中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学受験】栄光と聖光、迷いはじめたら選べなくなった

今回は、何かと比較されることの多い神奈川男子進学校栄光学園聖光学院をとりあげます。

本来は2つの学校を比較するのは好きではありません。

例えばかつ丼とラーメンを比較しても無意味ですよね。

あげた例が庶民的すぎますが、まあそんなところです。

しかし、よくご相談を受けるのも確かなのです。

そこで、私なりに両校をとりあげてみたいと思います。

※あくまでも私の個人的な見解にすぎません。どちらの学校も、持ち上げる意図も貶める意図も毛頭ありません。教え子で両校に進学した生徒は多数います。どちらに進学した生徒も満足していたことを知っていますので。

栄光学園のアクセス・環境

◆交通アクセス

住んでいる地域によってこの評価は変わります。

そこで、横浜駅近辺に住んでいると仮定して考察します。

 

栄光最寄り駅は大船ですね。大船駅より徒歩15分です。ただし道の半分は「栄光坂」とよばれる急坂です。

「足腰が鍛えられるから良い」

「いつも遅刻寸前で駆け上がっていた生徒が陸上で活躍するようになった」

などと前向きな意見もありますね。

栄光坂

国土地理院の地形図からグラフ化しました。

駅を出て橋を渡った「大船駅前」交差点から学校正門までを計測しています。

540m地点から上り坂ですね。確かに足腰が鍛えられそうです。降雪直後の入試激励で、滑って危なかった思い出があります。

横浜駅から大船駅まではJR東海道線でおよそ15分です。

駅から学校までを15分とすると、30分で到着します。

もちろんバスを利用することもできます。

大船駅西口バス乗り場(大船観音前)3番から「船35 清泉女学院栄光学園大船駅西口発)」で約2分「栄光学園前」下車

となっています。8時台だとおよそ5分置きに運行しています。このバスは行先を見てわかるとおり、清泉女学院の生徒が大勢乗車しています。しかし「出会い」を期待して乗ってみても無駄でしょう。

 

◆環境

大船駅東口は、小規模な繁華街がありますが、西口には何もありません。学校は西側ですので、駅と学校の往復は安全な環境です。まあ東口に行ったとしても大した賑わいはありません。

学校は高台にあり、周辺は緑に囲まれています。学校のロケーションとしては良い環境です。

そして何より校地が広い!

学校HPでは、しきりに校地面積が強調されています。

校地: 113,000平方メートル
(首都圏中高一貫校の平均敷地面積:27,700平方メートル)

総建坪:14,300平方メートル
南棟・北棟・西棟
聖堂棟・第一体育館・第二体育館・大講堂
西校庭・中校庭・東校庭
トラックフィールド・サッカーコート・サブサッカーコート
テニスコート(7面)
野球場

都内の学校の4倍から5倍の面積を誇ります。

都心の学校では、郊外、たとえば多摩川河川敷にグラウンドを持っているケースもあるのですが、栄光は不要です。学校の敷地内にこれだけのグラウンドがありますので。

運動大好きで、運動系の部活に入りたい生徒にはたまらない環境ですね。

また、7年前に、卒業生の隈研吾氏により70周年記念事業として新築された新校舎は特筆に値します。木材を多用した低層建築の校舎は解放感に溢れ、広い校地の学校だからこそ可能な校舎建築ですね。これは素直に羨ましい。

この環境だけでも、栄光学園を選ぶ理由になると思います。

ぜひ一度学校HPをごらんください。

実に羨ましい環境であることがわかりますので。

ekh.jp

聖光学院のアクセスと環境

◆交通アクセス

JR根岸線山手駅から徒歩8分です。

聖光学院経路

山手駅前から学校正門までの勾配をグラフ化しました。

やはり上り坂ですが、栄光に比べれば可愛いものです。

京浜東北線で横浜から山手までが10分程度ですので、所要時間は20分といったところですね。

 

◆環境

校地面積は5万㎢弱ですので、栄光の半分以下です。それでも都内の学校、例えば開成に比べれば2倍くらいの面積ですので、余裕は十分です。

10年前に建て替えられた校舎は必要十分な設備が整っています。

校外グラウンドとしては

人工芝グラウンド (サッカーコート 106m×65m 野球場 両翼 78m・センター85m)
屋上テニスコート(2面)
中庭(テニスコート 2面)
屋外プール(25m 6コース)

となっています。

これでも十分以上の広さがあるのですが、先に栄光を見てしまうと、栄光の広大さが際立ちます。

周囲は住宅地に囲まれていますが、少し裏に行くと広大な根岸森林公園がありますので、学校のロケーションとしては良いと思います。

電車に1駅・2駅乗るだけで、元町・関内に出られますし、フェリス・横浜共立・横浜雙葉もご近所です。

 

大学実績の比較

まずは定番ですが、東大の合格実績を見てみましょう。

現役・浪人は区別していません。

1964~2024の60年間の推移のデータです。

東大実績推移(1)

聖光が伸びているのはわかりますが、年度ごとの上下が大きくて見づらいですね。

また、1969年には東大紛争で入試が行われなかったためグラフが途切れているのも気持ち悪いです。

そこで、1969年を削除し、さらに5年移動平均でグラフ化しました。

5年移動平均

だいぶ見やすくなりました。

巷では、今年の聖光の東大100名合格が話題となっています。

「聖光が栄光を完全に負かした!」といった文脈です。

でもよく見てみると、聖光の伸びは間違いないですが、栄光はあまり変わらないというべきでしょう。若干の減少傾向はうかがえますが、過去にも同じくらいの年は何度もありました。

つまり、栄光が沈んだのではなく、聖光が伸ばしている、そういうことになると思います。

しかし、現在30代以上の年齢で、神奈川エリアの中学受験状況をご存じの方から見ると、「栄光>>聖光だろ! え、違うの?」といったものが率直な感想だと思います。

 

ところで、両校の卒業生数は異なります。それを単純に合格者数で比較するのはフェアではないですね。

聖光の2024の卒業生数は229名、栄光は183名です。こちらも年度によって若干変動しますが、聖光は230名、栄光は180名として、卒業生を200名に揃えた場合の東大実績をグラフ化します。

生徒数を200名に揃えた5年移動平均

予想どおり傾向は変わりません。

ただし、両校の東大実績の逆転時期が、2010年頃から2020年頃へと10年ほどシフトしました。

 

京大・東工大・一橋大・横浜国大・早稲田・慶應の各校についても60年間の推移を調べたのですが、傾向はあまり変わらないので省略します。

 

このまま聖光が栄光を突き放す形で大学実績を伸ばし続けるのか、あるいは頭打ちになるのか。

このまま栄光の実績が右肩下がりとなるのか、あるいは盛り返すのか。

 

こればかりはわかりませんが、両校を目指す受験生の様子を見ていると、両校とも高い大学実績をキープしたまま甲乙つけがたい状況で推移していくのではないかと思っています。

 

そもそもこれだけの大学実績が出ている学校ともなると、「東大が〇〇名多いからこっち!」と選ぶ学校ではないのです。栄光には栄光の教育方針があり、そこに共感した生徒が集まりますし、聖光には聖光の理念があり、そこに賛同した生徒が集まります。

 

※聖光がこれだけ東大実績を伸ばしたのには、学校の努力が大きいのでしょう。

「塾・予備校に行かなくても合格できる」と聞きました。

もっとも、教え子聖光生にリサーチすると、「けっこう塾に行っている奴は多い」とのことです。具体的な情報ではありませんが、今時塾・予備校に行かずに大学受験、それも東大受験をする勇気がある生徒はなかなかいないでしょう。

そう考えると、横浜に近い聖光のほうが、大船の栄光よりもいろいろと便利です。

 

※1つだけ指摘しておくと、栄光は2月2日の1回入試ですが、聖光は2月2日・4日の2回入試です。また、聖光は1月に帰国生入試も実施していて、30名ほどの合格者を出しています。

入試日の設定だけ見れば、聖光のほうが「優秀な生徒を集める」ことに力を入れていることは間違いないでしょう。

 

聖光学院の歴史と理念

1819年 カトリックキリスト教教育修士会(学校法人聖マリア学園の母体)創立。
1952年 現在地に外国人子弟のための学校を開設。
1954年 港区に「セント・メリーズ・インターナショナル・スクール」を設置。(1972世田谷区瀬田に移転)

1958年 「聖光学院中学校」を設置。
1961年 「聖光学院高等学校」を設置。

セントメリーズが系列校だとは知りませんでした。噂では、両親含めた英語力・経済力に加えて学力も必要な人気インターだそうです。「金だけ積めば入れる芸能人子弟御用達のインターとは格が違う」というのが、通わせている知人の辛口コメントでした。

 

「基本的教育原理」をこううたっています。

(1)子弟の教育は、親の責任であり、親は、その子弟が、完全なる教育を受けるために、その責任を学校とわかちあうものである。
(2)学校の使命は、青少年をして、真・善・美を尊ぶ雰囲気にひたらせ、それらを求めることによって全人格の調和的発展の啓発を助長して、徐々に青少年がその全能力を独創的に活用しうるよう育成することにある。

個人的には、(1)が興味深いですね。あくまでも教育の責任は親にあると宣言しています。

昨今、学校教育を「サービス業」ととらえ、過剰な「サービス」を当然とする風潮がありますが、この学校は違うのですね。

 

「教育理念」についてはキリスト教に関する内容なのでここでは割愛します。

気になったのは、「教育方針」の項目です。

(1)聖光学院の使命の一つは、在校生および本学院に関係あるすべての人々に、キリスト教的精神を理解させることである。
(2)聖光学院は、生徒の道徳的、倫理的人間形成を特に強調するものである。
(3)聖光学院は、生徒の心身の陶冶、学業、社会への貢献を全うするために周到かつ、厳格な訓育が不可欠であると考える。したがって、本学院は在校生が自ら修行に励むと同時に定められた規律を進んで守ることを重要視する。
(4)聖光学院への入学志願者の実情からみて、在校生は、さらに高度の学問の府に進もうと志している。したがって、本学院は、在校生のすべてに対し、その目的を達成するための積極的な指導を行なう責務があると考える。
(5)社会は不断に進化発展するものであるから、聖光学院は、その基本的教育原理を堅持する一方、社会に適応して行くよう努めるものである。

学校自ら「うちは厳しくルールを守らせますよ!」と宣言しているのですね。

いっそ清々しいと思います。

入学してから、「厳しすぎる!」と文句を言うことはできないわけです。

また、(4)を教育方針に掲げているところも潔いですね。

大学実績、それも「高度の学問の府」への進学を積極的に指導する、と宣言しているのです。

この方針、以前から掲げられていたのかな? 残念ながらさすがに覚えていません。

 

そういえば、最近聖光と洗足の交流が話題です。

急速に大学実績を伸ばしているという共通点がありますね。

 

栄光学園の歴史と理念

栄光は、イエズス会の設立です。

イエズス会と聞くと歴史の授業とリンクするのは教師の本能です。

ルターによる宗教改革(1517)の直後の1540年、元騎士だったイグナティウス・デ・ロヨラフランシスコ・ザビエル等によって設立されました。「教派」というより、カトリック内の「修道会」ですね。「神の軍隊」と呼ばれる、軍隊的な規律を持っています。

1913年 上智大学設立

1938年 神戸に六甲学院設立

1947年 神奈川県横須賀市田浦の旧海軍施設跡地に栄光学園を設立

1956年 広島学院を設立

1983年 福岡の泰星学園(現「上智福岡」)が姉妹校となる

2016年 「学校法人 栄光学園」を含む5つの法人が合併し「学校法人 上智学院」が誕生

 

戦後すぐの創立です。

現在の学校法人名は「上智学院」なのですね。

教育理念
栄光学園の教育は、キリスト教的価値観、また、イエズス会創立者イグナチオの精神を基盤とし、
生徒一人ひとりが神から与えられた能力を十全にのばし助けることを基本理念とする。』

福音書を引用した目指す生徒像が述べられています。

栄光学園における6つのキーワード
●MEN FOR OTHERS, WITH OTHERS 他者のために、他者とともに生きる
●AGERE CONTRA 逃げたい気持ちとたたかい、なすべきことに専念する
●MAGIS 自分の能力を可能な限り成長させる
●AGE QUOD AGIS やるべきことを、やるべきときに、やる
NOBLESSE OBLIGE いまここで私に与えられた能力や立場を最大限にいかす
●AD MAIOREM DEI GLORIAM より大いなる神の栄光のために

 

HPを見た印象だけでいえば、聖光よりも栄光のほうがキリスト教の精神が全面に出ているような気がしますね。

 

教育の特徴については、長いので抜粋で紹介します。

 

栄光学園の教育の特徴
1.本来の教育権をもつ家庭との連携
子どもの教育権は、第一に保護者の方にあることは言うまでもありません。家庭のもつ役割は極めて大きいものがあります。
栄光学園では保護者と担任の個人面談のほか、学年別に年2回開かれる『父母会』に加えて、『地区別懇談会』(通学区域を20地区に分け、各地区で実施)を開いて、保護者と教員とが連携をはかっていくことができるようにしています。

2.集団の中にある一人ひとりの生徒への配慮
3.各自の成長段階に応じた各種経験の機会
4.国際社会の一員としての自覚
キリスト教ヒューマニズムに基づきグローバルな視点で物事を考えて行動できることは、栄光学園をはじめとする各国のイエズス会教育を受けた生徒に求められる共通の資質です。
栄光学園はこの目的を達成するために、イエズス会教育機関の世界的なネットワークを活用して、フィリピンのイエズス会学校(Sacred Heart School-Ateneo de Cebu)との生徒の派遣・受入を、またアメリカ合衆国イエズス会大学(Boston College)への生徒派遣を行っています。

5.倫理教育・宗教教育
本学園で最も重視する全人教育は、基本的にはすべての学習指導・生活指導のうちで実践されます。これにしっかりした原理を与えるために、学園独自の教育課程である『倫理』の授業を開校以来設けています。
栄光学園カトリック校であり、宗教は人間存在の根底を支える重要なものと考えていますが、一方で正課として宗教の授業を設けたり、礼拝を強要したりすることはありません。

栄光も、保護者の役割を重視しているのですね。

また、保護者との連携にも積極的なようです。

 

おすすめなのはどっち?

 

そんなのはわかりません!

 

両校は、たまたま神奈川のキリスト教系男子校で大学進学実績が優れている高偏差値人気校というだけで、まったく異なる理念に基づく異なる学校ですから。

 

何度も学校に足を運び、先生方のお話をうかがい、生徒たちの様子を観察し、学校内の見学をし、「気に入ったほう」「通いたい・通わせたいほう」を選ぶしかないでしょう。

 

もし人生をやり直せるならどっちに進学したい?

 

ううむ、迷いますね。私の年代では栄光>聖光なのですが、両校の良さを知っていますので。

大学実績は重視しません。大学受験って、学校に何とかしてもらうものではないと思っていますので。

校地の広さ・設備・校舎の魅力でいえば、栄光でしょう。

でも、個人的には大船駅よりも山手地区の華やかさが好みです。フェリス・横浜共立・横浜雙葉の生徒たちと交流したいですから。

汚れきった大人の視点なんてこんなもんです。