中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学受験】1年生から何を始めればいいのですか? 「非認知能力」の罠

私のところには、中学受験に向けた様々なご相談が寄せられます。

その中には、小学1年生(現在幼稚園年長!)の勉強法や塾についてのものも多いですね。

今回はそんな話題です。

なぜ受験勉強スタートが早まったのか?

 以前なら、中学受験のための塾通いは4年生から、とされていたものです。今でも大多数の塾の受験カリキュラムはそこがスタートとなっています。

 しかし、いつのまにか、小学1年生からのスタートが珍しくなくなってきました。

その要因は3つあります。

◆塾の青田買い

 塾だって営利企業ですから、他塾に生徒を取られる前に、少しでも早くから生徒を確保したいのです。

 そこで、3年生から、2年生から、1年生から、さらには幼稚園生のうちから、とにかく受験勉強をスタートさせようと、あの手この手で仕掛けてきます。

 どの塾も同じようなことを考えた結果、いつのまにか1年生から、となったわけですね。

◆人気塾の席確保

 一部の人気塾では、早い段階から入塾定員が埋まってしまいます。

 塾というのは、設備型産業の側面が強いのです。教師を増やすのも困難ですが、それにもまして、物理的な教室の確保が大変です。駅前の好立地で、周辺に飲み屋やパチンコ屋がなくて、道路が危険でなくて、ある程度の面積が確保できて、などといった各種の条件をクリアした物件を探すのは大変です。

 また、少子化の潮流の中で、安易に多額の投資を伴う教室展開はリスキーです。そこで、教室の席数が満杯となってしまえば、涙を呑んで募集を打ち切りにすることになるのです。

 そうなると、親としては、募集打ち切りの前に入っておかなくては! と焦りはじめるのですね。

小学校受験の影響

 いわゆる「お受験」とよばれる小学校受験では、幼稚園入園前からの通塾は当たり前です。つまりすでに塾に通うのが日常の中に組み込まれているのですね。

 また、小学校受験に失敗してしまい、リベンジを誓っている方も多くいます。

1年生からの入塾に向けた流れができてきます。

 

つまり、小学1年生からの塾通いは、決して中学受験成功の必須条件ではないのです。

 

塾の思惑や、他人の動向などには乗せられずに、お子さんにとってこの時期に必要な学びとは何なのかをまず第一に考えることをお勧めする次第です。

 

1年生で必要な学び

 

 1年生で必要な学びは、2つになります。

◆学習習慣

◆知識の取得

 

これだけです。

ここで、あれ? 思考力とか創造力は? と思われるかもしれません。

すこしそれについて説明します。

 

非認知能力の罠

 

 最近、「非認知能力」の大切さを説く方が増えてきましたね。それも、児童心理学の専門家でもない、いわば素人がよくこのワードを振りかざすのです。

「幼少時は非認知能力を育てるのが大事」

「8歳を過ぎると手遅れ」

 

そもそも「非認知能力」って何なのでしょう?

 

ここで、中央教育審議会の報告を引用します。

(認知能力・非認知能力)
○ 認知能力とは知的な力で、知識・技能、思考力等を含む。非認知能力は、意欲・
意志、自覚し見渡す力、人と協力する力等を含む。乳幼児期・学童期・思春期を通
して育つ。認知と非認知は相互に関連し、支え合って育っていく。1つの活動の中
に認知面と非認知面が必ず含まれ共に育つ。資質・能力の基礎を保育のプロセスと
して捉え、意欲を持って取り組み(学びに向かう)、様々なことを見いだし(気づ
き)、試行錯誤しながら工夫すること(思考力の芽生え)が生まれ発展していく。
○ 非認知能力とは、主に意欲・意志・情動・社会性に関わる3つの要素(①自分の
目標を目指して粘り強く取り組む、②そのためにやり方を調整し工夫する、③友達
と同じ目標に向けて協力し合う。)からなる。
 特に幼児期(満4歳から5歳)に顕著な発達が見られ、学童期・思春期の発達を
経て、大人に近づく。気質差、個人差が大きい。自己をコントロールすることが基
礎にあるが、認知と非認知の両面を必要とする。教育を通して育成可能性がある。

 

わかったような、わからないような。

あまりにも曖昧です。

 

「非認知能力」が注目されるきっかけとなったのは、アメリカで行われた「ペリー就学前プロジェクト」とよばれる実験でした。1962年から5年間、ペリー小学校附属幼稚園に通う児童123名を対象とした実験です。対象になったのは、アフリカ系アメリカ人の低所得層でした。実験の目的は、IQを上げることにあったそうです。

 ここまで読んで、「ああ、なるほどね!」と思い当たった方もいるでしょう。アメリカでIQの検査が大規模に実施されるようになったのは、第一次世界大戦頃のアメリカ兵の能力検査の一環としてでした。やがて「黒人は白人よりIQが劣る」という「優生学」を支える論拠の一つとなっていったのです。そもそもIQは生涯変わらない、つまりトレーニングで向上しないことが前提だったはずです。

 この実験の結果、IQは結局は向上しませんでしたが、その後の追跡調査によると、「幸福度」は向上したそうです。

・基礎学力で差がついた

・年収で差がついた

・逮捕率で差がついた

・持ち家率で差がついた

 

私がこの調査に違和感を感じる理由は3つあります。

・人種差別の匂いが濃厚

・「幸福」=年収という発想

・実験対象人数が少なすぎる

・そもそも子どもの教育で実験するな!

・施した「教育」の内容がありきたり

 

選ばれたグループに、手厚く指導者を配置して少人数制とし、自主性を尊重して遊びを見守り、家庭訪問を毎週行ったそうです。

あまりに「当たり前」すぎますね。逆にいうと、この「当たり前」のことができていなかったほうに問題があると考えるべきでしょう。

そもそも、「教育したグループは逮捕歴5回以上は36%だったのに対し、教育しなかったグループは55%だった!」といわれても。これって「成果が上がった」ことになるのでしょうか。

 

「非認知能力」には、こうしたものがあるのだそうです。


 やり抜く力、自己肯定感、やる気、集中力、忍耐力、自制心、理性、客観的思考力、行動力、リーダーシップ、協調性、思いやり、応用力、失敗から学ぶ力、創造力・・・

 

凄いですね! こんな力が、幼少期の教育次第で得られるのですか。

 

しかし、私は声を大にして言いたいと思います。

子どもの脳はPCではありません。こうインプットすればこうアウトプットされる、などといった単純なものではないのです。

「こうすれば非認知能力が必ず育つ」などといえるはずもありません。

 

一度この「非認知能力」というワードから離れることをお勧めします。

もっとシンプルに考えましょう。

 

学習習慣

 

別に難しいことではありません。

毎日、一定の時間、机に向かおう、とただそれだけです。

注意があります。

◆勉強をする場所を作り、そこに座る

 つまりリビング学習やソファごろごろ学習はダメということです。

◆親もその時間は横にいる

 子どもと一緒に学びましょう。教えてあげましょう。

 

勉強するのが当たり前な家庭環境を構築してほしいのです。

 

算数

 シンプルに計算練習でOKです。

 それだけでは物足りなければ、書店に行くと、知能開発系の思考力算数パズルのような本が多種多様出版されていますので、取り入れても良いと思います。

 ただし、こうしたパズル本は、やれば算数力が高まるというほどの効果はありません。単に面白いだけです。

 計算練習としてお薦めなのは、普通のドリルです。ただし、1年生用はあまりにも簡単すぎるので、学年を1つあげて、2年生用を使うとよいでしょう。

 さすがに1年生用の計算ドリルの内容くらいは、幼稚園のうちに終わっているはずですので。

★注意

 あまりに先取りに走るのはやめてください。

 〇〇式という、先取りを特徴とする計算特訓塾があります。小学生段階で高校数学までやらせたりするところです。受験の世界では、弊害のほうが大きいとみなされています。

普通の四則算が早く正確になればそれで充分なのです。

 

漢字

 これも、シンプルに小学漢字で十分です。

 1年先取りするドリル演習が良いでしょう。

★注意

 漢検にチャレンジするのはよいですが、あまりに先走るのはお薦めしません。

「漢字博士」を作りたいわけではないからです。

普通に小学生の漢字の1026字を5年生くらいまでにマスターするのが目標です。

 

書き方

 習字でもよいですが、鉛筆をつかった「書き方」の練習をお勧めします。

 この時期にきちんとした漢字・ひらがなを書く習慣はとても大切です。おそらく一生の財産となっていくと思います。

 

読書

 気分転換や時間つぶしが本を読むことである子に育てましょう。

 生徒でも、成績優秀な子ほど、休み時間に本を読んでいます。

 

 

本の選び方については以下記事を参照してください。

peter-lws.hateblo.jp

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