渋谷駅を起点とすると、いくつもの学校があります。今回はそんな渋谷エリアの女子校の一つ、実践女子学園を取り上げてみたいと思います。
イラストのセーラー服とは異なり、胸当てがないもので、中学生はえんじ色、高校生は黒いスカーフです。
昔から、「渋谷の白鳥」「渋谷の烏」と揶揄されていました。女学館のセーラー服が白だったので、それとの対比でしょう。
失礼な話です。
シックで素敵な制服です。
※この学校を持ち上げる意図も貶めるつもりもありません。あくまでも私個人の意見にすぎませんのでご了承ください。
沿革
やはり学校を調べるときには、その歴史から辿るべきでしょう。
1882年 (明治15年):校祖下田歌子、本校の前身である桃夭学校を麹町区一番地に創設。
1899年 (明治32年):麹町区元園町に実践女学校・女子工芸学校を創設、5月7日に開校式を挙行。
昨年(2024)が創立125周年とありますので、創設は1899年なのですね。
それだけでも十分古いと思いますが、上には上がいる?のです。
おそらく最初の女子校は、1870年の女子学院とフェリス女学院ということに異論はないでしょう。
その他、実践と似た系統の学校・・・非ミッション系・婦女子職業訓練・教養学校 では、
1875 跡見学園
1886 共立女子学園
1892 豊島岡女子学園
1897 和洋九段女子
といったあたりが思いつきますので、いずれにしても古い歴史を誇る学校には違いありません。
優れた教育者であった下田歌子の思いが結実した学校です。
教育理念
建学の精神
女性が社会を変える、世界を変える
教育理念・教育方針
堅実にして質素、しかも品格ある女性の育成
これがため生徒は、良識を養い、実践を尚び、責任を重んずることを日常の心がけとする
実に地に足の着いた理念ですね。
しかし、今時はこうしたある意味「地味な」理念は流行らないのかもしれません。
私は好きですが。
大学実績
こうなっています。
MARCHGは、GMARCHと呼ばれることの方が多い、明治・青学・立教・中央・法政・学習院です。
早稲田・慶應・上智・理科大・ICUに加え、このあたりの大学に進学してくれると、親としては一安心?といった学校群です。
それらに16.3%が進学という実績をどう評価するかですね。
同偏差値隊の他校、跡見や大妻中野等と較べても、有意差はみられません。この偏差値帯の学校としては標準的な大学実績といえるでしょう。
実践女子大に内部進学する生徒が2割ちょっといるのですね。
それ以上の大学を目指した生徒のセーフティネットになっているのか、それとも最初から他大学進学を目指していなかった生徒が2割いたのか、そこはわかりません。もちろん、実践女子大の推薦をキープしたままの他大学受験ができるようになっています。
実践女子大学の存在
8割近くは進学しないとはいっても、同じ敷地に女子大がありますので、この学校は女子大の付属校とみなすべきでしょう。
◆高校生は、実践女子大の講義を受講可能
◆提携している國學院大學の講義を受講可能
◆実践女子大の図書館を利用可能
最初から実践女子大に進学を考えている生徒にとって魅力的な連携ですね。
また、図書館が利用できるのも大きいと思います。
ところで、実践女子短期大学は2024に生徒募集を停止して閉校となりました。
生徒数推移
学校の公式HPからは、2023.2024の2年分しかわかりませんでした。いずれも4月段階の生徒数です。
それ以前のデータは孫引きデータですので確度は保障できません。
これを見ると生徒数の減少が気になります。
どの学校も、数名程度の増減は普通です。
途中で海外赴任に帯同したがやがて戻ってきた、あるいは引っ越した、そういうケースですね。
しかし、例えば2019年の中1の人数が223名として、卒業時には197名に減っています。11.7%の減少率です。
以前調べた別の女子校では、この減少率が2割近くに達していましたので、この程度の減少率は普通なのかもしれませんが。
◆実践の教育に満足せず、より高いレベルの高校受験をした
◆実践の教育についていけず、高校に上がれなかった
このどちらかが多いのかまではわかりません。
※学校のHPから、卒業生の3年分の数字を見つけました。
2021年度 240名
2022年度 214名
2023年度 190名
となっています。
上の表と照らし合わせると、学年の最初と最後で、さらに人数が減っているように見えます。
まさか高3の途中で退学になる生徒もいないでしょうし、どういうことなのかよくわかりません。
いずれにしても、学校の公表データが少ないので確かなことはわからないですね。
※この学校に限りませんが、在籍生徒数推移を公表している学校はほとんどありません。公表したとしても今年度の数字くらいで、大半の学校はそれすら公表していないのです。
この数字を秘匿する理由がわかりません。
◆定員割れを隠したい
◆途中退学者の多さを隠したい
◆大学実績の貧弱さを隠したい
私に思いつく理由はこんなところですが、それ以外にあるのでしょうか?
学校を評価する際にとても大切な数値です。
もしかして私のような分析をする者を嫌っているというのが理由かもしれません。
中学入試について
学校の公表データから、中学入試結果を引用しました。
一般入試の倍率は3.4倍です。
まずまずの人気といえるでしょう。
ただし、この表を見ていて気が付くことがありますね。
入試を細分化しすぎです。
◆受験機会を増やすことで多くの人に受験してもらう
◆受験機会を増やすことで、難関校残念組を拾う
◆1回あたりの募集人員を減らすことで見かけ上の入試偏差値を高くする
学校が入試を細分化する理由はこの3通りです。少なくとも私にはこれ以外は思いつきませんでした。
2/1~2/4にかけて、午後の2科目入試は、午前に他校(たぶん実践より難関校)を受験した生徒に受けて欲しいという狙いでしょう。渋谷という好立地がそれを可能にしています。
もっとも入試問題を見てみると、算数はともかくとして、国語は決して易しい問題ではありません。きちんと学力を評価できる問題になっています。
思考表現入試については、てっきり「何でもあり」系の入試だと思いました。定員割れしているような学校がよくやる作戦です。
しかし実践女子は異なりました。しっかりとした思考力&表現力入試問題です。
2024年は「ジェンダー」がテーマです。
ジェンダーについての会話文と資料があり、それに基づく記述問題が出題されています。
◆あなたの周りのジェンダーステレオタイプの例を、本文中にあるもの以外で、「~は女性」または「~は男性」という形式で一つ書きなさい。また、そのジェンダー捨てオレオタイプによってどのような問題が生まれるのか、100字以内で説明しなさい。
◆日本とアイスランドのジェンダーギャップ指数を較べてわかることを少なくとも2つ挙げて、日本のジェンダー・ギャップ指数の特徴について、50字以内で説明しなさい。
◆トランスジェンダーの選手が大会に出場することについて、どのような点が不平等だと思いますか。50字以内で説明しなさい。
◆その不平等を解消して、平等なスポーツの大会にするために必要だと考えることとその理湯を100字以内で説明しなさい。
学校側がどのレベルまでの解答を期待しているのかはわかりませんが、なかなか意欲的な出題です。
鷗友学園が2科目から4科目に変わったときもそうでしたが、こうした意欲的な出題は、いずれ生徒のレベルの向上につながると思います。
ただし、入試を細分化した弊害が見られますね。
それは、入学者数が読めないという問題です。
したがって、学年によっての生徒数にバラつきが出ています。
入試難易度:偏差値
2018年と2024年の偏差値を比較します。
サピックス 32→32
四谷大塚 36→47
日能研 39→46
首都圏模試 48→55
サピックス以外は、確実に偏差値が上がっています。
むしろ昔に戻ってきたというべきかもしれません。
ここ数年、私の教え子でも、四谷大塚や日能研で偏差値40程度の子が何人か不合格になっています。
日能研や四谷大塚で真ん中かその少し下あたりの生徒が受験する学校だと考えるとよいでしょう。
今後
正直言って未来のことなどわかりません。
一般論でお話します。
歴史のある伝統的女子校も受難の時代となってきました。
学校名・ブランドだけでは生徒が集まらなくなってきているのです。
そこで、受験難易度を下げ、入試機会を増やし、受験生増をはかります。
そうすると、入学してくる生徒のレベルは下がっていき、それが大学実績にダイレクトに影響します。
しかし、大学実績以外の価値観は、今の日本ではほとんど評価されません。
そこで、次のような変革を始めることになります。
(1)入試難易度を下げ続け、生徒数確保だけに邁進する
自己推薦入試やプレゼン入試、一芸入試等に舵を切るのですね。作文と面接だけで合格させたり、英検級さえ持っていれば合格できたり。なかにはダンス選抜入試というものもあります。
当然生徒の学力は下がります。しかし、全ての受験生がバリバリと4科目の受験勉強をこなせているわけではありませんので、こうした「入り易い」入試にも一定の需要があるのです。
ただし、大学実績は伸びません。
◆キャリア教育
◆グローバル教育
こうした、「なんとなく将来に繋がっているように見える」価値観を前に出し始めます。
帰国生入試にも力を入れます。大学実績を稼ぎだしてくれる「傭兵部隊」の役割です。
(2)受験予備校化して大学実績を上げることに邁進する
◆補習授業を充実させる
◆夏期講習を学校が実施(予備校の教師を招聘する場合も)
◆学内に大学生チューターを常駐させ、個別指導させる
◆毎日小テストを実施し、生徒の弱点に合わせた課題を出す
◆休みの日でも自習室を夜遅くまで解放
◆既卒生にも自習室を解放
聞いただけで息が詰まりそうに感じますが、大学実績を上げるためにはこの程度は当たり前です。
(3)共学化し校名も変更
もはや別の学校です。
◆渋谷女子→渋谷渋谷
◆順心女子→広尾学園
◆戸板女子→三田国際(三田国際科学)
◆嘉悦女子→かえつ有明
◆目黒星美→サレジアン国際学園世田谷
◆東京女子学院→英明フロンティア
◆東京女子学園→芝国際
◆蒲田女子高校→羽田国際
◆星美学園→サレジアン国際学園
他にもたくさんあります。
渋谷渋谷と広尾学園の成功が火をつけたのでしょうか?
学校法人格のみ残し、全く別の学校に生まれ変わったとみなしたほうがよいでしょう。
学校によっては、前身の女子校時代を学校沿革から削除しています。また、まだ女子校時代の生徒が残っているのに、そうした生徒たちはクラスも合併し教室も隅に追いやられ、担当教師も力の無い教師ばかりが担当するといった扱いを受けていると聞いたこともあります。生徒の話ですから盛っている(とくに教師について)かもしれませんが。
(4)理系教育に力を入れる
従来は、女子校→私大文系、といった流れが主流でした。しかし、政策もあって、理系教育の充実に力を入れ始めるのですね。
(5)国際化
◆帰国生入試の拡充
◆英語資格入試の導入
◆国際バカロレア認定
◆海外留学
◆英語授業の強化
国際化も定番の作戦です。もちろん大切な教育です。
しかし、「夏休みハワイ研修」などといった、単なる観光旅行が充実しているだけだったり、バカロレアを導入しても海外大学進学者が少なかったりと、「見せかけ」だけの国際化に終わっている学校もありますね。
私がシンガポールで目撃した某校の生徒達のふるまいは、それはまあひどいものでした。一番騒いで周囲に迷惑を振り撒いていた集団の真ん中に教師がいたのを見たときには呆れたものです。
(6)制服リニューアル
伝統校の多くは、制服の歴史も古いですね。今時の女子には「刺さらない」制服を、可愛くおしゃれにリニューアルする学校は多いです。
(7)施設の拡充
手っ取り早く学校を魅力的に見せるには、学校施設を拡充するのがわかりやすい作戦です。陽光差し込むおしゃれなカフェテリアは基本です。図書室も、「ライブラリー」と改称し、ゆったりとしたソファなど配置します。
6年間過ごす環境ですからこうしたリニューアルは大切ですが、教育内容とは無縁な改革です。
入試問題を見る限り、実践女子は「奇をてらった」改革ではなく、学校の校風にそくした、地に足の着いた改革をすすめているように思えます。
しかし、入試の細分化や、HPの作り、YouTubeチャンネルの開設など、若干「コンサル」の匂いがするところが気になります。
ぜひとも先生方主導の変革であってほしいと思います。