中高一貫校を考えるとき、やはりどうしても気になるのが「大学実績」です。
いくら高邁な理念を語っていても、あまりにも大学合格実績が悪いのは困ります。
今回は、そんな大学実績についてまとめてみました。
※特定の学校を持ち上げるつもりも貶める意図も毛頭ありません。
どの学校にも教え子が進学していますし、充実した中高生活を送っている(はず)だからです。
大学実績の比較は難しい
例えば東大合格者数や東大現役合格率のような数字は単純に比較しやすいですよね。
ただこれも、東大に合格者数が少ない学校を評価できない問題があります。
国公立の合格者数を比較するのも、「入学難易度が高くない国公立」の数字を東大や医科歯科大の数字と単純比較できませんし。
また、早慶の数字だけを見るというのも難しい。上位男子校は東大志向が高い学校も多いですし。
あれこれ考えた末、今回については、東大・京大・一橋・東工大・医科歯科大・早稲田・慶應の合格者数だけを考慮することにしました。
人数が少ない医科歯科を入れたのは、今後東工大と医科歯科大の数字を合わせて科学大として考える必要があるからです。
また、医科歯科大の合格者については、医学部医学科・医学部保健衛生学科・歯学部の区別をしていません。多くの学校でそこまで細かく公表していないからです。
私学については、理科大や明治大・上智・立教・法政などの人気校については今回はカウントしませんでした。
指導してきた生徒達の傾向として、早慶附属と難関進学校を併願する生徒は多数います。たとえば桜蔭や女子学院を合格していながら慶應中等部に進学するような生徒たちですね。とくに女子に多いです。男子の場合は、国公立・医学部を目指して大学附属校を避ける生徒達が上位層に多くいます。早慶なら大学入試で入ればいいから、そうした理由です。実際に、そうした最難関進学校に進学した生徒で、惜しくも東大の合格を逃したけれど慶應に進学した生徒によると、浪人して東大よりも、現役で慶應のほうが自分にとって上だという判断だとのことでした。
中央や立教・法政の附属中学を最初から選ぶ受験生は進学校を回避する傾向がやはり強いですね。また、これらの大学は最近系属校化・推薦枠拡大が顕著なため、高校の大学実績のカウントができなくなっていることも外した理由です。
今回は、進学校のみにしぼりました。
さて悩んだのは、東京一科(東大・京大・一橋・科学大)の数字と早慶の数字の合わせかたです。
東京一科の合格者が多い学校は早慶が少ない傾向にあるからです。
そこで、東京一科の合格者数と早慶の合格者数の割合を較べてみました。
すると、武蔵が0.9、筑駒が1.9、開成が2.4、桜蔭が2.5という数値となりました。また、頌栄女子が16.1、雙葉が7.2、攻玉社が7.8となっています。
そこで今回計算した45校について、この割合の数値の平均を出してみました。ただし数値の高いものと低いものについて、全体の20.%は異常値として外してあります。すると、平均は6.6と算出されました。
そこで、東大・京大・一橋・科学大(東工大+医科歯科)の数字に、係数の6.6を掛けて、早慶の数字と足すことにしました。
あとはこの数字を卒業生数で割り算したものを「合格力指数」とすることにしました。
あとはこれを偏差値順に並べてみるのですが、新興校には偏差値が大きく伸びている学校もあります。そこで、現在の偏差値ではなく、6年前の偏差値で見ることにしました。
表では、偏差値が3以上動いた学校に色をつけてあります。
ちなみに、45校については、サピックス偏差値が40以上の進学校を拾っています。
複数回入試の学校については午前入試で日程が一番早い入試日の偏差値を採用しました。
大学合格者については、現役・浪人を合算したものを使っています。
学校によっては現役合格者と既卒生を分けて公表していない場合もあることもあるのですが、現役合格者のみの数字とすると、「浪人しても上を目指す」生徒の多い学校が低く算出されてしまうからです。
多くの学校では、「医学部医学科」合格者を別途まとめて公表していますが、こちらは無視しました。多くの学部の中で医学部のみを特別視するのはおかしいと考えたからです。
もちろん、相当乱暴な計算であることは承知しています。ひとつの目安程度にお考えください。
偏差値と合格力指数
表だと見にくいので、散布図を作ってみました。
縦軸に6年前の偏差値、横軸に合格力指数をとっています。
どの●印がどの学校なのかについては、表を参照してください。
偏差値が高い学校の合格力指数が高いのは当たり前ですね。
筑駒・聖光・開成等が目立っています。
反対に、偏差値が高いのに合格力指数が低い学校もあります。
よくいわれる「入口は高いのに出口は低い」ということです。
グラフでいえば、なるべく右下に分布する学校のほうが、左上に分布する学校よりも「おとくな」学校ということになるでしょう。
いくつか気になった学校をとりあげます。
◆早稲田中
一般に早稲田大学の付属校のイメージがありますが違います。約半数の生徒が早稲田大学への推薦となりますが、残り半数は受験します。
そこで、卒業生305から早稲田推薦進学者148を引いた数字を卒業生数の分母としました。また、早稲田大293から推薦進学者148を引いた数字を「真の早稲田合格者」とすることにしました。
東大に43名も合格しています。押しも押されもせぬ進学校です。
◆豊島岡
人気も実力も高い豊島岡の合格力が意外な結果となりました。これは、女子校には不利な計算方式だからです。一般に女子のほうが私大志向が強いのです。浪人してでも東大を目指す学校と同列に扱うのに無理があるのですね。
◆広尾学園
人気の学校ですが、6年間で偏差値がプラス2ということは、伸び率が安定してきたのだと思います。合格力指数は高く出ませんでした。もしかして6年前の偏差値55と言うのも少し高すぎたのかもしれません。
このような人気先行型の学校に見られる傾向です。
ただしこの学校は海外大学進学に強味を持っています。今回はそこを全く考慮していませんので、この学校の真価が正しく評価されていないとみることもできるでしょう。
今回調べていてわかったことは、大学実績の比較の難しさ(&無意味さ)でした。
異なる大学の合格者数を集計する術が無いのです。
東大10名合格と早稲田10名合格の重みの違いはわかりますが、それでは慶應10名と早稲田10名に差はあるのか。理科大10名ではどうなのか。千葉大や埼玉大や横浜国大はどう判断するのか。
学部によっても難易度がまるで異なります。慶應の経済と早稲田の文学部では比較のしようもありませんね。
つまり、ほぼ「意味がない」というのが結論です。
この当たり前の結論を導き出すにしてはずいぶん手間がかかってしまいました。
さらに、学校の価値は「大学実績」だけにあるはずもありません。
中高一貫校の価値は、「6年間の時間」全てにあるからです。
最近麻布の東大実績が振るわないところから、「麻布凋落」という人もいますが、おそらく麻布を志望する理由は、「東大実績」ではないでしょう。唯一無二の校風を求めて進学する学校です。
洗足がフェリスを偏差値や大学実績で抜いたからといって、それでフェリスの価値が下がるということではないはずです。洗足の卒業生にその話題を振ってみたところ、「洗足もいい学校だったけど、もう一度通えるのならフェリスにする」と言っていましたね。もっともその理由は制服にあるようでしたが。
学校の選び方については、こちらの記事でも書いています。