みなさんは、「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」「スーパーグローバルハイスクール(SGH)」をご存じでしょうか?
なんだかカッコいい?ネーミングですが、いったいどんなことが行われているのでしょうか。今回はそこを深堀してみたいと思います。
※例によって私の主観(多分に偏見)にすぎませんのでご容赦ください。
スーパーグローバルハイスクール(SGH)
最初に申し上げますが、すでに3年前に終了しています。
文部科学省によって2014年から2021年に実施された事業でした。
年間予算は10億円前後だったと思います。このスーパーグローバルハイスクール(長いな! 以降SGHと表記します)に指定されると、最高で年間1600万円ほどの予算が支給されるというものでした。
ちなみに、都内私立高校の年間予算に占める「教育研究経費」の割合はおよそ3割であり、金額にしてみると平均2.78億円くらいだと思います。
それに対する1600万円の予算は、なかなか大きいような気もしますが、少なすぎるような気もします。少なくとも国が教育を支援する費用としては「低すぎる」と個人的には思っています。
初年度の2014年にSGHに申請・認定されたのは以下のような学校でした。
北海道登別明日中等教育学校
北海道札幌開成高等学校
青森県立青森高等学校
宮城県仙台二華高等学校
茨城県立土浦第一高等学校
群馬県立中央中等教育学校
高崎市立高崎経済大学附属高等学校
埼玉県立浦和高等学校
筑波大学附属坂戸高等学校
お茶の水女子大学附属高等学校
筑波大学附属高等学校
神奈川県立横浜国際高等学校
横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校
富山県立高岡高等学校
金沢大学人間社会学域学校教育学類附属高等学校
福井県立高志高等学校
山梨県立甲府第一高等学校
長野県長野高等学校
岐阜県立大垣北高等学校
静岡県立三島北高等学校
愛知県立旭丘高等学校
三重県立四日市高等学校
滋賀県立守山高等学校
京都府立嵯峨野高等学校
京都市立堀川高等学校
大阪府立北野高等学校
大阪府立三国丘高等学校
兵庫県立姫路西高等学校
神戸市立葺合高等学校
奈良県立畝傍高等学校
島根県立出雲高等学校
岡山県立岡山城東高等学校
山口県立宇部高等学校
徳島県立城東高等学校
愛媛県立松山東高等学校
熊本県立済々黌高等学校
大分県立大分上野丘高等学校
宮崎県立五ヶ瀬中等教育学校
札幌聖心女子学院高等学校
渋谷教育学園幕張高等学校
渋谷教育学園渋谷高等学校
早稲田大学高等学院
佼成学園女子高等学校
順天高等学校
品川女子学院高等部
昭和女子大学附属昭和高等学校
国際基督教大学高等学校
玉川学園高等部
公文国際学園高等部
名城大学附属高等学校
立命館宇治高等学校
立命館高等学校
関西大学高等部
関西学院高等部
西大和学園高等学校
広島女学院高等学校
国公立が多いのは、やはり「国の施策」だからでしょうか。
私立では首都圏の学校が目立ちますね。渋幕・渋渋の2校が入っているのはさもありなんというところではあります。しかし意外なことに、開成も麻布も桜蔭も女子学院も慶應も入っていませんね。
各校のSGH取り組み
実は、私は上に名前があがっている某高校で開催された、勉強会&報告会&懇親会のような会に参加したことがあるのです。上述の学校の先生方と、これからSGHを目指す学校の関係者の方々が首都圏ではなく地方の高校までわざわざ集結したのですね。私も飛行機を使って行きました。
まずは講堂で、基調講演、ホスト校の取り組みの紹介、生徒のプレゼン等があります。 その後各教室に分かれてのワークショップ、最後は立食形式の懇親会、そんな流れでした。
各学校の担当の先生方のお話をうかがってみると、どこも手探り状態の雰囲気が感じられましたね。もちろん、すでにグローバル化に大きく舵を切っている学校もありますので、そうした学校は自信を持って取り組んでいる様子でしたが。
Preziを使った生徒のプレゼンはなかなか上手で、高校生の熱意のようなものは確かに感じられました。
しかし、感心したのはそれだけです。
なぜなら、内容が、「海外旅行の報告」に過ぎなかったからです。
数名選ばれた有志生徒が、アメリカの某都市を訪れ、大学生と交流したり、現地の高校生と交流したりした、ただそれだけのものだったのです。
他の学校の先生方にうかがうと、だいたい同様の取り組みを行っているようでしたね。
無理もありません。予算が少なすぎるのです。
例えば、私がどこかの高校の責任者だとして、1600万円の予算があれば、どんなことができるだろうか、と考えてみました。
◆ネイティブの教師を1名雇う
◆数名の生徒を海外に派遣する
◆洋書を購入する
せいぜいこんなものしか思いつきません。
なにせ指定期間が3年間しかないのです。
英語ネイティブの教師1名を雇ったところで、3年限定なのです。それでは長期的な教育効果は見込めません。
個人的には洋書の購入は魅力的です。洋書は高いですからね。毎年数千冊買えそうです。3年も買い続ければ、蔵書の過半数が洋書という、魅力的な図書室ができあがります。高校の図書室の平均蔵書数は2.5万冊ていどらしいですから。それを、学ぶ意欲がある外部の高校生にも開放したら素晴らしいと思うのですが。
ただし、これではSGHの指定はとれないですね。地味すぎるのです、大学と連携したり、海外現地の教育機関との連携等が必須条件のようでした。
結局のところは、どの学校も数名の生徒を海外に派遣するくらいしかできなかったのだと思います。
活動報告書を見ると、こんな具体的な取り組みが紹介されていました。
◆A高校
・地域研究の授業・海外文化研究の授業
・海外研修・・・現地でのディスカッション・異文化体験
サハリン・NZ・タイ
・TOEFL全員受験
・JTBスタッフと観光開発
少数民族に目を向けた視点はなかなか良いと思います。
私が気になったのは、JTBの登場です。
修学旅行や海外研修がそうなのですが、高校が海外に生徒を派遣するブログラムには、必ず旅行代理店が一枚噛んできます。現実として、頼らないと無理なのです。
大手旅行代理店には、学校営業専門のセクションがあります。そこに頼めば、もう至れりつくせりで、現地高校・大学・現地企業との連携を全てアテンドしてくれるのです。
◆B高校
・シンガポール研修旅行
・英語プレゼンテーション
・イマージョン教育
・講師を招いたワークショップ
予想通り、どの学校も大差ないですね。
もちろん、高校生のうちにこうしたプログラムに参加することは実に有意義であることは間違いありません。
SGHの仕組みがなければ実現できなかったであろうプログラムも多数あり、またこれをきっかけに国際教育に向けた取り組みを進化させた学校も多くあると思います。
WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム
2019年から、文部科学省はWWLコンソーシアム構築支援事業なるものを始めています。
文部科学省のHPにはこうあります。
将来,世界で活躍できるイノベーティブなグローバル人材を育成するため,これまでのスーパーグローバルハイスクール事業の取組の実績等,グローバル人材育成に向けた教育資源を活用し,高等学校等の先進的なカリキュラムの研究開発・実践と持続可能な取組とするための体制整備をしながら,高等学校等と国内外の大学,企業,国際機関等が協働し,テーマを通じた高校生国際会議の開催等,高校生へ高度な学びを提供する仕組み(ALネットワーク)の形成を目指す取組です。
これでわかりますか?
私はさっぱりです。
SGHの続きとして、今度は高校生の学びのカリキュラム構築と、ネットワーク構築を行うのかな? というのが私の理解です。
○カリキュラム開発︓8拠点(継続8)790万円程度/拠点・年、原則3年
○グローバル⼈材育成の強化︓10拠点(新規10)600万円程度/拠点・年、原則3年
①アウトバウンド型(海外留学等を重点的に実施)
②インバウンド型(留学⽣受⼊等を重点的に実施)
○個別最適な学習環境の構築︓4拠点(新規1、継続3)新規校 660万円程度/拠点・年、原則3年
これだけ見ると、予算規模は縮小されているようにうかがえます。
参加校は、一都三県は以下の学校です。
◆富士見丘高等学校
具体的な構想について、富士見丘高等学校の例を見てみましょう。
【構想名】:観光立国における海洋リゾート開発と環境汚染を考える人材育成構想
【概要】富士見丘高等学校は、Society5.0を牽引するグローバル人材を育成するALネットワークを形成し、観光立国における海洋リゾート開発と環境汚染をテーマにWWLコンソーシアムの構築を目指す。そのALネットワークにおいて、国内外の高等学校と大学、企業などとの協働により、生徒の好奇心や問題意識を刺激するプログラムを構築し、拠点校と連携校の生徒の資質・能力の向上はもとより、生徒が主体的な学びへと転換するためのマインドセットが図られる機会を提供する。総合的な探究「グローバルスタディ」を中心に、 SDGsの課題を解決しながら社会を発展させていくための実践的な学びやSTEAM系の課題探究を実践するアクティブラーニング型授業を促進する。各校の生徒がICTの知識やスキルを身につけ、国境を越えて世界中で活躍しうるようなビジョンやコンピテンシーを有したイノベーティブなグローバル人材の育成を目的とする。
【事業協働機関・連携校】
ハワイ大学マノア校
株式会社 JTB株式会社
ホテルオークラ東京株式会社
株式会社 大崎コンピュータエンヂニアリング
Raffles Girls’ School (シンガポール)
Kalani High School(ハワイ)
St. John’s School(グアム)
着眼点は面白いですね。海洋リゾート開発ですか。
南国系リゾートが大好物の私にとって最も興味が惹かれます。
実際に、ハワイ(グアムに変更)・シンガポール・台湾でフィールドワークを行ったとありました。さぞかし生徒達も楽しかったと思います。
ただし、環境問題とリンクさせたようですが、正直いって海洋リゾート開発と環境保護は対極にあることは間違いありません。リゾート開発をすれば、必ず環境破壊が伴います。
例えば、ハワイのオアフ島で「熱帯魚が間近に見られる綺麗な海」として人気のハナウマ湾。シュノーケリングのメッカですね。
昔は自由に行けたのですが、今は予約制で、エリア入場前に環境保護ビデオを見ることが義務付けられています。海洋生物保護区域となっているのです。
しかし、行けばわかりますが、感動するほどの海ではありません。沖縄の名もない海岸のほうがはるかに綺麗で熱帯魚も豊富です。
あれだけ観光客が集まると、確実に海は汚れ、魚も減るのですね。
そうした現実をこの学校のプログラムはどのように捉えているのか、そのあたりには興味があります。
はたしてこれが高校生がやるべき内容なのか、という気もしなくはないですが、どんなことでも「学び」になる時期ですので、それはそれでよかったのかもしれません。
それにしても、ここにもJTB。他の学校の構想計画書にもちらほら見かけました。
ところで、富士見ケ丘高等学校はあまりよく知らなかったので、少し調べてみました。
笹塚にある中高一貫女子校です。
中学校の入試偏差値は、首都圏模試で40となっています。
入試制度は少々複雑ですね。
【高校】
WILL推薦入試・・・・作文・面接
アドバンスト入試・・・英語+国or数
グローバルコース・・・英数国
帰国生入試
募集定員 200名
【中学】
WILL入試・・・算国 / 英語資格+国or算
一般入試・・・算国 / 算国+理or社
英語資格入試・・・英語資格+国or算
グローバルアスリート入試・・・面接・作文+英語資格or算国
帰国生入試
募集定員 130名
中学受験においても英語力重視なのがわかります。英語資格入試のレベルは英検2級で満点換算です。また、WILL入試というのは、入学意欲のみを評価するようです。
入試結果については、倍率1.0~1.5倍程度です。ほぼ全入といってよいでしょう。
大学合格実績で5名以上の合格が出ている大学を拾ってみました。
早稲田 11名
上智 14名
青山学院大 10名
立教 19名
獨協大 12名
東京女子大 10名
法政 7名
明治学院 5名
津田塾 5名
日本女子大 7名
学習院女子大 6名
東洋大 6名
中央大 9名
成蹊大 5名
成城大 7名
卒業生数100名とありますので、なかなかの実績だと思います。
あれ? 中高で合わせた募集定員は330名です。
これはかなり定員割れしていますね。
学校は入試結果も生徒数も公表していませんが、いくつか調べてみると、中学校1学年の人数は60名程度のようです。
大学実績も悪くないですし、英語教育にも力を入れていそうなのに、なぜでしょうか。
これ以上は、直接学校を訪問してみないことには何とも言えません。
学校の魅力・人気・偏差値・レベル・大学実績・教育内容、こうしたものは必ずしも全て正の相関関係にはありません。
やはり学校選びは、直接自分の目で確かめるほかないのです。
スーパーサイエンスハイスクール(SSH)
こちらは2001年から始まりました。文部科学省によるとこうなっています。
将来の国際的な科学技術人材の育成を図るため、平成14年度より科学技術、理科・数学教育に関する研究開発等を行う高等学校等を「スーパーサイエンスハイスクール」に指定し、理科・数学等に重点を置いたカリキュラムの開発や大学等との連携による先進的な理数系教育を実施
SGHよりも具体的でわかりやすいですね。
要するに、理数教育に力を入れる学校を選んで予算をあげるよ、ということでしょう。
指定されると3年間~5年間にわたり年間1000万円ていどの予算が配分されます。全体の予算は二十数億くらいでしょうか。SGHの2倍以上、気合が入っていますね。
現在200校以上が指定を受けているようです。1都3県では以下の学校です。
埼玉県立熊谷西高等学校
さいたま市立大宮北高等学校
川口市立高等学校
埼玉県立越谷北高等学校
埼玉県立松山高等学校
芝浦工業大学柏中学高等学校
千葉県立佐倉高等学校
市川高等学校・市川中学校
千葉県立長生高等学校
千葉県立木更津高等学校
東京都立科学技術高等学校
東京都立富士高等学校・附属中学校
玉川学園高等部・中学部
神奈川県立相模原高等学校
横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校
神奈川県立横須賀高等学校
神奈川県立横浜緑ケ丘高等学校
神奈川県立希望ケ丘高等学校
みごとに国公立が並びました。私立はわずか5校です。
多くの私立では、すでに同等レベルの理系教育を実践しているので不要だったのかな?
よくわかりません。
そういえば、とある私立中高の理科の先生に聞いた話を思い出しました。
「ああ、うちは申し込みません。いろいろと面倒なんですよ」
ずいぶんズボラな先生に聞こえますが、この学校は理系教育に力をいれている学校であり、この先生も独自に様々な取り組みを実践している先生でしたので、色々しばられることが嫌だったのかもしれません。
もし、理科好きのお子さんが、自分の行きたい高校がSSH指定校だったら、いろいろ興味深いカリキュラムがあり楽しめるかもしれません。
ただし、SSH指定の有無で志望校を選択するのは違うと思います。学校選びの基準はそんなところにはありません。
DXハイスクール
「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」というものが2024からスタートしています。
1校あたり1000万円支給、全国で1000校あまりを指定、年間予算100億円、となかなかの規模ですね。
これは要するに、デジタル機器の購入と回線費用、さらに指導者費用などにあてられるものですね。
その他にも「リーディングDXハイスクール」などというものもあるのですが、もう触れません。きりがありませんので。
どうしても、「何かやっている」感がするのは、私がひねくれているからでしょう。
そんなことよりも、もっと教育に国がきちんと予算をかけるべきだと思うのですが。私学助成金だって不十分だと思っています。
OECD加盟36か国中、日本の公的支出に占める教育費支出の割合は、下から3番目という不名誉な順位となっています。ちなみに日本より低いのはギリシャとイタリアです。