨の東大合格者数は5名です。
この表を見ていると、桐蔭学園も1992には勢いがありますね。学芸大附属も凄いです。
このあたりの学校については、別の記事にしたいと思います。
さて、東大ばかりが大学ではありませんので、早慶についても見てみましょう。
やはり、1990年代後半をピークとして減っています。2024年は、早稲田28名、慶應26名の合格者数でした。
正直なところ、ここまで大学実績を落としているとは思っていませんでした。
ところで、一つ不思議なことがあります。
巣鴨は、中学で240名募集、高校で70名募集となっています。
したがって、単純計算だと高校になると学年人数は310名となるはずです。
しかし、公式HPの高校卒業生数は、過去4年を見ると、231名→266名→221名→200名となっているのです。
学年ごとの生徒数の推移を調べないと状況がつかめませんが、学校は公表していません。また、公表されている入試結果には、入学者数が載せられていないので、いったい実入学者数はどれくらいだったのか、つまり募集定員に対する充足率は不明です。
巣鴨高校の入試結果を調べても、公式HPでは点数しか出ていないので、合格者数すら不明です。
これらの数字は、学校を判断するうえで貴重な客観データなのですが、公表している学校が少ないのが残念です。
仕方がないので、塾が出版している学校案内を参照すると、中高全生徒数が1539名、中学人数が736名、高校人数が803名となっていました。中学の学年平均人数が245名、高校の学年平均人数が268名となります。ただ、中学の人数は、中1:238名、中2:280名、中3:218名と、学年によって60名以上もの差があります。これは複数回入試を行う学校によくみられる傾向ですね。いわゆる「歩留まり」が読めないのです。たとえば2024年入試では595名の合格者に対して中1の人数、つまり進学人数が238名ですので、40%の進学率、2023年の入試では637名の合格者に対して中2人数が280名で44%です。2022年では38%ですが、途中退学者がカウントできないので正確ではありません。
偏差値
過去11年の偏差値推移を見てみます。
四谷大塚の偏差値です。
55 → 54 → 53 → 50 → 52 → 52 → 55 → 55 → 55 → 55 → 55
あまり変わっていないですね。
ちなみにサピックス偏差値は、この7年で44→47となっています。
環境
池袋・北池袋・大塚・巣鴨新田(都電荒川線)、いずれの駅からも同じくらいの距離です。たぶん徒歩で10~15分くらいじゃないでしょうか。巣鴨駅が最寄り駅でないところは要注意です。
緑豊かな文教地区ではありませんが、これは都心の学校の宿命のようなものですね。
私見
巣鴨の有名な行事に、全学年全員参加で5月に行われる「大菩薩峠越え強歩大会」というものがあります。学校を夜の9時のバスで出発し、奥多摩町まで移動。その後35キロほどの道のりを夜中から早朝にかけて走破するのです。(中1は距離が短い)
この行事を、50年以上も続けているのですね。
毎年刊行される記念文集を見たことがあります。生徒の書いた作文です。
「大和魂! 先生の掛け声で僕たちは歩き始めた」
硬派な男子校が嫌いではない私としても、冒頭のこの1行を読んだだけで眩暈がしました。
この行事が、巣鴨という学校の1面をよく表していると思います。
まさに「硬教育」です。
そういえば、夏には巣園流水泳学校で褌で泳ぐイベントもありました。
多様な教育こそ私学を選ぶ意義ですので、こうした教育を求める層もいます。ただし、最近は少数派になってきているのだと思います。
かつて巣鴨は、「算数しか採点していない」という噂がありました。さすがにそんなことはないでしょう。ただ、そういわれるほど、算数重視の学校であったことは間違いありません。今でも「算数選抜」入試があります。
どうやら、巣鴨は「グローバル化」に舵を切ったように思われます。
イートン校へのサマースクールや、短期留学、巣鴨に海外から講師を招いての講座など様々な仕掛けが設けられています。
イギリスのパブリックスクールも厳しい教育で知られていますので、案外巣鴨と相性が良いのかもしれません。
ただし、一般にはグローバル教育を求める層は、夜通しかけての山越えや褌水泳は求めていないのではないでしょうか。