中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

最近中学受験で見かける、PISA型学力って何なんだ? 

みなさんはPISAってごぞんじでしょうか?

教育に興味のある方でないと知らないかもしれません。

今回は、PISAについて、そして求められる教育について書いてみたいと思います。

PISAって何?

文部科学省国立教育政策研究所のHPから引用します。

 

 OECD経済協力開発機構)は、各国の教育を比較する教育インディケータ事業(INES)の一環として、 PISA(Programme for International Student Assessment : ピザ)と呼ばれる国際的な学習到達度に関する調査をおおむね3年ごとに実施しています。
 PISA 調査の目的は、義務教育終了段階の 15 歳の生徒が、それまでに身に付けてきた知識や技能を、実生活の様々な場面で直面する課題にどの程度活用できるかを測る事にあります。
調査の結果から、自国の教育システムの良い点や課題についての情報を得ることができ、国の教育政策や教育実践に生かすことができます。

 

これだけでは何のことかさっぱりですよね。

調査には、アンケート調査もあって、学習意欲やデジタル機器の利用状況など、なかなか興味深いデータが出ているのですが、一般に「PISA」といえば、学習到達度調査テストのことを指します。

 

このテストは3分野で構成されています。

◆科学的コンピテンシー

◆読解力

◆数学的リテラシー

の3分野です。

さらにこれらに加えて、こんなものもあるのです。

◆革新分野:ラーニング・イン・デジタルワールド(Learning in the Digital World : LDW)

革新分野とは、主要3分野を超えた教科横断的分野について実施されている調査であり、内容はサイクルごとに異なる。PISA2025 の革新分野で実施のラーニング・イン・デジタルワールド(LDW)は、ICT を活用した自律的な学習(自己調整学習)のプロセスを通して、生徒が問題解決し、その中で新しい知識を獲得できるかを測定しようとする認知調査。

 

この革新分野は、とりあえず無視してよさそうです。

 

テストの3分野の内容はこうなっています。

◆科学的コンピテンシー

「現象を科学的に説明する」「科学的探究のための計画を構築し、評価し、科学的データと証拠を批判的に解釈する」「意思決定と行動のために科学的情報を調査し、評価し、利用する」能力のこと、
また気候変動の時代における持続可能性の問題に取り組む能力を併せ持つこと。

◆読解力

自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、社会に参加するために、テキストを理解し、利用し、評価し、熟考し、これに取り組むこと。


◆数学的リテラシー
数学的に推論し、現実社会にある様々な文脈において問題を解決するために数学を定式化し、活用し、解釈する個人の能力のこと。

 

これだけを見て、「ああ、なるほど、そういうことね!」とわかる方は素晴らしいです。少なくとも私の頭の中は??だらけになりました。

 

乱暴を承知で総括します。

 

先進国の15歳に、思考力系のテストを一斉に実施している

 

ということなのです。

ちなみに日本の順位はこんなかんじです。

次回の実施は2025年です。

日本は、高1に実施されます。

PISA順位

PISAの問題

 

問題を見ないことには、何が何だかわからないですね。

 

 

次の課題文を読んで、以下の問に答えてください。

温室効果 - 事実かフィクションか
 生物は、生きるためにエネルギーを必要としている。地球上で生命を維持するた
めのエネルギーは、太陽から得ている。太陽が宇宙空間にエネルギーを放射するの
は、太陽が非常に高温だからである。このエネルギーのごく一部が地球に達してい
る。
 空気のない世界では温度変化が大きいが、地球の大気は地表をおおう防護カバー
の働きをして、こうした温度変化を防いでいる。
 太陽から地球へくる放射エネルギーのほとんどが地球の大気を通過する。地球は
このエネルギーの一部を吸収し、一部を地表から放射している。この放射エネルギ
ーの一部は大気に吸収される。
 その結果、地上の平均気温は、大気がない場合より高くなる。地球の大気は温室
と同じ効果がある。「温室効果」というのはそのためである。
 温室効果は 20 世紀を通じていっそう強まったと言われている。
 地球の平均気温は確かに上昇している。新聞や雑誌には、二酸化炭素排出量の増
加が 20 世紀における温暖化の主因であるとする記事がよく載っている。

 

まずこの文章を読み、さらに地球平均気温上昇と二酸化炭素上昇の2つのグラフが提示され、「 太郎さんは、この二つのグラフから、地球の平均気温が上昇したのは二酸化炭素排出量が増加したためであるという結論を出しました。」と書いてあります。

 

Q1:太郎さんの結論は、グラフのどのようなことを根拠にしていますか。

Q2: 花子さんという別の生徒は、太郎さんの結論に反対しています。花子さんは、二つのグラフを比べて、グラフの一部に太郎さんの結論に反する部分があると言っています。 グラフの中で太郎さんの結論に反する部分を一つ示し、それについて説明してください。

Q3:太郎さんは、地球の平均気温が上昇したのは二酸化炭素排出量が増加したためであるという結論を主張しています。しかし花子さんは、太郎さんの言うような結論を出すのはまだ早すぎると考えています。花子さんは、「この結論を受け入れる前に、温室効果に影響を及ぼす可能性のある他の要因が一定であることを確かめなければならない」と言っています。
 花子さんが言おうとした要因を一つあげてください。

 

これが、2006年の科学的リテラシーのテスト問題例です。

 

今はCBTになっているので、パソコン上の資料をクリックしていろいろ読み込んでから記述解答するスタイルになっていますので、わかりやすい紙ベース時代の問題を紹介しました。

 

読解力についての2000年実施の問題もなかなか面白いので紹介します。

 

ヘルガの手紙

 学校の壁の落書きに頭に来ています。壁から落書きを消して塗り直すのは、今度が 4 度目だからです。創造力という点では見上げたものだけれど、社会に余分な損失を負担させないで、自分を表現する方法を探すべきです。
 禁じられている場所に落書きするという、若い人たちの評価を落とすようなことを、なぜするのでしょう。プロの芸術家は、通りに絵をつるしたりなんかしないで、正式な場所に展示して、金銭的援助を求め、名声を獲得するのではないでしょうか。
 わたしの考えでは、建物やフェンス、公園のベンチは、それ自体がすでに芸術作品です。落書きでそうした建築物を台なしにするというのは、ほんとに悲しいことです。それだけではなくて、落書きという手段は、オゾン層を破壊します。そうした「芸術作品」は、そのたびに消されてしまうのに、この犯罪的な芸術家たちはなぜ落書きをして困らせるのか、本当に私は理解できません。

 

ソフィアの手紙

十人十色。人の好みなんてさまざまです。世の中はコミュニケーションと広告であふれています。企業のロゴ、お店の看板、通りに面した大きくて目ざわりなポスター。こういうのは許されるでしょうか。そう、大抵は許されます。では、落書きは許されますか。許せるという人もいれば、許せないという人もいます。
 落書きのための代金はだれが払うのでしょう。だれが最後に広告の代金を払うのでしょう。その通り、消費者です。
看板を立てた人は、あなたに許可を求めましたか。求めていません。それでは、落書きをする人は許可を求めなければいけませんか。これは単に、コミュニケーションの問題ではないでしょうか。あなた自身の名前も、非行少年グループの名前も、通りで見かける大きな製作物も、一種のコミュニケーションではないかしら。
 数年前に店で見かけた、しま模様やチェックの柄の洋服はどうでしょう。それにスキーウェアも。そうした洋服の模様や色は、花模様が描かれたコンクリートの壁をそっくりそのまま真似たものです。そうした模様や色は受け入れられ、高く評価されているのに、それと同じスタイルの落書きが不愉快とみなされているなんて、笑ってしまいます。
 芸術多難の時代です。

 

さて問題はこうです。

 

Q:ソフィアが広告を引き合いに出している理由は何ですか。  

Q:あなたは、この 2 通の手紙のどちらに賛成しますか。片方あるいは両方の手紙の内容にふれながら、自分なりの言葉を使ってあなたの答えを説明してください。 

Q:手紙に何が書かれているか、内容について考えてみましょう。
手紙がどのような書き方で書かれているか、スタイルについて考えてみましょう。
どちらの手紙に賛成するかは別として、あなたの意見では、どちらの手紙がよい手紙だと思いますか。片方あるいは両方の手紙の書き方にふれながら、あなたの答えを説明してください。

 

これは、日本の生徒は苦手でしょうね。

模範解答が無いからです。

資料を分析し、他者の意見を分析し、自分の意見を構築し、それを発表する。

そうした習慣が無い生徒達ばかりですから。

 

一部紹介したこの問題を見て、もしかして気づかれた方もいるかもしれません。

「あれ、このスタイルの問題、どこかで見かけたことがあるぞ」と。

 

そうです。

公立中高一貫校の適性検査問題に似ているのです。

正確にいうと、適性検査問題がPISAに寄せて作られているのです。

 

適性検査問題

 

2023年の都立小石川中等教育学校の適性検査問題を見てます。

テーマは、紙の書籍の減少と電子書籍の普及についてです。

書籍販売数推移・インターネット利用率・スマホ普及率・書店数推移・紙の辞書と電子辞書推移、こうした表やグラフが提示され、それに関する会話文が書かれています。

 

そして問はこうなっています。

 

(1)電子出版のなかでも、特にコミックのはん売額が増えている理由について、あなたが思いついた理由を書き、それが正しいかどうかを確かめるための方法を書きなさい。
(2)紙の「事典・辞典」のはん売冊数が減っている理由について、会話文や資料をふまえて、あなたの考えを書きなさい。 

(3)知識や情報を社会へ広めたり、次の時代へ伝えたりするために、紙を使った出版と電子出版をどのように使い分けることが、将来の出版にとってよいと考えますかこれまでの会話や資料、解答を参考にして、あなたが考える具体的な方法を書きなさい。

 

まさに「PISA型」の問題です。

 

 

「公立」という縛りがあるために、私立のような「学力テスト」が出題できない公立中高一貫校が、むしろ学力テストより難易度が高い「PISA型」のテストにシフトしているのは興味深いですね。

当事者にとっては興味深いなどと言ってはいられませんが。

 

もっとも公立中高一貫校の受験生の層を考えた場合、そこまで高度な思考力・記述力は要求されてはいないのですが、そのあたりについてはいずれ記事にしたいと思っています。

 

今後について

 

おそらく、グローバル化の旗印のもと、こうした「PISA型学力」の育成を現場に求める声は高まるのでしょう。

文部科学省は、学習指導要領においてこのように宣言しています。

 

〇知識の理解の質を高め資質・能力を育む「主体的・対話的で深い学び」
①知識及び技能、②思考力、判断力、表現力等、③学びに向かう力、人間性等の三つの柱で再整理。

 

ただ、ここに大きな問題があるのです。

それは、日本の教育にフィットしていない、という問題です。

 

PISA型の教育というのは、ある意味理想的です。

単に知識を丸暗記させるのではなく、自ら資料を分析し、自分で意見を持ち、それを表現する。

とても重要な能力です。

 

しかし、日本の教育はそれを評価するようになってはいません。

まず、小学校では実施が不可能です。

PISA型の学力を身に着けるような教育を実践するためには、以下の設えが必要だからです。

 

◆学力別クラス編成

◆少人数(20名以下)のクラス編成

◆優秀な教師

◆授業準備にたっぷりと時間をかけられる職場環境

◆生徒がそうして身に着けた力を発揮できる入試

 

何ひとつとして実現していません。

 

中高一貫校に進学したごく一部の生徒を除いて、日本全国の中学生の大半が受験する高校入試を見てください。

恣意的に数値化される不透明な内申点に、基礎的な学力を問うペーパーテスト、この2点で合否が判定されます。

 

一部の中学受験では、そうしたPISA型の学力を発揮させる出題が見られますが、そのための学力は小学校では身に付きません。

 

 

さらに興味が湧いた方は、ぜひ国立教育行政研究所のHPをごらんください。

問題例と詳細な分析結果が出ています。

https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/

 

また関連記事を書いていますので、こちらもぜひ。

peter-lws.hateblo.jp