鷗友学園の入試問題から
ChatGPTは、知りたい内容を指示文として入力すれば、瞬時に会話形式で回答してくれるものです。膨大な情報を学習させることで回答が作成されていくため、生成AIといわれています。生成AIは、人間による調整や判断なしに、インターネット上にアップロードされているあらゆる文章データを学習していきます。知りたい内容が指示文として入力されると、膨大な情報から言葉を選び、その言葉の後にはどんな言葉が続く確率が高いかを判断して、自然な文を作って出力する仕組みになっています。例えば、「犬も歩けば」に続く単語には「旅に出る」よりも「棒にあたる」の方が確率が高いと判断して、回答文をつくっていきます。つまり、生成AI自体は、文章の意味を理解して回答文を作成しているわけではありません。AIが作成する回答は、AIが学習するデータの情報量や情報の質に影響されるため、生成AIの回答には問題があるとも考えられています。生成AIは便利なツールですが、問題点などを理解しておくことが大切です。
問:生成AIには、どのような問題があると考えられているか、下線部の内容に着目して説明しなさい。その上で、指摘した問題に対して、生成AIを利用する人はどのようなことに気を付けていく必要があるか答えなさい。
これは、2024年の鷗友学園の社会科入試問題です。
この学校の入試問題は、「攻めて」いる姿勢がみられる入試問題で、個人的には大好きな系統の問題です。
私は、今の鷗友の大躍進は、この入試問題にあるとすら思っています。
やはり入試問題には、その学校が求める生徒像が反映しているのですね。
ここでは、「正確な解答がなかなか得られない」と書いたのでは、曖昧でぼんやりとした記述解答になってしまいますね。
もう少し具体的に「問題」について考察するべきでしょう。
学校が用意した解答例はこのようなものでした。
差別や偏見を含む内容が大量に入力された場合、それを反映した回答が生成されてしまうという問題がある。生成AIを利用する人は、自分でも調べたり確認したりして、生成AIの回答だけが正しいと思いこまないように気を付ける必要がある。
この学校の特徴としては、そんなに高度な解答を要求しているのではないということがあげられます。
これくらいの内容をそつなくまとめることが求められているのですね。
とはいえ、受験生にこのクオリティの解答が書けるかどうかは別問題です。
東邦大東邦 帰国生入試 英語
英語の入試問題の最後には、「生成AIの問題点と影響」についての英作文問題がありました。
人工知能(AI)の技術の発達は、今後のあなた自身の日常生活にどのような変化をもたらすと思いますか。60~70語程度の英語で答えなさい。
まず定番の出題ですね。
これくらいは、国語や社会等、どの学校でも聞かれますので、定番の答えをあらかじめ用意しておくべきでしょう。
生成AIの現状
去年おもしろがってあれこれ試していたときには、生成AIの書く文章は、文章ばかり流暢で中身が全くないか、あるいは間違いだらけという印象でした。
◆抽象的な概念への解答は悪くない・・・中身は薄くてありきたりだが
◆具体的な解答が必要な問いかけには弱い・・・嘘八百を書き並べる傾向
例えば、東大の世界史の入試問題など解かせてみると、まあ酷い物でした。よくもこんな嘘ばかり書き並べるものだと呆れたものです。
しかし今使ってみると、確実に進化しています。
試しに、「生成AIの問題点」を聞いてみました。
長いのですが、そのまま引用します。
1. 著作権と知的財産権の問題
生成AIは、大量の既存のデータ(例えば、書籍、音楽、アートワークなど)を学習し、そのパターンを基に新たなコンテンツを作り出します。このプロセスにおいて、学習元のコンテンツの著作権が無視されたり、元の作品を適切に認識・引用することができない場合があります。これにより、著作権侵害や知的財産権の問題が発生することがあります。2. 偏見や差別の再生産
生成AIは、学習データに基づいてコンテンツを作成します。そのため、学習データが持つ偏見や差別的な傾向(例えば、人種、性別、年齢などに関する偏見)を引き継ぐ可能性があります。このような偏見は、生成されたコンテンツにも反映され、社会的な不公平や問題を助長する恐れがあります。3. 悪用のリスク
生成AIは、非常にリアルな画像、音声、文章などを生成することができますが、その能力を悪用することが可能です。例えば、偽のニュースやディープフェイク(AIを使って偽の映像や音声を作成する技術)を作成し、社会的な混乱や不信を引き起こすことが懸念されています。4. 情報の正確性と信頼性の欠如
生成AIは、学習したデータを基にコンテンツを生成しますが、その結果が必ずしも正確で信頼できるとは限りません。特に、専門的な分野での誤った情報や誤解を招く内容が生成されるリスクがあります。これにより、誤情報が拡散する可能性があり、特に医療や法律などの重要な分野では重大な問題を引き起こす恐れがあります。5. 人間の創造性の喪失
AIによるコンテンツ生成が進むと、人間の創造性や仕事がAIに取って代わられるのではないかという懸念があります。特に、アーティストやライター、デザイナーなど、創造的な職業に従事している人々は、AIによって仕事が減少する可能性を感じるかもしれません。6. AIの透明性と理解の難しさ
生成AIはしばしば「ブラックボックス」のように扱われ、その意思決定の過程やアルゴリズムの詳細が不透明です。このため、AIがどのようにして特定の結果を生成したのかが理解しにくく、ユーザーがAIの挙動やその信頼性を判断することが難しくなることがあります。7. セキュリティとプライバシーの懸念
生成AIは、個人情報や機密情報を不適切に取り扱ったり、悪用されたりするリスクもあります。例えば、ユーザーから収集したデータを元に個人化されたコンテンツを生成する場合、そのデータが悪用されることが懸念されます。8. 倫理的な問題
AIが生成したコンテンツには、倫理的な問題が関わる場合があります。例えば、AIが生成するコンテンツが特定の集団に対して侮辱的、攻撃的、または不適切な内容を含む場合、これに対する責任は誰が負うべきかという問題が浮かび上がります。9. 過度の依存
生成AIの進化により、人々がAIに過度に依存するようになることも懸念されています。人間の判断力や問題解決能力がAIに依存することで、個人や社会全体のスキルの低下や、AIに対する過信が生じる可能性があります。これらの問題点に対処するためには、倫理的なガイドラインや法的枠組み、AI技術に対する監視と規制が必要です。また、AIを使う際には、その影響を慎重に考慮し、責任を持って利用することが求められます。
どうでしょうか?
よく自己分析?ができているじゃないですか。
私でもすぐには思いつかなかった問題点をあげてくれました。
この解答を読んでいると、生成AIの特性に気づかされます。
昨今、生成AIの問題点や活用法についての情報がネット上には溢れているのですね。だから、多数意見を統合する形でまとめるAIの得意分野の質問でした。
逆に、専門的知識に関する情報はネット上には多くありません。だから苦手分野なのでしょう。
あまりにも長いので、100文字指定で書き直させてみます。
生成AIの問題点には、著作権侵害、偏見の再生産、悪用リスク、情報の不正確さ、創造性の喪失、AIの透明性欠如、プライバシー問題、倫理的懸念、過度の依存などが挙げられます。
なるほど。これはごく普通のまとめですね。
生徒がこの答を記述してきたら、合格点はあげられますが、満点はあげられません。せいぜい60点です。
こんなにたくさんの項目を列挙しなくてもよいので、この中から2つ3つ、自分が重要だと思うものを選び、その内容や根拠を記すべきですね。
少しだけ人間の優位を感じますが、これとてあと何年続く優位なのか、あるいは数か月程度の優位なのかもしれません。
おもしろいので、さきほどの東邦大東邦の入試問題を解かせてみました。
The advancement of AI technology will greatly impact my daily life by automating tasks, improving productivity, and providing personalized assistance. AI will help manage schedules, optimize tasks, and enhance communication. Smart home systems and AI-driven services will make life more efficient. However, ethical concerns such as privacy and security will also need to be addressed as AI becomes more integrated into everyday life.
これなら合格点ですね。
それにしても、この技術、あまりに便利すぎます。
もうこのレベルまですでに進化しているのです。
しかも、これは一般に無料で公開されているものです。
最先端(かつ有料)のAIはどこまで進んでいるのか、空恐ろしいものがありますね。
そういえば、最近興味深いネットニュースを見ました。
ブリタニカ百科事典が復権しているというのです。
たしか10年以上前に紙の百科事典はなくなり、今はオンライン版だけのはずですが。
子どものころの愛読書が百科事典だった私としては気になります。
どうやら、ChatGPTの登場が、逆に情報の質について考える契機になったのだとか。だから、おもに教育現場ではブリタニカ百科事典のデータベースに基づいたAIチャットボットの回答が活用されるようになってきた、という記事でした。
まだ英語でのサービスしかないようですが、今後の展開が注目されます。
調べ学習を題材とした入試問題を思いつきました。
学校であるテーマについて調べてまとめるという課題が出されました。太郎君のチームはChatGPTを使ってまとめ、花子さんのチームは百科事典(オンライン版)を使ってまとめたのです。両者のレポートを並べて、その違いと理由、また利点と欠点を論述させます。
おもしろい入試問題になりそうです。