中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学受験】世田谷学園VS攻玉社

今回は、世田谷学園攻玉社について取り上げます。

この2校は、直線距離で4.4㎞しか離れておらず、同偏差値帯の学校ですので、比較対象になることが多いと思うのです。

※どちらの学校も、持ち上げる意図も貶める意図もありません。なるべくフラットな視点を心がけていますが、どうしても私個人の主観が出てしまうことはご容赦ください。

 

偏差値

世田谷学園・・・45    52    56    66

攻玉社・・・・・47    55    56    66

いわゆる80%偏差値は、こうなっています。どちらも2月1日の偏差値です。

午後入試や2回目以降の入試の偏差値は「荒れる」ので取り上げませんでした。

左から順に、サピックス日能研四谷大塚・首都圏模試のものです。

サピックス日能研攻玉社のほうがほんの少しだけ上ですが、四谷大塚は変わりません。誤差の範囲とみなせるでしょう。

同じ偏差値帯の男子進学校を見てみると、高輪・鎌倉学園桐朋巣鴨・城北・都市大付属といったあたりでしょうか。

 

偏差値の性質上、50前後の層が最も厚くなりますので、激戦の受験という見方もできるかもしれません。

 

歴史

 

まず世田谷学園の沿革を見てみましょう。


文禄 元年    江戸神田台に曹洞宗吉祥寺の学寮として創始

明治 9年    “曹洞宗専門学校支校”となる
明治 35年    “曹洞宗第一中学林”と改称、この年を創立の年とする
大正 2年    現在地に移転
大正 3年    地元一般子弟に入学許可開始
大正 13年    校名を“世田谷中学”と改称
昭和 22年    新制“世田谷中学校”開設
昭和 23年    新制“世田谷高等学校”(普通科)開設
昭和 26年    設立者を“学校法人世田谷学園”に変更
昭和 58年    校名を“世田谷学園中学校・世田谷学園高等学校”と改称
平成 5年    硬式野球部・甲子園初出場
平成7年    中高6年完全一貫開始
平成 19年    ダライ・ラマ第14世法王・来校特別講演
令和 3年    本科コース・理数コース開始

文禄元年!

文禄と聞くと、「文禄・慶長の役」と出てこないといけませんね。文禄元年は1592年です。

歴史の古い伝統校はいくつもありますが、さすがに1592年は最古でしょう。

もっとも、京都の洛南高校は、828年に空海が開いた綜芸種智院の流れをくむとされていますので、ここが最古になります。しかしながら、このあたりについては「言ったもん勝ち」の匂いもしますね。

世田谷学園自身も、明治35年=1902年を創立年としています。

 

攻玉社の歴史はこうなっています。

 

1863年文久3年)江戸四ッ谷坂町鳥羽藩邸内に近藤真琴蘭学塾を開く。

1869年(明治2年)のちの海軍兵学校内に塾を移す。塾名を「攻玉塾」とする。

1872年(明治5年)学制により、私塾から学校として、あらためて開学

1875年(明治8年)わが国最初の航海測量習練所(商船学校)を設置。

1889年(明治22年)海軍を志願する者のために海軍予備科を設置。

1925年(大正14年)品川区西五反田の現在地に校舎を新築して移転。

1947年(昭和22年)学制改革により、新制攻玉社中学校発足。

1948年(昭和23年)新制攻玉社高等学校発足。

1966年(昭和41年)6年一貫英才開発教育を始める。

2015年(平成27年)併設型中高一貫教育校に移行。

 

文久3年!

こちらも古いですね。1863年といえば、薩英戦争の年でもあり、新選組が結成されたのもこの年です。幕末の混沌とした時代でした。

ところで、2015年に併設型中高一貫教育校に移行とありますが、この「併設型」って気になりますね。

 

実は中高一貫校には3種類あるのをご存じでしょうか。

「完全型(中等教育学校)」「併設型」「連携型」の三種類です。

◆完全型・・・高校入試を行いません

◆併設型・・・高校入試があります。開成のように高校からでも100人も募集する学校もあれば、若干名の募集という学校もあります。攻玉社は若干名募集です。

◆連携型・・・別の設置者の中高が連携するというものですが、私立にはほとんどありません。公立中から無試験・面接のみで連携した公立高校に進学できるといったものがあります。

中高一貫校区分

文科省のデータによるとこうなっています。

いわゆる私立中高の大半は併設型ですね。まれに、中学で遊びすぎて高校に上がれなかった、などという話を耳にしますが、それは併設型だと思われます。

さすがに中学受験をする段階で、高校に上がれないことを心配する方もいないでしょうから、ここは気にする必要がない区分だと思って結構です。

 

教育理念

 

どちらも歴史のある学校ですので、確固たる教育理念が引き継がれています。

 

攻玉社・・・誠意・礼譲・質実剛健

4つの教育目標

①6年一貫教育を推進する

②道徳教育を教育の基礎と考え、その充実のために努力する

③生徒の自主性を尊重し、自由な創造活動を重視して、これを促進する

④強健な体力、旺盛な気力を養う

 

まず創設者の近藤真琴ですが、海軍中佐にまでなった人物で、明治六大教育家の一人とされています。

この明治六大教育家というのは、明治に顕彰された6人を指すそうです。他の5人はこうなっています。

大木喬任・・・文部卿
森有礼・・・文部大臣
中村正直・・・同人社を創立
新島襄・・・同志社を創立
福澤諭吉・・・慶應義塾を創立

なるほど。新島襄福沢諭吉と並ぶ教育家ということですね。

 

また学校長の藤田陽一氏の話がわかりやすいので引用します。

 

本校は、創立者近藤真琴先生が1863年、四谷坂町の鳥羽藩邸に塾を開いたことから始まります。今年で創立160年を迎える、歴史と伝統のある学校です。近藤先生は、50年先の日本を支える人材の育成に志を立て、「和魂漢洋才」を唱え、後進の教育に心血を注いで来られました。今でも、その精神は『攻玉社男子』の中に脈々と息づいています。
攻玉社の校名は、中国の最古の詩集「詩経」の一節である『他山の石以て 玉を攻(みが)くべし』に由来します。「周りから刺激を受けて自分の長所を伸ばす」という意味があります。そのために、校訓である「誠意・礼譲・質実剛健」を実践して、自らを攻(みが)いていきます。「誠意」とは、自分の良心に従い、相手の気持ちや立場なども斟酌(しんしゃく:その時の事情や相手の心情などを十分に考慮して、程よく取り計らうこと)し、誠実に対応できる力のことです。「礼譲」とは、相手に信頼され、好感を持って受け入れられるような礼儀を弁えた対応のことです。「質実剛健」とは、飾り気がなく、自身の能力や役割を弁え、出来る事と出来ない事をしっかりと決められる強き心を醸成することです。 6年間攻(みが)きをかけて成長した「攻玉社男子」は、少々のことではへこたれない逞しさを身に付けた、優しい青年に成長していきます。成長著しいこの6年間を一緒に過ごしましょう。

 

世田谷学園・・・Think & Share

この学校は、いわゆる「創立者」が「曹洞宗」となっていて、個人ではありません。

 

そこで、校長の山本慈訓氏の言葉をHPからそのまま引用します。

 

あなたには、あなたにしかない、かけがえのない価値・能力があります。
まず、挨拶とあとかたづけができる人間になろう。
そして、小さな良いことを始める勇気を持とう。
共に学ぶ友人との出逢いを大切に、お互いに磨き合う最高の環境をつくろう。
人間がつくり出した環境は、君が変えていくことができる。
主体性と創造性がある限り。
当たり前のことを当たり前にできる人、平常心のレベルを高く持とう。
志を高く、あとから来る者のために、自分は今何ができるか考えよう。
感動体験は君を大きく成長させる。
夢は人の心を豊かにし、目が輝いてくる。
与えられた命を大切に、自然の恵みに感謝し、幸せと平和な社会に向かって一歩踏み出そう。
夢をかなえるために、ただひたすら夢中になろう。
勉強でもスポーツでも、自分の得意なことに。
高い目標を立て、一歩一歩着実に歩もう。
根気よく、怠らず続けよう。
豊かな感性と、たくましく生きる力を養おう。
自ら学び、自ら調べ、自ら行動する人に。
夢は逃げていかない。逃げるのは自分自身、自分があきらめない限り、夢は逃げていかない。
違いを認め合い、思いやりの心を持って、多様な国際社会に踏み出そう。
毎日どんどん成長していく中学時代、どこまで伸びることだろう。
先生たちは、この学園で、君たちと共に学び、一人ひとりがすばらしい未来を手に入れることを願っています。
合言葉は“夢中人”

こちらはまた「ふわっと」していますね。攻玉社とは対照的です。

そういえば、HPを開くとすぐに気づくのですが、攻玉社は「海」のイメージで、世田谷学園は「空」のイメージです。

 

 

私達が目指す人間像とは、自らの智慧と足でたくましく人生を歩み続け、多くの人達と共により良い未来を創造していく人です。
それを私たちは、智慧の人、慈悲の人、勇気の人と名付けました。
智慧の人:自立心にあふれ、知性を高めていく人
慈悲の人:喜びを、多くの人と分かち合える人
勇気の人:地球的視野に立って、積極的に行動する人
変化が激しく混沌とした世界の将来を展望しつつ、私たちは、グローバルリーダーとして活躍できる人材を育てます。

 

教育理念:”Think & Share"
天上天下唯我独尊」
これはお釈迦様の言葉で、「人は一人一人かけがいのない尊い存在であり、だれもが立派な人間になることのでいる力をもっている」という人間観と、「人は固有の価値観や文化をもっており、それをお互いが理解し認め合うことで、平和な地球社会の創造が可能になる」という世界観が込められています。これを簡素な英語で表現したものが”Think & Share"です。

モットー
「明日をみつめて、今をひたすらに」
「違いを認め合って、思いやりの心を」

 

環境

 

世田谷学園の最寄り駅は三軒茶屋です。

ちょうど三軒茶屋と池尻大橋の中間ですが、大半の生徒は三軒茶屋駅利用です。

国道246沿いに歩き、一回角を曲がって住宅地に入ったあたり、徒歩10分の道のりです。

三軒茶屋駅周辺は猥雑な町ですが、学校の周辺は世田谷の住宅街ですから、環境は悪くないと思います。

ただし、田園都市線三軒茶屋駅の朝のラッシュはすごいです。

もうこの駅からは一人も乗車できないほどの満員となりますし、車両の奥にでもいようものなら降りることもできないでしょう。通学時間帯には要注意ですね。

 

攻玉社の最寄り駅は目黒線不動前駅、そこから徒歩2分です。

こちらも、山手通りの喧噪からは少し中に入っていますし、悪くない環境ですね。

実は、五反田駅や目黒駅からも1キロちょっとの距離ですので、歩けない距離ではありません。

 

 

大学実績

 

東大合格者 5年移動平均

1学年生徒数は、世田谷学園は220名程度、攻玉社は240名程度となっていますので、大きな差はありません。

 

東大実績については、あきらかに両校ともここ10年は減少傾向が見て取れます。

◆東大志願者が減った

◆優秀な生徒が他校に流れた

◆学校の指導力が低下した

 

学校の指導力については数値化できませんのでここでは取り上げません。

この偏差値帯の学校としては、大学附属校と共学進学校が増えていますので、受験生の選択肢が広がっているのは事実です。

東大目指して男子進学校! という層が減っているのが原因ではないでしょうか。

早慶合格者 5年移動平均

早慶の合格者を見ても同じ傾向が見て取れます。

あえて言えば、攻玉社が何とか持ちこたえている印象があるのに対し、世田谷学園は苦戦しているようですね。

 

感想

進学した生徒の話を聞く限りでは、やはり攻玉社のほうがいろいろ厳しい印象です。

世田谷学園は、バックボーンとして宗教があるせいか、情操教育を重視していると感じます。

 

実は、最近は「厳しい中堅男子進学校」は人気がありません。

「何が何でも東大! 医学部!」

「ビシビシしごいてほしい!」

という家庭が減ったのですね。

 

◆グローバルな匂いのする学校

詰め込み教育は否定

◆自由な校風の共学校

◆高校で交換留学制度あり

◆英語が話せるようになる

◆創造力を育ててくれる

◆キャリア教育も充実

◆新しい学校

 

こういった学校が人気な潮流からすると、「鍛える」学校は不人気です。

 

ただし、私はこうした学校は嫌いではありません。

中高6年間は、必死で勉強すべき時期だと思うからです。

そうでなければ、この偏差値帯の学校から東大に二けた合格は出ません。

 

そうした覚悟なく進学すると、厳しすぎると感じるかもしれません。

渋谷渋谷ー広尾学園ー三田国際、こういうラインナップの受験に組み込む学校ではないと思います。

 

ところで、調べてもよくわからなかったので、うろ覚えの情報で恐縮ですが、たぶん私は前校長の山本慈慧氏にお会いしたことがあります。その時、息子さんも紹介いただいたようなおぼろげな記憶が。その方が現校長になられたのだと思います。

たしかその時だったと思うのですが、ちょうど野球部が甲子園に出場したときだったのかな。教頭先生がこうおっしゃっていたのが印象的でした。

「甲子園出場はめでたい話なのですが、私は正直なところ、手放しで歓迎はできないのですよ。スポーツ学校としての知名度だけが独り歩きしてしまうので」

 

大学実績にも力を入れているからこその発言だと思います。

そういえば柔道も強いですからね。