中学受験生にも、中学生にも、もちろん高校生にも勧めたい本、ぜひ読んで欲しい本を取り上げてみます。
第一弾?の今回は、この本です。
2009年に刊行された本です。
時期外れで恐縮です。
古典ほど古くはないのに、話題作というほど新しくない、微妙なかんじですね。
実は、出版されてすぐに読んだ私は、当時感銘を受けたのです。
◆文句なく面白い!
◆渋川春海を主人公にした視点が斬新
◆暦を作るということの意義が描かれている
これは中学入試に出るぞ!
おそらくは国語でも、社会科でも、あるいは理科でもいけそうです。
そう思っていたのですが、残念、全く出題されませんでした。
私の良く知らない中学校で最近出たという噂や、数年前に県立高校の入試で使われたという噂は聞きました。
しかし、最近の入試問題を見ていると、やっと「渋川春海」を見かけるようになったのです。もしかして今後多くの学校で出題されるかもしれません。
遅ればせながら紹介する次第です。
内容についてはご存じの方も多いと思いますので簡単に。
安井算哲(渋川春海)は、囲碁家元として将軍家に仕えています。天文学や算術も学び、当時使用されていた暦が不正確であることから、改暦を幕府に提案しました。
当時日本で用いられていたのは、9世紀に唐からきた宣明暦でした。
この「唐の暦を日本で使う」というのには深い意味があるのです。
もともと天体の運航は神の領域です。
その神の領域を暦にするなど不遜な行為ですね。
しかし暦は必要です。
そこで、神に最も近い存在の人間、つまり皇帝だけが、暦をつくる権限を持っていたのです。
実際には、皇帝直属の専門家が作ります。
そしてこの中国皇帝が作った暦を他国が受け入れるということは、中国皇帝の権威にひざまずくことと同意なのです。
春海は、宣明暦より新しい時代の元の授時暦のほうが正確であることを天体観測から導き出しましたが、日食予報を外してしまったために、授時暦の採用は却下されました。
春海は研究の上、近日点のずれや中国と日本の緯度差が原因で授時暦が日本にはそのまま導入できないことに気づきます。
そこで、天体観測データを駆使して、日本にフィットした暦、大和暦を作成することに成功しました。
最初のうちは大和暦は朝廷から却下され続けましたが、ついに貞享暦として採用がなったのです。
その功績により、初代幕府天文方に任ぜられました。
ここには大きな意味があります。
暦を作成し広める権限が、朝廷から幕府に移ったことを意味するからです。
この渋川春海の生涯を、関孝和との交流なども交えて描いた小説がこの本なのです。
★注意
実は、私は歴史小説は読まないようにしています。
本当は読みたいのです。歴史好きですから。
でも、歴史小説はあくまでも「フィクション」です。
実在しないエピソードや歴史人物が登場します。
しかも面白い。
そうして入ってきた「フィクション」の知識が、今私の頭の中にある「生徒に教えている正しい」歴史知識と混ざって区別できなくなってしまいます。
この二つを区別できるほど私の頭は器用ではありません。
それが怖いので、読めないのです。
この本についても、ついつい読んでしまってから後悔しました。
そこで、渋川春海をめぐる部分や、暦の解説が正確かどうかは気をつけてチェックしました。
どうやら、大筋では問題ないと思います。
少なくともこれで渋川春海という人物を知ってもらい、さらに暦を作る苦労や意義について理解するのは大いに勉強になると思うのです。
ぜひ子供たちにも読ませたい本の1つです。