論述指導をリモートでもやっているため、海外からのご相談も多く受けてきました。
海外には日本の中学受験情報が必ずしも正しく伝わってはいないのだなあ、と思わされることが多くあります。
そこで今回は、「正しい」帰国生の中学受験について書きたいと思います。
英語力さえあれば、受験はなんとでもなる
よく聞く話ですね。
とくに海外の塾関係者までもが口にするのを聞いたことがあります。
デマです
このデマが広がる背景にはこのような事情があるのです。
◆帰国生入試は科目数が少ない
帰国生入試の試験科目を見てみると、英語・算数・国語の3教科が主流です。
学校によっては英語のみ、英作文、英語によるスピーチ、日本語作文といったものを課す場合もありますね。
理科・社会をきちんと出題する学校はほとんどありません。
あったとしても、算国理社の4科目入試or英算国の3科目入試を選択する、といった形でしょうか。
ということは、英語だけさえできれば、あとは算数と国語だけやっておけば合格できる! ということになりそうですね。
◆帰国生入試の算国は簡単である
しかも、帰国生入試で出題される算数と国語は、一般入試よりも易しい出題であることがほとんどです。
それくらいなら、算数の計算練習と漢字をやっておけば何とかなるのでは?
◆理科・社会は捨ててもよい
ただでさえ海外で頑張っているのです。理科・社会まで手を広げる余裕なんてありません。どうせ入試に出ないのなら、やる必要はないでしょう。
◆海外の塾には理社のコマが無い
海外の塾は、教師集めに苦慮しています。多くの国で、就労ビザの取得は困難です。そうすると、学力や能力で教師を採用するなんて贅沢はできません。労働可能な人材から探すしかないのですね。
国語の教師は見つかるでしょう。日本人なら国語くらい教えられるでしょ?
算数の教師も見つかるでしょう。簡単な算数の指導くらい、模範解答を見ればできるでしょ?
理科・社会の教師は見つかりません。広範な知識・解法を要求される教科ですので。
そこで、「帰国生入試には理科・社会は不要ですよ」というトークを塾はすることになるのです。
実際には教えられる教師がいないだけなのですが。
こうしてみていくと、最後の理由はともかくとしても、やはり海外帰国生、英語圏あるいはインター出身者であれば、身に着けた英語力を活かせば、それだけで受験は何とかなるように思えてきますね。
もし「中学に入れさえすればそれでよい」という考えなら、うまくいくかもしれません。しかし、その後はどうするのでしょう?
英語だけで合格できる学校の思惑
全ての学校とはいいません。一部の学校の話です。
英語力だけの中学入試を設定する学校の目的はどこにあるのでしょうか?
その入試で入学してくる生徒は、こんな状態です。
算数は解けません。だってやっていないのですから。
漢字も書けません。
語彙も足りません。
長文読解などできません。
理科も解けません。知識が無いのです。
社会もできません。日本地理や日本史なんて海外では出てこないのです。
英語だけはできます。ただし日本の英語教育の文法の知識はありません。現地で普通に使っていた英語力です。
そんな生徒を、特別待遇の入試で受け入れる学校の意図はどこにあると思いますか?
◆定員割れしている学校
もう誰でもいいのです。学校存続がかかっているのですから。英語だけでもできる生徒なら、大学入試でどこかに受かるかもしれないじゃないですか。四大に合格できる生徒ならだれでもかまいません。
◆生徒のレベルが低すぎる学校
英語は積み上げ教科です。思考力や分析力よりも(本当は重要なのですが)、一定の時間を学習に費やすことで、ある程度の成果が見込める教科です。
しかし、そうした努力を継続できる生徒がその中高には少ないのです。せめて帰国生が入ることによって、英語力全体の底上げを図りたいのです。
◆国際色を演出したい学校
帰国生を多くとり、「インターナショナルクラス」のようなコースを設定すると、グローバルな学校に見えますよね。そのうちの数人でも、海外大学に合格してくれると学校に箔が付きます。
帰国生入試に力を入れている学校を見ていると、上記のような思惑が疑われる学校が見受けられます(もちろん全てではありませんが)。
もしかして私の偏見・誤解にすぎないのかもしれません。
しかし、定員割れしているかどうかや、大学の合格実績については調べることは簡単にできるはずですので。
「英語だけで受けられる!」
と喜ぶ前に、その学校がどのような学校なのかじっくりと検討してください。
大学はどうしますか?
日本の教育制度に戻るということは、そのまま6年後に日本の大学を受験する、ということですね。
大学入学共通テストは避けて通れません。主要教科の学習をきちんとする必要があります。
また、学校推薦の枠を狙うのならば、高校の評価は重要です。主要教科で評定をどこまで上げられますか?
つまり、たとえ英語入試で合格したとしても、その後には必ず主要教科の学習をやるしかないのです。
中高一貫校は、中1の学習でつまずくと、リセットが効きません。しかもほとんどのカリキュラムは中高の垣根を越えて早い進度で進みます。
数学を例にとれば、中3で高校数学の数Ⅰは終了するのが普通です。
理科・社会についても、公立中学の範囲は中学受験で既習とみなして、その先へ突き進みます。
そこを勘違いしていた生徒の悲劇については、この記事で紹介しました。
例外
別に日本の「難易度の高い大学」に入れようとは思っていない。
中高も、勉強以外にも充実した生活を送ってほしいと思っている。
中高生活を楽しくのびのびと過ごして、それで入れるレベルの大学に行けばそれでよい。
別に大学に進学せずとも、自分のやりたいことが見つかれば専門学校でもかまわない。
こうした価値観のご家庭なら、私のアドバイスなど不要です。
私はどうしても「受験の世界」の住人ですので、小中高生にとにかく勉強をしてもらいたいという価値観に縛られているのです。
長い人生において、中高などわずか6年間です。何が幸いするかわかりませんからね。
そのように達観できない私はまだまだ未熟者なのでしょう。