中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

クリスマスやハロウィンは盛り上がるのに五節句すら知らない大学生

中学入試では、日本の年中行事や伝統文化に関連した出題が見られます。

国語・社会ですね。

しかし、子どもたちは想像を絶するほど知りません。

今回はそんな話題です。

非常識のまま大人になった子どもたち

たまたま元教え子の大学生たちが5人ほど顔を出しました。

同じ大学に通う、仲の良い子たちです。どうやらどこかに遊びに行く途中に、昼飯を御馳走になることを狙って来たようでした。

宅配ピザを食べながら、好きなピザの種類の雑談が、いつのまにかピザの起源はいつかと言う議論に発展しました。

この子たちは、こうした「意味もない議論」が大好物でした。一人の子は、メソポタミア文明発祥説を譲りませんし、一人はトマトがヨーロッパに伝わって栽培が始まった16世紀後半説を曲げません。19世紀のイタリア王マルゲリータにこだわる子もいましたね。イタリアの郷土料理にすぎなかったものをアメリカに渡ったイタリア系移民が広めたという説も登場しました。

そもそもピザのルーツをどこに求めるのかは所説ありはっきりしていません。料理のルーツって、だいたいはっきりしないものなのです。それでも人の移動とともに「味の移動」も行われますので、料理や食材の普及についての考察は、実は深い歴史的な考察にもつながるテーマなので、私も自分の授業で取り上げることがよくある話題でした。

 

 そうこうするうちに、クリスマスには何を食べるのかという話に発展します。

なぜ「チキン」なのかについては、七面鳥の代替だということまでは知っていたようですが、七面鳥を食べる風習がアメリカの初期の移民たちによるものだとまでは知らなかったようでした。

 ふと気になったので、「冬至」に食べたものについて質問してみると、かぼちゃと答えてくれましたので、一安心。ただ柚子湯に入った子はいませんでしたね。さらにいろいろ質問すると、彼らの常識がかなり怪しいことが浮き彫りになったのです。

 

そこで早速、「常識力テスト」を敢行しました。皆嫌がっていましたが。

 

1/1    元日
1/7    人日の節句
2/2       節分
2/3       立春
2/14     バレンタインデー
3/3       上巳の節句
3/17     セントパトリックスデー
3/20     春分
4/1      エイプリルフール
4/20     イースター
5/5      立夏端午の節句
5/11     母の日
6/15     父の日
6/21     夏至
7/4      アメリカ独立記念日
7/7      七夕の節句
8/7      立秋
9/9      重陽節句
9/23     秋分
10/31    ハロウィン
11/7      立冬
11/15    七五三
11/27    サンクスギビング
12/22    冬至
12/25    クリスマス

(日付は2025)

 

日米取り混ぜてみました。

結果は、予想通りです。

五節句を全て正解できた子は皆無です。ハロウィンは知っているのに、重陽節句は出てこない。アメリカ独立記念日は知っているのに、節分は出てこない。恵方巻という出自のだいぶ怪しいものは食べるのに、七夕に素麺を食べることは知らない。

 

彼らの中には、近々アメリカに留学予定の子もいました。当然アメリカで行われている行事・祝日についての知識は必要です。同様に、日本の風習についても説明できなくては恥ずかしい。

もっともこうした日本の風習をよく知らないのは彼らのせいではないのですね。

核家族化の進行・・・年寄りが同居していない

◆住宅事情・・・マンションでは豆まきもできなければ、柊鰯も飾れません。

◆商戦の激化・・クリスマスやバレンタインは商売の好機ですが、七夕では儲けにくい。

◆社会の変化・・・「古臭い」伝統行事は廃れていくのです。

 

私も偉そうに語れるほど伝統文化に詳しくはありませんし、実は年中行事も省略しています。それでも、「知っているけどやらない」ほうが、「知らないからやらない」よりはるかにましだと思っています。

 

恵方巻について

私の家では恵方巻は食べません。

東京で生まれ育った私にとって、子どもの頃から節分は豆まきの日であり、柊鰯も飾りましたが、恵方巻など見たことも聞いたこともない風習だからです。周囲の東京出身の知人に聞いても皆恵方巻は子どものころには無かったと断言していますね。

そこから導き出される結論は、

 

◆日本の風習ではない

◆地域限定の風習である(少なくとも東京ではない)

◆最近誕生した(作られた)風習である

 

この3つしかありません。

さすがに、ハロウィンのように、外国の風習ということは無さそうですね。

ということは、地方限定の風習(なまはげのような)か、最近作られた風習なのか、あるいはその両方か、という結論に至ります。

 

調べてみても、どうもはっきりとはしないのです。

江戸末~明治説・・・大阪船場商人が商売繁盛を目的とした

大正時代説・・・大阪の花街の遊びが起源

昭和初期説・・・大阪の海苔組合が販促のために広めた

1977年説・・・大阪海苔組合がキャンペーンを開始

1989年説・・・・広島のセブンイレブンが仕掛けた

 

なかには、もっともらしく古代中国の陰陽道を起源とする説までありますが、それはこじつけ過ぎです。

板海苔のはじまりは、江戸中期に和紙の技術を応用した「浅草海苔」からですので、巻きずしはそれ以降となります。

 

そもそも太巻き寿司を「丸かぶり」する食べ方は、品が無さすぎて、伝統文化と呼びたくはないですね。「縁を切らないよう」切らずに食べるなんて、ただ食べにくいだけです。そもそも太巻きは断面が綺麗に見えるよう具を配置するのがポイントだと思うのですが。目をつぶって無言で食べると願いが叶うというのも、いかにも後付けのこじつけ臭がします。花街での悪ふざけが起源というのには説得力があります。

 

伝統文化・風習の多くは、「禍を払い」「福を呼び込む」ことを目的としていました。

天候も飢饉も豊作も疫病も、全てが人知を超えたところで決まります。無力な人間の、せめてもの願いが「風習」となっていったのですね。そうして1年を無事生き伸びることができれば、「感謝」の儀式が行われたのです。

したがって、そうした「思い」が無い行事は、伝統行事には入れられません。

歴史だけでいえば土用の丑の日の鰻も古い風習ですが、もとは鰻屋の販促キャンペーンですからね。伝統行事の行事食には入らないでしょう。

恵方巻はバレンタインのチョコレートと同列だと私は思っています。

もちろん、私も海苔巻きは好きです。板海苔の発明は偉大ですね。江戸のファストフードのバリエーションが増え、現代でも手軽な「片手食」として便利です。